【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島

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Chapter16 - Side:EachOther - E

233 > 終業後 ー07〜 氷山(Side:Salt)

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 (Side:Salt)




 泣きながら話すオレの話を、佐藤はずっと黙って聞いていた。

〝こんなこと……佐藤に……言うなんて……〟

 オレがこれほど臆病で、卑怯で、一番重要な問題を先送りにしていたから、オレたち夫婦は……

〝ボタンを掛け違えた……でも、紗妃は……〟
〝サキは、キヅいていたね〟

〝何、に?〟
〝シオミのキモチに〟

〝オレの、気持ち?〟
〝シオミが、ダレをミてイたか〟

〝オレ、が……〟
〝オマエノコタエハ、デタカ”

〝オレの、こたえ……〟

 オレのコタえ。

 自分の思考に迷路ができるとオレはいつも考えを放棄した。
 紗妃ではない相手に沸き起こる感情に蓋をした。

 結婚したオレに、妻でない相手に対する答え気持ちなんて出せ言えるわけがなかったから。

〝シオミはミないフりした〟
〝見ない、ふり?〟

〝わかってたのに……ジブンのココロに、ダレがいるのか……〟

〝ダレカノフコウデナリタツシアワセハ、フウインシナケレバ、ナラナイ”
〝誰かの、不幸?〟

〝サキハヒキカエシタ。オマエモヒキカエシタ。サキハフコウダ〟

〝シオミ、もうマチガえないで〟
〝何を……〟

〝オモいダした、でしょ?〟

〝ダレモシアワセニシナイオモイハステロ〟
〝幸せ……って誰の……〟

〝シオミ、ジブンのココロをシンじて〟
〝自分の、心……〟

〝マドワサレルナ、コイツハコドモダ〟

〝コドモじゃない。シオミのホントウのココロ、シってる〟
〝本当の、心……〟

〝シオミ……ボクはここにイるよ〟
〝マタ、マチガエルノカ〟

〝間違う……ま、ちがってた、のは……〟

『私たち、間違ってたね』

〝紗妃との方、だ……〟

 言われた時、その意味の半分も気づかなかった。
 だけど、紗妃は

『……知ってたの……私……最初から……』

〝最初から……って……〟

 オレの中にあった、佐藤への気持ち。それを、紗妃は……知ってて

『知らないふりをした、の……』

〝どうして……〟

『佐藤さんの視線の意味も……あなたの、私を見る、視線にも……』

 オレに対する佐藤の気持ち。
 オレが、紗妃を見て……誰を見ていたのか……

〝『知ってた』……って……それも『最初から』って……知ってて、どうして……〟

〝ココロはシンジツをモトめる……サキはミてた〟
〝ならどうしてオレと……!”

〝ニテイルオマエトケッコンシテ、カゾクヲツクルコトデ……ヨリドコロニシヨウト、シタ〟
〝!!〟

〝サキは、シッパイしたんだ〟
〝失敗って……!〟

 心の拠り所。
 紗妃は確かにそう言った。

〝一番好きな人が他の人を選び、自分が選ばれなかった事実を知って、紗妃は……〟

『他の……誰かを……心の拠り所にしよう、と……』

〝……オレ、を……〟

『だけど……誰も……拠り所には、ならなかった……』

〝オレは、紗妃の拠り所にも、逃げ道にも、なれなくて……〟

 オレが紗妃を支えるべきだったのに、佐藤に対する気持ちに気づかなければ……紗妃は────

〝ココロはウソをつけない。ココロのシンジツは、オクフカくにシズむ〟
〝……聞いたこと……意識は、氷山の一角…………無意識が、人を動かす……〟

〝オマエノムイシキハ、ナニヲオモウ?〟
〝オレの……無意識……〟


『【代わり】なんて、いない……いらないのに……』

 代わり────
 加藤も言ってた。「代わり」だと。

〝サキは、シオミをカわりにしようとした〟
〝ダガ、サキハ、ジブンガカワリニナルコトニ、タエラレナクナッタ〟

〝サキを、ダレの、カわりにした?〟
〝紗妃、を……〟

 何かが、記憶の底に引っ掛かっている。

〝……そうだ。佐藤とのことを橋田に揶揄からかわれたあの時……〟



『お前らもう付き合えよ、ってかなんでお前ら付き合ってないんだよ』
『アホか。男同士で付き合えるわけないだろ』


 佐藤の目の前で、初めて言ったあの言葉。
 オレをずっと縛り付けていた。

 オレの呪縛。

 オレにかけられた、呪いの言葉───




 流れる涙を佐藤に晒しながら、オレは孤独にしてしまった紗妃を思って、泣いた。

 そして、ふと、手に何かが触れたのを感じて。
 佐藤と目が合った。
 
「佐藤……」

 泣いてる姿を佐藤に見られるのは初めてだ。
 いや、そもそも泣いてる所を人に見られること自体、初めてだ……

「お前の、さ……そういう所が……俺は……」
「……」

 オレが泣いてるところを見ても動じるどころか、佐藤はきっと

〝同情してる、な……〟

「……お前は……1人じゃない……」
「……」

「俺が、いる……だろ……」

〝お前は……まだこんなオレを……想うのか?〟

 オレは、どうしようもない卑怯者なのに。
 お前の気持ちを知ってて、まだ返事すらしてない、酷い奴なのに。

「佐藤……お前……いい奴、だな……」

 泣きたいような、でもその泣き顔を誤魔化そうとしてオレは無理矢理笑った。

〝お前に答えを出してないオレを、今、お前はどう思ってるんだろう〟

「……違うよ、お前にだからだ……」
「?」

 その答えが何に対してのものなのかわからず、オレの頭には一瞬疑問符が湧いた。 
 それに、佐藤が答えた。

「いくら俺がモテるからって、全員にいい奴なわけ……いい顔するわけ、ないだろう?」

 佐藤の顔にはなんとも言えない表情が浮かんでいる。
 佐藤のその顔は何度も見てきた。

 それこそ、何年も前から───

「!」

 オレは佐藤の表情の意味を、握られた手から流れてくる感情を、今、唐突に理解した。

「……お前が……お前、だけだよ……俺がこんなに……」

〝……ああ、そうか……佐藤、お前…………〟


 




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