さかなのみるゆめ

ruki

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「はい。僕の好きな人の子です。でも別れてから分かったので、僕一人で育てます」

「それなら良かった。ごめんね。もしかしたら事故アクシデントでの子なのかと思っちゃって・・・」

オメガが一人で子供を産むと聞いたら、大抵そう思うのかもしれない。
もしかして、今まで父親のことを誰も聞いてこなかったのは、それを心配してくれたから?

「いいですよ。どんな過程でも僕のところに来てくれた僕の赤ちゃんなので、とても大事で愛おしいです。早くこの絵本も見せてあげたいです」

本当に本心でそう思う。

「いいなぁ。やっぱり僕も赤ちゃん欲しいな。やっぱり産めるうちに産もう」

まだそんな年じゃないじゃないですか、と言おうと思ったけど、木佐さんと学生時代からのお友達ということはそれなりのお年で・・・。

僕は何も言わずににっこり笑った。

そんな嵐のようなほたるさんとの対面も済ませ、絵本の方もそのまま進んでいき、僕が産休に入る頃に無事に発行となった。

送られてきた絵本を前に、僕は感慨深げにまじまじとその本を見る。
その本の帯には『赤ちゃんとお母さんのための絵本』の文字。

実はこの『お母さん』という文字は少しだけ揉めたらしい。なぜなら僕みたいに男オメガが産みの親である場合もあるからだ。だけど、当の本人の僕に言わせれば『産んだ人=お母さん』であって『産んだ女の人=お母さん』ではない。

まあ、これはあくまでも僕の考えなんだけど。

なので、そのまま『お母さん』が使われることになった。実際、子供を産むのはやっぱり女性が多いし、ほたるさんのファンは女性が多いから、その方が需要が高いと判断されたらしい。
それでも世の中の少数派というものは過剰に反応する傾向があるので、万が一クレームなどがあった場合は『親と子のための絵本』になるらしい。でもそれだとちょっとインパクトにかけるよね。・・・なんて言ったら怒られるかな?
ともあれ、ほたるさんと僕の絵本は無事に書店に並ぶことになった。

産休に入って暇になったので、お散歩を兼ねて色々な書店巡りをしては棚に並んでる絵本を見て一人満足する日々を送りながら、ついに出産予定日を迎えた。

「うーん。まだまだだね」

内診を終えた医師の言葉に少しがっかりする。子宮口が全く開いていないらしい。

「よく歩いてお産を促そう」

笑顔でそう言うけれど、今でも僕、結構歩いてますよ?

「のんびりさんなのかな?でもあんまりお腹に入ってるのも良くないから、一週間経って陣痛が来ないようだったら出しちゃおうか」

そう言われて、もしこのままお産が来なかったら、来週の診察日に陣痛促進剤を入れて出産することに決まった。

それを聞いて少しショック。

お誕生日くらい自分で決めさせてあげたかったな・・・。

僕ははち切れんばかりに膨らんだお腹をぽんぽんと叩いた。

「寝てないで早く出ておいで」

だけどお腹は静かなままだ。

さっきのエコーの時も完全に寝てたらしく、ちっとも動かなかった。

『寝るのが好きな子だね』

と医師にも苦笑いされてしまった。

寝る子は育つ、とは言うけれど、それは出てきてからにして欲しい。

早くお顔が見たいな。それに僕の絵本も早く見せたい。

実はほたるさんとの絵本は、とあるママさんタレントがSNSに紹介したことによって爆発的に人気になっていた。僕がそうなったらいいな、と思った通り、赤ちゃんがその絵を目で追うと言って話題になったのだ。

僕も早く、絵本の絵を目で追うところを見たい。

もちろんお話もとても素晴らしくて、僕は何度も読み過ぎて暗記してしまったくらいだ。なので本番は赤ちゃんに紙芝居のように絵を見せながら読んで聞かせることが出来る。

そんなことを思いながら歩いていると、スマホがメッセージを受信した。

木佐さんからだ。

今日の健診の結果が気になるらしい。
今日は予定日だもんね。

僕が医師の話をメッセージに書いたら、このまま散歩がてら会社に顔を出したらどうだという提案が来た。

確かに、今日は気持ちのいい秋晴れで、会社までの道のりもちょうどいい。ここから会社までなら歩いて30分くらいだし、ちょうど午後の休憩時間に着く。途中の商店街でお茶菓子を買って、久しぶりに会社に顔を出すのもいいかもしれない。

僕はそうする旨を伝えて、会社の方へ向きを変えた。

途中お茶菓子は洋菓子か和菓子かを迷い、みんなコーヒー派なので洋菓子にした。日持ちする焼き菓子を少し多めに買っててくてく速めに歩いていくと、予定よりも早くに会社に着いてしまった。

「こんにちは」

自分の会社だけど休んでる身なので挨拶しながら入っていくと、なんとも言えない安心感に包まれた。久しぶりの会社なのに安心感て何か変なの。
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