【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島

文字の大きさ
167 / 253
Chapter11 - Side:Salt - C

163 > 追憶 ー10(加藤母)

しおりを挟む
 


 ビクッ とした身動きした加藤が、唇を放し顔だけをその声がした場所に向ける。

『か……ぁさ、ん……』

 抱き竦められたままのオレも力無く顔面だけを左に向けて、その方角を見た。

『こうじ……』

 人気のない公園の入り口に、加藤の母親が立っていた。

 人がいないとはいえ、公共の場で……
 同性の親友を掻き抱き、キスまでしている息子がいたら……

 ヘナヘナと崩れていく加藤の母親は、驚愕のあまり目を見開いてこちらを見ていた。

 どうしてここにいるのかはわからなかったが……
 息子とその親友が熱い抱擁を超えた、情交を交わしているのを見てしまったのだ。

 放心状態とは今の加藤の母親のことを言うのだと思った。

 加藤は、込めていた力を緩め、オレの戒めを開放した。

〝……加藤……〟

 あれほど強くオレを抱きしめていた加藤はオレから一歩引いた形になり、その表情がよく見えた。
 そして、その顔からは完全に色が抜けていた。

『どうしてっ……こうじ……っ! あなた、彼女がいるって!』

 加藤の母親が叫んだ。

 オレはその場から走って逃げたくなった。
 だが、ここで加藤の母親になんの弁解もせずに逃げるのは人として間違ってる、そう頭のどこかから声が聞こえてきて動けずにいると。

 オレが口を開くより先に、加藤は母親に向かって言った。……言ってしまった。

『……何言ってるんだよ、母さん。この人が彼女の「みう」だよ』
『?!!』

 そう言うと、加藤はオレに向き直り、母親に見せつけるようにオレの手を引いてもう一度抱き寄せ、再度、ギュッ とオレを抱き締めて。
 
『ごめんな、「みう」』

 オレの耳元に囁くようにそう言った加藤の目にはさっきのような暗さはなく……いつも通りの、理性を宿していた。
 名残惜しそうにオレを離した加藤は、何も言えなくなった母親の元に行く。

『帰ろう……母さん……』

 加藤とオレを呆然と見ていた加藤の母親は、加藤の呼びかけにようやく正気に返って、よろけながら立ち上がる。

 オレは加藤と加藤の母親の動きがスローモーションのように見えるのを自覚しながら、オレを振り返ることもなく母親と家路に向かう加藤を見送るしかできなかった。



 その後、オレはどうやって自分の家に帰ったのかわからない。



 熱を出して2日寝込んでしまったオレは学校を休んだ。
 翌日も、学校に行く気がしなくてどうしようかと考えて結局ズル休み。

 流石に3日休んでしまうと罪悪感が増してきたので、金曜日には登校することにした。

〝……加藤に会いたくない……〟

 いや、会いたくないというのは正確じゃない。

〝あの事を……なかった事にして……なら〟

 だがそうはいかなかった。

 オレと加藤は同じクラスなので、加藤と顔を合わせたくないならオレは学校を休むしかない。
 加藤はいつも通りに登校していたらしく、オレが教室に入って来るのを見てすぐに近寄ってきた。

『おはよ、潮。……帰りに、俺の家に来てくれ……』

 そう言ってきた加藤の顔を見上げると、加藤は哀しそうな顔をしてオレの左手を掴み

『ごめんな……』

 それだけ言って自分の席に戻った。
 
 その日の学校の授業は一切、頭に入ってこなかった。

〝なんだあれ? どういう意味だ? 何があった?〟

 オレが休んでる2日間、加藤からは何の連絡もなかった。

 ホッとするような、でも不安な気持ちが押し寄せてきて、オレの方から連絡したくなるのを理性で押しとどめていた。
 それなのに何食わぬ顔をして学校に登校して、2日ぶりに顔を見せたオレに何の釈明もせずにそんな一言だけ押し付けてきた加藤。
 その日1日は、朝、声をかけただけで加藤がオレに寄ってくることはなく、他の友人と楽しげに会話を交わしていた。

 学校が終わる頃にはその理不尽さに怒りが込み上げてきて、帰りにぶつけてやろうと思っていた。




『一緒に帰ろう』

 そう言って声を掛けてきた加藤に無言で頷くと、オレたち2人は、ちょうど1週間前の金曜日と同じように加藤の家に向かった。

 そう。つい1週間前のことだ────

 加藤はあのことについて何も触れずに、オレが休んでいた2日のことを道すがら色々話してくれた。
 だから、あんな事があったというのが嘘のような気がしていた。

 このまま加藤と今まで通り、友人として、親友として付き合っていけると、この時のオレは少し思っていたのだ。

 加藤の家で何があったのかも知らずに────








しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

メビウスの輪を超えて 【カフェのマスター・アルファ×全てを失った少年・オメガ。 君の心を、私は温めてあげられるんだろうか】

大波小波
BL
 梅ヶ谷 早紀(うめがや さき)は、18歳のオメガ少年だ。  愛らしい抜群のルックスに加え、素直で朗らか。  大人に背伸びしたがる、ちょっぴり生意気な一面も持っている。  裕福な家庭に生まれ、なに不自由なく育った彼は、学園の人気者だった。    ある日、早紀は友人たちと気まぐれに入った『カフェ・メビウス』で、マスターの弓月 衛(ゆづき まもる)と出会う。  32歳と、早紀より一回り以上も年上の衛は、落ち着いた雰囲気を持つ大人のアルファ男性だ。  どこかミステリアスな彼をもっと知りたい早紀は、それから毎日のようにメビウスに通うようになった。    ところが早紀の父・紀明(のりあき)が、重役たちの背信により取締役の座から降ろされてしまう。  高額の借金まで背負わされた父は、借金取りの手から早紀を隠すため、彼を衛に託した。 『私は、早紀を信頼のおける人間に、預けたいのです。隠しておきたいのです』 『再びお会いした時には、早紀くんの淹れたコーヒーが出せるようにしておきます』  あの笑顔を、失くしたくない。  伸びやかなあの心を、壊したくない。  衛は、その一心で覚悟を決めたのだ。  ひとつ屋根の下に住むことになった、アルファの衛とオメガの早紀。  波乱含みの同棲生活が、有無を言わさず始まった……!

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

処理中です...