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終章

79・ハッピーウェディング(2)

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「おめでとう、ジャスミン。」
「ありがとう、プルメリア。」
  引っ切り無しに訪れていた客を兄と妹に任せ、ジャスミンはやっと水分補給をしていたところだった。
「顔色が良くないわね。何か食べたの?」
「今から食べるところなんだけど…あんまり食欲が湧かなくて。うちの料理長の作ってくれたもので、こんなこと有り得ないのよ。疲れが出たかしら。」
 プルメリアがテーブルから果物の盛り合わせを取り、目の前に置いた。
「この辺なら食べられるんじゃない?」
「うん、ありがとう。」
 ジャスミンは美しくカットされた果物を口に入れて、溢れ出る果汁に口角が上がる。
「美味しい。」
「ねえ、旦那は?」
 プルメリアが隣の空席を指差した。
「今ね、騎士団のお偉方に連れ去られたところ。」
「大変そうね…」
「ね、でもこれが終わったら、しばらくのんびり出来るから。」
「休みもらえるの?」
「ううん、仕事は行くのよ。ただ、遠征の仕事を普段より少しだけ減らしてもらえるみたい。」
「良かったわね。新婚で旦那がいないなんて、お互い寂しいでしょって…思ったより食べられるのね。」
 ジャスミンの果物を手に取るスピードが速い。
「ね、思ったよりいけるみたい。本当はお肉とかお肉とか、私のために取り寄せてくれた高級食材とか食べたいんだけど…そっちはどうしても食べる気起きなくて。」
 言いながらも、イチゴやブドウをぽいぽい口に入れている。
「…ねえ、もしかして…妊娠してるんじゃない?」
「えっ…ええっ?!いやいや、そんなことないわよ。」
「ちゃんと避妊してる?生理来た?」
「そう言われると…中出しをしてないってことぐらいで…ちゃんとはしてないかも。生理も…遅れてるわ。」
 緊張や忙しさから来る、生理不順だと思っていた。
 精液は出そうになったら、お腹や背中、たまに口の中で受けとめている。出した後に、そのまま2回戦に入ることもあるから、確かにその可能性はある。
「医者に行って見てもらいなさいよ。もし妊娠なら、ダブルでおめでたいわね。」
「…そっか、赤ちゃんがいるかもしれないんだ。」
 ぺったんこのお腹を触って、急に愛しさがこみ上げた。
「不安なことがあったら、溜め込まずにすぐ言うこと。ジャスミンは、すぐ溜め込んでパニックになるんだから。」
「…ありがとう。プルメリアが友達になってくれて良かったわ。」
 グッと顔を歪ませて、プルメリアが頷いた。
「私もよ…ああもうっ、泣かせないでくれる?!」
「あははっ、プルメリアが泣くところなんて、初めて見たかも。」
「私の涙は、オスマン様の前でしか流さないのよ。」
 皿の上の果物を全て食べ尽くしたジャスミンは、次の皿を探して指が彷徨っている。
「全く、ジャスミンの食欲の前じゃ、感動の涙もあったもんじゃないわね。持ってくるから待ってなさいよ。」
「えへへ。」
 席を立ったプルメリアの後ろ姿を眺めながら、お腹を撫でた。
「本当だったら、嬉しいわ。」
 騎士団の中で談笑する愛しい人の横顔が見えた。
 明日、医者に見てもらおう。
 もし妊娠していたら、絶対ミュゲも喜ぶだろう。泣いてしまうかもしれない。
 今日は、なんて素敵な日なんだ。
 プルメリアが持ってきてくれた果物の盛り合わせに手を伸ばして、呆れる友人を尻目にお腹いっぱいになるまで、たらふく食べた。


 
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