【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島

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Chapter08 - Side:EachOther - C

119 > 佐藤宅 ー15〜 巣立った子鳥 3 [Side:Other]

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【Side:Other】



 吉永隆、旧姓・三浦隆は、春風紗妃と出会って初めてのクリスマスイブを二人っきりで過ごすも、彼女に告げる内容は残酷な事実を突きつけるものだった。

 春風は、羽振りの良さと名家の跡取りと知って急接近した三浦隆が、自分のことを結婚相手として考えているのだと信じていた────



 12月。周りの学友達が次々と内定先を確保していく中、書類審査は通るもののいつも筆記試験を突破することができず、まだ1社からも声がかかっていない春風はかなり焦っていた。

 内定が出ないことに焦れた春風が合コンの席で愚痴を吐くと『愛人手当出してあげるから、僕の会社においでよ』と堂々と言ってのけた50代の社長も複数いた。しかし、それらを丁重に断り、努力して結果を出そうと必死だった。

 年明けから3ヶ月もない来年の卒業と就職に向けての準備に忙しかった春風にとって、結婚相手の大本命である三浦隆から、自分ではない相手との結婚発言はまさに晴天の霹靂へきれき、寝耳に水だった。

 その時になって初めて、三浦(吉永)隆は自分の事情を説明した。

 自分は親族が経営する会社の役員であること、そして役員としてその会社に入社するための条件が現女社長の婿養子になることだった、などなど。

 春風にとって、初めて聞く話ばかりだったが、そのような事情など知らなかった彼女は終始黙って三浦隆の話を聞いており、そして彼にこう言われたのだ。

『就職活動に難航してるって聞いたよ。僕の会社に入社してもらってさ、そこで僕が独身になれるまで待っててくれないか?僕の実家の経営の関係もあって今すぐには吉永とは縁を切れない。だけど近いうちに実家の会社で大きい仕事があるから、僕はその会社を吉永から独立させようと思ってる。そうすれば妻とは離婚することができるから』

 そう言われて、春風は迷った。

 つまるところ、三浦姓から吉永姓に変更して結婚した後も今の関係を続けて欲しい、【不倫して欲しい】と言われたも同然だったからだ。その提案は他の社長連中からの同様な誘いを断り続けていた春風にとって、屈辱的すぎるものだった。

 だが、彼のいる会社に入れるというのはまた、それ以上に垂涎すいぜんの提案だったのだ。

 なぜなら三浦隆が在籍している会社、つまり妻・吉永志弦が経営する会社は、海外進出を始めて4年に満たずしてファーブスの記事にも取り上げられるようになった吉永ホールディングスの親会社だったからだ。そして、三浦隆の実家の会社はその吉永ホールディングスの子会社で、ここ10年ほど毎年資金提供を受けていたのである。

 そして、この時、三浦隆は最も重要なことをあえて春風に伝えなかった。

 ──実家の会社は社長である父の相次ぐ不祥事の露見から社会的信用を失いつつあること、もうすでに実家の経営は傾きかけていること、資金提供を受け続けてはいるが妻となる吉永志弦と実父である三浦家の当主が犬猿の仲であること、などを───

 三浦隆本人は……身長185cmの爽やかながら男らしい顔立ちをしたスラっとしたイケメンで。優しげな口調で話し、関わった人間を上手に自分の味方につけることができ、説得力を持った話で誠実な印象を与えるカリスマ性を持つ魅力的な男だった。

 春風と出会った当初、他の40代男性からの紹介を受けて『やがて32になる若造です』と照れ臭そうにしながら自己紹介していたものだ。

 だが、その優しく誠実そうな見た目からは想像できないほど、三浦隆は狡猾で冷酷で残忍で計算高く、自己中心的な男だった。

 三浦隆はつねづね『嘘の中に真実をほんの少しだけ混ぜるんだ。そうすると人は大きなホラ話でも簡単に信用してくれる』というのが本人の口癖であり、他人は全て自分が利用するために存在するものだと本気で思っているような人間だった。それは紛れもなく父と祖父から譲り受け、偏った家父長制思考の一端から発露された言葉だった。

 上に姉が二人いたものの、その二人は大学を卒業と同時に実家を離れ、一人は国外に就職が決まると同時にそのまま移住。もう一人も国外の男性と結婚して移住し、三浦家に残っているのは末っ子長男である隆のみであった。

 しかし、それは両親ともに望んでいたことに違いないと後に隆本人は述懐する。

 幼い頃から姉二人は些末さまつに扱われ、家族での計画は全てにおいて祖父、父、隆の順で決定されたからだ。三浦家の内情に女性が関わることは一切なかったと言える。

 そんな厳然たる男尊女卑の家庭環境に育った三浦隆がどういう人間になるかは火を見るよりも明らかだった。

 関わる女性を自分を慰める道具としか思っておらず、結婚を匂わせる女性には三行半を突きつけて別れるのが三浦隆にとっては日常茶飯事だった。なぜなら彼が吉永家に婿入りすることは、彼が高校に進学する前には決定事項だったからだ。

 しかし、そんな中で出会った『妖精のような美しさを持つ春風紗妃』は少しだけ特別だった。

 彼は年齢と見た目偏差値で連れ歩く女性を決めているため、過去から現在に至るまで関係を持っている女性の中で最高ランクの春風を手元に置いておきたいと画策した。今すぐ結婚することはできないものの春風紗妃を【トロフィーワイフ(※)】として欲したのである。

 春風の合コングループにいる女性の間で三浦隆の争奪戦が繰り広げられ、勝者となった春風が三浦隆の誘いを断ることもなくフラフラとホテルまで着いていき、流れるようにそういう関係になったのは当然のことだった。そのまま二人がセフレのような関係になったのもまた必然だった。

 三浦隆は〝吉永志弦と結婚はするが、美貌の春風紗妃を自分の装飾品として連れ歩くために手元に残しておきたい〟と考えた結果、双方の合意を得て決定したのが以下の一言だった。


『紗妃は就職先が決まるし、僕は離婚準備を整えながら君との新婚生活の予行演習ができる。全てが終われば、晴れて君と僕は結婚できて幸せになれるんだよ。こんないい話ないんじゃないかな?』







※トロフィーワイフ:社会的に成功を収めた男性が、勝者の証として欲しがる若く美しい妻のこと
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