54 / 89
5章
51・デート(1)
しおりを挟む手を繋いで歩くということを、前世でしたことはあったけれど、こんなにも緊張することだとは思わなかった。骨がゴツゴツしていて剣ダコがあり、ガッシリとした手だと言うことは知っていたけれど、改めて肌で感じるとソワソワしてしまう。
だから、どうしても口数が増える。
「アレクが元気そうで良かったわ。なかなか会う機会が無かったから、どうしてるのかと思ってて、ほら、教会で会うのも最近なかったでしょ。子どもたちも寂しがってたわ。」
ばばばっと早口で話せば、身長差で覗き込むようにアレクがこちらを眺めている。
妙にドキドキしたジャスミンは、おしゃべりが止まらない。
「あ、あれね、天気が良くて良かったわよね。歩くのに雨だと濡れて歩きづらいでしょう。靴下も濡れるし。」
ーああ、何を話してるんだろう。こんなこと言いたい訳じゃないのに。
ジャスミンは、自分の頬が固まっているのが分かった。
「雨でも、ジャズとなら楽しいよ。」
「えっ、あっ、えっ?!どうして?!」
予想もしないことを言われて、声が上ずる。
「相合傘とか、二人で雨宿りとか、服が濡れたらお店で選びあったり、楽しそうでしょ。」
アレクの言葉で、想像する。
肩を寄せて一つの傘をさしたり、カフェで雨音を聞いたり、お互いのコーディネートをして笑いあったりしたら、さぞ楽しいだろう。
「そうね、素敵。」
「でしょ。」
心地のいい風が吹き、ジャスミンの髪を揺らす。
「遠征、どうだった?大変だったでしょう。ちゃんと眠れたの?」
「んー、交代で起きてるから睡眠時間は確保出来るし、あんまり戦わなかったから遠征は平気だったんだけど。帰って来てからの方が…ずっと拘束されて家に帰れなかったり、溜まってた仕事したりで、大変だった。」
そう言われると、心なしか顔が痩せているように見える。
「大変だったのね。…アレクって、寮住まいじゃないの?」
「ああ、言ってなかったっけ?騎士団の施設から家が近いんだ。」
「そういう話、あんまりしたことなかったから。不思議ね、もう二年以上の付き合いがあるのに、お互いのこと知らないんだもの。」
クスッと笑って、アレクが頷いた。
「今日は、たくさん話そうか。」
「そうね。アレクの色んなこと知りたいわ。」
「…新しいキズがついたかどうかも?」
口の端を上げて目を細めたアレクが、いたずらっぽく聞くから、ジャスミンの体温が上がった。
「っ!?アレクのばか!」
ばかと言われたのに、アレクはケラケラと嬉しそうに笑っている。
「ジャズって、本当楽しいよね。」
「そうやってからかってばっかりいると、自分が痛い目に合うんですからね!」
「ふふふ、期待しとくよ。」
それから二人は近況を報告し合い、街まで歩いた。
大きな路地では辻馬車が走り、オシャレをした女性たちが降りて来たり、活気のある市場が賑わっていたり、平和な風景が広がっていた。
これも、衛兵やアレク達騎士団がいるからなのだな、とジャスミンはしみじみ感じ入った。
「さて、ジャスミンお嬢様。これからお昼を食べようと思うのですが、ご希望はございますか。」
わざと畏まったアレクに乗る。
「私、今までしたことのないことがしたいんですの。アレキサンダー卿は、市場の食べ歩きってご存知かしら。」
「ああ、安価で美味しい市民料理を、何人かで分けて色んな種類を食べるやつですね。」
「ええ、それをしましょう。」
「畏まりました。では、手始めにあちらの串焼きなんていかがですか。」
アレクが指差したお店には、お肉が刺さったたくさんの串が並べられており、香ばしいソースと肉の香りが漂っていた。
「いいわね!早く食べたいわ!」
「割と食いしん坊だよね、ジャズって。」
「何とでも言ってちょうだい。」
キラキラと輝き始めたジャスミンの顔を見て、アレクが大きな口を開けて笑った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,296
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる