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5章
53・デート(3)
しおりを挟む「嘘だと思った?」
「ちがっ、そうじゃなくて…そんな風に思ってくれてたって、思ってもみなくてびっくりして…んぐっ」
また口に食べ物を入れられた。今度は、おじさんがくれたパイクッキーだった。歯ざわりが良くて、バターが効いていて美味しい。
「ジャズはそういうの疎いっていうか、興味なさそうだったから、とりあえず一番仲良くなろうと思って。」
「そうね、今のところ男の人の中で一番仲良いわよ。というか…アレクしかいないっていうか…」
「知ってる。だから、頑張って良かった。」
アレクの指が口元をなぞり、ジャスミンはドキッとしたが、そのまま離れていった。
「パイがついてる。」
「…な、なんだ。びっくりしたわ。」
「キスされると思った?」
図星を指されて顔が真っ赤になる。
「ち、違うわよ!」
「いいよ、ジャズがいいなら。」
「だ、だめよ!こんな周りに人がいっぱいいるところで!」
「いなかったらいいの?」
「あっ、アレクー!」
「ハハハッ、こうしてるといつまでも楽しんじゃうよ。ご飯が冷めちゃうから、食べようか。」
「そ、そうね。」
いいように振り回されているようで、そしてそれが嬉しいような楽しいような、高揚した気持ちだった。
「食べ過ぎたわ。」
「そう?ほとんど俺が食べてたと思うけど。」
ジャスミンは途中からしんどくなり、一番美味しい部分を一口食べたらアレクに渡していた。それをポイポイと放り込むように体の中に入れて行くので、どんな胃袋をしているのかと驚いたのだ。
「毎日訓練してる騎士隊長と一緒にしないでちょうだい。お兄様だって、そんなにたくさん食べないもの。」
「確かに。」
「無理、動けないわ。もうどこへ行くのか決まってる?」
グロッキー状態のジャスミンに、アレクが心配をする。
「ごめん、調子乗って買いすぎたね。まだ時間あるから、少し休んでからにしようか。ほら、おいで。」
ぽんぽんと、アレクが自分の太ももを叩く。
「えっ、えっ?」
「あー、硬くて嫌かな。」
「そっ、そうじゃないけど…」
「寝ると楽になるよ。」
恥ずかしいし照れるけど、苦しくて辛い。
ジャスミンは意を決して、アレクの太もも拝借することにした。しっかりした筋肉の弾力と体温が耳と頬に当たり、抱きしめられた時とまた違った感覚に背中がザワザワする。
「上向かなくて大丈夫?」
「あっ…うっ…横で平気。」
ジャスミンは上を向いて二重アゴになっていたり、変な顔だったら嫌だなと思った。
「そう、ゆっくりしてて。」
しばらくじっとしていると、アレクの手が頭を撫で、風と水の流れる音が聞こえ、ついついリラックスしてしまう。
そっと深呼吸すると、アレクから甘い香りがした。さっき食べたお菓子や石けんの匂いではなく、普段から嗅ぎ慣れているような優しい香り。よく知っている匂いのはず。でも思い出せない。
そんなことを思っていたら、気づかぬうちにまぶたを閉じていた。
目を開けると、温もりが肩に置かれていた。もぞりと動くと、肩から離れて、そこがスースーする。
「起きた。」
「寝てた?どれくらい?」
「んー、30分くらいかな。」
「ごめんなさい!動けなくて辛かったでしょ?」
起き上がると、アレクがニコニコ笑っている。
「全然、戦闘中は何時間もじっとしてなきゃいけないこともあるし。好きな子の寝顔見てたら一瞬だよ。」
「そういうこと言ってからかってるんでしょ!もう!」
ペシペシと太ももを叩くと、ケラケラ笑った。
「元気になったみたいだね、もう歩けそう?」
「ええ、ありがとう。」
「じゃあ、行きましょうか。お嬢さん。」
先に立ち上がったアレクが手を引いて立たせてくれた。
「どこへ行くの?」
「おすすめらしい、劇場。」
3
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