ほたるのゆめ

ruki

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ほたるのねがい

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思いがけず長年の恋が実った。

とは言っても、もう少しロマンチックに実って欲しかったと思うのは、贅沢なことなのだろうか・・・。

他の人と過ごしていた発情期の真っ只中に乗り込まれて、いたしている所を見られた挙句、よく分からない独占欲を発揮されてなんのプロポーズも同意もなく噛まれて番になってしまった。

いや、番になりたかったし、彼のものになりたかったよ。それに噛まれた後とはいえ、一応プロポーズもしてくれたけど、だけどもう少しなんて言うか・・・そんな片膝ついて指輪の箱をパカッと開く、なんてなくてもいいから、それらしい雰囲気とか言葉とか、なんかそういうのがあっても良かったんじゃないかと思ってしまうのはダメなことなのだろうか?

おかしいな。
僕が知っている優人は誰に対しても・・・特に好きな人にはことさら優しくてスマートで紳士的だった。

・・・間違っても勢いで抱いてうなじを噛んだりしない。ましてやその後のフォローもなしで開き直るなんて・・・。

自分の事よりも相手のことを考える優人が、ベッドの上ではあんなに自分本位だったなんて!

・・・それでもそれをうれしいと思ってしまうのは惚れた弱みなのか、それとも番になったからなのか、僕はとりあえず今幸せの中にいる。

そして今回、めでたく入籍することになって、その保証人に僕の大好きな絵を描く『さかな』ちゃんこと、佐奈ちゃん夫夫になってもらうことになった。その署名をもらいに訪れた佐奈ちゃんの家は、とても幸せに満ちていた。

旦那さん、優しそうな人だった。

一度は別ていたけれど、何があったのかまでは知らない。だけど今はすごくお互いに愛し合ってるのが分かるくらい、お互いの思いがお互いに向いている。

まだ優人が佐奈ちゃんを好きな時、二人を会わせたと聞いてバカじゃないかと思ったけど、あの二人を見てたらそれが正解だったと分かる。

離れていても、お互い思い合っていたんだ。

それにしても、佐奈ちゃんの赤ちゃんかわいい。

病院で寝ているところを見た時は佐奈ちゃん似だと思ったけど、おめめぱっちりのお顔はパパにそっくりだ。

子供って不思議。
ちゃんと両方に似ているんだね。

眠っている時はママ似で起きている時はパパ似。

僕も早くそんな子供が欲しいな。

僕達が初めに電話で保証人をお願いした時、佐奈ちゃんはものすごく驚いていた。そりゃそうだよね。少し前まで優人は佐奈ちゃんが好きだって言ってたし、ずっと佐奈ちゃんのためにいろいろしていたんだから。それがまだ一ヶ月も経たないうちに、他の人と結婚するから保証人お願いしますと言われ、しかも相手は僕だったんだから、その驚きは相当なものだったに違いない。

でも快く引き受けてくれた上に、目に涙まで浮かべて喜んでくれた。

本当にいい子。
大好き。

そんな楽しくも幸せな時間を過ごした佐奈ちゃんの家をお暇して、僕達はそのまま役所に行って婚姻届を出した。

僕は今日から『木佐蛍』になった。

漢字では3文字だけど、ひらがなにすると4文字・・・。随分さっぱりしちゃったな。

そんな事を思いながら僕達は家に帰った。

急に決まった結婚だったので、僕達はまだ新居を決めていない。でも一緒にいたかったからとりあえず僕が優人の家に越してくることになり、新居が決まるまでここで暮らすことになった。

そんな仮とはいえ愛の巣に着いて、僕はスマホをチェックした。するとメッセージが届いている。

誠也だ。
どうしたんだろうと開いてみたその内容に、思わず僕は驚きの声を上げて誠也に電話をかけた。
そして出た相手に間髪入れずに叫んだ。

「結婚したってどういうこと!しかも子供って!!」

僕の突然の大声に一瞬、間を置いて誠也が答える。

『・・・実は縁あって結婚したんだ。それで運良く子供も授かって・・・』

その言葉に僕はスマホを握りしめる。

なんで?
運良くって、なんで誠也の方が先に子供ができるんだよ!
それに・・・。

「結婚て、いつしたの!」

『先月』

先月って、僕の発情期の時じゃん。じゃああの時はもう・・・。

「いや、お前との後に婚活サイトに入ってさ、縁あってすぐに結婚できたんだ」

僕の思ってたことが分かったのか、先回りして誠也が答える。

「子供は?」

「ちょうどタイミングが合って・・・」

はあ?
タイミング?
タイミングが合ったらこんなに早く結婚して子供ができるわけ?
それにいくらタイミングがあったからと言って、事が進むの早過ぎない?

「その人いま傍にいるの?」

そう言ってビデオ通話に切り替えてもらった。

誠也の前の結婚相手が最低だったので、次に結婚する時は絶対に僕が見て誠也に相応しい人かどうかを見極めてやろうと思っていた。だけど、誠也の隣に現れた人はそんな心配なんていらないくらい、誠也への愛情で溢れていた。

『初めまして。朝倉蛍一です』

その言葉に誠也が隣で『成瀬だろ?』とツッコミを入れると、彼は慌てて『成瀬蛍一です』と言い直した。

真っ黒い髪と瞳の色白美人。
目元のほくろがすごく色っぽい。

僕と正反対の人じゃん。

落ち着いた感じで大人しそうなその人は、とても幸せそうに誠也の隣で笑っている。そして誠也も同じように幸せそうだ。スマホの画面を通していても、二人がとても愛し合っているのが分かる。

どうしたらこんな短期間で、こんなにも思いを通じ合わせることが出来るのだろう。僕達は20年近く掛かったのに・・・。

だけど、ずっと僕の心配をしてくれていた誠也が、本当の幸せを手に入れたことがとてもうれしい。うれしいけれど・・・。

「なんで・・・誠也の方が早く子供を・・・」

僕はじとーんと誠也を睨みつけてしまった。
だって、だってだってだって、僕の方が早く子供欲しがってたんだよ?なのに何で誠也の方が早く子供ができるの?

『いや・・・そう言われても・・・こればかりは授かりものだから・・・。蛍も直ぐに・・・ね?ご主人』

困りながらの途切れ途切れの誠也の言葉・・・ん?ご主人?

僕ははっとなって後ろを振り返った。するとそこには笑顔の優人が・・・。

しまった!優人がいるの忘れてたっ。

一見普通に微笑んでるように見えるけど、目が笑っていない・・・。

「とにかく、その話はあとでちゃんと聞くからねっ。じゃあまた!」

後ろから漂ってくる重い気を感じて僕は慌てて電話を切った。するとそのタイミングで優人が声をかける。

「誠也さんて、あの時の人だよね?蛍が名前を呼んだ・・・」

ぞくりとするほど低い声と重くて怖い気をあてられて、僕はゆっくりと振り返る。

「そんなにショックなんだ。あの人が結婚して」

その言葉に慌てて首を横に振る。

「違うよ。子供が出来たことがショックをだったの」

「彼が他の人を孕ませたから?」

その言葉に、僕の身体が僅かに硬直する。

違うのに。
そうじゃないのに。

僕は説明しようと口を開いたけれど、喉が詰まって何も話せなかった。

僕が好きなのは優人だけなのに・・・。

思いがいっぱい過ぎて言葉が出ない。

優人と番になってから、優人は僕の過去も交友関係も訊かなかった。だけど、誠也のことだけはしつこく訊いて来た。きっとそれは、誠也との行為を見てしまったせいだろう。本当なら全てを話すべきではないと分かっていても、優人は全てを知りたがった。だから僕も言わざるを得なかったけど、そうまでして聞き出したにもかかわらず、優人は僕達の関係が想像以上に深くて長いものだったことにショックを受けていた。

誠也は僕の発情期を20年以上相手してくれていた上に、僕の初めての人だ。

だけど、僕と誠也の間には恋人同士のような甘く激しい感情はなく、穏やかで信頼できる家族のような関係だ。

それをいくら説明してもなかなか分かってもらえず、渋々納得してもらった感じだった。それがまたここに来て・・・。

「ずっと子供が欲しかった僕よりも先に、誠也に子供ができたからショックだったんだ」

僕はどうにか言葉を吐いた。だけど溢れる涙は止められなかった。

「本当はずっと優人の子が欲しかった。だけど、優人は僕の事そういう風に見てくれてなかったでしょ?僕がずっと優人が好きな間、優人はいつも違う人を見てた」

それをいつも僕がどんな思いで見ていたか知ってる?

「子供を生むのにタイムリミットが近づいてきて、僕が子供が欲しいと言ってもなんの反応もなくて、決死の思いでした告白も冗談で流されて、だから優人の子供は諦めたんだ。だから、誠也に頼んだの。誠也の子どもが欲しかったんじゃなくて、優人の子供が生めないのなら誰の子供でも同じだから」

僕はこぼれる涙をそのままに優人を見た。

「優人が僕を番にしてくれたから・・・僕は優人の子供を望んでもいいんだよね?」

もう望みのない夢じゃないよね?
優人は叶えてくれるよね?

ねえ、番になった今なら分かるでしょ?僕がどれだけ優人が好きかって。

「僕は優人がいい。優人じゃなきゃ嫌だ。もう誰にも僕に触れて欲しくない」

こんなに優人が好きな気持ちを、疑わないで。

「僕が欲しいのは優人の子だけだよ」

だから信じて、僕の心を。

もう隠す必要のない優人への思いが溢れ出す。すると優人の重い気がふっと消えた。そしてギュッと抱きしめられる。

「ごめん、蛍。蛍への気持ちに気づいてまだ日が浅いから、オレは自信が無いんだ。蛍はいつかオレの腕の中からすり抜けてしまうんじゃないかって。あの人と蛍の関係があまりにも強すぎて、いつかオレは弾かれてしまうんじゃないかと不安なんだ」

まるで鎧のように纏っていた重たい気が無くなると、優人は怯えた子犬のようだった。

「僕は優人だけを愛してる。ねえ、ちゃんと見て。ちゃんと感じて。僕の心を」

こんなに愛してるのは優人だけだよ。

ぎゅうっと抱きしめてくれる優人から、僕への愛情が溢れてくる。

番って不思議。こんなにちゃんと相手の心が分かるんだね。
だから、優人も分かったでしょ?僕の心が・・・。

しばらくそうして抱き合っていると、優人から怯えた香りが消え、僕への愛情だけになった。

とくとくと早くなる鼓動が重なる。
お互いのフェロモンに艶やかな香りが混ざり合い、お互いの身体を高ぶらせていく。

「せっかく今日から『木佐蛍』になったんだから、悲しいのはいや。いっぱい幸せになりたい」

僕も負けじと優人の背中に腕回して力を込める。

「ん・・・子供は次の発情期までお預けだけど、それまで二人でいっぱい仲良くしよう」

優人はそう言って僕を上に向かすと、優しく目を細めて僕のおでこにキスする。そしてそのままベッドに押し倒し、相変わらず見かけからは想像もつかない程の激しいキスをした。

「愛してる、蛍。次の発情期まで嫌という程オレを覚えさせてやるから、覚悟しろよ」

「うん。もう許して、て言うまでいっぱいして。そして次の発情期には僕の願いを叶えてね」

その言葉に応えるように、優人は再び唇を重ねた。


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