208 / 253
Chapter13 - Side:Sugar - B
204 > 再会−07(橋田の推測)
しおりを挟む「もし、汐見に断られたとしても、汐見と同じ会社で働きたいってこと?」
「……だよ……」
「う~~~ん……汐見は……俺より半年くらいお前の方が汐見との付き合いは長いけどさ、同じ部署にいて、お前の次くらいに汐見と仲が良かった人間として言わせてもらうと」
橋田が背の低い酒が入ってないグラスを持って、カラカラと氷を回す。
「お前のこと断るつもりなら会社も辞めると思うし、それが転職の絶好の機会にもなると思うな」
「!! っだ、だからっ! それを引き止めようと!!」
「でもさ。お前の話を聞くに、その話、前後、逆じゃん?」
「え?」
何の話かよくわからず、橋田の顔をまじまじと見返した。
「転職したい、って話を汐見が持ってきた。でもその時点ではお前は告ってないし、その時点で汐見にバレてたのかはわからない。んで、その後お前が告った時、汐見は転職のことを特に言わなかった……ってこと、だろ?」
「……そ、う……だけど……」
俺は橋田が何を言ってるのかわからず、眉根を寄せて小首を傾げた。
橋田は頭の中で時系列を描いているのか、視線を左下に向けながらグラスでできた水滴でテーブルの上に直線を引き始める。
「お前が告った後に汐見が転職の話をしたなら、断る前提の話ってことになるんじゃね? でもお前が告った後は転職について何も言ってなかった、んだろ?」
「そ、れは……それ、どころじゃなかった……はずだし……」
「う~~ん……で、1週間音沙汰なし?」
「……ああ……」
「まぁ、俺が汐見だったら、って仮説で言うとだな」
〝お前が汐見であってたまるか!〟
俺の表情を読み取ったらしい橋田が苦笑する。
「イヤそうな顔すんなって。とにかく、仮にだよ、仮に。お前に言ったように、本当に転職を考えてるんだとしたら、休暇中のこの1週間の間に直接俺に連絡してたと思うぞ」
「え?!」
「あいつ、そういうこと先延ばしにするの、大嫌いだからな」
「あ……」
〝そういえば……『こういうのは先延ばしにするとダメになるんだ。できるときにやってた方がいい』とか言ってたな……〟
「でもそうじゃなかった……まぁ、ゴタついてるからそれを片付けてからって考えてるとは思うけど。でも相手にアポ取りするだけなら早目がいい、ってのもわかってっから、決断してるんだったらすぐ連絡くると思うんだよ。下北沢に連絡取って俺の連絡先も知ってんだしな」
「……」
「と、したら、だ。……まだ迷ってんじゃねえの?」
「え? な、何を?」
「転職って話。おい、お前自分から話振っといて忘れんなよ」
「えっ、と、その……」
〝汐見と会えなくなる、ってことばっか気にしてたから……〟
「で、だ。……転職を迷って、今すぐ俺に連絡してこない、ってことはさ。……逆に言うと、お前のこと断る前提では動いてないってことなんじゃねぇの?」
「!!!」
「ま、わからんけどな。俺、汐見じゃねぇし、本人に聞いたわけじゃねえから」
「そ、その推測はどう……」
「んー……俺だったら、そういう状況になったとき、どうやって動くかなぁ、って考えてみただけ。俺と汐見、性格は全く似てないけど」
〝当たり前だ! お前が汐見に似ててたまるか!”
さっきと似たようなことを考えて突っ込んだ俺に、橋田はわかりやすく苦笑いしている。
「思考パターンが似てる、ってよく言われてた。コードの書き方とか癖とかもな」
「……」
「あいつみたいに石橋を叩いて渡るってところはあまり似てないけど。レビュー(※1)前のあいつのコード、めちゃくちゃ変数定義(※2)しまくっててコメントも細けぇしな」
こいつに俺と汐見のことを何もかも見透かされてしまったような気がして居心地の悪さを感じていると
「お前の気持ちもわかるけどよ。汐見はお前のこと、相当気に入ってると思うし、お前以上に懐に入れる人間はいないと思うぜ」
「……そんなの……わからないだろ……」
そんなこと、わからない。汐見が何を抱えているのか、考えているのか。
最近になって、あんな事件があって初めてようやく汐見の事情を少し知ったくらいなのに。
「春風とのことはわからんが……側から見てると、お前と汐見の関係の方がよっぽど深くて強い感じがするけどなぁ」
「そ、そうか!? けど……それは……何目線なんだ?」
「……元同僚目線?」
こいつの言うことを全部鵜呑みにするのは危険だ。
危険だけど、そういうことを事情を知る他人に客観的に言われると、俺だけの勘違いじゃないかもしれない、と思って嬉しくなる。
「……でもまだ、汐見の気持ちは聞いてない」
「そりゃまぁ、慰謝料とかそんな状況なら、あいつ、今それどころじゃないだろ。お前だってそこはわかってるだろ?」
「そうだけど……」
橋田は、少し遠くにある水槽を見上げてニカっと笑った。
「まぁ、待つしかないんじゃね。汐見が俺にコンタクト取って来たら知らせるよ」
「ホントか?!」
「お前な……」
「だ、だってな! 俺が汐見に……ってのを知ってるのは悔しいけどお前しかいないし、どうしようかと思って」
「……お前って、俺を利用することに関しては容赦ねぇよな。ま、いいけどよ」
苦笑しながらそう話してくれる橋田にほっとして、俺は少し心が軽くなった。
※1:レビュー前のコード:コードレビュー=ソフトウェア開発の一工程で、コンピュータプログラムのソースコードを記述者とは別の人が詳細に調べ、所感を開発者に伝えるすること。
※2:変数定義=コンピュータプログラムのソースコードなどで、データを一時的に記憶しておくための領域に固有の名前を付けたもの。変数は前もって定義しておくが、不要な変数定義などがある場合、プログラムの動作に問題が出ることもあるため通常はコードレビュー前に削除しておく。
0
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる