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5章
52・デート(2)
しおりを挟む店主に支払いをし、串を一本手に入れる。
大きな肉が何個も刺さっており、ソースで照りっとしていた。
「美味しそうー!はふっ、あっつ!」
「そんなにいきなり食べたら、口の中火傷するよ。」
「大丈夫よ、強いから!」
噛みきれなくて口の中にいっぱい頬張ってもぐもぐしている。
「俺にも一口。」
少し屈んで、ジャスミンの持っていた串から一つ噛んで引き抜くと、同じようにもぐもぐと噛みしめる。
「うん、肉汁がジュワッとして、美味い。」
「赤身なのにジューシーね!うちの料理長に作れるか聞いてみよう。ほら、私って本当は食べ歩きとかしちゃいけないのよ。だから、アレクは共犯よ?」
ジャスミンが串を上げてアレクに見せる。
「じゃあ、一緒に罪を重ねて行こうか。そこにあるパイ包みが、おすすめなんだけど。中からドロっとひき肉と野菜の旨味が凝縮した濃厚なソースが出てくるんだよね。」
「食べるわ!」
「即答。」
串を持ったままアレクの腕を引っ張り、パイ包み屋台の前へ行く。
「一つくださいな。」
「可愛いお嬢さん、彼氏とデートかな?」
袋に入れたパイ包みを手渡すと、髭がワイルドは店主がウィンクをする。
カァッと頬が熱くなって口をパクパクさせるジャスミンの代わりに、アレクが答えた。
「いいだろ、初デートなんだ。ここまで漕ぎ着けるのに、2年かかったんだよ。」
「えっ?!」
「なんだって!そりゃあ頑張ったな兄ちゃん!よし、これはオマケだ!」
小袋に入ったパイクッキーをアレクの手に乗せる。
「素敵な一日を!」
「ありがとう!」
アレクは串とパイ包みを持ち両手が埋まったジャスミンの腰を抱き、店から移動した。
「あっちに、葉で肉と野菜を巻いたロールサンドが売ってるよ。」
「待って、まだ串焼きも食べ終わってないわ。」
「じゃあ、色々買ってから、ベンチに座って食べようか。」
アレクがおすすめのお店をどんどん紹介し、果物や焼き菓子までたくさん買い込み、市場の中心にある噴水広場へ来た。
階段状になっている場所では、他にもカップルやグループが座って各々が楽しそうに食べたり話したりしている。
「さあ、どうぞ。」
前と同じように、アレクがハンカチを敷いてくれた。
「ありがとう。」
二人で並んで座り、買った品物を並べる。
「このサラダ、色とりどりでキレイだわ。」
「さっきのロールサンド、はい。」
アレクが開いたジャスミンの口に突っ込んだ。
「んぐっ、むぐ!」
一口噛みちぎって咀嚼すると、お肉の濃いタレと野菜のシャキシャキが合ってとても美味しい。
「んー!美味しい!」
ジャスミンが噛みちぎったところを、アレクがそのまま口に放り込む。
ーそうよね、一つのものを分け合うってそういうことよね。
「うん、美味い。あそこは季節によって入れる野菜が変わるから、味が違うんだよ。」
「アレク、詳しいのね。」
「士官学校から家に帰る時、いつも買い食いしてたんだよね。腹が減って死にそうだったから。」
お腹がペコペコの学生アレクを想像したら、とても可愛かった。
アレクがパイ包みを半分に割って、片方をジャスミンに渡す。
「はい、中身がこぼれないように気をつけて。」
「ありがとう。」
受け取って、アレクが言っていた言葉を思い出す。胸がぎゅっとして苦しい。
「ねえ…アレク。」
「ん?」
パイを頬張っていたアレクが、咀嚼しながらジャスミンを見る。
「その…お店のおじさんに言ってたことって、本当?」
アレクはパイをごくりと飲み込んだ。
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