【R18】私の担当は、永遠にリア恋です!

はこスミレ

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第二部

上弦の月・9

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どんよりとした週末が終わり、また平日がやってきた。
普段は仕事なんて行きたくなくて、サンキュウ!の為に働いているだけだったけれど、今は集中出来ることがあって助かっている。
ちなみに、スマホの電源は切ったまま二日経過した。
今、SNSを見たり、ばんばんの声を聞いてしまったら、自分から別れを告げてしまいそうで、怖いのだ。
別れたくなんかないよ…大好きだもん。
でも、現実逃避をしがちな自分の性格はよく分かってる。こうなった時は、必ず最悪の選択肢を選んでしまうんだって。
何故なら、最悪より下はないから。
だから私は、わざと最悪を選ぶ。
「菜果音ちゃん、顔色悪いけど、大丈夫?」
「さきさき、心配してくれてありがとう。ちょっと眠りが浅くて。」
「寝不足は辛いねえ…あっ!そういえば、金曜日見たよ!ばんばんのドラマ!面白かったし、カッコよかったよ。あの、助手さんに言い寄られて喋っちゃうところが、コミカルで。」
励まそうとしてくれる、咲ちゃんの優しさよ…
私の胸は張り裂けそうだけれど、気持ちは嬉しいです。
「うん、ありがとう。可愛かったよね。」
それしか言えなくて、急に泣きそうになってしまって、一言断ってお手洗いに駆け込んだ。
はあ…無理だ…
こんなこと、誰にも言えない。だから、何を言われても平然と返さなきゃいけないのに。
どうしよう、どうしようもできない。
それでも涙は溢れてくる。
苦しい、吐きそう。
やっぱり、連絡を取ろう。
うっかり、別れてくださいって、口から出そうになってしまうかもしれないけど。
そうなったら、そうなっただよね。
ああ、だけどやっぱり辛いんだ。
嫌われたくない、だって大好きだから。
湯畑さんと一緒にいたとしても、私とはスマホだけのつながりだとしても、嫌いになんてなれない。
好きすぎて頭がおかしいんだね。
トイレの個室の中、ドアを見つめながら、涙が止まるまでしばらくそのままでいた。

定時で退社して、家路に着く。
勇気を出してスマホの電源を入れれば、メッセージが20件、着信が6件入っていた。
全部、きいくんから。

【おはよう、昨日はおかげでよく眠れました。なかちゃんは、起きられたかな?】
【やっとお昼休憩だよー!今、8話の撮影が終わって、これから最終話のロケに入るよ。】
【なかちゃん!もしかして、まだ寝てる?】
【なかちゃん、忙しい?】
【なかちゃん?もしかしてまた具合悪い?】
【なかちゃーん、生きてるー?】
【着信】
【充電のし忘れ?なかちゃんならありそうw】
【お仕事終わりました。まだ忘れてるのかな?ちょっと寂しいです。】
【着信】
【なかちゃんおはよう!今日はサンキュウ!のロケで海外に一泊二日してきます。なかちゃんの声が聞けなくて寂しいよ。】
【まだ既読付かないから、とても心配です。なかちゃんに何もないといいんだけど…】
【ホテルに着いたよ!Wi-Fi通ってるから、スマホ使える!でも既読付いてないから、めっちゃ心配!これ見たらすぐメッセージか電話ください!】
【着信】
【なかちゃん、生きてる?事故とかに合ってないよね?】
【みねねちゃんと連絡先、交換しておけば良かった…】
【スマホ無くしたとかだったら、いいのに。】
【今日の仕事終わり!おやすみなさい。】
【着信】
【まだ既読がつかないので心配です。なかちゃん、どうしちゃったの?】
【着信】
【今日帰ったら、声だけでいいから、聞きたいよ。】
【仕事が終わったので、これから帰国します。着くのは夜になるから、会えないかもだけど…】
【着信】
【なかちゃん、これを見たら連絡ください。】
【お願い。】

帰宅中なのに、また泣いてしまった。どうしようもできなくて、マスクで顔を隠していた。
私は、大好きな人をこんなにも心配させてしまった。実音々の言う通り、早めに言えば良かったんだよね。
きっと今、飛行機に乗っているはずだから、スマホは見ていないと思う。

だから、私は、メッセージを送る。
ずるい奴だって、罵ってくれていい。

なか【きいくん、心配かけてごめんなさい。ちょっと色々あって、スマホの電源を落としていました。
ご存知の通り、私はきいくんが大好きです。一生、応援し続けるし、一生、大好きです。これは絶対に揺るぎません。
だけど、もしきいくんが私のことを好きじゃなくなった日が来て、私とさよならをしなきゃいけなくなったら、ちゃんと諦めてファンに戻るので、安心してください。
土日に会いに行くので、それまで、少しだけ、そっとしておいて欲しいです。ワガママを言って、ごめんなさい。】

送信して、メッセージアプリの通知を切った。
実音々から電話が来る時は、番号の着信で来るし、もう間違えて取ったりもしない。
だから、大丈夫。
なんて、ずるい奴なんだ、私は。実音々が褒めてくれるような、いい女なんかじゃない。惨めで恥ずかしくて不甲斐ない彼女だ。
世界でたった一人の人を、幸せにすることもできない。
これじゃあ、許せなかったあの人と同じだ。
なんて、恥ずかしいんだろう。
申し訳ない、シャボン玉みたいに破裂して消えてしまいたい。


私のメッセージには、既読がついていた。
それに、たくさんの着信と、たくさんのメッセージが届いていたけれど、画面を開くことができなかった。
きっともう、嫌われてしまう。
週末、会いに行ったらどうなってしまうかな。
怖いな。
嫌われたくないのに、嫌われるようなことを、最悪の選択をしてしまう自分に嫌気がさしている。
ほら、こんな私のこと、きいくんが好きになる訳がない。
だって、私が自分のことを好きになれないんだから。
独りよがりで、最低。

そうやって、自分の世界に浸っていたせいで、私はもっと深い、果てのない…地獄に落ちたのだ。


木曜日の昼休憩。
一人でいたくて、お弁当を持って公園にいた。
少しずつ気持ちが回復してきて、土日はきちんときいくんに話を聞いてみよう、と上昇し始めたところに、実音々から着信があった。
「お姉ちゃん、見た?」
「…何を?」
「そっか、まだ見てないね。オーケー、今からURL送るから見て。でも、これが真実だって受け止めちゃダメだからね!ちゃんと、本人に確認するんだよ!」
「えっ…なに…怖い。」
「私はお姉ちゃんが幸せになるなら、何でも良いけど、お姉ちゃんはばんばんと幸せになりたいんでしょ?だから、ばんばんと話すんだよ!絶対だよ!約束だからね!破ったら1週間口聞いてあげない!」
必死な実音々の声に、思わず頷いた。
「えっ、やだ無視されるの無理!分かった、話す。」
そして、実音々から送られて来たのは、スキャンダラスなネットニュースだった。

【美人女優の湯畑りり、人気急上昇男性アイドルと熱愛焼肉デート!】今話題のドラマで共演中の二人が、火曜日深夜、有名焼肉店から連れ添って出て来た。美人女優でバラエティにも引っ張り凧の湯畑りりと、最近人気急上昇中のアイドル、サンキュウ!のセンター、伴喜一だ。酔ってふらつく湯畑をエスコートするように支える伴は、まるで王子のようで………

ダメ、全文読めない。
火曜日深夜って、一昨日っていうかもしかしたら日付的に昨日とかでしょ…
ネットニュースに載っている写真は、白黒だけれど完全に二人だと分かるほどクッキリと写っていて、きいくんが湯畑さんを支えている写真と、そのまま歩き出す写真の二枚だった。

無理…
自担のスキャンダル…無理…
死にそう…っていうか、死にたい…
もう、無理…何もかも無理…
絶望って、こういうことを言うんだね。
ファンとしても、彼女としても、瀕死。
苦しい…無理…帰りたい…
もうやだ…
あんなに会いたかったのに、今はもう会いたくない…
全部、全部、私が悪いんだ。
ちゃんと話していたら、塞ぎ込んだりしなければ…
ううん、もっと早い段階かもしれない。
もっとプロ彼女の意識が高かったら、ちゃんとやれていたら、もっときいくんに好きになってもらえていたら、何か違ってたかもしれない。
そうやって、たらればを繰り返して、気づけば昼休みは終わっていた。

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