13 / 23
episode2
戦闘訓練
しおりを挟む「それにしても、いきなりティオ先生か…。」
「ティオ先生って?」
俺の一言に、その場にいた全員が驚いた。リアンだけは面白そうに笑っていた。
「ティルディオ・ゲルデール・ファンデ。さっき言ってた、魔王を倒した勇者様だよ。」
リアンによれば、ティオ先生が魔王を倒したのは八年前で、すでにその物語も作られているそうだ。
勇者の物語は、この世界では知らない者は居ないというくらいに有名な話。
「もう、ゼロったら。子供の頃から本が好きじゃなかったからって、勇者様の名前を忘れるなんて。」
ティアの咄嗟の言葉に、俺は笑い返した。
正直面倒臭いけど、もう少しこの世界について学ぶべきだな。
これ以上クラスの連中の反感を買ったら、それこそ面倒だ。
「行こう。ティオ先生は優しいけど、クリフ先生は怒ると罰則が厳しいから。」
リアンは競技場に向かいながら、魔王討伐パーティについて説明してくれた。
八年前に魔王を倒したのは五人のパーティだった。
王族でSクラスの首席、勇者のティルディオ・ゲルデール・ファンデ。
義理堅く忠実な義賊、マークリフ・ツァイト・リーグ。
力自慢の格闘家、レオナルド・ゴース・ファンド。
癒しの聖女、ロゼッタ・アン・フィンネル。
「それから…レベルを持たない異色の存在、ユン・トゥーヴァ・ネクロン。」
「!」
「リアンってば、またそんな嘘教えて…魔王討伐パーティは四人だよ。物語にもそう書いてあるでしょ?」
俺達は実際にその物語を見たわけではないが、この違和感は昨日も何度か感じた。
リアンが嘘を付いているようにも見えないが、周りが一斉にユンの存在を消しているのは、どうも奇妙だ。
それにしても、リアンの話が本当なら何故ユンはいない存在になっているのだろうか。
「っ…痛…。」
「ゼロ?大丈夫?」
「あぁ、平気。」
ズキズキと頭に痛みが走る。真っ黒な霧が頭の中を駆け巡っていた。俺の記憶?いや、俺じゃない、誰かの記憶?
神眼が何かを見せようとしているのかもしれない。
「ゼロ。コレを貸してあげる。」
そう言ってリアンに渡されたのは、リアンが武器として使用しているガンマ。
俺には武器は必要ないが、それをわざわざ貸してくれるって、何か策でもあるのか?
「チャンスは一回。危険だと思った人の足を狙って。」
「足を?」
リアンが何かを言いかけた途端、クロエから静かにするよう怒られてしまった。どうやら競技場に着いたようだ。
行った事はないが、東京ドームを想像させる程の大きさは圧巻だった。
丁度学園が死角になっていて、外からはこの競技場が見えなかったんだな。ここにSクラス全員来たとしても、角さえ埋まらない。
中央では先程の先生と、見るからに王子様的なイケメンがこちらを見ている。
「揃ったな。始めるぞ。」
マークリフ先生が静かに呟いた。次の授業は戦闘訓練。
Sクラス全パーティが八組で、内一組は欠席。計七組がトーナメント形式で対戦するというもの。
それぞれの対戦相手を確認して、準備に取り掛かる。
「ゴッドブレス…パーティ名なんてあったのか…。」
「当たり前じゃん。シロ達はあの有名な英雄様達から、名前を頂いたんだから。」
「本人の前で下手な事出来ないから、邪魔しないでよね。」
相変わらずな二人は、俺達を置いていくように前にどんどん前に進む。
本人って事は、ゴッドブレスと名乗っていたのはロゼ先生達なのか。彼等なら、ユンという人物の事が分かるかもしれない。
[ティルディオ・クォーク・アーチア 27歳
魔人族 Lv.100 エスポワール学園 教官
HP/73444 MP/61174
スキル/瞬間移動、魔力温存、危険察知]
今思い出したけど、英雄のフルネームを言われた時に勇者とロゼ先生だけ違和感を覚えた。
あれは二人が恋人関係である事を隠蔽してたのか。しかも、多分相手はこの勇者。
「ねぇ…なんか、睨まれてる…?」
ティアが怯えたように言う。
入った瞬間から、俺も感じていた視線。中央から感じるので、恐らく睨んでいるのは先生達だろう。
しかも、ただ睨まれている訳ではない。殺気だ。
二人共、何故か俺達に殺気を向けている。
リアンが優しいと言っていたティオ先生の方が、殺気が強い。
なんとなく嫌な予感がする。
俺は、リアンに借りたガンマを取り出しやすい懐にしまった。
「シロ達の番だよ。」
その声にハッと我に返る。
俺達のパーティはCブロックの勝利チームが相手だ。勝利チームのパーティ名はリスキーゲーム。Lv.57のイージス・ド・ファンゲル率いる忍者のような格好をした男四人組。
四対五で一見俺達の方が有利だが、俺達にはそもそも俺とティアは戦力に入れられていないから、実質四対三。そして俺達のパーティにはリアンというトップクラスのメンバーがいる。それを含めても、強さは五分五分と見るべきだろう。
「開始!」
マークリフ先生の掛け声でみんな一斉に俺達に向かって来る。Lv.1のお荷物から片付けてから強敵を倒す根端だろう。
シロナとクロエは先陣を切って向かって行ったが、四人とも姿勢を低くして蛇のような奇妙な動きで突破してしまった。
四人の敵意は俺とティアに向けられているのが分かる。襲われる事の恐怖で、ティアが身を強張らせた。
しかし、俺達の前にはリアンが立ちはだかる。
「さすが忍一族は素早いね。だけど、まだ遅いよ。」
リアンがトゥーブから赤い液体を垂らすと、その液体は俺とティアの足元に魔法陣を描く。
ガンマを俺に貸してくれているので、リアンの武器はトゥーブだけだ。
「四人でかかるぞ!所詮は最強パーティに外された役立たずだ!」
「……」
あからさまな悪態を吐いて、四人はバラけて向かって来る。
早いとどこかから聞こえて来た。俺は神眼のお陰なのか目で追える。
忍って、俺達の知ってるあの忍だろうか。忍者なんてこの世界にも存在するんだな。
このパーティ、個々の実力はそれ程高くはないが、素早さだけはクラスで上位に入るだろう。
しかし、そんな四人の攻撃を綺麗に躱し、リアンは両手に持ったトゥーブの液体を彼らにかけた。
液体が太陽に照らされ煙を出すと、そこから緑色の蔓が生えて来る。蔓は四人捕らえ、動きを封じた。
「く、首がぁあ。」
「落ち着け!この程度なら…」
「くそっ、この蔓に巻き付いて来やがる…。」
「抵抗すると、文字通り自分の首を絞めるよ。」
リアンの声は優しい音だった。俺の予想だと、多分本気を出していない。太陽で急成長した蔓は、彼らが驚いてもがく事さえしなければ、なんとでも対処出来ただろう。そう思える程には、蔓に隙間があったように見えた。
イージスの声は届く事なく、他のメンバーはもがき始める。
「っ…こ、降参だ。」
数秒考えた後、イージスは呆れながらそう言った。リアンがクスッと笑い指を鳴らすと蔓は地面に戻って行く。
マークリフ先生の掛け声と共に、俺達の下にあった魔法陣も消える。
「口程にもないね。」
「まぁ、アタシ達と当たった事が不幸だったのよ。」
何故かシロナとクロエは得意げな顔をしていて、俺達二人は見学しただけで終わってしまった。まぁ、この世界においてのLv.1はなんの戦闘能力も持たない奴なんだろうが。しかし、二人が相手を見下すのはどうも気に食わない。
「ゼロ、堪えて。」
拳を握ると、ティアに止められた。この言葉がなかったら、俺はまた二人に言い返していたかもしれない。こんな所で問題を起こしても、誰も得をしないから。
「はぁ…どうすっかなぁ。」
喉まで出かかった言葉をなんとか呑み込んで、溜息を吐く。正直、シロナとクロエに対して、あまり仲間意識が湧かなかった。寧ろ、あまり好きになれない。
二人が昔苦手だった人達に似ているからかもしれない。リアンには申し訳ないが、明日にでもパーティを脱退する事にしよう。
そんな事を思いながら、俺は次の対戦に備えた。
.
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる