【R18】美少女探偵?!あなたをお助けします〜報酬は要相談〜

はこスミレ

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その31

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数日後、千歳は大学からの帰り道、商店街に立ち寄った。
ちょうど夕飯前の買い物客で賑わっており、スムーズに移動するのが困難であった。
目的の文房具店に入って目当ての文具を買い、人混みを避けながら角を曲がる。
日が落ち始めて薄暗くなった路地は、打って変わって人気が無く、街灯の灯りがコンクリートを照らしていた。
「千歳ちゃん。」
後ろから、名前を呼び止められた。
聞いていた通りの身が震えるような、気持ちの悪い猫なで声。
こんな奴に付け狙われていたなんて、と怒りが湧いてくる。
振り返らずに立ち止まると、足音が近づいて来た。
「最近、なかなか会えなくて寂しかったでしょ。ごめんね。でも、俺と会えない間に、君は他の男と会っていたよね。」
分かってはいたが、頭がおかしい。
ひたひたと近づいてくるごとに、悪寒がする。
「どうして俺というものがありながら、そんなことができるのかな。寂しかったから嫉妬させたかったの?あんな茶髪のいけ好かない軽そうな男、君には合わないよ。」
声が真後ろで聞こえた瞬間、間合いを取って振り返る。
男と目が合うと、薄暗い笑みが消え怒気を孕んだ表情へと変わった。
「お前、誰だ。千歳を返せ。」
摑みかかろうと男が手を伸ばしたのを避け、一気にステップを踏んで間合いに入る。右足を踏み出して左足で距離を測り、位置を決めたら軸足にして、右足で強く男の股座を蹴り上げた。
「ゔっ!」
クリーンヒットをした為、男はそれ以上声を出せずにうずくまる。
これでしばらくの間は動けないだろう。
スマホを取り出して警察に連絡をし、近くの駐在所から警察官が来て、男は確保されて行った。
「ふう、これでとりあえずは、大丈夫かな。」
「さえちゃん先生ぇー!」
パタパタと走って来た金髪の女子に後ろから抱きつかれ、重めの衝撃が来る。
「千歳、無事だから安心して。」
「怖かった、怖かったぁ…さえちゃん先生が殺されちゃうんじゃないかと…思って…」
泣いてしがみつく千歳を、さえちゃん先生が優しく抱きしめ返した。
「格闘技やってる私が、あんな男に負けるわけない。」
「さえちゃん先生は、意外と強いんだよ下山さん。」
のんびりした声が後からやってくる。
「お疲れ様、さえちゃん先生。下山さんが途中で何度もそっちに行こうとするから、止めるの大変だったよ。」
「ありがとう、助かった。」
ぐすぐすと泣いている千歳の背中を撫でながら、やっと一息ついた。
「それにしても、よく騙されてくれたよね。並ぶと背格好が全然違うのに。」
「金髪と黒髪しか見てなかったんでしょ。人混みの中じゃ、それくらいしか目印にできない。」
「作戦勝ちかあ、やるねえ。」
「もう、危ないからやっちゃダメです。全然、美少女安楽椅子探偵じゃない!」
涙でボロボロの千歳が、キッと睨んだ。
「千歳、その格好似合う。今度、双子コーデする?」
「話を逸らさないでー!でも双子コーデはしますう!」
「あははは!するんだ!じゃあ僕が写真撮るよ!!」
傍観者の西は、普段と真逆の格好をした二人を見て、腹を抱えて笑っていた。



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