【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島

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Chapter13 - Side:Sugar - B

204 > 再会−07(橋田の推測)

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「もし、汐見に断られたとしても、汐見と同じ会社で働きたいってこと?」
「……だよ……」

「う~~~ん……汐見は……俺より半年くらいお前の方が汐見との付き合いは長いけどさ、同じ部署にいて、お前の次くらいに汐見と仲が良かった人間として言わせてもらうと」

 橋田が背の低い酒が入ってないグラスを持って、カラカラと氷を回す。

「お前のこと断るつもりなら会社も辞めると思うし、それが転職の絶好の機会チャンスにもなると思うな」
「!! っだ、だからっ! それを引き止めようと!!」

「でもさ。お前の話を聞くに、その話、前後、逆じゃん?」
「え?」

 何の話かよくわからず、橋田の顔をまじまじと見返した。

「転職したい、って話を汐見が持ってきた。でもその時点ではお前は告ってないし、その時点で汐見にバレてたのかはわからない。んで、その後お前が告った時、汐見は転職のことを特に言わなかった……ってこと、だろ?」
「……そ、う……だけど……」

 俺は橋田が何を言ってるのかわからず、眉根を寄せて小首を傾げた。
 橋田は頭の中で時系列を描いているのか、視線を左下に向けながらグラスでできた水滴でテーブルの上に直線を引き始める。

「お前が告った後に汐見が転職の話をしたなら、断る前提の話ってことになるんじゃね? でもお前が告った後は転職について何も言ってなかった、んだろ?」
「そ、れは……それ、どころじゃなかった……はずだし……」

「う~~ん……で、1週間音沙汰なし?」
「……ああ……」

「まぁ、俺が汐見だったら、って仮説で言うとだな」

〝お前が汐見であってたまるか!〟

 俺の表情を読み取ったらしい橋田が苦笑する。

「イヤそうな顔すんなって。とにかく、仮にだよ、仮に。お前に言ったように、本当に転職を考えてるんだとしたら、休暇中のこの1週間の間に直接俺に連絡してたと思うぞ」
「え?!」

「あいつ、そういうこと先延ばしにするの、大嫌いだからな」
「あ……」

〝そういえば……『こういうのは先延ばしにするとダメになるんだ。できるときにやってた方がいい』とか言ってたな……〟

「でもそうじゃなかった……まぁ、ゴタついてるからそれを片付けてからって考えてるとは思うけど。でも相手にアポ取りするだけなら早目がいい、ってのもわかってっから、決断してるんだったらすぐ連絡くると思うんだよ。下北沢に連絡取って俺の連絡先も知ってんだしな」
「……」

「と、したら、だ。……まだ迷ってんじゃねえの?」
「え? な、何を?」

「転職って話。おい、お前自分から話振っといて忘れんなよ」
「えっ、と、その……」

〝汐見と会えなくなる、ってことばっか気にしてたから……〟

「で、だ。……転職を迷って、今すぐ俺に連絡してこない、ってことはさ。……逆に言うと、お前のこと断る前提では動いてないってことなんじゃねぇの?」
「!!!」

「ま、わからんけどな。俺、汐見じゃねぇし、本人に聞いたわけじゃねえから」
「そ、その推測はどう……」

「んー……俺だったら、そういう状況になったとき、どうやって動くかなぁ、って考えてみただけ。俺と汐見、性格は全く似てないけど」

〝当たり前だ! お前が汐見に似ててたまるか!”

 さっきと似たようなことを考えて突っ込んだ俺に、橋田はわかりやすく苦笑いしている。

「思考パターンが似てる、ってよく言われてた。コードの書き方とか癖とかもな」
「……」

「あいつみたいに石橋を叩いて渡るってところはあまり似てないけど。レビュー(※1)前のあいつのコード、めちゃくちゃ変数定義(※2)しまくっててコメントも細けぇしな」

 こいつに俺と汐見のことを何もかも見透かされてしまったような気がして居心地の悪さを感じていると

「お前の気持ちもわかるけどよ。汐見はお前のこと、相当気に入ってると思うし、お前以上にふところれる人間はいないと思うぜ」
「……そんなの……わからないだろ……」

 そんなこと、わからない。汐見が何を抱えているのか、考えているのか。
 最近になって、あんな事件があって初めてようやく汐見の事情を少し知ったくらいなのに。

「春風とのことはわからんが……はたから見てると、お前と汐見の関係の方がよっぽど深くて強い感じがするけどなぁ」
「そ、そうか!? けど……それは……何目線なんだ?」

「……元同僚目線?」

 こいつの言うことを全部鵜呑うのみにするのは危険だ。
 危険だけど、そういうことを事情を知る他人に客観的に言われると、俺だけの勘違いじゃないかもしれない、と思って嬉しくなる。

「……でもまだ、汐見の気持ちは聞いてない」
「そりゃまぁ、慰謝料とかそんな状況なら、あいつ、今それどころじゃないだろ。お前だってそこはわかってるだろ?」

「そうだけど……」

 橋田は、少し遠くにある水槽を見上げてニカっと笑った。

「まぁ、待つしかないんじゃね。汐見が俺にコンタクト取って来たら知らせるよ」
「ホントか?!」

「お前な……」
「だ、だってな! 俺が汐見に……ってのを知ってるのは悔しいけどお前しかいないし、どうしようかと思って」

「……お前って、俺を利用することに関しては容赦ねぇよな。ま、いいけどよ」

 苦笑しながらそう話してくれる橋田にほっとして、俺は少し心が軽くなった。








※1:レビュー前のコード:コードレビュー=ソフトウェア開発の一工程で、コンピュータプログラムのソースコードを記述者とは別の人が詳細に調べ、所感を開発者に伝えるすること。
※2:変数定義=コンピュータプログラムのソースコードなどで、データを一時的に記憶しておくための領域に固有の名前を付けたもの。変数は前もって定義しておくが、不要な変数定義などがある場合、プログラムの動作に問題が出ることもあるため通常はコードレビュー前に削除しておく。
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