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Chapter09 - Side:Other - C
130 > 弁護士事務所 ー02(相談室)
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【Side:Other】
弁護士事務所となっているマンションの一室は全面改装されているらしく、元が住居用とはとても思えない作りになっていた。
玄関のドアから入った待合室の一角は低いとは言え、仕切りで視界がほとんど遮られているため、内部があまり見えない。
その仕切りの内側、オフィス内部に入ってみると想像しがたい空間が広がっていた。
待合室と事務員が作業する事務スペースとは仕切りをもって遮蔽されていたが、一歩仕切りの内側に入ると、天井の高い明るい空間が広がっていた。温かみのある色彩を取り入れた事務用机や椅子が配置されており、遅い時間だからか事務員は3人しかいなかった。その3人のうちの一人は40代くらいの男性で、後の二人は30代前後の女性だ。
〝こんなこじんまりした事務所に5人も事務員を抱えているのか……〟
無意識に机と椅子、その机上にあるPCの数を確認した汐見は、住宅用マンションに入居する弁護士事務所は外見からは推し量れない要塞じみてるな、と感心する。
さらに案内された最奥にある【相談室1】と書かれたドアを開けると、そこには大きな窓ガラスで採光された大会社の幹部用会議室のような空間が広がっていた。日が傾いているため、入ってくる光は弱々しく赤いものだったが、それでも室内灯など点けなくても明るさは十分なほどだ。
ど真ん中に置かれた会議用テーブルは長辺が少し丸みを帯びた長方形の渋い色をした家具調で、背もたれと肘掛け付きの黒い合皮張りの個別ソファも高級そうな雰囲気が漂っている。
窓ガラスの向こうはベランダになっているらしく、ブラインドがかかって外がうっすらと見える。おそらく方角からして南向きのそのベランダから下を覗けば汐見と佐藤が歩いて来た道が見えるのだろうと思われた。
窓の室内側と屋外側に青々とした大きな葉を持つ種類の違う観葉植物が8個置かれていて、空間の無機質さを低減させている。
二人が少し唖然としていると池宮は笑って話しかけた。
「外見からは想像できない内装ですよね」
「え、ええ……まさかマンションの一室が……」
「二部屋分を購入して壁を抜いて全面改造してあるんですよ。来所する皆さんには大抵驚かれます」
「そうですよね……」
佐藤も初めて見るような空間にびっくりしていたが、それよりも池宮秋彦の容貌の方に驚いていた。
〝この男……そこはかとなく、汐見に、似てる……〟
汐見から聞いていたのは、豊かな顎髭を蓄えた恰幅のいい男性だという話だった。
だが、今見ているその男性は、汐見ほどの強面ではなかったが黒縁メガネを掛けていて知的で、どことなく雰囲気が汐見に似ている。
〝……それって……〟
横を見ると汐見も若干その姿に驚いているが、その驚きは佐藤のそれとは意味が異なっていたし、佐藤の感想には気づいてもいない様子だった。
〝前に見た時はもっと、もっさりでっぷりしていたはずだったが……〟
披露宴で見た時と、まるで別人のように変わってしまった池宮秋彦の見た目に驚いていた。
「えーと、こちらの方は……佐藤さん?ですか?」
「あ、はい、すみません。紹介が遅れました。こちら、友人で同僚の佐藤です」
「佐藤です」
紹介されて佐藤がペコリとお辞儀する。
「火曜日の夜にお電話で日程を再調整していただいた方、ですよね?」
「はい。すみません、部外者がシャシャリ出て……」
そう言った佐藤を、汐見が少し不満げに見上げる。
池宮の方は二人の様子を見ていた。
「あの、問題なければ、佐藤にも同席してもらいたいと思ってるんですが……」
汐見からその言葉を聞いて、池宮が右手で顎を掴んだ。
「…………わかりました。ただ、汐見さんにだけ少しお話ししておきたいことがあるので、それからでもよろしいですか?」
「?」
その申し出を聞いて首を傾げた汐見に、池宮は苦笑で答えた。
「紗妃と、その親族に関することで汐見さんにお話しておかないといけないことがあります。それが終わりましたらお呼びしますので、それまで先程の待合室でお待ちいただけますか?」
「!」
一瞬だったが汐見がみじろぎした。それを横目で見ていた佐藤は静かに答えた。
「わかりました」
明朗に答えた佐藤に、残念そうな顔をした汐見が小声で声をかけた。
「すまん、佐藤……」
「いいって。そんな予想はしてたから」
「あとでな」
「あぁ」
佐藤だけ相談室から出て行くのを見送ると、池宮が汐見に対面に座るように促した。
会議テーブルの上にはいくつかの書類フォルダーが積まれている。
背表紙には『春風家~~~』と『久住家~~~』と書かれているようだ。そして、その上に、なんの変哲もない長3形の封筒が置かれているが、ぱっと見なので背表紙にも、封筒にも何が書かれているのか判別できなかった。
「改めて、自己紹介……といいますか……紗妃にも関わるお話をしても良いですか?」
池宮が唐突にそんなことを言うものだから意味を測りかねて汐見は戸惑う。
「え? あ、はい……」
深呼吸をした池宮秋彦は、汐見の視線を受け止めながら話し始めた。
「私は、池宮秋彦、旧姓春風紗妃の幼馴染であり、彼女の事実上の兄のような存在でもありました」
そう語り始めた池宮の話は、紗妃からはほとんど聞けなかった内容だった───
弁護士事務所となっているマンションの一室は全面改装されているらしく、元が住居用とはとても思えない作りになっていた。
玄関のドアから入った待合室の一角は低いとは言え、仕切りで視界がほとんど遮られているため、内部があまり見えない。
その仕切りの内側、オフィス内部に入ってみると想像しがたい空間が広がっていた。
待合室と事務員が作業する事務スペースとは仕切りをもって遮蔽されていたが、一歩仕切りの内側に入ると、天井の高い明るい空間が広がっていた。温かみのある色彩を取り入れた事務用机や椅子が配置されており、遅い時間だからか事務員は3人しかいなかった。その3人のうちの一人は40代くらいの男性で、後の二人は30代前後の女性だ。
〝こんなこじんまりした事務所に5人も事務員を抱えているのか……〟
無意識に机と椅子、その机上にあるPCの数を確認した汐見は、住宅用マンションに入居する弁護士事務所は外見からは推し量れない要塞じみてるな、と感心する。
さらに案内された最奥にある【相談室1】と書かれたドアを開けると、そこには大きな窓ガラスで採光された大会社の幹部用会議室のような空間が広がっていた。日が傾いているため、入ってくる光は弱々しく赤いものだったが、それでも室内灯など点けなくても明るさは十分なほどだ。
ど真ん中に置かれた会議用テーブルは長辺が少し丸みを帯びた長方形の渋い色をした家具調で、背もたれと肘掛け付きの黒い合皮張りの個別ソファも高級そうな雰囲気が漂っている。
窓ガラスの向こうはベランダになっているらしく、ブラインドがかかって外がうっすらと見える。おそらく方角からして南向きのそのベランダから下を覗けば汐見と佐藤が歩いて来た道が見えるのだろうと思われた。
窓の室内側と屋外側に青々とした大きな葉を持つ種類の違う観葉植物が8個置かれていて、空間の無機質さを低減させている。
二人が少し唖然としていると池宮は笑って話しかけた。
「外見からは想像できない内装ですよね」
「え、ええ……まさかマンションの一室が……」
「二部屋分を購入して壁を抜いて全面改造してあるんですよ。来所する皆さんには大抵驚かれます」
「そうですよね……」
佐藤も初めて見るような空間にびっくりしていたが、それよりも池宮秋彦の容貌の方に驚いていた。
〝この男……そこはかとなく、汐見に、似てる……〟
汐見から聞いていたのは、豊かな顎髭を蓄えた恰幅のいい男性だという話だった。
だが、今見ているその男性は、汐見ほどの強面ではなかったが黒縁メガネを掛けていて知的で、どことなく雰囲気が汐見に似ている。
〝……それって……〟
横を見ると汐見も若干その姿に驚いているが、その驚きは佐藤のそれとは意味が異なっていたし、佐藤の感想には気づいてもいない様子だった。
〝前に見た時はもっと、もっさりでっぷりしていたはずだったが……〟
披露宴で見た時と、まるで別人のように変わってしまった池宮秋彦の見た目に驚いていた。
「えーと、こちらの方は……佐藤さん?ですか?」
「あ、はい、すみません。紹介が遅れました。こちら、友人で同僚の佐藤です」
「佐藤です」
紹介されて佐藤がペコリとお辞儀する。
「火曜日の夜にお電話で日程を再調整していただいた方、ですよね?」
「はい。すみません、部外者がシャシャリ出て……」
そう言った佐藤を、汐見が少し不満げに見上げる。
池宮の方は二人の様子を見ていた。
「あの、問題なければ、佐藤にも同席してもらいたいと思ってるんですが……」
汐見からその言葉を聞いて、池宮が右手で顎を掴んだ。
「…………わかりました。ただ、汐見さんにだけ少しお話ししておきたいことがあるので、それからでもよろしいですか?」
「?」
その申し出を聞いて首を傾げた汐見に、池宮は苦笑で答えた。
「紗妃と、その親族に関することで汐見さんにお話しておかないといけないことがあります。それが終わりましたらお呼びしますので、それまで先程の待合室でお待ちいただけますか?」
「!」
一瞬だったが汐見がみじろぎした。それを横目で見ていた佐藤は静かに答えた。
「わかりました」
明朗に答えた佐藤に、残念そうな顔をした汐見が小声で声をかけた。
「すまん、佐藤……」
「いいって。そんな予想はしてたから」
「あとでな」
「あぁ」
佐藤だけ相談室から出て行くのを見送ると、池宮が汐見に対面に座るように促した。
会議テーブルの上にはいくつかの書類フォルダーが積まれている。
背表紙には『春風家~~~』と『久住家~~~』と書かれているようだ。そして、その上に、なんの変哲もない長3形の封筒が置かれているが、ぱっと見なので背表紙にも、封筒にも何が書かれているのか判別できなかった。
「改めて、自己紹介……といいますか……紗妃にも関わるお話をしても良いですか?」
池宮が唐突にそんなことを言うものだから意味を測りかねて汐見は戸惑う。
「え? あ、はい……」
深呼吸をした池宮秋彦は、汐見の視線を受け止めながら話し始めた。
「私は、池宮秋彦、旧姓春風紗妃の幼馴染であり、彼女の事実上の兄のような存在でもありました」
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