28 / 40
28
しおりを挟む
部屋に入るなり始まった二人の会話に、僕は口を挟めずに見てるしか無かった。
そんな僕に気づいた木佐さんは慌てたように笑顔を作り、僕を椅子に座らせてくれる。
「ごめん、騒々しくて。この人は・・・」
とケイさんを紹介してくれようとした木佐さんの言葉を遮って、ケイさんが自己紹介を始めた。
「はじめまして。僕は雪村蛍。今回は僕のお話に絵をつけてくれてありがとう」
そう言って渡された名刺を見てびっくりした。
「ほたるさん?!」
名刺には『絵本作家ほたる』の文字があり、その下に本名が書いてある。
『蛍』て書いて『けい』て読むんだ。
「はじめまして。水森佐奈です」
僕も慌てて名刺を差し出す。
「さかなちゃん、会いたかった。よろしくね」
無邪気ににこにこ笑うほたるさんは、その愛らしい顔と緩くカールしている髪が相まって、まるで天使のようだった。
「こちらこそよろしくお願いします。『蛍』さんだから『ほたる』さんなんですね」
するとほたるさんも僕の名刺を見て微笑んだ。
「さかなちゃんも、『佐奈』ちゃんだから『さかな』ちゃんなのかな?」
「そうです」
今回の挿絵の仕事はペンネームで出させてもらうことになって、僕は名前をもじって『さかな』にしたのだ。
「かわいいね。あの絵を書いてるのがこんなかわいい子だなんて思わなかったよ。ネットの絵もすごく素敵だったけど、今回の絵、すごい最高だった。本当にありがとう」
そう言って僕の手を握ったほたるさんの手を、木佐さんが引き剥がす。
「優人、心狭くない?」
そんな木佐さんを冷ややかな目で見るほたるさん。確かこの二人は学生時代からのお友達だよね。凄く仲が良さそう。
「それでどうなんだ?水森くんの絵は」
あ、そうだ。僕の絵は採用なのかな?
「いいに決まってるじゃないか!僕もう感動してここまで来ちゃったよ。この感動を直接伝えたくて。さかなちゃん、君の絵は本当に素晴らしい。僕じゃ絶対に描けない世界を描いてくれて、本当にありがとう!」
ものすごい勢いで言われて面食らっていると、さらにほたるさんが言葉を続ける。
「それに添えられてたコンセプトにも感動したよ。僕も『赤ちゃんとお母さんのための絵本』て、すごいいいと思う。僕も本当はずっと小さい子に読んでもらいたかったんだけど、なぜかお姉さんたちに受けてしまって戸惑っていたんだ。だからこれは僕も是非やりたい」
そう一気にまくし立てると、ほたるさんは天真爛漫に笑った。
本当に天使みたいだ。
「是非やりたいって、担当はなんて言ってるんだ?」
興奮気味のほたるさんと違って、至って冷静な木佐さんが言う。
そう、出版社的には大丈夫なのだろうか?
「僕もね、それは心配してたから僕の方に直接絵を送ってもらったんだけど、さかなちゃんの絵を見た鈴木くん、一瞬黙ったままその絵を見つめて、すぐにそれ持って行っちゃったんだよ。『これでいきましょう』て言って。あ、鈴木くんは僕の担当さんね」
それはつまり・・・。
「文句なくOKてことだよ。もしダメ出しされたら僕、自費出版でもいいから出そうと思ってたんだけど、そんな心配全然いらなかったよ」
その言葉に僕はほっとして力が抜ける。
良かった。僕の絵、採用されたんだ。
「僕が思い描いた世界があんなにも色鮮やかで、キラキラ輝いて、まるで万華鏡の世界みたいだった。赤ちゃんがあの絵を見て、目で追ってくれるのを想像するだけで、僕も幸せになる」
そう言うとほたるさんは僕のふっくらしたお腹をそっと触った。
「さかなちゃんも赤ちゃんに読み聞かせするんでしょ?」
「はい。読むだけならもうしてるんです。お話はいただいてましたから」
実はお話をもらった時から読み聞かせはしていたのだ。
「いいなぁ。僕も赤ちゃん欲しいな。相手を待ってたらもう時間なくなりそうだから、赤ちゃんだけ作ろうかな」
思いもかけない爆弾発言にびっくりしていると、ほたるさんは茶目っ気たっぷりに笑った。
「僕もオメガだよ。さかなちゃん、本当にフェロモンに疎いんだね」
確かにこんなに可愛くて華奢なんだからオメガっぽいよね。
でも普通分かるものなの?
やっぱり僕だけ分からないのかな?
「うん。普通は分かるよ。さかなちゃんからもいい香りがしてるし、アルファとオメガだったらその香りで分かると思う。それで不自由してないんだったらいいけど、僕としてはまだ番ってないオメガがそう無防備でいるのは心配だから、一度ちゃんと診てもらった方がいいと思うよ」
そうなのか。
今まで分からないことが分かってなかったけど、ほたるさんにそう言われると、ちゃんと調べた方がいいのかもしれない。
「今度医師に相談してみます」
「うん。それがいいと思うよ。ところで、この子は好きな人の子?」
と言ってほたるさんは僕のお腹をなでなでする。
そんな僕に気づいた木佐さんは慌てたように笑顔を作り、僕を椅子に座らせてくれる。
「ごめん、騒々しくて。この人は・・・」
とケイさんを紹介してくれようとした木佐さんの言葉を遮って、ケイさんが自己紹介を始めた。
「はじめまして。僕は雪村蛍。今回は僕のお話に絵をつけてくれてありがとう」
そう言って渡された名刺を見てびっくりした。
「ほたるさん?!」
名刺には『絵本作家ほたる』の文字があり、その下に本名が書いてある。
『蛍』て書いて『けい』て読むんだ。
「はじめまして。水森佐奈です」
僕も慌てて名刺を差し出す。
「さかなちゃん、会いたかった。よろしくね」
無邪気ににこにこ笑うほたるさんは、その愛らしい顔と緩くカールしている髪が相まって、まるで天使のようだった。
「こちらこそよろしくお願いします。『蛍』さんだから『ほたる』さんなんですね」
するとほたるさんも僕の名刺を見て微笑んだ。
「さかなちゃんも、『佐奈』ちゃんだから『さかな』ちゃんなのかな?」
「そうです」
今回の挿絵の仕事はペンネームで出させてもらうことになって、僕は名前をもじって『さかな』にしたのだ。
「かわいいね。あの絵を書いてるのがこんなかわいい子だなんて思わなかったよ。ネットの絵もすごく素敵だったけど、今回の絵、すごい最高だった。本当にありがとう」
そう言って僕の手を握ったほたるさんの手を、木佐さんが引き剥がす。
「優人、心狭くない?」
そんな木佐さんを冷ややかな目で見るほたるさん。確かこの二人は学生時代からのお友達だよね。凄く仲が良さそう。
「それでどうなんだ?水森くんの絵は」
あ、そうだ。僕の絵は採用なのかな?
「いいに決まってるじゃないか!僕もう感動してここまで来ちゃったよ。この感動を直接伝えたくて。さかなちゃん、君の絵は本当に素晴らしい。僕じゃ絶対に描けない世界を描いてくれて、本当にありがとう!」
ものすごい勢いで言われて面食らっていると、さらにほたるさんが言葉を続ける。
「それに添えられてたコンセプトにも感動したよ。僕も『赤ちゃんとお母さんのための絵本』て、すごいいいと思う。僕も本当はずっと小さい子に読んでもらいたかったんだけど、なぜかお姉さんたちに受けてしまって戸惑っていたんだ。だからこれは僕も是非やりたい」
そう一気にまくし立てると、ほたるさんは天真爛漫に笑った。
本当に天使みたいだ。
「是非やりたいって、担当はなんて言ってるんだ?」
興奮気味のほたるさんと違って、至って冷静な木佐さんが言う。
そう、出版社的には大丈夫なのだろうか?
「僕もね、それは心配してたから僕の方に直接絵を送ってもらったんだけど、さかなちゃんの絵を見た鈴木くん、一瞬黙ったままその絵を見つめて、すぐにそれ持って行っちゃったんだよ。『これでいきましょう』て言って。あ、鈴木くんは僕の担当さんね」
それはつまり・・・。
「文句なくOKてことだよ。もしダメ出しされたら僕、自費出版でもいいから出そうと思ってたんだけど、そんな心配全然いらなかったよ」
その言葉に僕はほっとして力が抜ける。
良かった。僕の絵、採用されたんだ。
「僕が思い描いた世界があんなにも色鮮やかで、キラキラ輝いて、まるで万華鏡の世界みたいだった。赤ちゃんがあの絵を見て、目で追ってくれるのを想像するだけで、僕も幸せになる」
そう言うとほたるさんは僕のふっくらしたお腹をそっと触った。
「さかなちゃんも赤ちゃんに読み聞かせするんでしょ?」
「はい。読むだけならもうしてるんです。お話はいただいてましたから」
実はお話をもらった時から読み聞かせはしていたのだ。
「いいなぁ。僕も赤ちゃん欲しいな。相手を待ってたらもう時間なくなりそうだから、赤ちゃんだけ作ろうかな」
思いもかけない爆弾発言にびっくりしていると、ほたるさんは茶目っ気たっぷりに笑った。
「僕もオメガだよ。さかなちゃん、本当にフェロモンに疎いんだね」
確かにこんなに可愛くて華奢なんだからオメガっぽいよね。
でも普通分かるものなの?
やっぱり僕だけ分からないのかな?
「うん。普通は分かるよ。さかなちゃんからもいい香りがしてるし、アルファとオメガだったらその香りで分かると思う。それで不自由してないんだったらいいけど、僕としてはまだ番ってないオメガがそう無防備でいるのは心配だから、一度ちゃんと診てもらった方がいいと思うよ」
そうなのか。
今まで分からないことが分かってなかったけど、ほたるさんにそう言われると、ちゃんと調べた方がいいのかもしれない。
「今度医師に相談してみます」
「うん。それがいいと思うよ。ところで、この子は好きな人の子?」
と言ってほたるさんは僕のお腹をなでなでする。
61
あなたにおすすめの小説
【完結】運命じゃない香りの、恋
麻田夏与/Kayo Asada
BL
オメガ性のリュカ・レバノンは、王国の第一王子ダイセルが見初めた、彼の運命の番だ。だが、ダイセル王子に無体な真似を働かれ、リュカは婚約の王命を断ろうとする。当然、王宮からの追っ手が来たところで──「そなた、何やら素晴らしい香りをしているな」。その声は、国一番の魔術師兼調香師のマシレ・グラースのものだった。調香師アルファ×不幸めオメガのラブストーリー。
結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった
釦
BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。
にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。
押しても押してもダメそうなので引くことにします
Riley
BL
俺(凪)には愛して止まない幼馴染(紫苑)がいる。
押しても押してもビクともしない余裕の態度に心が折れた。
引いたらダメだと思っても燃え尽きてしまった…。
ちょっと休憩…。会えないと寂しいけど、引くと言ったからには自分からいけない…
【完結】ただのADだった僕が俳優になった話
Toys
BL
《元ADの新人俳優×事務所のトップ俳優》
ADのアルバイトをしている彼方は、突然映画に出演する事になった。
そこから俳優としての道を歩み始めるが、まさかの事件に巻き込まれ殺されかける。
心に傷を負った彼方を、事務所の先輩である響が助け、守ってくれる。
犯人が捕まるまでの不安な日々を、響の過保護なまでの愛が埋めていく。
しかし所属事務所のトップ俳優の隣に立つために自分を磨く彼方は、次々と予期せぬ事に巻き込まれる。
芝居に恋に事件にと180℃違った人生を歩むことになった彼方。
事件を乗り越えた先、二人が辿り着くハッピーエンドとはーー。
すれ違い夫夫は発情期にしか素直になれない
和泉臨音
BL
とある事件をきっかけに大好きなユーグリッドと結婚したレオンだったが、番になった日以来、発情期ですらベッドを共にすることはなかった。ユーグリッドに避けられるのは寂しいが不満はなく、これ以上重荷にならないよう、レオンは受けた恩を返すべく日々の仕事に邁進する。一方、レオンに軽蔑され嫌われていると思っているユーグリッドはなるべくレオンの視界に、記憶に残らないようにレオンを避け続けているのだった。
お互いに嫌われていると誤解して、すれ違う番の話。
===================
美形侯爵長男α×平凡平民Ω。本編24話完結。それ以降は番外編です。
オメガバース設定ですが独自設定もあるのでこの世界のオメガバースはそうなんだな、と思っていただければ。
うそつきΩのとりかえ話譚
沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。
舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。
白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる