さかなのみるゆめ

ruki

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部屋に入るなり始まった二人の会話に、僕は口を挟めずに見てるしか無かった。
そんな僕に気づいた木佐さんは慌てたように笑顔を作り、僕を椅子に座らせてくれる。

「ごめん、騒々しくて。この人は・・・」

とケイさんを紹介してくれようとした木佐さんの言葉を遮って、ケイさんが自己紹介を始めた。

「はじめまして。僕は雪村蛍ゆきむらけい。今回は僕のお話に絵をつけてくれてありがとう」

そう言って渡された名刺を見てびっくりした。

「ほたるさん?!」

名刺には『絵本作家ほたる』の文字があり、その下に本名が書いてある。

『蛍』て書いて『けい』て読むんだ。 

「はじめまして。水森佐奈です」

僕も慌てて名刺を差し出す。

「さかなちゃん、会いたかった。よろしくね」

無邪気ににこにこ笑うほたるさんは、その愛らしい顔と緩くカールしている髪が相まって、まるで天使のようだった。

「こちらこそよろしくお願いします。『蛍』さんだから『ほたる』さんなんですね」

するとほたるさんも僕の名刺を見て微笑んだ。

「さかなちゃんも、『佐奈』ちゃんだから『さかな』ちゃんなのかな?」

「そうです」

今回の挿絵の仕事はペンネームで出させてもらうことになって、僕は名前をもじって『さかな』にしたのだ。

「かわいいね。あの絵を書いてるのがこんなかわいい子だなんて思わなかったよ。ネットの絵もすごく素敵だったけど、今回の絵、すごい最高だった。本当にありがとう」

そう言って僕の手を握ったほたるさんの手を、木佐さんが引き剥がす。

「優人、心狭くない?」

そんな木佐さんを冷ややかな目で見るほたるさん。確かこの二人は学生時代からのお友達だよね。凄く仲が良さそう。

「それでどうなんだ?水森くんの絵は」

あ、そうだ。僕の絵は採用なのかな?

「いいに決まってるじゃないか!僕もう感動してここまで来ちゃったよ。この感動を直接伝えたくて。さかなちゃん、君の絵は本当に素晴らしい。僕じゃ絶対に描けない世界を描いてくれて、本当にありがとう!」

ものすごい勢いで言われて面食らっていると、さらにほたるさんが言葉を続ける。

「それに添えられてたコンセプトにも感動したよ。僕も『赤ちゃんとお母さんのための絵本』て、すごいいいと思う。僕も本当はずっと小さい子に読んでもらいたかったんだけど、なぜかお姉さんたちに受けてしまって戸惑っていたんだ。だからこれは僕も是非やりたい」

そう一気にまくし立てると、ほたるさんは天真爛漫に笑った。

本当に天使みたいだ。

「是非やりたいって、担当はなんて言ってるんだ?」

興奮気味のほたるさんと違って、至って冷静な木佐さんが言う。

そう、出版社的には大丈夫なのだろうか?

「僕もね、それは心配してたから僕の方に直接絵を送ってもらったんだけど、さかなちゃんの絵を見た鈴木くん、一瞬黙ったままその絵を見つめて、すぐにそれ持って行っちゃったんだよ。『これでいきましょう』て言って。あ、鈴木くんは僕の担当さんね」

それはつまり・・・。

「文句なくOKてことだよ。もしダメ出しされたら僕、自費出版でもいいから出そうと思ってたんだけど、そんな心配全然いらなかったよ」

その言葉に僕はほっとして力が抜ける。

良かった。僕の絵、採用されたんだ。

「僕が思い描いた世界があんなにも色鮮やかで、キラキラ輝いて、まるで万華鏡の世界みたいだった。赤ちゃんがあの絵を見て、目で追ってくれるのを想像するだけで、僕も幸せになる」

そう言うとほたるさんは僕のふっくらしたお腹をそっと触った。

「さかなちゃんも赤ちゃんに読み聞かせするんでしょ?」

「はい。読むだけならもうしてるんです。お話はいただいてましたから」

実はお話をもらった時から読み聞かせはしていたのだ。

「いいなぁ。僕も赤ちゃん欲しいな。相手を待ってたらもう時間なくなりそうだから、赤ちゃんだけ作ろうかな」

思いもかけない爆弾発言にびっくりしていると、ほたるさんは茶目っ気たっぷりに笑った。

「僕もオメガだよ。さかなちゃん、本当にフェロモンに疎いんだね」

確かにこんなに可愛くて華奢なんだからオメガっぽいよね。
でも普通分かるものなの?
やっぱり僕だけ分からないのかな?

「うん。普通は分かるよ。さかなちゃんからもいい香りがしてるし、アルファとオメガだったらその香りで分かると思う。それで不自由してないんだったらいいけど、僕としてはまだ番ってないオメガがそう無防備でいるのは心配だから、一度ちゃんと診てもらった方がいいと思うよ」

そうなのか。
今まで分からないことが分かってなかったけど、ほたるさんにそう言われると、ちゃんと調べた方がいいのかもしれない。

「今度医師に相談してみます」

「うん。それがいいと思うよ。ところで、この子は好きな人の子?」

と言ってほたるさんは僕のお腹をなでなでする。
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