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Chapter12 - Side:Other - D
194 > 決戦の日−13(養子縁組)
しおりを挟む「きゅうしょうけん?」
「不倫の当事者2人の一方が相手の配偶者に慰謝料を支払った場合、もう一方の当事者である不倫相手に、支払った分を請求できる権利です……大体は、半額……」
意味がわからない汐見に、池宮が説明する。
志弦の隣では大石森が署名された書類をチェックしながら、1部を志弦の手前に、もう1部を汐見の前に差し出した。
それを横目に見ながら志弦は続ける。
「そうね。つまり300万。彼とは半年前から別居して生計は別ですし、もう夫婦の共有財産はありませんので、どうぞ隆に請求してやってください」
「ですが、無一文と……」
先ほど、志弦が言ってた言葉を汐見は反芻するように口に出した。
「ええ。不動産はもう彼のものではありません。ですが、有価証券と現預金を持ち出して夜逃げしているので、おそらく手元に1千万くらいはあると思いますよ」
〝そうか! 現預金! でも……〟
所有不動産はもうない。だが、現金と預金はおそらく手元にあって、それはおそらく逃亡資金として使われているはずだ。
「……なぜそこまで……夫である隆氏を?」
今度は池宮がつい口を挟む。
「なぜ? 破滅してほしいからよ」
「……仮にも夫なのでは?」
「それがなにか?」
冷たい視線で言い放つ。
「夫婦だから愛し合う必要がある、とでも? 憎み合いながら婚姻関係を継続している夫婦なんてたくさんいるでしょう」
「……そこまで、夫である隆氏を毛嫌いする理由は……なんですか?」
池宮は、言葉を選んだつもりで選び損ねた。
「……私の努力を執拗なほど嘲笑ったからです」
「??」
「女はどれだけ優秀でもガラスの天井がある。男である俺が仕切きった方がこの会社は上手くいく、ゆくゆくは俺が社長になる方が良いと……」
自分の中から出した汚物を見るように、苦々しげな表情で志弦は吐き捨てた。
「申し訳ないですが、それ以上は言いたくないです。気分が悪くなるので」
「あ、あの! 貴女ほどの人なら、隆氏との婚姻を断ることもできたんじゃないんですか?」
「これ以上はプライベートなので……」
怒りと憤りと悲哀を湛えたような志弦の表情に、汐見はそれ以上何も言えなかった。
場に、数秒の沈黙が流れ────
ふと、先程の彼女の言葉で汐見がひっかかりを感じたことを質問した。
「……すみません……アメリカに置いてきた恋人……と、どうして日本で暮らさないんですか? その方も日本人なら別に……」
「……彼女の子供たちが向こうの暮らしに馴染んでいるから。あと……今の日本では彼女と結婚できないしね」
「? ……アメリカでは同性で結婚できる? んですか?」
〝確かに、日本では無理だと……〟
「あら、そうよ。知らなかった? まぁ、まだ州によって違うけどね」
「……で、でも日本でも結婚に近い措置はできると……」
「養子縁組のこと?」
「そ、そうです」
「同性婚の代わりに養子縁組することはおすすめできませんな」
それまで黙って聞いていた大石森が、志弦の代わりに答えた。
するとそれを聞いていた池宮までも
「そうですね。今は良くても、……予測できない将来のことを考えると……」
「???」
敵視しているかのような態度だった大石森の意見に賛同した。
理由がわからないのはどうやらその場で汐見だけのようだった。重ねて質問する。
「どういうことですか??」
志弦から相談を受けていたであろう大石森が
「同性のパートナーと日本で養子縁組してしまうと、後々……万一同性婚が認められるようになった場合に……」
何事か渋るように言うと
「今度は結婚できなくなります」
池宮が答えを告げた。
「え?! で、でも、養子縁組をしたとしても、後で解消? 解約? すれば……」
「できません。それを民法736条(※1)が禁止しています」
「そうですな」
「!!!」
同性のパートナーと家族になるために養子縁組をしてしまうと過去に『親子関係があった』ことにより、今度は養子縁組解消後、結婚することができない。
現実問題として未だ、日本での同性婚は認められておらず、何年後そうなるかわからないという、そもそもの話ではあるが────
「……別にね、結婚にこだわる必要はないかな、とは思ったの。でも、パートナーとは対等な関係で家族になりたい、とも思ったのよね。その時にその話を聞いて、今の日本で家族になるのは得策じゃないし……認められるようになる頃には2人ともおばあちゃんになっちゃうかも、と思って」
彼女なりに色々考えた末の判断だったに違いない。
忌み嫌う三浦隆と結婚しておきながら、6年もの間、海の向こうにいる元恋人との絆を今も確かに感じているということなのだから。
今度は池宮が志弦に質問する。
「向こうに永住を考えて?」
少し考えるそぶりを見せると、志弦は今度こそ、花が咲いたような笑顔でこう言った。
「まだそこまでは……でも、そうね。支社ができて数年向こうで仕事をすれば私自身はグリーンカード(※2)が取得できるから……そのタイミングで考ようかな、とは思ってるわ」
かなり計画的に考えた末の決断だったのだろう。
今の今まで眉間に皺まで刻んでいた志弦の表情が、恋人との話になると一気に緩んだ。
嬉しそうな少しはにかんだような表情は紅が挿し、雰囲気まで変わった志弦は少女のように見えた。
〝ああ……この人は、本当にその女性のことを……〟
※養子縁組関連
※1:★第736条(養親子等の間の婚姻の禁止) 養子若しくはその配偶者又は養子の直系卑属若しくはその配偶者と養親又はその直系尊属との間では、第729条の規定により親族関係が終了した後でも、婚姻をすることができない。
>>>★第729条(離縁による親族関係の終了) 養子及びその配偶者並びに養子の直系卑属及びその配偶者と養親及びその血族との親族関係は、離縁によって終了する。
※2:グリーンカード=移民ビザを取得し、米国における合法的永住資格(アメリカ永住権)の証明として与えられる「永住者カード」
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