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Chapter09 - Side:Other - C
132 > 弁護士事務所 ー04(義兄と義弟)
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【Side:Other】
「美津子さんはその借金を結局夫の代わりに支払っていたようで……最悪なヒモに成り果てた夫とそれでも生活していたのは一重に紗妃のためだったようです……」
35を超えて紗妃を出産した美津子は、小さい紗妃を連れたまま離婚して生活できるとは思えなかった。大卒後からずっと続けていた待遇の良かった仕事は出産と同時にやめてしまい、時間に都合がつきやすいパートやアルバイトで食い繋いでいく日々。ホスト以外にまともに働きもしない夫と3人で暮らしていたが、限界が近いのは美津子にも薄々分かっていた。
美津子が働きに出ている間、紗妃を夫に見てもらうことが日常化していて。
ある時、バイトから帰ってきた美津子は、3歳になったばかりの紗妃がベランダを乗り越えようとしているのを見てしまう。それを酔っ払って笑って見ている夫。激怒のあまり美津子は夫と殴り合いの大喧嘩になった。
その日の夜、書き置きを残して夫は美津子と紗妃の前から姿を消した。
「その後でようやく色々なことを知ったようです。自分と夫に婚姻関係が存在していないこと、夫には別居中の家庭があったこと、そしてその家族とは別の女性の元に走ったこと……」
見た目は一級品でもアルコール依存気味で女にだらしなく、ちょっと機嫌がいいとギャンブルでお金を溶かしてしまう。それでも見た目がいいだけで女が寄ってくる。そんな男に入れ上げて、夫だと思って生活していた美津子はここでようやく目が覚めた。
だが、現実問題、シングルマザーとして生きるための知識はなく、ようやく入れた保育園に紗妃を預けてまた毎日起きてる時間の間働くという生活が始まっただけだった。
「紗妃が幼稚園に上がる前に、実家に帰ってきたそうです。ですが、美津子さんのご実家は……父親の方が……」
その話は汐見も聞いていた。
高校卒業から一度も連絡を取らなかった実家の母に相談すると、一度帰ってきなさい、と言われて一旦帰省する。そこで、不機嫌を通り越して怒りの形相になっている世界一苦手な父親に会って状況を説明し、少しだけでも借金の返済に協力して欲しいと言うと
『勝手に家を出て行った家事手伝いの補助要員に出す金など一円もない、出ていけ』と言われて実家を後にする。実はその頃、父親の権威に縛られて精神と体を病んでしまった美津子の二人の弟は家の中で最悪な状況になっていた。
「もうすでに知っていらっしゃるかもしれませんが……美津子さんの弟さんはお二人とも亡くなられています」
「はい……」
「美津子さんの父親も亡くなり……美津子さんも……事実上、美津子さんのご実家である『久住家』で今、生存しているのは紗妃とおばあさまだけです」
「……」
「今回……紗妃とご一緒じゃないのは……どうしてですか?」
「……あの……」
一度に大量の情報を手に入れてしまい、汐見は処理が追いついていなかった。
本当は相談に来た汐見の方が、当事者本人である紗妃不在の理由を最初に説明すべきだっただろう。
だが、この目の前にいる弁護士はおそらく電話口での汐見の口調に不信の匂いを嗅ぎ取り、自らの情報を先に開示したのだ。自身の潔白を証明するために。【不倫】という単語を先に口にしたのは池宮の方だったから。
「最初に……そのお話をすべきでした。すみません……」
「いえ。汐見さんがどこまで知っていらっしゃるのかわからなかったのと、私なら自分より色々と事情を知っているような相手に相談するのは警戒するだろうな、と思ったので」
「……そう、ですか……お気遣いありがとうございます。おかげで少し気持ちが楽になりました」
「ええ……」
紗妃の兄同然であるという目の前の男に、今の状況を話すのは少し勇気がいった。
少し居住まいを正して池宮を見据える。
〝オレが妹思いの兄なら、妹をそんな状態にした義弟に怒りの感情が湧くと思う……〟
「紗妃は今、精神科の療養病棟にいます」
「!!」
「美津子さんはその借金を結局夫の代わりに支払っていたようで……最悪なヒモに成り果てた夫とそれでも生活していたのは一重に紗妃のためだったようです……」
35を超えて紗妃を出産した美津子は、小さい紗妃を連れたまま離婚して生活できるとは思えなかった。大卒後からずっと続けていた待遇の良かった仕事は出産と同時にやめてしまい、時間に都合がつきやすいパートやアルバイトで食い繋いでいく日々。ホスト以外にまともに働きもしない夫と3人で暮らしていたが、限界が近いのは美津子にも薄々分かっていた。
美津子が働きに出ている間、紗妃を夫に見てもらうことが日常化していて。
ある時、バイトから帰ってきた美津子は、3歳になったばかりの紗妃がベランダを乗り越えようとしているのを見てしまう。それを酔っ払って笑って見ている夫。激怒のあまり美津子は夫と殴り合いの大喧嘩になった。
その日の夜、書き置きを残して夫は美津子と紗妃の前から姿を消した。
「その後でようやく色々なことを知ったようです。自分と夫に婚姻関係が存在していないこと、夫には別居中の家庭があったこと、そしてその家族とは別の女性の元に走ったこと……」
見た目は一級品でもアルコール依存気味で女にだらしなく、ちょっと機嫌がいいとギャンブルでお金を溶かしてしまう。それでも見た目がいいだけで女が寄ってくる。そんな男に入れ上げて、夫だと思って生活していた美津子はここでようやく目が覚めた。
だが、現実問題、シングルマザーとして生きるための知識はなく、ようやく入れた保育園に紗妃を預けてまた毎日起きてる時間の間働くという生活が始まっただけだった。
「紗妃が幼稚園に上がる前に、実家に帰ってきたそうです。ですが、美津子さんのご実家は……父親の方が……」
その話は汐見も聞いていた。
高校卒業から一度も連絡を取らなかった実家の母に相談すると、一度帰ってきなさい、と言われて一旦帰省する。そこで、不機嫌を通り越して怒りの形相になっている世界一苦手な父親に会って状況を説明し、少しだけでも借金の返済に協力して欲しいと言うと
『勝手に家を出て行った家事手伝いの補助要員に出す金など一円もない、出ていけ』と言われて実家を後にする。実はその頃、父親の権威に縛られて精神と体を病んでしまった美津子の二人の弟は家の中で最悪な状況になっていた。
「もうすでに知っていらっしゃるかもしれませんが……美津子さんの弟さんはお二人とも亡くなられています」
「はい……」
「美津子さんの父親も亡くなり……美津子さんも……事実上、美津子さんのご実家である『久住家』で今、生存しているのは紗妃とおばあさまだけです」
「……」
「今回……紗妃とご一緒じゃないのは……どうしてですか?」
「……あの……」
一度に大量の情報を手に入れてしまい、汐見は処理が追いついていなかった。
本当は相談に来た汐見の方が、当事者本人である紗妃不在の理由を最初に説明すべきだっただろう。
だが、この目の前にいる弁護士はおそらく電話口での汐見の口調に不信の匂いを嗅ぎ取り、自らの情報を先に開示したのだ。自身の潔白を証明するために。【不倫】という単語を先に口にしたのは池宮の方だったから。
「最初に……そのお話をすべきでした。すみません……」
「いえ。汐見さんがどこまで知っていらっしゃるのかわからなかったのと、私なら自分より色々と事情を知っているような相手に相談するのは警戒するだろうな、と思ったので」
「……そう、ですか……お気遣いありがとうございます。おかげで少し気持ちが楽になりました」
「ええ……」
紗妃の兄同然であるという目の前の男に、今の状況を話すのは少し勇気がいった。
少し居住まいを正して池宮を見据える。
〝オレが妹思いの兄なら、妹をそんな状態にした義弟に怒りの感情が湧くと思う……〟
「紗妃は今、精神科の療養病棟にいます」
「!!」
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