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3章
30・初めての始まり
忙しい仕立て屋を呼び、何度も試着を繰り返して出来上がったドレスは、今のジャスミンによく似合っていた。
「お姉様、素敵ですわー!」
きゃぴきゃぴとはしゃぐフリージアが、何度も繰り返し褒めていた。
「でも、私はフリージアみたいに可愛くないから。」
「いいえ、お姉様はお淑やかなタイプだから、このドレスが似合うんです。可愛いだけだと、大人になった時に物足りなくなりますわ!」
この前、デビュタントを終えたばかりだというのに、頼もしい妹である。
「ありがとう。」
ジャスミンは、姿見に映った自分を眺める。
白地に柔らかな黄色のレースをふんだんにあしらい、スパンコールやビーズがキラキラと光を反射しているドレス。胸元は、どうしてもと譲らない仕立て屋に負けて、結構深く開いていた。
髪は前回と変えてアップにし、編み込まれている。
「完璧に落ちるでしょうね。」
後ろからミュゲがニッコリと微笑む。
「えっ?」
「アレク様ですよ。こんなに麗しいジャスミン様と踊ったら最後、頭から離れなくなります。」
「いや、無いわよ。それに化粧とドレスのおかげだし。」
分かってないなあと、ミュゲが指を振った。
「普段を知ってるからこその、ギャップですよ。」
「そうなの…?」
「そうよ、お姉様!普段は町の女の子みたいな格好で活動してらっしゃるもの!アレク様もドキドキしちゃうわ!」
危うく言いくるめられそうになり、ジャスミンが否定した。
「違うわよ!私、アレクを落とすとかそんなんじゃないから!」
「はいはい、お姉様って可愛いわよね。」
妹にからかわれていると、メイドが部屋にやってきた。
「ジャスミン様、お迎えが来られました。」
ドキッと胸が高鳴る。
「え、ええ。分かったわ。」
「私は、従者用の馬車で後ろからついていきますので、お二人でどうぞ。」
ソワソワが止まらないジャスミンを見て、フリージアが羨ましそうに呟いた。
「お姉様、楽しそうね。私も、早く王子様が見つからないかしら。」
玄関にたどり着くと、癖っ毛をオールバックにし、テールコートを着たアレクが待っていた。
「…お待たせしました。」
フッと笑ったアレクが、手に持っていた白い花をジャスミンの髪に差し込んだ。
近づいた手がほんの少し頬に触れて、心臓がうるさいくらいに高鳴る。
「行こうか。」
差し伸べられた手を掴み、エスコートされて馬車に乗り込む。
すぐ隣にアレクが座り、馬車が走りだした。
いつもなら何でもないことをたくさん話すのに、車内では沈黙が続いている。
ジャスミンは、緊張していた。
何を言えばいいのか、どうしたらいいのか、分からないくらい頭が真っ白になっている。
「ジャズ。」
「えっあっ、はい!」
アレクが優しい瞳でジャスミンを見つめる。
「お友達が好きなのってオスマンなんでしょ、ジャズは大丈夫?」
心配してくれる言葉に、胸がギュッとした。
「うん、アレクがいるから大丈夫。あっ、絶対にあの人と二人になりたくないから、離れないでね!」
「分かった。」
アレクが手で顔を覆い、「そういうところだよ…」と呟いたが、緊張しているジャスミンには聞こえなかった。
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