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出会い
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「疲れたなぁ」
アキはそう呟いた。
時刻は1時28分。とっくに終電の時間は過ぎている。
今日も昨日も一昨日も、もうずっと前から定時で上がれた記憶が無い。
この誰もいないオフィスで、アキのタイピングの手が止まり静寂が流れる。
山室アキ(27)は新卒で大学を卒業後、今の職場に5年ほど勤めているOLだ。
頭の涼しそうな直属の上司(クールビズと陰で呼んでいる)に面倒な仕事を押し付けられ、1人残業をする日々にいい加減嫌気が差してきた。
「よし。」
アキはそう言って立ち上がるとコピー機の3番目のトレイからA4用紙を2枚取り出し太い方の油性ペンで
『本日を持って辞めさせていただきます。』という文字と日付を力強く書いた。『本日』の認識の違いが無いように。
1枚紙が余ったのでクールビズの似顔絵(大きな丸に3本横線を引いただけの絵)を描き、4つに折ることもせずデスクの上にそのまま置いた。
そんな事をしていたら胸がすっきりしてきたので、アキは残業までして仕上げた明日の会議で必要なデータや、デスクトップのアイコンも一つ残らず消して職場を去った。
職場から10駅ほどの所にアキの家はある。
いつもならタクシーに乗って帰る所だが、今日は歩いて帰ろうと決める。
だって明日からこの道を通る事は無いのだから。一歩一歩噛み締めて帰ろう。
普段なら絶対に歩く事は無いけれど、明日は仕事が無いのだから。
仕事に向かう足とは別物かというくらい足が軽い。
街灯はキラキラ輝いていて宝石みたいだ。本当に宝石だったらあのサイズはいくらくらいになるだろうか。1000万はくだらないだろう。
1000万あったら当分働かなくて済むな、なんて浮かれた事を考えていたらあっという間に家の近くまで着いてしまった。
「なんか勿体無いなぁ」
そうだ、明日から仕事が無いと言うのに
このまま家に帰って風呂に入り
歯を磨いて寝るだなんて勿体無い。
明日上司が面食らう所を想像するだけで美味い酒が飲めるに違いが無いのに。
アキはそう思うと自然と来た道を少し戻り、近くのコンビニエンスストアに足を運んでいた。
「ありがとうございました。」
コンビニの店員の声が店外に少し漏れる。
アキはパンパンのビニール袋を片手にご機嫌な様子で、自宅マンションの隣に併設してある公園に一歩足を踏み入れた。
はっと息が止まった。
ベンチの上で
制服を着た女子高校生が体育座りをして携帯をいじっている。制服を見る限りこの辺で有名な進学校の高校生だろう。
足音を立ててしまったのがいけなかったのか、
ベンチに座りチカチカと点滅する街灯の元で照らされている物憂げな表情をした女子高校生と目が合ってしまった。
目が合うと彼女はぱっと目を見開き
「おーい!お姉さーん!」
深夜3時半とは思えないほどの声量でアキを呼んだ。
自宅マンション併設の公園で深夜3時半に、お酒がパンパンに入ったビニール袋を持った女と女子高生が密会をしていたなどとマンションの掲示板に書かれたら家まで失ってしまう。
そう思ったアキはビニール袋を足下に捨てて女子高生の元に駆け寄る。
ベンチに座る少女の前に立ち
「何時だと思ってるの?」
「えへ、ごめんなさい、やっと人が通って嬉しくなって」
「ここで何をしているの?」
「お姉さん今日だけお家に泊めてくれない?」
家出少女ってやつだろう。
いかにもワケアリって感じがする子を警察に連れて行って良い物なのか。
アキはちょっと長い間考えた後に
「お家には泊めません」そう言った。
女子高生はちょっと寂しそうな顔で微笑んだ後何か言おうとしたが
アキが続けて
「お家には泊めませんが私に一晩中付き合ってもらいます!」
そう言うと公園の入り口に投げ捨てたパンパンのレジ袋を取りに行き
少しぬるくなった缶ビールを開けた。
少女は鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしていたが
アキが吹きこぼれたビールを顔面でキャッチすると同時に笑顔になった。
もう着る事の無いスーツの袖で顔を拭い、
ゴクゴクと音を立てて1本の缶ビール(350ml)を完飲するとドカっと少女の横に座る。
ガサゴソとビニール袋から何かを取り出し
「あんたにはこれしかあげない」
とアキはチェイサー用で買った紙パックの緑茶(1L)と夜食用で買った大きなジャンボホットドッグを少女に渡した。
「ありがとうございます」
彼女がそう言うと、チカチカと点滅していた街灯がパッと点灯し、少女の満面の笑みがアキの視界に飛び込んで来た。
さっき缶ビールを一気飲みしたからだろうか。普段よりも鼓動が早い気がする。なんて事を考えながらアキは少女と一晩中様々な話に華を咲かせた。
アキはそう呟いた。
時刻は1時28分。とっくに終電の時間は過ぎている。
今日も昨日も一昨日も、もうずっと前から定時で上がれた記憶が無い。
この誰もいないオフィスで、アキのタイピングの手が止まり静寂が流れる。
山室アキ(27)は新卒で大学を卒業後、今の職場に5年ほど勤めているOLだ。
頭の涼しそうな直属の上司(クールビズと陰で呼んでいる)に面倒な仕事を押し付けられ、1人残業をする日々にいい加減嫌気が差してきた。
「よし。」
アキはそう言って立ち上がるとコピー機の3番目のトレイからA4用紙を2枚取り出し太い方の油性ペンで
『本日を持って辞めさせていただきます。』という文字と日付を力強く書いた。『本日』の認識の違いが無いように。
1枚紙が余ったのでクールビズの似顔絵(大きな丸に3本横線を引いただけの絵)を描き、4つに折ることもせずデスクの上にそのまま置いた。
そんな事をしていたら胸がすっきりしてきたので、アキは残業までして仕上げた明日の会議で必要なデータや、デスクトップのアイコンも一つ残らず消して職場を去った。
職場から10駅ほどの所にアキの家はある。
いつもならタクシーに乗って帰る所だが、今日は歩いて帰ろうと決める。
だって明日からこの道を通る事は無いのだから。一歩一歩噛み締めて帰ろう。
普段なら絶対に歩く事は無いけれど、明日は仕事が無いのだから。
仕事に向かう足とは別物かというくらい足が軽い。
街灯はキラキラ輝いていて宝石みたいだ。本当に宝石だったらあのサイズはいくらくらいになるだろうか。1000万はくだらないだろう。
1000万あったら当分働かなくて済むな、なんて浮かれた事を考えていたらあっという間に家の近くまで着いてしまった。
「なんか勿体無いなぁ」
そうだ、明日から仕事が無いと言うのに
このまま家に帰って風呂に入り
歯を磨いて寝るだなんて勿体無い。
明日上司が面食らう所を想像するだけで美味い酒が飲めるに違いが無いのに。
アキはそう思うと自然と来た道を少し戻り、近くのコンビニエンスストアに足を運んでいた。
「ありがとうございました。」
コンビニの店員の声が店外に少し漏れる。
アキはパンパンのビニール袋を片手にご機嫌な様子で、自宅マンションの隣に併設してある公園に一歩足を踏み入れた。
はっと息が止まった。
ベンチの上で
制服を着た女子高校生が体育座りをして携帯をいじっている。制服を見る限りこの辺で有名な進学校の高校生だろう。
足音を立ててしまったのがいけなかったのか、
ベンチに座りチカチカと点滅する街灯の元で照らされている物憂げな表情をした女子高校生と目が合ってしまった。
目が合うと彼女はぱっと目を見開き
「おーい!お姉さーん!」
深夜3時半とは思えないほどの声量でアキを呼んだ。
自宅マンション併設の公園で深夜3時半に、お酒がパンパンに入ったビニール袋を持った女と女子高生が密会をしていたなどとマンションの掲示板に書かれたら家まで失ってしまう。
そう思ったアキはビニール袋を足下に捨てて女子高生の元に駆け寄る。
ベンチに座る少女の前に立ち
「何時だと思ってるの?」
「えへ、ごめんなさい、やっと人が通って嬉しくなって」
「ここで何をしているの?」
「お姉さん今日だけお家に泊めてくれない?」
家出少女ってやつだろう。
いかにもワケアリって感じがする子を警察に連れて行って良い物なのか。
アキはちょっと長い間考えた後に
「お家には泊めません」そう言った。
女子高生はちょっと寂しそうな顔で微笑んだ後何か言おうとしたが
アキが続けて
「お家には泊めませんが私に一晩中付き合ってもらいます!」
そう言うと公園の入り口に投げ捨てたパンパンのレジ袋を取りに行き
少しぬるくなった缶ビールを開けた。
少女は鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしていたが
アキが吹きこぼれたビールを顔面でキャッチすると同時に笑顔になった。
もう着る事の無いスーツの袖で顔を拭い、
ゴクゴクと音を立てて1本の缶ビール(350ml)を完飲するとドカっと少女の横に座る。
ガサゴソとビニール袋から何かを取り出し
「あんたにはこれしかあげない」
とアキはチェイサー用で買った紙パックの緑茶(1L)と夜食用で買った大きなジャンボホットドッグを少女に渡した。
「ありがとうございます」
彼女がそう言うと、チカチカと点滅していた街灯がパッと点灯し、少女の満面の笑みがアキの視界に飛び込んで来た。
さっき缶ビールを一気飲みしたからだろうか。普段よりも鼓動が早い気がする。なんて事を考えながらアキは少女と一晩中様々な話に華を咲かせた。
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