【R18】私の担当は、永遠にリア恋です!

はこスミレ

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本編

5・PEACH!

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「じゃ、今度これ着て!」
「は、はひっ!」
既に3着目である。
ばんばんに、着せ替え人形にされている。
何が楽しいのか、ばんばんはずっと笑っていて、私が試着している間に次の服を持ってくるのだ。
頭がぐるんぐるんしている。
お客さんがいないからいいけど、ユキさんが全然戻って来ない。
お手洗いの時は看板を立てておくことが多く、信頼できる常連さんがいる時は店番を頼むことがある。私も頼まれたことがあるし、きっとばんばんも頼まれるんだろう。慣れている感じがした。
試着室から出て、ばんばんの前に立つ。
大好きで大好きで、ずっと応援していた憧れの人が、私と話して笑ってくれている。
こんなに、幸せなことはない。
「うん、なかちゃんは何でも似合うね。着せ甲斐がある。」
慣れて来たのか、ばんばんがタメ口だ。嬉しい。
「ありがとうございます…!」
我慢してるけど、どうしても口が緩んでしまう。
きっと、ばんばんは人間が好きだから、こんな一般人の私とでも壁を作らず話してくれるんだ。だから、調子に乗ってはいけない。
昨日と今日は、たまたま偶然、世界線が交わっただけ。
きっともう会うことはない。
そうやって戒めないと、愛が溢れでてしまう。
好きで好きで、こんなに好きで、ずっとずっと応援していたい。気持ちを伝えたい。
落ち着け、落ち着け。
それを言ったら、昨日のシーンを見ている私は、ばんばんの枷にしかならない。絶対にダメ。
今、ばんばんが話しかけてくれてるのは、私がファンじゃないって思ってるからだ。
安心して帰ってもらわなくては。
「ごめーん!お待たせ!店番してくれてありがとう。」
ユキさんがいいタイミングで帰って来てくれて、ホッとした。
「おかえりなさい。」
「なかちゃーん!いつもと違うジャンルの服着てるのね!似合ってる!」
試着中の私を見て、うんうんと頷いている。
「でしょ?俺が選んだんです。結構何でも似合うから楽しくなっちゃって。」
ばんばんのキラキラスマイルが眩しい。選んでくれた服、カード二回払いで全部買おう。他の人が買うなんて無理。
これくらいは、してもいいよね。お店の利益になるし!
「さすが喜一くん!オシャレさんだなー!」
「いやいや、へへへ!」
この空間にいられるだけで、幸せだ。ばんばんの吐いた二酸化炭素美味しい。おっと、変態的思考やめなきゃ。
「き、き喜一さん…あの、ありがとうございました。着たことない服着られて楽しかったです。せっかくだから、これ、あのユキさん、買います。」
着替えた3着と赤いワンピースをユキさんに渡す。
「えっ?!全部買うの?!」
「いや、なかちゃん、俺が着て欲しかっただけで、買って欲しいって思ってないよ!」
「いえ、全部可愛くて、欲しくなってしまったので。ユキさん、コレ。」
スッとカードを渡し、ばんばんに見えない位置で指を二本立てる。
ユキさんは気づいてくれて、コクリと頷いた。
出てきたレシートにサインをして渡す。
「ごめん、そんなつもりじゃなくて、俺。」
申し訳なさそうに言うばんばんに、そうじゃないと伝えたかった。
だから、ファンとしてではなく、昨日今日の感謝の気持ちと喜びなら、言ってもいいよね。
「いえ、昨日は危ないところを助けていただき、今日は私にとって新ジャンルの服を選んでくださって、オシャレでかっこよくて、人として尊敬出来る素敵な方と出会えて、とても嬉しかったんです。だから、これは、その思い出として欲しいんです。」
「……そんな風に思ってもらえるなんて…俺も、嬉しいよ。ありがとう、なかちゃん。」
いつもと違う顔。アイドルとしてじゃなくて、私という人間と会話したことで引き出された表情。
少しはにかんで、でも嬉しそうに笑う、ばんばん。
嬉しくて、涙ぐんでしまいそうだ。
はい、抑えて!耐えて!泣いたらダメ!泣くなら家に帰ってから!
「はい、なかちゃん。カード返すね、そしてこっちが服!」
渡された紙袋は、いつもの倍の大きさで、結構重量があった。そりゃね、ワンピースが3着くらいあるからね。
「ありがとうございます、大切に着ます。」
「いつもお買い上げありがとう!」
「こちらこそ、いつも素敵な服を仕入れてくださってありがとうございます。」
「仕入れてんの、社長だけどねっ!」
大きな袋と仕事用のバッグを持って、ユキさんとばんばんに挨拶をする。
「ありがとうございました。では、私は帰ります。」
「またねー!」
ユキさんがレジから手を振っている。ばんばんは、なぜか眉根を寄せていた。
どうしたんだろう。
きっともう、会うことはないだろうから、笑顔のばんばんが見たかったな。すっごくすっごく名残惜しいけど、私は帰る…!
本当にどうもありがとうございました!今度、ステージで会えるのを楽しみにしてます!なので、早くコンサートか舞台やってください!
ペコっと会釈をして店を出たら、後ろから腕を掴まれた。
「ひょわっ!」
ふわっといい匂いがした。なんか、分かんないけど、すごくいい匂い。シャボンの香りかな…?
「なかちゃん、また会える?」
幻聴かな?
聞き間違いかもしれない、と思って聞き返してみる。
「えっと?え?」
「俺…来週これくらいにまた来るから、来てくれないかな?」
ちょっと言ってる意味が分かりません。
唖然としていれば、眉尻を下げて小首を傾げて来る。
「ダメ?」
口もへの字に曲がっていて、昨日のライブ会場の去り際を思い出した。
「わ、分かりました!来ます!来ますので!」
やめてー!その可愛い顔でおねだりされたら、全て聞いてしまう!あとそのお顔の生写真を売ってください!お願いします!
「ありがとう、待ってるから。」
言葉も出ずコクコクと頷けば、やっと解放してもらえた。
掴まれた腕が熱くて仕方ない。腕だけじゃない、顔も体も全部熱い。高熱出して死にそう!
「また、来週!」
キラキラスマイル二割り増しって感じで見送られ、私は家路に着いた。

「みねねーーー!!!死ぬー!!もう無理ー!!!」
玄関を開けた瞬間に叫んだ。
「何?どしたんお姉ちゃん!?」
慌てて駆けて来る妹は、世界で一番可愛い。まじ可愛い。
「ば、ばんばんがーばんばんがーあー!」
我慢してた分の涙が、ドバドバと滝のように溢れ出す。
「何があったん?!お姉ちゃん!とりあえず、荷物置こう。」
びーびー泣きながら、荷物を置いてテーブルを挟んで座った。
実音々から渡されたお茶を飲み、水分を補給する。
「ばんばんがやばいー、うえーん。」
泣きながらつっかえつっかえ、でも詳細に事実を伝えることに成功した。実音々の顔が百面相している。
「つまり、ばんばんと服屋さんで会って、服を選んでもらって買って、来週も会いたいから服屋に来いって言われたってことね。」
「う、うん、そう…」
ティッシュで鼻をかんでいたら、両肩を掴まれた。
「お姉ちゃん、これは、運命だわ!ばんばんにめっちゃ気に入られたな!やったじゃん!」
「いや、ないない。」
「そうでしょ!だって服屋さんと提携して服買わせたらお金もらうみたいな仕事してないでしょ。」
なんだその仕事。
「絶対してない。」
「じゃあ、お姉ちゃん大勝利じゃん。やばいな、ばんばんと繋がり持ったな!」
「持ってないってば、たまたま会っただけだし。」
「いや、2日連続とか運命でしょ。昨日の男と別れる日も近いな。そしてお姉ちゃんがばんばんと付き合って、いずれ私はばんばんの義妹に…!」
大きな夢を見る子だなあ、私の妹はすごい。
でも…
「それは、ないわ。付き合いたいって言ってるけど、実際に付き合いたいとかじゃないもん。」
「いいじゃん、妄想はタダだよ!」
「ばんばんはゲイだよ。」
そう言えば、ぐっと言葉を詰まらせる。
「それを言われるとねえ…」
「ばんばんのプライベートの邪魔をしたくない…ファンってバレたら大変だし。」
「スキャンダルネタを握ってるもんね。」
こくりと頷く。
「でも、ばんばんはスキャンダルシーン見られたって知らないし、大丈夫じゃないん?」
「そうかもだけどさ。」
チッチッと言って指を振る。
「お姉ちゃん、考えたって仕方ないんだから、来週楽しみにしてなよ!舞台じゃないのに、ばんばんに会えるんだよ?しかもタダ!すごいよ?」
「…確かに。」
「考えたって無駄無駄!お姉ちゃんはエスパーじゃないんだから、ばんばんの気持ちなんて分かんないでしょ!選んでもらった服着て、オシャレして会いに行ったら、お姉ちゃんのこと可愛いって思ってもらえるかもよ!」
「…死ぬ。そんなの死んじゃう。」
「分かる、でも生きて!」
「生きる!」
実音々と話すと元気が出てくる。私の妹はすごい。
「そうだよ、悩んだって仕方ない。だってお姉ちゃんは、ばんばんが大好きなんでしょ?」
「うん、破茶滅茶に好き。お金払いたい。」
「それでいいじゃん!あ、本人に直接お金渡せるじゃん。良かったね。」
「やったー!渡す!いくら包もうかな!」
「ポチ袋可愛いやつあるよ!」
「見せてー!」
変なテンションで、妹の部屋までポチ袋を見に行った。


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