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Chapter10 - Side:EachOther - D
148 > ひとひらの 〜 汐見と妊活 [Side:Other]
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【Side:Other】
「笑えるよな……あれだけ子供が欲しいって言ってたオレが、さ……」
「!!」
これ以上ないくらいの痛烈な皮肉だとでも言うように、汐見は顔を歪めた。
佐藤は何と声をかければいいのかわからず、呆然と汐見を見ている。
「……紗妃に言わないとな……ってずっと……思っ、て……」
その声には汐見には珍しく嗚咽が混じっていた。
紗妃との子供をあれほど望んでいた汐見に、その子供の素になる遺伝子の種が無い。
その事実は、汐見を絶望の底に叩き落とした。
「そ、れは…………いつ……」
喘ぐように絞り出した声で佐藤は汐見に聞いた。
いつ、そのことがわかったのか。
「……今年に入ってから……紗妃に断られるようにな、って……」
歪めた顔で佐藤の視線を受け止めながら、苦しげに告げる。
「元々……オレたちは……少なかったから……それで……オレ一人で……色々調べて……」
「…………」
妊活は一人ではできない。
家族が欲しいと強く願うなら早めに手を打つ方が良い。
回数が少ないなら、その受精率を上げるためにも対策を練る必要がある。
そう思った汐見は紗妃に内緒で色々と調べ始めた。
不妊の場合、女性だけの問題ではなく、原因の半分は男性にもあると言われている。
それほど急ぐ必要もないと思っていたが、気になった汐見はとりあえず、という気持ちで検査に臨んだのだ。
愛する妻のために。
紗妃の負担を少しでも軽くしようと思って。ただその気持ちだけで。
「……機能としては問題ない、らしい……ちゃんと射精もするし……」
「……」
「だけど……その、精液の中に……精子が無い…………」
ポツポツと語る汐見は俯き加減になって、その視線は佐藤の視界から見えなくなる。
「……はは……おかしい、よな……あれだけ……オレ、は……」
「……」
佐藤は言葉にならなかった。
〝子供が欲しい、血を分けた家族を作りたいって……お前は……だから、俺は……〟
汐見が好きで好きで堪らないのに、汐見の希望を叶えるために佐藤は自分の気持ちを封印して汐見の想い人である紗妃に道を譲った。
それなのに。
この現実は一体なんなのだろうか。
〝汐見の子供を産むはずの〈春風〉は不倫してて、そのことが発端で汐見を……刺して……〟
なんのために自分が汐見への想いを断ち切ったのか。
〝汐見自身、が……子供ができない体って……〟
悔しさと苦しさから佐藤も唇を噛んだ。
「さ、最近は、治療で治ることもあるって!」
「……ダメなんだ……」
「え?」
「オレのは治らないんだ……」
「!!」
絶望の声が汐見の口から漏れた。
ごくり、と嚥下する音を自分の喉から聞いた佐藤は、俯いた汐見の頭頂部を見ていた。
〝俺が、女でも。お前の望みを叶えてやれなかったのか……〟
理想と現実が違うことなんて普通に存在する。
だが、汐見が願うささやかな望みすら奪ってしまったその事実に───
汐見は打ちひしがれ、最も伝えるべき妻に告げられず、唯一心を許せる佐藤にすら打ち明けられず、一人で踠き苦しんでいた。
そのことに思い至った佐藤は、切なさのあまり汐見の右手を左手で捕まえた。
「!」
「……汐見、俺で、何か力になれることはないか? ……俺が……」
〝何か……協力してやりたい。せめて、汐見の支えになって……〟
そう願う佐藤の手から、汐見はじんわりと何かを感じ取った。
それは紛れもなく、ひたすらに自分を労る佐藤の気持ちが籠っていて。
佐藤の想いを知った汐見は、これ以上ないくらいにその気持ちが理解できた。
〝そうか……そうだよな……佐藤は……でも……〟
佐藤のその手に、汐見が薬指に銀の指輪が冷たく光る自分の左手を重ねる。
「!?」
佐藤が汐見のその行動に驚いて顔を上げると、哀しそうに笑った汐見の視線とかちあう。
汐見はその手をゆっくり解くと、ローテーブルの下に置いてあった自分のボディバッグを引き寄せた。
ごそごそと、前面ポケットに手を入れて、一枚の紙切れを引っ張り出す。
「? 汐見?」
「佐藤、これ、説明してくれるか?」
汐見がローテーブルに置いたソレは────
「?!!」
大きな佐藤の横顔が、小さな汐見にキスしてる──佐藤が探していた写真だった。
「笑えるよな……あれだけ子供が欲しいって言ってたオレが、さ……」
「!!」
これ以上ないくらいの痛烈な皮肉だとでも言うように、汐見は顔を歪めた。
佐藤は何と声をかければいいのかわからず、呆然と汐見を見ている。
「……紗妃に言わないとな……ってずっと……思っ、て……」
その声には汐見には珍しく嗚咽が混じっていた。
紗妃との子供をあれほど望んでいた汐見に、その子供の素になる遺伝子の種が無い。
その事実は、汐見を絶望の底に叩き落とした。
「そ、れは…………いつ……」
喘ぐように絞り出した声で佐藤は汐見に聞いた。
いつ、そのことがわかったのか。
「……今年に入ってから……紗妃に断られるようにな、って……」
歪めた顔で佐藤の視線を受け止めながら、苦しげに告げる。
「元々……オレたちは……少なかったから……それで……オレ一人で……色々調べて……」
「…………」
妊活は一人ではできない。
家族が欲しいと強く願うなら早めに手を打つ方が良い。
回数が少ないなら、その受精率を上げるためにも対策を練る必要がある。
そう思った汐見は紗妃に内緒で色々と調べ始めた。
不妊の場合、女性だけの問題ではなく、原因の半分は男性にもあると言われている。
それほど急ぐ必要もないと思っていたが、気になった汐見はとりあえず、という気持ちで検査に臨んだのだ。
愛する妻のために。
紗妃の負担を少しでも軽くしようと思って。ただその気持ちだけで。
「……機能としては問題ない、らしい……ちゃんと射精もするし……」
「……」
「だけど……その、精液の中に……精子が無い…………」
ポツポツと語る汐見は俯き加減になって、その視線は佐藤の視界から見えなくなる。
「……はは……おかしい、よな……あれだけ……オレ、は……」
「……」
佐藤は言葉にならなかった。
〝子供が欲しい、血を分けた家族を作りたいって……お前は……だから、俺は……〟
汐見が好きで好きで堪らないのに、汐見の希望を叶えるために佐藤は自分の気持ちを封印して汐見の想い人である紗妃に道を譲った。
それなのに。
この現実は一体なんなのだろうか。
〝汐見の子供を産むはずの〈春風〉は不倫してて、そのことが発端で汐見を……刺して……〟
なんのために自分が汐見への想いを断ち切ったのか。
〝汐見自身、が……子供ができない体って……〟
悔しさと苦しさから佐藤も唇を噛んだ。
「さ、最近は、治療で治ることもあるって!」
「……ダメなんだ……」
「え?」
「オレのは治らないんだ……」
「!!」
絶望の声が汐見の口から漏れた。
ごくり、と嚥下する音を自分の喉から聞いた佐藤は、俯いた汐見の頭頂部を見ていた。
〝俺が、女でも。お前の望みを叶えてやれなかったのか……〟
理想と現実が違うことなんて普通に存在する。
だが、汐見が願うささやかな望みすら奪ってしまったその事実に───
汐見は打ちひしがれ、最も伝えるべき妻に告げられず、唯一心を許せる佐藤にすら打ち明けられず、一人で踠き苦しんでいた。
そのことに思い至った佐藤は、切なさのあまり汐見の右手を左手で捕まえた。
「!」
「……汐見、俺で、何か力になれることはないか? ……俺が……」
〝何か……協力してやりたい。せめて、汐見の支えになって……〟
そう願う佐藤の手から、汐見はじんわりと何かを感じ取った。
それは紛れもなく、ひたすらに自分を労る佐藤の気持ちが籠っていて。
佐藤の想いを知った汐見は、これ以上ないくらいにその気持ちが理解できた。
〝そうか……そうだよな……佐藤は……でも……〟
佐藤のその手に、汐見が薬指に銀の指輪が冷たく光る自分の左手を重ねる。
「!?」
佐藤が汐見のその行動に驚いて顔を上げると、哀しそうに笑った汐見の視線とかちあう。
汐見はその手をゆっくり解くと、ローテーブルの下に置いてあった自分のボディバッグを引き寄せた。
ごそごそと、前面ポケットに手を入れて、一枚の紙切れを引っ張り出す。
「? 汐見?」
「佐藤、これ、説明してくれるか?」
汐見がローテーブルに置いたソレは────
「?!!」
大きな佐藤の横顔が、小さな汐見にキスしてる──佐藤が探していた写真だった。
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