【R18】初耳!私って、悪役令嬢だったんですか?!

はこスミレ

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3章

27・誘い

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「いいじゃありませんか、お誘いしたら。」
 ジャスミンは頭を抱えていた。
 まるで他人事のように、実際は他人事であるが、ミュゲが嬉々として賛成してくるからだ。
「無理よ…そんなこと言えないわ。」
「気軽に言えばいいんですよ、舞踏会に来ませんかって。」
「絶対無理。だって、変に思われたら今後の付き合い方に支障が出るじゃない。」
 ジタバタしているジャスミンを、妹のように諭す。
「私が見てきたアレク様は、それくらいで距離を置いたり、突き放したりするような方ではないと思いますが。ジャスミン様にはどう見えますか。」
 ミュゲの微笑みに、ジャスミンは言葉が詰まってしまった。小さくため息を吐いてから、頷く。
「そうね、アレクはそんな人じゃないわね。正直に頼めば、快く引き受けてくれる人よ。」
「私もそう思います。」
 お茶をグビッと飲み込んで、行儀よく座っていた椅子にもたれかかる。こんな姿は、自室にミュゲだけでなければできない。
「どうしよう、いつ言おう。」
「そうですね、早い方がいいでしょう。」
「仕事のお休みが、不定期だものね。きっと合わせてもらうことになるし。」
「いいえ、私が言っているのは、そういう意味ではありません。」
 不思議に思い見上げると、ミュゲがかぶりを振った。
「ジャスミン様、アレク様が他の女性から誘いを受けないと思い込んでおりませんか。」
「えっ…?!」
 正に、考えたことのない方向からの指摘であった。
「あの若さで部隊の隊長をなさっているということは、上司の覚えもよく有能なはずです。しかも、子どもからも人気で、ジャスミン様のように困っている人に、手を差し伸べることを厭わない。」
 ミュゲが続けてピシリと言い放つ。
「そして、穏やかで気づかいができ清廉、見た目は精悍でかっこいいじゃありませんか。王宮舞踏会に行った貴族のご令嬢が、放っておくとお思いですか。」
 ジャスミンは、ドキリとした。
 全くもってミュゲの言う通り、ジャスミンの否定できる点が一つもない。
 もたもたしていたら、他のご令嬢から誘われて、アレクは承諾してしまうかもしれない。
「アレク様が他の方と踊っていていいのですか。ジャスミン様は、それを見て笑顔で祝福できるのですか。」
 追い討ちをかけるようなミュゲの言葉に、ジャスミンが焦って首を振った。
「そ、そんなのダメよ。私、アレク以外と踊れないわ。」
 踊ったことなんて一度もないのに、アレクと踊る姿しか想像できなかった。
「では、お誘いするしかありませんね。教会で会える日を待つよりも、騎士団にお手紙を送る方が速いと思いますが、いかがでしょう。」
 素晴らしい提案だ、とジャスミンは思った。
「そうね、手紙を書きましょう。どうしよう、私、男性に手紙を送るのって始めてだわ。」
「ジャスミン様らしくお書きになれば、問題ありません。いつも通り誠実に。」
「分かったわ…あっ、便せんを切らしてなかったかしら。」
 落ち着きなく慌てるジャスミンをなだめて、チェストから紙類を取り出した。
「ジャスミン様、とっておきの便せんをお使いになったらいかがですか。」
 ミュゲが渡したのは、ジャスミンと同じ名前の花が描かれているものだった。
「お父様が、遠くへお仕事に行った時、お土産で買ってきてくださったのよね…うん、これにするわ。」
 文字書き用のデスクにインクとペンを用意し、ジャスミンはさっそく文面を考え始めた。
 それを見ながら、ミュゲはニコリと微笑むのだった。

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