言祝ぎの巫

東雲 靑

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◆ 密談 ◆

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 省内の広い会議室の隅で二人の男が頭を寄せ合っている。窓がないこの部屋は、それだけで陰気な雰囲気だ。好んで使用する人は多くないが、内緒話にはうってつけの場所でもある。
「それで?」
「言祝ぎと失踪者の件がだいぶ話題になってますね。失踪者が突如街中に現れるためどうにも調整しきれません。紋についても拡がるのは時間の問題かと……」
「場を張るのは流石に無理だな……」
「ルリが十人くらいいたら、首府内はなんとかなるかもしれません」
 乾いた笑いが響いた。たしかにルリが十人もいれば、首府を覆い尽くす場を設置できるだろう。だが、一時的なものでしかない。失踪者が現れる日時が特定できないし、ルリと同レベルの場を張れる者がそもそもいない。
「ライは?」
「昨夜会いました。彼女は……」
 言い淀んだ男の顔に浮かんでいたのは困惑だった。
「なんだ、言え」
「彼女……『端境』ではないのですが、場を張れるかもしれません」
「なんだと!?」
 思わず大きな声になり、二人しかいないと分かっていても辺りを見回した。
「私がた限り伎倆ではないですね……昨夜、我々はTに居まして。少し離れたところから様子を窺っていたのですが……途中ルリが場を広げたんですよ。その時ライが反応したように見えました」
「どういうことだ……?」
 その時の詳細がまだルリから報告されていないため、昨夜の状況がわからない以上、ここで問答しても無駄なのはわかりきっていたが聞かずにいられなかった。
「室長……伎倆以外で場を設置することってできるのでしょうか」
「知らん……聞いたことないな」
 二人の沈黙を破るようにドアがノックされた。
「失礼します」
 長身の、やたらと美しい顔をした男が入室した。
「ああ、呼び立ててすまんね。ところで、最近ライと会ってないか?」
「いえ、前回会ったのは……年明けに挨拶に来てくれた時なのでもう半年経ちますね」
 男たちに束の間の沈黙が降りた。
「カル、ライと会う算段をつけてくれ。場所は任せる。ルリも一緒にだ。できたら君もと言いたいが、あまり接点を知られないほうがまだいいだろう。」
「はい……室長、ライにはやっぱりこのまま隠していくのですか?」
「わからん。決めかねてる。今夜にでもルリとも話してみる。今はまだ隠す方向で……」
 三人の顔は苦渋に満ちていた。
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