【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島

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Chapter12 - Side:Other - D

196 > 決戦の日−15(心が正しいと思う方)

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〝紗妃を……いや、紗妃じゃなくて…………だから……〟

 重い蓋をじ開けて深淵しんえんを覗き込むのに、暗くよどみすぎていて何も見えない。

 思い出したくない過去にはいつもノイズがかかって見えづらい。

 ───思い出し、づらい。
 
〝……なにか……何か忘れ、て……?〟

「汐見さん? 大丈夫ですか?」



『お前な……あからさまに美女に一目惚れしてんじゃねえよ』
『え?』

『じーっと、見過ぎ。春風が気づいてないからいいけど』
『一目惚れ……』

『お前、案外面食いなんだな』
『……違うと思う、けど……』

『そうかぁ? しっかし彼女、美人だなぁ。……そうかぁ、汐見はああいうのが……好みか……』
『……お前だって、彼女くらい美人なら気になるだろ?』

『え? 俺? ……俺は……』
『……なんだよ、オレの顔見て』

『……いや、なんでもない』
『まぁ、美人だよな……うん……』

『お前こそなんだよ、俺の顔見て。なんかついてるか?』
『……いや……彼女も混じってるのかなぁ、と思ってな』

『あ? ああ、まぁ純日本人て顔じゃないな』
『お前と同じくらい?』

『どうでもいいよ。昼、時間なくなっちまう。行こうぜ』
『あぁ……』



〝あの時、オレは……何を、考えてた?〟

〝ナンて、オモった?〟

〝オモイ、ダスナ〟

〝あの時、佐藤に、言われて……オレは、『違う』と……〟

〝オモイダスナ!〟

〝そう、だよね。チガうよね。サキが……〟

〝カンガエルナ!〟



「汐見さん?! 顔色が悪いですよ!」

 隣にいる池宮の少し大きな声がして肩を揺すられるが、現実感が薄い皮膜を通していてぼんやりしている。

〝ここは……そうだ、オレは今、吉永の会社に……〟

 紗妃を初めて見たあの時。
 隣にいる佐藤に言われ〝一目惚れって、なんだ?〟確かに、そう思ったのだ。

〝オレは、一目惚れなんか、しない……知らない人間に感情が動くことなんて、ない……〟


〝じゃあ、どうして、サキにミトれてたの?〟

見惚みとれる?〟

〝サトウが、イった、そぅいぅこと〟

〝見惚れる……初めて見る、紗妃に……見惚れ……〟

〝ソノカンジョウハ、フモウダ〟

〝……ふもう……なにが?〟

〝オモいダして、シオミ……ココロが……〟

〝正しいと……思う……〟

〝キエロ! イド!〟

〝また、コワれる、マエに……〟



「汐見さん?!」
「っあ、ああ、す、すみません……ちょっとぼーっとしてました……」

「大丈夫ですか? もしかして、怪我が……」
「あ、いや、大丈夫です。ちょっと……」

「「?」」

 汐見の事情を知らない志弦と大石森は顔を見合わせて疑問を感じていた。
 池宮は汐見の様子がおかしいことに気づいて、早くここを立ち去ろうと思い

「とりあえず、書面は作成しましたので、私たちはこれで引き上げても?」

 出る支度を整える。
 急ぐような様子に変わったことに気づいた志弦が、大石森を見る。

「ええ。大石森先生、他に何かあります?」
「期日通りに着金できますか?」

「大丈夫です。今日にでも」
「あら、それだと助かりますわ」

「わかりました。志弦さん、私の方はもうないですよ」
「そう。でしたら~~~」

「池宮先生、今度、うちの事務所の事務員が~~~」
「わかりました~~~」

 汐見を置いて、3人で話を進めているのを、汐見は全く別の世界から眺めていた。


 
 汐見は池宮に促されるまま機械的に動く。
 自分の思考とは別に動く口や手足を、自分で体を操縦している感覚のまま。

 池宮と別れ、1人、帰路について。
 だが、意識はまだ、別の世界にいた。


『いいかい。潮。自分の心が正しいと思う方を選ぶんだよ』







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