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それを知っている唯一の親友
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高校時代の友人に鈴木さんの顔のことを話したことはない。良くて痛い中二病。悪くてイジメの対象だろう。とてもじゃないが、こんな特殊な体質の話はできない。
高校三年間、悩みに悩んで『家庭の医学』を読み耽り、ネットサーフィンを繰り返し、試験勉強に費やす時間を削っていた。
この不思議な現象について調べていたから大学受験に失敗したんです、と誰に言い訳をするわけでもなく自分を慰める。
とはいえ自分なりに受験勉強に向き合い、俺は白山大学の文学部に進学した。高校のある出来事がきっかけで哲学科を専攻しようと思い、偏差値的にも無難な大学を選んだ。
社会人になった今でも当時の俺を褒めてやりたい。
大学の四年間は学費を食い潰す親不孝者であったが、その対価に素晴らしい友人に恵まれたのだから。
俺は親友と友達の区分けが好きじゃない。
だけど、強いて親友というものがあるのなら、彼は親友と呼ばざるを得ない。
「俺は両親が台所でヤッた時に出来た子供だから『キッチンベイビー』って言われてたんだ。ひどい話だよな」
山田健太との最初の会話は最低な下ネタだった。
どんな育ち方をすれば自己紹介が両親のセックスから始まるのか。
誰とヤリたいといった下ネタと一気飲みのコールで盛り上がる大学生に辟易していた十九歳の俺は山田との出会いでそれまでの自分を改めた。
くだらない下ネタばかりに頼っているのがいけないのであって、面白い下ネタであれば問題ないのだと感心する。
その証拠に山田とはもう十年以上の付き合いになるが、共に旅行に行き、酒を飲み、麻雀を打ち、錆びることのない彼の下ネタに腹を抱えて笑わせてもらっていた。
登山サークルという柄でないコミュニティに所属したのが人生の転機だったのだろう。
行動力のある山田と他の同回生のお陰で、就活の話のネタに困ることはなかった。
それはまたの機会に思い返すとして、とにかく俺は山田と多くの時間を過ごす。
飲み慣れない酒の力と、初めて知り合う他県の友人と、鈴木さんを知らないという背景が俺の口を滑らせた。
「高校時代の女友達なんだけど、毎日顔が変わって見える子がいるんだよね」
その告白を山田にしたのは大学二年生の春。
鈴木さんに思いを告げるきっかけになったので時系列は間違いない。
サークルの活動でみんなでキャンプをした。酒に潰れた人達をテントに押し込み、焚き火を囲みながら煙草を吸って、取り留めのない話をする時間。
大学を辞めるんだ、とカミングアウトをする者。ついに童貞を捨てたと凱旋報告をする者。逆にこっぴどく振られて笑い飛ばされる者。
それぞれ今この瞬間を青春だと自覚しながら悦に入っていた。
断片的なその風景は覚えている。
その後、なぜか山田と二人になったのだ。どうせ大した理由はないのだが、何かあって二人になった。
鈴木さんの話を初めて人に話す。
引かれてしまうのではないかという緊張と、ようやく人に話せた安心と。
ない混ぜになっていたであろう自分の気持ちは思い出せない。思い出せるのは山田の反応だけだ。
「そんなことあるんだな。俺、目が悪いのにメガネかけてないから佐藤の顔すらちゃんと見たことないけど。そういうこと?」
「え、山田って目悪いのか?」
「おう。何も見えないぞ。どうせ不細工だろ? イケメンだったらムカつくから今後も知らなくていいや」
山田の顔はお世辞にも整っていない。どちらかと言うとしっかり崩れている。
俺も自分をイケメンだと思っているわけではないが、中性的な顔に生まれたこともあり不細工キャラで揶揄われた経験がなく新鮮に感じた。だが、山田に不細工だと言われるのは心外だった。
それよりも、アホみたいに笑った。
一年近くつるんでいるやつが自分の顔をあまり認識していないこと。というかメガネかけろ。
酒の力と雰囲気がチャンポンし、笑いすぎて少し吐いた。
それを見て山田が指をさし、今でもネタにして馬鹿にしてくる。こいつは笑いすぎるとゲロを吐く、と。
「なんで皆そんなに顔を気にするかなぁ。俺なんてイケメンじゃないけど、このサークルで一番女とヤッてると自信あるぞ」
事実、山田はその行動力とコミュ力で経験人数がとても多い。
付き合ったのは中村さんだけで、それも二ヶ月ぐらいで、経験の浅い童貞だった俺にはそんな点でも山田に驚かされた。
「確かにな。山田の顔でヤリまくれるんだから顔なんて関係ないな」
「おい、お前だって不細工だろ!」
「お前俺の顔見たことないんだろ!」
俺は人の容姿をイジる笑いが好きではない。
明日何かをすれば顔が変わるわけではないのだから、言われたところで戯けるしか術がないのはフェアじゃない気がする。
後にも先にも、俺は山田にしか面と向かって不細工だと言ったことがない。
それを親友の定義にするつもりはないし、親しき中にも礼儀ありという言葉を俺は大事にしているつもりだ。
ただ事実として、俺は鈴木さんに対して起こるこの不思議な現象を山田にだけ話したし、山田もそれを他の人に吹聴している気配はない。
そして、このキャンプの後に俺は鈴木さんに思いを告げた。
それを言葉に出来るだけの語彙力が俺にはないのだが、当時の俺の気持ちや価値観が変わり、告白をするという行動に移す。
果たして、山田は俺に何をしてくれたのだろう。
人の価値は顔では決まらない。
高校三年間、悩みに悩んで『家庭の医学』を読み耽り、ネットサーフィンを繰り返し、試験勉強に費やす時間を削っていた。
この不思議な現象について調べていたから大学受験に失敗したんです、と誰に言い訳をするわけでもなく自分を慰める。
とはいえ自分なりに受験勉強に向き合い、俺は白山大学の文学部に進学した。高校のある出来事がきっかけで哲学科を専攻しようと思い、偏差値的にも無難な大学を選んだ。
社会人になった今でも当時の俺を褒めてやりたい。
大学の四年間は学費を食い潰す親不孝者であったが、その対価に素晴らしい友人に恵まれたのだから。
俺は親友と友達の区分けが好きじゃない。
だけど、強いて親友というものがあるのなら、彼は親友と呼ばざるを得ない。
「俺は両親が台所でヤッた時に出来た子供だから『キッチンベイビー』って言われてたんだ。ひどい話だよな」
山田健太との最初の会話は最低な下ネタだった。
どんな育ち方をすれば自己紹介が両親のセックスから始まるのか。
誰とヤリたいといった下ネタと一気飲みのコールで盛り上がる大学生に辟易していた十九歳の俺は山田との出会いでそれまでの自分を改めた。
くだらない下ネタばかりに頼っているのがいけないのであって、面白い下ネタであれば問題ないのだと感心する。
その証拠に山田とはもう十年以上の付き合いになるが、共に旅行に行き、酒を飲み、麻雀を打ち、錆びることのない彼の下ネタに腹を抱えて笑わせてもらっていた。
登山サークルという柄でないコミュニティに所属したのが人生の転機だったのだろう。
行動力のある山田と他の同回生のお陰で、就活の話のネタに困ることはなかった。
それはまたの機会に思い返すとして、とにかく俺は山田と多くの時間を過ごす。
飲み慣れない酒の力と、初めて知り合う他県の友人と、鈴木さんを知らないという背景が俺の口を滑らせた。
「高校時代の女友達なんだけど、毎日顔が変わって見える子がいるんだよね」
その告白を山田にしたのは大学二年生の春。
鈴木さんに思いを告げるきっかけになったので時系列は間違いない。
サークルの活動でみんなでキャンプをした。酒に潰れた人達をテントに押し込み、焚き火を囲みながら煙草を吸って、取り留めのない話をする時間。
大学を辞めるんだ、とカミングアウトをする者。ついに童貞を捨てたと凱旋報告をする者。逆にこっぴどく振られて笑い飛ばされる者。
それぞれ今この瞬間を青春だと自覚しながら悦に入っていた。
断片的なその風景は覚えている。
その後、なぜか山田と二人になったのだ。どうせ大した理由はないのだが、何かあって二人になった。
鈴木さんの話を初めて人に話す。
引かれてしまうのではないかという緊張と、ようやく人に話せた安心と。
ない混ぜになっていたであろう自分の気持ちは思い出せない。思い出せるのは山田の反応だけだ。
「そんなことあるんだな。俺、目が悪いのにメガネかけてないから佐藤の顔すらちゃんと見たことないけど。そういうこと?」
「え、山田って目悪いのか?」
「おう。何も見えないぞ。どうせ不細工だろ? イケメンだったらムカつくから今後も知らなくていいや」
山田の顔はお世辞にも整っていない。どちらかと言うとしっかり崩れている。
俺も自分をイケメンだと思っているわけではないが、中性的な顔に生まれたこともあり不細工キャラで揶揄われた経験がなく新鮮に感じた。だが、山田に不細工だと言われるのは心外だった。
それよりも、アホみたいに笑った。
一年近くつるんでいるやつが自分の顔をあまり認識していないこと。というかメガネかけろ。
酒の力と雰囲気がチャンポンし、笑いすぎて少し吐いた。
それを見て山田が指をさし、今でもネタにして馬鹿にしてくる。こいつは笑いすぎるとゲロを吐く、と。
「なんで皆そんなに顔を気にするかなぁ。俺なんてイケメンじゃないけど、このサークルで一番女とヤッてると自信あるぞ」
事実、山田はその行動力とコミュ力で経験人数がとても多い。
付き合ったのは中村さんだけで、それも二ヶ月ぐらいで、経験の浅い童貞だった俺にはそんな点でも山田に驚かされた。
「確かにな。山田の顔でヤリまくれるんだから顔なんて関係ないな」
「おい、お前だって不細工だろ!」
「お前俺の顔見たことないんだろ!」
俺は人の容姿をイジる笑いが好きではない。
明日何かをすれば顔が変わるわけではないのだから、言われたところで戯けるしか術がないのはフェアじゃない気がする。
後にも先にも、俺は山田にしか面と向かって不細工だと言ったことがない。
それを親友の定義にするつもりはないし、親しき中にも礼儀ありという言葉を俺は大事にしているつもりだ。
ただ事実として、俺は鈴木さんに対して起こるこの不思議な現象を山田にだけ話したし、山田もそれを他の人に吹聴している気配はない。
そして、このキャンプの後に俺は鈴木さんに思いを告げた。
それを言葉に出来るだけの語彙力が俺にはないのだが、当時の俺の気持ちや価値観が変わり、告白をするという行動に移す。
果たして、山田は俺に何をしてくれたのだろう。
人の価値は顔では決まらない。
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