新月神話伝 第三世代

鴉月語り部

文字の大きさ
上 下
5 / 5
過去編 竹取伝

鬼と歪んだ恋のお話

しおりを挟む
【前書き】
執筆日 2018/01/16
シリアス、重め
竹取不比等のお話の続きです。

第二・三世代の黄泉比良坂 不比等目線
葦原での過去話


不死の薬を受け取らなかった帝は不死の山にて秘薬を返却するように命令した。


不比等は不死の薬を持ち帰るために護衛として不死の薬を運ぶ岩笠一行に同行するのであった…


不死の山で不比等は車持皇子に出くわす。
彼もまた、不死の薬を狙っているのであった…


彼と不比等の名をかけて決闘するがあっさりと勝利し、お坊ちゃんでお茶目な貴族様を同じ不比等の名を持つよしみで見逃してやるが…

なんだかんだ食糧やら旅費やら密かに援助してくれた皇子様に感謝しつつも色々おしゃべりに付き合わされたなあって…まあその話はまた。


不死の山の山頂で不比等はかぐやの父である月の神と対面した。

すると月の神は驚いたように不比等の顔を睨み(実は目が悪いだけ)、狂ったように笑い始めた。


「お前は葦原に捨てたレイキョウの子、つまり私の子である



レイキョウの産んだ子は双生児だった、だから忌み子であるお前を捨てに行かせた…

レイキョウはお前のせいで死んだ、だから忌むべき子」


「お前とかぐやは結ばれない、何故なら双子の兄妹だから

永遠に結ばれることは無い」



動揺した少年は衝動的に実父を黄泉の黒刀で刺し殺してしまった。



途方に暮れや少年は実父の髪飾り・羽衣・不死の秘薬・火鼠の皮衣・黄泉の黒刀を奪い竹取の家へと持ち帰った。



世話になった翁と媼には不死になって幸せになってほしかったけど、病に伏せた二人はそれを拒んだ。

「それはお前が飲みなさい、あの子を追いかけたいんだろう?

会って仲直りして来なさい。

昔は出来ただろう?」

それが媼と、翁の遺言だった。

正式に竹取の家の子になった不比等は夫妻の死後、高取山で何日もぼーっと月を眺めた。

幼馴染だったヤトも皇族の邸に忍び込んで打ち殺された。

そして少年は決意し、一筋の涙を流して不死の秘薬を二人分服用した。

強くなれるように
俺は人を捨てよう
あいつに会えるように
迎えに行けるぐらい強くなれるように

秘薬を飲むと黒白がかった髪は紫月の色に染まり、鬼の角が生え死者の声が四六時中聞こえるようになった

暫く少年は吐き気を催した

気持ちが悪い…これが代償

強さと寿命を手に入れた彼は強くなる為に、月の國へ渡る為に300年葦原を放浪した
出雲のイフヤサカにて黄泉への入り口を見つけ、死者から教わった呪文を唱えた



「カエヌニ、カエヌニ…クウヤチス、クウヤチス」


黄泉の門は開き黄泉比良坂へと青年は降りていく
これが死の世界

あまり変わらないが暗く陰鬱とした雰囲気
正直心が踊った

居心地が良い…やはり俺は人ならざる者だったのか

どうやら黄泉は俺を歓迎しているようだ
死者たちが黄泉の黒刀を見て俺を当主だと崇める
気分は悪いもんじゃねぇな…



一人のチンピラが

「よう新入り…随分調子付いてるけど黄泉の掟を教えてやるよ」

と掛かってきた
姿は随分変わっていたが、見覚えがある容姿と声に懐かしさを感じた

「おっ…お前ヤトか?
久しぶりだな俺だよ俺」


「はあ?悪いが男の面は覚える気が無くてね…どうせ昔強盗に入ったとかそんな因縁だろ

来な、俺に勝つなんざ100年早…」

容姿や声が変わった俺が分かるはずも無く、仕方なく攻撃してきたヤトを軽く叩き切ると

ようやく気付いたようで、嘘のように歓迎してきた。

一通り黄泉が見て見たくて、下に下に降りていくと第五層の人間道で一人の幽霊が涙を流して抱き着いてきた

咄嗟に軽く突き飛ばしたが
女は自分こそが実母だという

「今更母親面すんなよ、捨てた癖に」

と吐き捨てると女はわんわん泣き出し付いて来る

毎日差し入れを持って来たりなんとか世話を焼こうと様子を窺っているようだが、弱い者に興味は無い

黄泉での暮らしが長いヤトに話を聞くと

「お前さ、かぐやのこと好きなの?」
「…さあ」

「不死になってまで会いたいってのは好きってことだろ
あーでも、双子の兄妹だったって?

そんなの気にする事ねえよ…どうせ黄泉に堕ちたら現世の掟なんかに縛られる必要無ぇしよ

好きなら攫ってでも嫁にして来いよ」

「…あいつへの気持ちは自分でもわからねぇけど、ただ会いたい
会って仲直りしてこいって、じいさん達の遺言になっちまったしよ」

今更何を言おうか

会って何と声を掛ければいいのか?
そうだ、また昔のように…幼馴染として共に生きよう

黄泉から月の國へ渡ると、どこか神聖な空気が体に沁みる
月の社をくぐると会いたかった女はいた

間違いなくあの大きな瞳は焦がれ続けた少女、今は成長して冷たい雰囲気の女になっちまったようだが


女から返ってきたのは冷たい返事だった





「…誰?」




その一言だけで、認めたくなかった疑心が真実に変わった

やはり俺を捨てたのだと
こいつの心に俺はいないのだと

「妾を誰と心得るか、気安く近寄らないで」


青年は衝動的に鋭い一撃で彼女を斬り殺した
しかし不死の身である彼女は死にはしないだろう

血で染まった神久夜が言い放ったのははっきりとした拒絶
「二度と私に触れないで、お前なんて大嫌い」

ここから全てが変わった
全てが終わった

愛しさは簡単に憎しみに変わり、未来永劫あの女を許しはしないだろう
自分が味わった300年の孤独を

暫くはあの冷血な女への怨みを抱えて生きよう

俺は元々なんであいつに会いたかったのか、次第に忘れてしまった。

黄泉で暮らし、死者達を葬ってやる
ただそれだけの暮らし

退屈しのぎに時折現世に向かっては神久夜に喧嘩吹っ掛けて戦いに行く
月が出ている時だけ
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。


処理中です...