【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島

文字の大きさ
153 / 253
Chapter10 - Side:EachOther - D

149 > 写真 〜 巨人と小人(Side:Sugar)

しおりを挟む
【Side:Sugar】



「そ、れは……どこ、で……」

 俺の部屋にあったはずの写真……

〝もう一枚は……切り取ったやつは隣の部屋のドアに挟まっていた……その、写真は……〟

 探していたもの……

〝なぜ……なぜ汐見が持ってるんだ……どこに……あれだけ探しても見つからなくて……〟

 俺は思いも寄らないところから出てきた探し物に驚き、その写真を見せている汐見の目は哀しげに揺れていた。

〝酔って、暴れて、写真箱をひっくり返して……部屋に散乱して……それ……どこに……〟

 汐見はじっと俺の顔を見ている。

〝なにか、何か言わないと……冗談だ、ってとりつくろ、って……〟

 汐見本人を目の前に、本人の隠し撮り写真を──俺の本音がこれ以上ないほど映し出された写真を──本人から見せられて、俺は心臓の音が直接耳に響いてくるほど苦しくなっていた。

 汐見はゆっくりと表情を整えて、俺が話し出すのをじっと待っている。

〝俺に何か言いたいことがあるのはお前の方じゃないのか? その表情はどういう意味なんだ?〟

 予想もしてなかった事態に混乱した俺は告げる言葉を探していた。だが、何を言えばいいのかわからない。

 汐見の表情は少しずつ、いつもの無表情に戻っていこうとしている。

 俺が何かを言うのを待っている。だけど、何を言えば正解なのかわからない。
 どうして、なぜ。

 思考が堂々巡りして、俺は何を言うべきか、何を言うと間違うのか、なんて言えば、汐見に拒絶されなくてすむかそればかりを考えて。

〝適当に……誤魔化して……〟

「……落ちてた。……これ、鎌倉の時の、だよな?」
「……」

 汐見は写真に視線を落とすと、しみじみとそれを眺めて

「よく撮れてるな……ブレてないし……」
「……」

 その写真の感想を述べた。その汐見の感想を、俺は半ば呆然と聞いていた。

 視線を合わせてきた汐見が苦笑いする。

 俺が、何も言えずに固まっていると汐見が話し出した。

「鎌倉に行った時の、だよな……懐かしい……もう3年以上前、か……」

 その感想を述べる汐見の顔を、俺は口を半開きにしたまま見ていた。

〝その写真の『説明』って……"

 俺も汐見にも懐古趣味はない。だけどその写真は確かに懐かさを思い起こさせる。

 そして、俺の後悔を切り取った写真でもある。

 説明することなんて何もない。
 その写真が表現している通りだ。

 俺の好意が汐見にだけ向けられている、ただそれだけの写真。
 あからさまな好意を剥き出しにした写真に、言葉での説明など必要あるはずがない。

〝言え! 俺! 言うんだ! 冗談だって! こんなのいたずらだろ、って!〟

 俺の心の中でもう一人の自分が激しく叱咤する。
 その写真には何の意味もない、ただのいたずら心で写したものだと。だけど───

〝言いたくない……『冗談』なんて言いたくない……俺の本音が丸ごと詰まった写真なんだ……〟

 汐見がどんな気持ちでその写真を見ているのか、それが知りたかった。
 写真を眺めている汐見の横顔は、これ以上ないくらいに静かで。

「……こんな写真、撮るなら撮るって言えよ……」
「!」

「オレ、変顔になってるじゃないか……」

 あの時、汐見に花を持たせるようなことをしなければ、今ごろ汐見はまだ結婚してなかったはずだ。
 俺が、あんなこと、〈春風〉に聞かなければ。

 後悔したところで意味がない。時間は巻き戻せない。

 でも、できることならあの時に戻って俺は俺の口を塞ぎたい。

 お前が今思っていることが原因で、自分の首を絞めるんだぞ、と。
 この先お前は、ずっと後悔することになるんだ、と。

〝俺は……〟

 じっと見つめてくる汐見の瞳は俺を責めているようにも、哀れんでいるようにも見えた。
 でも、本当のところは汐見自身がどう思ってるかなんてわからない。

〝何を、言え、ば……〟

「なぁ、佐藤。……お前、オレに言うことあるだろう?」
「!!」

 言いたい! 喉の近くまでこみ上げてきている。

 この想いの全てを洗いざらいぶちまけて、汐見の反応を知りたい。

 だけど、今それをやって、俺はまた後悔するんじゃないか?
 またこの写真の、あの時みたいに後悔するのか?

 何年も?
 もしかしたら、これからずっと?

「……こういう写真はさ……好きな子と撮るもんだよな?」
「!!」

 汐見の視線が痛い。

「友人と……隠し撮りするようなものじゃない、よな?」

 汐見の言葉が痛い。俺もそう思うし、そう思ってる…
 まだ何も告げていない。

 匂わせることすらしていない。こんなタイミングで告げるつもりもない。
 なのに、こんなものが先に見られるなんて……

「……後で見せてくれてもよかったんじゃないか?」

 そんなこと、そんなこと考えてもみなかった。
 だって、それは、その写真は……

「佐藤。……教えてくれ。これは、どういう意図で撮ったもので……オレが写ってるのに、どうしてオレに見せてくれなかったんだ?」

 言えるわけがない。言ったら終わりだ。
 こんな写真。

 男同士で、俺たちのような間柄で、冗談で撮るような写真じゃない。

〝冗談で、俺が……そんなことできるわけない…………〟





しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...