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第三部
Sky's The Limit・16-2
しおりを挟む未だかつて、ここまで焦燥感に駆られたことがあっただろうか。
トイレの一番奥の個室、蓋をしたままの便座の上に腰を下ろし、震える指先でロックを外してメールをもう一度確認する。
「やだやだ、やめてよ。そんなわけない」
自分から出るのは、今にも消えそうな掠れた声だ。
覚えてしまっているファンクラブ番号とパスワードを入力するけれど、震えているから間違えてエラーが出てしまう。
「落ち着け、落ち着け自分」
そんなわけない、落ち着け。
もしかしたら、誰かの結婚発表かもしれないし……いや、誰のよ…え、まさか……ばんばん?私以外の人と……?ないないない。
やっとログインができた頃には、全身が震えていた。
イヤホンをつけて、ファンの皆さまへ大切なお知らせのリンクを押す。
現れたのは、動画の再生画面。
自然と浅くなる呼吸を止め、再生ボタンを押した。
『どうも、サンキュウ!です』
『サンキュウ!でーす』
『サンキュウ!です』
三人がそれぞれお辞儀をし、うげんちゃんが話し始めた。
『突然のことですが、僕たちから皆さんへお伝えしたいことがあり、このような動画を配信させていただきます』
お願いします、と三人がお互いに向けて挨拶をし合う。
いつも通り、ふざけてる。
うげんちゃんが微笑んで、ゆーてぃに振る。
『悠斗、俺たちが結成したのっていつだっけ?』
『あー…15年くらい前?』
『いや、17年前だから、自分達の結成日なんだからちゃんと覚えて!』
分かってないゆーてぃに、ばんばんがツッコミを入れた。
『そうですね、17年前の3月9日ですね。いろんなことがありましたねえ』
『うん。悠斗が怪我したり』
『悠斗がバンジーやったり、スカイダイビングやったり』
『俺のことばっか!もっとあるぜ?!』
二人がゲラゲラと笑う。
『色々チャレンジしてきました』
『色々ありましたねえ、三人で駆け抜けてきました。そんな僕たちが、15周年のコンサートツアーの少し前ですかね』
『そうですね』
『今後のサンキュウ!について、自分達の人生について三人だけで、ずっと話し合ってきましたよね』
『そうだった!そうだな!あんまり考えたことなかったし!』
『うん、俺たちって今できることをって感じで、前だけ向いて走ってたから』
三人がにこにこと、昔を思い出すように顔を見合わせる。
『でもさ、ここまでこれたのって、応援してくださるファンのみなさんや、周りのスタッフさん達のおかげだよね』
『本当、そうだよね』
『感謝してます!』
頷き合い、画面のこちら側へ向き直る。
『その中で、三人で決断をしました。今、これを一人で見てる人もいる人が多いと思うし、びっくりさせてしまうかもしれませんが』
うげんちゃんが、一呼吸置く。
『僕たちサンキュウ!は、来年の3月9日をもちまして、解散することになりました』
ふと、自分の指先が冷えているのに気がついた。
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