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Chapter10 - Side:EachOther - D
149 > 写真 〜 巨人と小人(Side:Sugar)
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【Side:Sugar】
「そ、れは……どこ、で……」
俺の部屋にあったはずの写真……
〝もう一枚は……切り取ったやつは隣の部屋のドアに挟まっていた……その、写真は……〟
探していたもの……
〝なぜ……なぜ汐見が持ってるんだ……どこに……あれだけ探しても見つからなくて……〟
俺は思いも寄らないところから出てきた探し物に驚き、その写真を見せている汐見の目は哀しげに揺れていた。
〝酔って、暴れて、写真箱をひっくり返して……部屋に散乱して……それ……どこに……〟
汐見はじっと俺の顔を見ている。
〝なにか、何か言わないと……冗談だ、ってとりつくろ、って……〟
汐見本人を目の前に、本人の隠し撮り写真を──俺の本音がこれ以上ないほど映し出された写真を──本人から見せられて、俺は心臓の音が直接耳に響いてくるほど苦しくなっていた。
汐見はゆっくりと表情を整えて、俺が話し出すのをじっと待っている。
〝俺に何か言いたいことがあるのはお前の方じゃないのか? その表情はどういう意味なんだ?〟
予想もしてなかった事態に混乱した俺は告げる言葉を探していた。だが、何を言えばいいのかわからない。
汐見の表情は少しずつ、いつもの無表情に戻っていこうとしている。
俺が何かを言うのを待っている。だけど、何を言えば正解なのかわからない。
どうして、なぜ。
思考が堂々巡りして、俺は何を言うべきか、何を言うと間違うのか、なんて言えば、汐見に拒絶されなくてすむかそればかりを考えて。
〝適当に……誤魔化して……〟
「……落ちてた。……これ、鎌倉の時の、だよな?」
「……」
汐見は写真に視線を落とすと、しみじみとそれを眺めて
「よく撮れてるな……ブレてないし……」
「……」
その写真の感想を述べた。その汐見の感想を、俺は半ば呆然と聞いていた。
視線を合わせてきた汐見が苦笑いする。
俺が、何も言えずに固まっていると汐見が話し出した。
「鎌倉に行った時の、だよな……懐かしい……もう3年以上前、か……」
その感想を述べる汐見の顔を、俺は口を半開きにしたまま見ていた。
〝その写真の『説明』って……"
俺も汐見にも懐古趣味はない。だけどその写真は確かに懐かさを思い起こさせる。
そして、俺の後悔を切り取った写真でもある。
説明することなんて何もない。
その写真が表現している通りだ。
俺の好意が汐見にだけ向けられている、ただそれだけの写真。
あからさまな好意を剥き出しにした写真に、言葉での説明など必要あるはずがない。
〝言え! 俺! 言うんだ! 冗談だって! こんなのいたずらだろ、って!〟
俺の心の中でもう一人の自分が激しく叱咤する。
その写真には何の意味もない、ただのいたずら心で写したものだと。だけど───
〝言いたくない……『冗談』なんて言いたくない……俺の本音が丸ごと詰まった写真なんだ……〟
汐見がどんな気持ちでその写真を見ているのか、それが知りたかった。
写真を眺めている汐見の横顔は、これ以上ないくらいに静かで。
「……こんな写真、撮るなら撮るって言えよ……」
「!」
「オレ、変顔になってるじゃないか……」
あの時、汐見に花を持たせるようなことをしなければ、今ごろ汐見はまだ結婚してなかったはずだ。
俺が、あんなこと、〈春風〉に聞かなければ。
後悔したところで意味がない。時間は巻き戻せない。
でも、できることならあの時に戻って俺は俺の口を塞ぎたい。
お前が今思っていることが原因で、自分の首を絞めるんだぞ、と。
この先お前は、ずっと後悔することになるんだ、と。
〝俺は……〟
じっと見つめてくる汐見の瞳は俺を責めているようにも、哀れんでいるようにも見えた。
でも、本当のところは汐見自身がどう思ってるかなんてわからない。
〝何を、言え、ば……〟
「なぁ、佐藤。……お前、オレに言うことあるだろう?」
「!!」
言いたい! 喉の近くまでこみ上げてきている。
この想いの全てを洗いざらいぶちまけて、汐見の反応を知りたい。
だけど、今それをやって、俺はまた後悔するんじゃないか?
またこの写真の、あの時みたいに後悔するのか?
何年も?
もしかしたら、これからずっと?
「……こういう写真はさ……好きな子と撮るもんだよな?」
「!!」
汐見の視線が痛い。
「友人と……隠し撮りするようなものじゃない、よな?」
汐見の言葉が痛い。俺もそう思うし、そう思ってる…
まだ何も告げていない。
匂わせることすらしていない。こんなタイミングで告げるつもりもない。
なのに、こんなものが先に見られるなんて……
「……後で見せてくれてもよかったんじゃないか?」
そんなこと、そんなこと考えてもみなかった。
だって、それは、その写真は……
「佐藤。……教えてくれ。これは、どういう意図で撮ったもので……オレが写ってるのに、どうしてオレに見せてくれなかったんだ?」
言えるわけがない。言ったら終わりだ。
こんな写真。
男同士で、俺たちのような間柄で、冗談で撮るような写真じゃない。
〝冗談で、俺が……そんなことできるわけない…………〟
「そ、れは……どこ、で……」
俺の部屋にあったはずの写真……
〝もう一枚は……切り取ったやつは隣の部屋のドアに挟まっていた……その、写真は……〟
探していたもの……
〝なぜ……なぜ汐見が持ってるんだ……どこに……あれだけ探しても見つからなくて……〟
俺は思いも寄らないところから出てきた探し物に驚き、その写真を見せている汐見の目は哀しげに揺れていた。
〝酔って、暴れて、写真箱をひっくり返して……部屋に散乱して……それ……どこに……〟
汐見はじっと俺の顔を見ている。
〝なにか、何か言わないと……冗談だ、ってとりつくろ、って……〟
汐見本人を目の前に、本人の隠し撮り写真を──俺の本音がこれ以上ないほど映し出された写真を──本人から見せられて、俺は心臓の音が直接耳に響いてくるほど苦しくなっていた。
汐見はゆっくりと表情を整えて、俺が話し出すのをじっと待っている。
〝俺に何か言いたいことがあるのはお前の方じゃないのか? その表情はどういう意味なんだ?〟
予想もしてなかった事態に混乱した俺は告げる言葉を探していた。だが、何を言えばいいのかわからない。
汐見の表情は少しずつ、いつもの無表情に戻っていこうとしている。
俺が何かを言うのを待っている。だけど、何を言えば正解なのかわからない。
どうして、なぜ。
思考が堂々巡りして、俺は何を言うべきか、何を言うと間違うのか、なんて言えば、汐見に拒絶されなくてすむかそればかりを考えて。
〝適当に……誤魔化して……〟
「……落ちてた。……これ、鎌倉の時の、だよな?」
「……」
汐見は写真に視線を落とすと、しみじみとそれを眺めて
「よく撮れてるな……ブレてないし……」
「……」
その写真の感想を述べた。その汐見の感想を、俺は半ば呆然と聞いていた。
視線を合わせてきた汐見が苦笑いする。
俺が、何も言えずに固まっていると汐見が話し出した。
「鎌倉に行った時の、だよな……懐かしい……もう3年以上前、か……」
その感想を述べる汐見の顔を、俺は口を半開きにしたまま見ていた。
〝その写真の『説明』って……"
俺も汐見にも懐古趣味はない。だけどその写真は確かに懐かさを思い起こさせる。
そして、俺の後悔を切り取った写真でもある。
説明することなんて何もない。
その写真が表現している通りだ。
俺の好意が汐見にだけ向けられている、ただそれだけの写真。
あからさまな好意を剥き出しにした写真に、言葉での説明など必要あるはずがない。
〝言え! 俺! 言うんだ! 冗談だって! こんなのいたずらだろ、って!〟
俺の心の中でもう一人の自分が激しく叱咤する。
その写真には何の意味もない、ただのいたずら心で写したものだと。だけど───
〝言いたくない……『冗談』なんて言いたくない……俺の本音が丸ごと詰まった写真なんだ……〟
汐見がどんな気持ちでその写真を見ているのか、それが知りたかった。
写真を眺めている汐見の横顔は、これ以上ないくらいに静かで。
「……こんな写真、撮るなら撮るって言えよ……」
「!」
「オレ、変顔になってるじゃないか……」
あの時、汐見に花を持たせるようなことをしなければ、今ごろ汐見はまだ結婚してなかったはずだ。
俺が、あんなこと、〈春風〉に聞かなければ。
後悔したところで意味がない。時間は巻き戻せない。
でも、できることならあの時に戻って俺は俺の口を塞ぎたい。
お前が今思っていることが原因で、自分の首を絞めるんだぞ、と。
この先お前は、ずっと後悔することになるんだ、と。
〝俺は……〟
じっと見つめてくる汐見の瞳は俺を責めているようにも、哀れんでいるようにも見えた。
でも、本当のところは汐見自身がどう思ってるかなんてわからない。
〝何を、言え、ば……〟
「なぁ、佐藤。……お前、オレに言うことあるだろう?」
「!!」
言いたい! 喉の近くまでこみ上げてきている。
この想いの全てを洗いざらいぶちまけて、汐見の反応を知りたい。
だけど、今それをやって、俺はまた後悔するんじゃないか?
またこの写真の、あの時みたいに後悔するのか?
何年も?
もしかしたら、これからずっと?
「……こういう写真はさ……好きな子と撮るもんだよな?」
「!!」
汐見の視線が痛い。
「友人と……隠し撮りするようなものじゃない、よな?」
汐見の言葉が痛い。俺もそう思うし、そう思ってる…
まだ何も告げていない。
匂わせることすらしていない。こんなタイミングで告げるつもりもない。
なのに、こんなものが先に見られるなんて……
「……後で見せてくれてもよかったんじゃないか?」
そんなこと、そんなこと考えてもみなかった。
だって、それは、その写真は……
「佐藤。……教えてくれ。これは、どういう意図で撮ったもので……オレが写ってるのに、どうしてオレに見せてくれなかったんだ?」
言えるわけがない。言ったら終わりだ。
こんな写真。
男同士で、俺たちのような間柄で、冗談で撮るような写真じゃない。
〝冗談で、俺が……そんなことできるわけない…………〟
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