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Chapter12 - Side:Other - D
195 > 決戦の日−14(志弦の恋愛対象)
しおりを挟む「ま、今すぐの話ではないんですけど」
そう言って、志弦は話を切り上げた。
そして、商談がひと段落ついたような静寂が訪れ───
「ところで……汐見さんは、ちゃんと妻のことを愛してらっしゃるのね」
「え?」
「だって、さっきからそういう話ばかりなさるので」
「……愛、して(る、と思い)ます」
発言を振り返ると、確かにそういうことを言っていた気がしないでもない。
〝でも半分は池宮先生も……〟
「そうですよね……なら……今回の件は、とても精神的に大変だったと思います」
「え、あ、はい……」
〝オレは今、なぜ……妻の不倫相手のパートナーに労られてるんだ……?〟
「私は、夫に愛情などなかったので、今回の件は……」
「あ、あの!」
汐見は志弦のソコに引っ掛かっていた。
「はい?」
「その……ど、同性の恋人がいて、その人と共に……生涯を共にしたい、とおっしゃってますが、その……」
「?」
「最初からその女性を、その、恋愛対象として見ておられたんですか?」
〝同性も、恋愛対象…………何か……ヒントに……〟
「……もう覚えていませんが……私はあまり一目惚れする人間じゃないので、違うと思います」
〝一目惚れ……オレは紗妃に一目惚れ、って……〟
佐藤に指摘された。
『お前な……あからさまに美女に一目惚れしてんじゃねえよ』と。
あの時、感じた違和感。
あれはなんだったのか。
〝佐藤に言われて、オレ、は……〟
〝ヒトメボれ、だった? ホント、に?〟
微かに、汐見の中で、子供の声が聞こえる。
「じゃあ、どうやって、その、彼女を……」
自分の中の思考と、実際に口をついて出る言葉が矛盾したりしていないか気をつけながら汐見が話す。
「興味がおありなんですね。それは好奇心? それとも?」
「あ、すみません……答えたくないのでしたらそれは……」
〝そうだよな、失礼だよな……〟
「いえ。そうじゃないんです。そうですね……私は自分がかなり周りと違うということを幼少期から気づいていたので……」
〝……マワり、と、チガぅ……〟
また聞こえる。間違いなく【出てきている】と汐見は感じていた。
「なんていうか……男女の仲でもそうだと思うんです。異性の友達と思っていたのに、信頼関係を築いていくうちに、そこから少しずつ意識し始める、とか」
〝……サイショから、スきってどうやって、わかるノ?〟
「少しずつ……意識……」
〝オレは……紗妃を意識して……いたか? 本当に?〟
佐藤に一目惚れしてる、と言われた時に一瞬感じた違和感。
紗妃と過ごしていた時の違和感。
〝何かが、間違ってる、と感じたあの感覚……〟
それらがグチャグチャに絡まって汐見の中にある意識と感覚をかき混ぜる。
「多分ですけど……同性だとどうしてもフィルター? が掛かっちゃってその先に進めない人が多いと思うんですよね。でも、両性とも恋愛できると自覚してる分、私はそう感じたら男性でも女性でもそのまま突き進んじゃうので」
〝スき、なら、ドウセイでも、ツきススむんだって〟
〝好き……そう、だ……オレは紗妃、が好きで……佐藤、は……〟
「友達付き合いしてる時の方が楽だった、と思う方とはすぐにそういう関係を解消します。そのあと友人に戻れるかどうかはお相手次第で」
「……そ、んな簡単に割り切れるものなんですか?」
〝サトウノコトヲ、カンガエテルノカ〟
〝……佐藤? なんで今、佐藤……?〟
汐見は、解離しそうな自我を必死に繋ぎ止めている何かを感じていた。
「その人が大事だと思えば、元が恋人でも友人になることはできるんじゃないかなぁ……と私は思ってますけどね」
「同性でも、異性でも?」
〝スき、スき、スき。ダレが、スき? サキ? それとも〟
〝オマエハドウシタインダ〟
〝オレは……どう、って……紗妃と結婚した……〟
〝それがコタえ?〟
「ええ。実際、元恋人の友人との方が仲が良かったりします」
〝この人は、すごい……オレは……〟
「私の場合は……一緒にいると、すごく居心地がいいというか、穏やかになれるというか……そうですね、安心できる心理的な空間? を提供してくれる人を好きになっていた気がします」
〝居心地……穏やか……安心……〟
それらのキーワードを聞いて、思い返す。
〝紗妃といてそう感じたことは……ほとんどなかった、な……”
〝じゃぁ、ダレとイて、カンじた?〟
〝誰といて……居心地……安心……〟
「あとは……放って置けないんですよね……可哀想とかじゃなくて、なんていうか……一緒にいてやりたい、一緒にいたい。そう思ってもらいたい、っていう……うまく伝えられないですね」
嬉しそうに笑う志弦の表情が眩しかった。
〝あぁ……なんだかわかるような気がする……〟
紗妃といたのは放っておけないと思ったからだ。
嫋やかな見た目と裏腹に芯が強い。
いや、強く見えた。
少なくとも、暴力的な紗妃を見るまでは。
でも。
本当に放っておけなかったのは────
〝1年前のあの日……オレは……〟
そばにいたい、と強く思ったのは────
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