ただ1枚の盾に。

小隈 圭

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2章 成長

怒り。

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 ざわつくギルドの中では二人の状態をただ見ている人や面白半分でその様子を楽しんでいる人、そういった視線が集まっていて、その視線を向けられている片方はうつむいたままでただ相手から出て来る言葉を聞いているだけで、言い返そうちにせずにただ耐えていて、もう片方は自分の存在を周りにアピールしながら相手を面白半分に罵倒し、ただ相手を辱める事に酔っていた。

 「おいおい、なんか言えよこの変態が! そんな恰好で町歩けるとかすげーよお前、俺だったら生きていけねぇよ? 男のくせに女物の服に装備を着けて、あげくのはてに髪まで伸ばしてなにがしたいんだ~? こんな変態が冒険者だとか一緒にされるこっちの身にもなってくれよ」

 周囲から集まる視線に応えているかの様に大げさに両腕を広げながら相手を見下ろして笑い声を上げ、集まっていた視線を更に相手へと集めて侮辱を繰り返す。

 「なんだよ、だんまりか? 女装趣味の変態には返す言葉も出てこないのかなぁ~? お前らも見てみろよ! こんな変態が冒険者なんて言ってやがんだぜ? 恥さらしもいいとこだぜ! あっはははは!」


 「………」

 その男が高らかに声を上げて笑いを振りまくとその周りでただ見ていた者達もその笑いに吊られるように声を出して笑い始める、しかしそんな状況でも何も言い返すこともなく、相手を見ない様にしてただその時間が早く終わってくれる事を願っているかのように目を瞑っている彼女。

 騒がしいギルドの外から中の様子を覗き見た俺の目に映ったその光景は、彼女と共に行動をすることになる前からもそうであり、共にする様になった後でさえも見た事もない光景で、その余りの酷さに思わず呆然としてしまう程だ。

 事情を知らない人からすれば彼女の今の状態は確かに異常に見えるだろうが、大勢の人間の前で笑いものにし、晒し吊るすなんて事をする人がいるとは到底思えなかった自分の考えの甘さを痛感させられるような、そんな気持ちになって来る。

 「なんだよ、やっぱりだんまりかよ、つまんねぇな~! まぁお前みたいな奴に関わろうとする奴なんざいねぇだろうし、仲間なんて到底出来っこないだろうがな! いや、もしかして……お前もう捨てられた後なんじゃねぇか~? プッハハハハ」

 「………!」

 男が更に浴びせて来る罵声に耐えていた彼女は仲間という言葉が出た途端、その手を握りこんで硬く拳を作って微かにその手を震えさせていて、余りの出来事に呆然としていた俺の目に彼女のその姿が写り込み、歯を食いしばりながら眉間にしわを寄せて自然に中へと入って行く。

 扉を潜って一歩ずつ歩いて行く俺の顔や頭は急激に熱を持ち、額からは脈打つ筋が浮き出ているのを感じながら今もなお、彼女を晒しものにしている男へと視線を向けて近寄って行き、そんな俺の様子に気が付いて先ほどまで笑い声を上げていた人達はその声を押し殺して生唾を飲み込む様に喉を鳴らして黙り込む。

 「ん~? なんだよ、急に静かになったな、どうしたんだよおい!」

 周りの人の異常に気付いた男はハミィに背中を見せる様に後ろを向いて周りの人達へ声を投げかけて行き、言われるがままの彼女もその状態に気付いた様で顔を上げて周囲を見渡すが、後ろから来ていた俺の事にはまだ気がついていないようだった。


 「……ハミィ、ちょっとどいてろ」

 「え? その声はコ……ウ……!!!」

 後ろから掛けられた声にその声色から俺だと気づいた彼女は、振り返って顔を見た途端に顔を引き攣らせて思わず数歩距離を取るが今はそれはどうでもいい、と気にすることなく今も背中を見せている男の肩へと左手を軽く乗せる。

 「あん? なんだ、誰だよ――グッハ!!」


 呑気に周りからの笑いを取ろうとしていた男が手を乗せられた事により振り返り、その男の顎へと振り向いた途端に右の拳を叩き込んで振り抜き、殴られた事で男は地面へと尻もちを着く。

 「くっそ! いってぇなぁ! 誰だてめぇ!!」

 「俺か? 俺の名前はコウだ、今お前が笑いものにして晒しものにしたこの子の相方だよ」

 「はぁ!? 相方だぁ!? ってかよくもやってくれたなぁ!」

 尻もちをついていた地面へ手を付いて立ち上がり、殴られた口元を袖で軽く拭いながら睨みつけて来るその男の視線を正面から受け止めて、お互いににらみ合う俺の後ろから声が聞こえて来る。

 「コ、コウ! 大丈夫だから、私は大丈夫だからやめて……」

 あれだけの罵声を浴びて辱められたにも関わらず、止めようとしてくる彼女はおそらく俺の事を心配してくれているのだろう、しかしここでやめるわけにはいかない、優しくて思いやりがあり、一生懸命俺達の為に動いてくれる、そんな彼女だからこそ自分は一緒に居たいと思え、これからも共にあり続けたいと思えたんだ、そんな彼女の事を何も知りもしないただの部外者が、彼女の心の傷を踏みつけて貶した挙句、笑いものにしたのだ、たとえ大丈夫だとそう言った所で、俺の目に焼き付く様に残っているあの様子が、拳を作って震えさせながらも耐えている、あの姿が、あんな姿をする事になった原因を俺は、俺は――。

 「俺は絶対にお前をゆるさねぇ!!」

 許す事などできはしない。


 「ハッ! 上等だぜ、コウっていったな、このベネットに喧嘩売った事を後悔させてやるよ!」

 「来いよ、ベネット!!」

 黒髪で少し筋肉質のベネットと名乗った男と俺の殴り合いはこの後すぐに始まり、その決着がつくまでにはそれほど時間はかからなかった。
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