【R18】私の担当は、永遠にリア恋です!

はこスミレ

文字の大きさ
9 / 193
本編

5・PEACH!




「じゃ、今度これ着て!」
「は、はひっ!」
既に3着目である。
ばんばんに、着せ替え人形にされている。
何が楽しいのか、ばんばんはずっと笑っていて、私が試着している間に次の服を持ってくるのだ。
頭がぐるんぐるんしている。
お客さんがいないからいいけど、ユキさんが全然戻って来ない。
お手洗いの時は看板を立てておくことが多く、信頼できる常連さんがいる時は店番を頼むことがある。私も頼まれたことがあるし、きっとばんばんも頼まれるんだろう。慣れている感じがした。
試着室から出て、ばんばんの前に立つ。
大好きで大好きで、ずっと応援していた憧れの人が、私と話して笑ってくれている。
こんなに、幸せなことはない。
「うん、なかちゃんは何でも似合うね。着せ甲斐がある。」
慣れて来たのか、ばんばんがタメ口だ。嬉しい。
「ありがとうございます…!」
我慢してるけど、どうしても口が緩んでしまう。
きっと、ばんばんは人間が好きだから、こんな一般人の私とでも壁を作らず話してくれるんだ。だから、調子に乗ってはいけない。
昨日と今日は、たまたま偶然、世界線が交わっただけ。
きっともう会うことはない。
そうやって戒めないと、愛が溢れでてしまう。
好きで好きで、こんなに好きで、ずっとずっと応援していたい。気持ちを伝えたい。
落ち着け、落ち着け。
それを言ったら、昨日のシーンを見ている私は、ばんばんの枷にしかならない。絶対にダメ。
今、ばんばんが話しかけてくれてるのは、私がファンじゃないって思ってるからだ。
安心して帰ってもらわなくては。
「ごめーん!お待たせ!店番してくれてありがとう。」
ユキさんがいいタイミングで帰って来てくれて、ホッとした。
「おかえりなさい。」
「なかちゃーん!いつもと違うジャンルの服着てるのね!似合ってる!」
試着中の私を見て、うんうんと頷いている。
「でしょ?俺が選んだんです。結構何でも似合うから楽しくなっちゃって。」
ばんばんのキラキラスマイルが眩しい。選んでくれた服、カード二回払いで全部買おう。他の人が買うなんて無理。
これくらいは、してもいいよね。お店の利益になるし!
「さすが喜一くん!オシャレさんだなー!」
「いやいや、へへへ!」
この空間にいられるだけで、幸せだ。ばんばんの吐いた二酸化炭素美味しい。おっと、変態的思考やめなきゃ。
「き、き喜一さん…あの、ありがとうございました。着たことない服着られて楽しかったです。せっかくだから、これ、あのユキさん、買います。」
着替えた3着と赤いワンピースをユキさんに渡す。
「えっ?!全部買うの?!」
「いや、なかちゃん、俺が着て欲しかっただけで、買って欲しいって思ってないよ!」
「いえ、全部可愛くて、欲しくなってしまったので。ユキさん、コレ。」
スッとカードを渡し、ばんばんに見えない位置で指を二本立てる。
ユキさんは気づいてくれて、コクリと頷いた。
出てきたレシートにサインをして渡す。
「ごめん、そんなつもりじゃなくて、俺。」
申し訳なさそうに言うばんばんに、そうじゃないと伝えたかった。
だから、ファンとしてではなく、昨日今日の感謝の気持ちと喜びなら、言ってもいいよね。
「いえ、昨日は危ないところを助けていただき、今日は私にとって新ジャンルの服を選んでくださって、オシャレでかっこよくて、人として尊敬出来る素敵な方と出会えて、とても嬉しかったんです。だから、これは、その思い出として欲しいんです。」
「……そんな風に思ってもらえるなんて…俺も、嬉しいよ。ありがとう、なかちゃん。」
いつもと違う顔。アイドルとしてじゃなくて、私という人間と会話したことで引き出された表情。
少しはにかんで、でも嬉しそうに笑う、ばんばん。
嬉しくて、涙ぐんでしまいそうだ。
はい、抑えて!耐えて!泣いたらダメ!泣くなら家に帰ってから!
「はい、なかちゃん。カード返すね、そしてこっちが服!」
渡された紙袋は、いつもの倍の大きさで、結構重量があった。そりゃね、ワンピースが3着くらいあるからね。
「ありがとうございます、大切に着ます。」
「いつもお買い上げありがとう!」
「こちらこそ、いつも素敵な服を仕入れてくださってありがとうございます。」
「仕入れてんの、社長だけどねっ!」
大きな袋と仕事用のバッグを持って、ユキさんとばんばんに挨拶をする。
「ありがとうございました。では、私は帰ります。」
「またねー!」
ユキさんがレジから手を振っている。ばんばんは、なぜか眉根を寄せていた。
どうしたんだろう。
きっともう、会うことはないだろうから、笑顔のばんばんが見たかったな。すっごくすっごく名残惜しいけど、私は帰る…!
本当にどうもありがとうございました!今度、ステージで会えるのを楽しみにしてます!なので、早くコンサートか舞台やってください!
ペコっと会釈をして店を出たら、後ろから腕を掴まれた。
「ひょわっ!」
ふわっといい匂いがした。なんか、分かんないけど、すごくいい匂い。シャボンの香りかな…?
「なかちゃん、また会える?」
幻聴かな?
聞き間違いかもしれない、と思って聞き返してみる。
「えっと?え?」
「俺…来週これくらいにまた来るから、来てくれないかな?」
ちょっと言ってる意味が分かりません。
唖然としていれば、眉尻を下げて小首を傾げて来る。
「ダメ?」
口もへの字に曲がっていて、昨日のライブ会場の去り際を思い出した。
「わ、分かりました!来ます!来ますので!」
やめてー!その可愛い顔でおねだりされたら、全て聞いてしまう!あとそのお顔の生写真を売ってください!お願いします!
「ありがとう、待ってるから。」
言葉も出ずコクコクと頷けば、やっと解放してもらえた。
掴まれた腕が熱くて仕方ない。腕だけじゃない、顔も体も全部熱い。高熱出して死にそう!
「また、来週!」
キラキラスマイル二割り増しって感じで見送られ、私は家路に着いた。

「みねねーーー!!!死ぬー!!もう無理ー!!!」
玄関を開けた瞬間に叫んだ。
「何?どしたんお姉ちゃん!?」
慌てて駆けて来る妹は、世界で一番可愛い。まじ可愛い。
「ば、ばんばんがーばんばんがーあー!」
我慢してた分の涙が、ドバドバと滝のように溢れ出す。
「何があったん?!お姉ちゃん!とりあえず、荷物置こう。」
びーびー泣きながら、荷物を置いてテーブルを挟んで座った。
実音々から渡されたお茶を飲み、水分を補給する。
「ばんばんがやばいー、うえーん。」
泣きながらつっかえつっかえ、でも詳細に事実を伝えることに成功した。実音々の顔が百面相している。
「つまり、ばんばんと服屋さんで会って、服を選んでもらって買って、来週も会いたいから服屋に来いって言われたってことね。」
「う、うん、そう…」
ティッシュで鼻をかんでいたら、両肩を掴まれた。
「お姉ちゃん、これは、運命だわ!ばんばんにめっちゃ気に入られたな!やったじゃん!」
「いや、ないない。」
「そうでしょ!だって服屋さんと提携して服買わせたらお金もらうみたいな仕事してないでしょ。」
なんだその仕事。
「絶対してない。」
「じゃあ、お姉ちゃん大勝利じゃん。やばいな、ばんばんと繋がり持ったな!」
「持ってないってば、たまたま会っただけだし。」
「いや、2日連続とか運命でしょ。昨日の男と別れる日も近いな。そしてお姉ちゃんがばんばんと付き合って、いずれ私はばんばんの義妹に…!」
大きな夢を見る子だなあ、私の妹はすごい。
でも…
「それは、ないわ。付き合いたいって言ってるけど、実際に付き合いたいとかじゃないもん。」
「いいじゃん、妄想はタダだよ!」
「ばんばんはゲイだよ。」
そう言えば、ぐっと言葉を詰まらせる。
「それを言われるとねえ…」
「ばんばんのプライベートの邪魔をしたくない…ファンってバレたら大変だし。」
「スキャンダルネタを握ってるもんね。」
こくりと頷く。
「でも、ばんばんはスキャンダルシーン見られたって知らないし、大丈夫じゃないん?」
「そうかもだけどさ。」
チッチッと言って指を振る。
「お姉ちゃん、考えたって仕方ないんだから、来週楽しみにしてなよ!舞台じゃないのに、ばんばんに会えるんだよ?しかもタダ!すごいよ?」
「…確かに。」
「考えたって無駄無駄!お姉ちゃんはエスパーじゃないんだから、ばんばんの気持ちなんて分かんないでしょ!選んでもらった服着て、オシャレして会いに行ったら、お姉ちゃんのこと可愛いって思ってもらえるかもよ!」
「…死ぬ。そんなの死んじゃう。」
「分かる、でも生きて!」
「生きる!」
実音々と話すと元気が出てくる。私の妹はすごい。
「そうだよ、悩んだって仕方ない。だってお姉ちゃんは、ばんばんが大好きなんでしょ?」
「うん、破茶滅茶に好き。お金払いたい。」
「それでいいじゃん!あ、本人に直接お金渡せるじゃん。良かったね。」
「やったー!渡す!いくら包もうかな!」
「ポチ袋可愛いやつあるよ!」
「見せてー!」
変なテンションで、妹の部屋までポチ袋を見に行った。


感想 29

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった

くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。 血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。 夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。 「……涼介くん」 薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。 逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。 夜、来て。 その一言が——涼介の、全部を壊した。 甘くて、苦しくて、止まれない。 これは、ある夏の、秘密の話。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

**俺、東大院生の実験対象にされてた。**同居している美人家庭教師のやばい秘密

まさき
恋愛
 俺は今、東大院生の実験対象になっている。  ある雨の夜、アパートの前にずぶ濡れの美女が立っていた。  「家庭教師です。住まわせてください」  突然すぎる申し出に困惑しながらも、なぜか断れなかった。  桐島咲楽、東大大学院生。成績は天才、料理は壊滅的、距離感はおかしい。毎日転ぶ、焦がす、なぜか距離が近い。そのくせ授業は鬼のように丁寧で、俺のことを誰よりもよく見ていた。  偏差値42だった俺の成績は、気づけば上がっていた。でも、それより気になることがある。  咲楽さんが、研究ノートに何かを書いている。「被験者」という文字が、見えた気がした。  距離が近いのは、データのためか。褒めてくれるのは、実験のためか。でも、あの顔は。あの声は。  「データじゃなくて、私がそう思っています」  嘘をついているような顔じゃなかった。  偏差値42の俺に、東大院生の美女が押しかけてきた。ドタバタな毎日の中で、俺の心臓が休まる暇がない。これはドキドキなのか、心配なのか。それとも、もう恋なのか。  不器用な天才と、鈍感な高校生の、やばい同居生活。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

体育館倉庫での秘密の恋

狭山雪菜
恋愛
真城香苗は、23歳の新入の国語教諭。 赴任した高校で、生活指導もやっている体育教師の坂下夏樹先生と、恋仲になって… こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載されてます。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

マカロニ
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!