【スキル箱庭】無限な時間で、極めろ魔法 ~成り上がり~

杉咲 るい

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1章 脱出編

0話 片腕奴隷の囚人番号"7510506"

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 魔物、人間、その他多くの種族が暮らす世界。

 その世界の中で、人間が暮らす土地の最北端に、この世界最大の奴隷収監場が存在する。


 収監場の名前は、"奴隷の鉱山"。通称"奴隷山"である。


 世界中から集められた人権すらない奴隷達が、絶望と疲労の中で、少ない食料で命を繋ぎながら朝から晩までツルハシ一本で鉱山を、ただひたすらに掘り進める。

 またの名を"地獄"。

 そんな奴隷達の義務は、二つ。

 人間の世界を支える鉱石資源の採掘と紅水晶ローズクオーツと呼ばれるレア鉱石の採掘。

 この奴隷山に投獄された者達は、生涯を終えるまで、その義務のためにこの地で働く事になっている。

 そもそも、ここに集められた奴隷達は、みんながみんな犯罪者や悪人ではない。

 貴族が決めた税金が突然上がった事で払えなくなった村人や農民、貴族の前を横切ってしまった町民等々、様々な理不尽な理由でここに入っている者も多くいる。

 要は、貴族以外の人間はいつでも奴隷となる恐れがある。


 では、なぜ理不尽な理由で投獄された人々や奴隷以外の人間達は、そんな理不尽に反抗しないのか。

 その理由は簡単である。

 まずは、奴隷達だが、投獄の際に看守の持つスキル【強奪】により、スキルを全て奪われ生きる気力を無くしてしまう。

 考えても見てほしい。

 産まれてから共に育ったスキル、一生懸命努力しやっと手に入れ育てたスキル、偶然手に入れた希少性の高いスキル。

 それがある日突然奪われ、手足に枷をつけられ自由を失くし、理不尽な拷問にあう。

 それは、人が生きる気力を無くすのには十分な理由となった。

 反抗しないのではなく、する気が起きないのだ。

 一方の貴族は、奴隷から奪ったスキルや、奴隷達が採掘した紅水晶ローズクオーツを加工した紅スキル玉からスキルの恩恵をもらい、さらに力を強める。

 たまに、ハズレスキル玉と言われる物は、その有用性を調べるという名目で、奴隷達に授けられるものもあるが……まぁそれは余談だ。

 一般市民達は、そんな貴族に手も出せず、貴族の存在にびびっている。

 この構造がある限り、貴族になった存在は、最低限のルールさえ守っていれば好き勝手に生きる事ができるし、逆に貴族以外の下級国民達は、一生貴族の顔色を窺って生きなければならない。

 それがこの世界の常識であり、暗黙のルールであった。


 しかし一部の例外的な貴族が没落し、奴隷落ちするケースが存在する。


 そんな代表的な存在が、囚人番号"7510506"。


 この地より遥か東にあるパラダリア大陸の伯爵家の長男で、10歳になり国王へお目通しの際に、勝手に口を開き国王へ意見したとかなんだとか。
 
 そんな理由で一家共々、責任を負わされ爵位の剥奪と奴隷鉱山行きが決まった哀れな存在である。

 しかも、投獄後も本人は全く反省する様子はなく、終始自分の正当性を論じていたところ、実の父に「お前を殺す」と言われ、襲われたとのこと。

 その際に、止めに入った看守の剣を生身の腕で受けて、片腕切断を余儀なくされたという哀れな存在。

 この噂は、奴隷鉱山内で広く拡がった。

 元貴族というだけで厄介な存在なのに、看守に楯突いているとの事で、『絶対に片腕の男とは関わるな』という噂。

 そんな男は、今日も今日とて残った片腕でツルハシを担ぎ、大きな欠伸をしながら、檻から出てくるのであった。

------

 「ほぁぁあ~、、、あー眠い。あ、おざーっす。」

 「……ッ!?貴様ッ!何度言ったら分かるんだ、おはようございますだッ!!」


-バシンッ

 
 「……ッ!いった~、別に伝わってるんだから固いこと言うなよ~。ってか何かある度、鞭で叩くの勘弁してよ~……」

 「貴様が、何度言ってもちゃんと挨拶しないからだろッ!まぁ良い、貴様と喋ってると腹が立つ。貴様は片腕なんだから、誰よりも早く鉱山に出て採掘に励めッ!ほらッ行けッ!」

 「はいはい、分かりましたよ、行けばいいんでしょ行けば。」

 
 俺の名前は、"囚人番号7510506"。

 10歳の時に国王へ楯突いたとかで、一家揃って奴隷落ちしこの奴隷鉱山へと投獄された、皇都クワルツの元ルイス伯爵家の長男の産まれだ。

 (普通のこと言っただけなのにな~)

 今でもそんな事を思う。

 あの日、伯爵家の領地が管理してるラメール村が盗賊に襲われたと一報を聞き、国王との謁見を優先するという父と揉めた。

 どうしてもという父は、力づくで俺を国王の元へ連れていくもんだから、仕方なく俺は国王に言っただけなのだ。

 『国を支えているのは民であり、貴族ではない。だから今すぐラメール村へ兵を出し、村人達を守りに行かせてくれないか。』と。

 別に兵を貸してくれと言ったわけでも、国王を蔑ろにしたわけでもない。

 それでも、俺の発言に激怒した国王はその場で父を含むルイス伯爵家を不敬罪として、爵位剥奪、奴隷鉱山行きとした。

 父は、その言葉を聞き、国王に何かと言い訳を述べていたが、国王は聞き入れず、すぐに俺たちは、奴隷鉱山行きとなった。

 父も母も泣いていたし、俺を憎悪の目で睨んでいたのが印象的だった。

 爵位に何の興味もないし間違っているのは国王、いや世界のルールだろと、今でも別に反省はしていないが、一つ懸念があるとすれば産まれたばかりの双子の妹と弟だ。

 奴隷鉱山に来た時には居なかったことから、どこかに拾われたか養子にされたか、いまいち現状は分からないが、無事に生きていてほしいと願う物だ。

 まぁ何はともあれ、俺はこの世界が間違っていると思ってるし、奴隷からなんとか脱出できた暁には、世界の常識を変えてやりたいと本気で思っている。

 いるはいるのだが……


 「手が止まってるぞッ!片腕の虫ケラがッ!あるのは威勢だけか!?根性を見せろッ!そして貴族様が望む紅水晶ローズクオーツを出せッ!ほら、手を休めるなッ!」

 
 俺は片腕。
 この奴隷鉱山にきて、また片腕になってから、約6年間過ぎているのだが、どうにも片腕には慣れない。

 そもそも俺の利き腕である右手を切ったのは貴様らだろうと悪態をつきたくなるが、言ったところでこいつらには響かないだろうからグッと我慢し、ツルハシを左手で再度強く、握りしめ、振り下ろす。

-カーンッ

 俺は無心で振り下ろす。

-カーンッ

 とにかく無心で。

-カーンッ

 疲労しているから手を休めろと脳が指示を出しているが、聞こえてない、聞こえてない。

-カーンッゴリッ

 なんか後ろで看守が騒ぎ始めたが、無心で無心……で?


 「おいッ!手を止めろと言ってるのが分からないのかッ!」

 
 俺は看守に後ろから羽交い締めされ無理矢理手を止めせられた。
 
 手を動かせと言ったり手を止めろと言われたり、本当に騒がしい看守だ。

 俺はギロリと看守を睨むが、看守は何故か笑顔を俺に向け口を開いた。

 
 「おい、これを見ろッ!紅水晶ローズクオーツだッ!」
 
 
 なんとまぁ。

 無心すぎて、気が付かなかったが看守の手に持たれていた赤色のキラキラと輝く宝石の様な塊をみて、俺は息を呑んだ--





 「来たか、入れ。」

 「はっ!失礼します。」

 「ども。」


 時間は夜。採掘が終わり、普通ならもう休む時間に俺は今看守長の部屋へと呼ばれている。

 俺の入室挨拶がダメだったのか、俺を連れてきた看守が俺に対して隣で怒鳴っているが、もはや耳の近くで飛び回るハエの音の如く鬱陶しいだけなので無視している。

 それよりも、看守長と呼ばれている目の前に座っているこの男の方に興味が湧く。

 看守服の上からでも分かるほど鍛え上げられた肉体と、帽子の下から覗く、金色に輝く鋭い眼光。

 なんか、かなり怖そうだ。
 その男は、俺の態度を見てなのか、笑みを浮かべ立ち上がる。

 立ち上がると俺よりも身長は低い様だが、何故か巨大な猛獣が目の前にいるような錯覚を覚える。

 若干寒気を覚えるような冷たい笑みを浮かべながら、看守長は俺の前まで来ると、突然俺の腹に衝撃が走り、目の前に床が見えた。


 「……ッグッッ!?カッハッッッ……」


 どうやら俺はいつの間にか床に倒れているようだ。
 それにみぞおちを殴られた事で、息ができなくなっている。

 ジタバタともがく俺の頭に手が置かれ、髪を掴まれ上半身だけ持ち上げられた。謂わば海老反りの姿勢だ。

 
 「俺の名前はペルラン。この奴隷鉱山第20区~第40区の奴隷達と奴隷達を働かせる看守達を取り纏めている、看守長だ。この意味が分かるな?言わば貴様の上司のような存在だ。貴様が、どこの貴族の生まれでどんな思想を持っているのか等興味はないが、どこの世界でも上司にはそれなりの態度で接するのが常識だろ?」

 「……ガハッ、ゴホッゴホッ……はぁはぁ。……はい……すみませんでした……。」


 このままでは殺される、俺はそう思いとりあえずこの場をやり過ごすため敬語を使い接する事にした。


 「……フンッ、出来るじゃないか。そうだ、それでいい。……フンッ」


-ブンッドンッ


 「……ッガハッ!?ウゥゥゥ……」

 
 俺は再度腹部をフルスイングで蹴られ、その勢いで背中を壁に打ち付けた。
 

 「お前ら、看守も看守だ。奴隷の心を折り、働かせるのがお前らの仕事だろう。言う事を聞かないのであれば、武力を持って奴隷を痛めつけ、何がなんでも言う事を聞かせろ。それが出来ないのであれば、お前らもこいつらと同じ扱いを受ける事になるぞ?」

 「はっ!」

 「そこで寝転がってる奴隷。貴様も、いつまでも痛がってないで早く立て。これは指示でははなく命令だ。」


 俺はその言葉に少しの苛立ちを覚えながら腹部の痛みを我慢し立ち上がる。
 とは言っても絶対に表情には出さない。俺だって痛いのは嫌なんだ。

 (でも。こいつ……こいつは、いつか必ず復習してやる。地獄の果てまで追いかけて今と同じような事を絶対仕返ししてやる。うん、今決めた、顔は覚えたからな。)

 
 「よし。それでいい。随分本題に入るまでに時間が経ってしまったが、本題に戻る。貴様を呼んだのは今朝貴様が採掘した紅水晶ローズクオーツについて加工が終わった事で、スキルが判明したからだ。」


 どうやら俺の表情は隠せていた様だ。
 その事に少しホッとする。

 自分の心の中でもう1人の自分が、ホッとするくらいならそんな事するなとツッコミを入れるが、気にしない。

 もう、スキル判明したのか?でも、紅水晶ローズクオーツのスキルが判明したからなんなんだ?貴族にそのまま持ってかれるんだろ?俺には関係ないはずなのに……何故俺を呼ぶ?

 頭にはハテナが浮かぶが、また腹パンが来たら鬱陶しいので、表情には出さないように気をつけながら次の言葉を待つ。

 
 「紅水晶ローズクオーツは、スキル玉に加工すると紅スキル玉となりスキルが判明する。通常、紅スキル玉はレアスキルが多いから、すぐに貴族へのオークションに掛けられるのは、元貴族なら分かるな?」


 元貴族だから、そんなのはわかるよ、分かってるよ。だからなんなんだ。


 「……が。紅水晶ローズクオーツからできた紅スキル玉は制限があってな。一度取得すると外せない、そして1人2つまでしかその恩恵を受けることは出来ない。そのため、貴族達も慎重に選ぶものなんだ。」


 知ってるわっ!でもどんなスキルであれ、レアスキルなのであれば、どこぞの物好き貴族が欲するかもしれないだろ?オークションでも何でも掛けやがれ。


 「その顔を見る限り元貴族なのに、まだ状況が掴めないか?……フッ。勉強不足か?まぁいい説明してやろう。今回判明した紅スキル玉のスキルは『箱庭Lv1』。誰も欲しがらない数少ないハズレスキルだ。では、これはどうすると思う?」

 
 段々とこの看守長の意図が掴めてきた気がする……。


 「この後の展開が読めてきたようだな。そうだ。貴様ら奴隷は、人権のない人間の虫ケラ。このハズレスキルと呼ばれるスキルを与えてやる代わりに、その有用性を生涯かけて見出し、このスキルの価値を上げてもらう。そうすれば、また一つ、この世界に有用なスキルが増えるだろ?要は、人間の更なる進化のための最初の一歩を踏み出す存在になれる。貴様ら奴隷にとっては、またとないチャンスって事だ。」


 こいつ、俺を人体実験の代わりに使うってことか……
 でも、もし。もしこのスキルの有用性が分かれば確かにこいつの言う通りチャンスなのかもしれない。脱獄の。


 「覚悟は決まったようだな。よし。ではこれから授けよう。このスキルの有用性を示す事が出来れば、貴様は晴れて開放となる(永遠のな)。時間を惜しむ事なく励めよ。」

 
 それだけ伝えると、どこかでタイミングを見計らっていたのか、看守達がぞろぞろと看守長室に入ってくる。

 そのうちの1人の看守が小さな宝箱のようなものを抱えており、俺の前までやってくる。

 そして、俺の前で止まると宝箱を開けた。

 宝箱の中には、薄い赤色をした水晶の様な玉が、白い布に囲まれるような形で入っている。

 大きさは拳一個分くらい。

 俺は、そのスキル玉を看守に言われるがまま、片手で持ち自分の胸の前へと持ってくる。

 周りの看守どもがニヤニヤと笑みを浮かべているのを横目に、俺はその紅スキル玉を自分の胸へと近づける。

 そして、その紅スキル玉は俺の皮膚なんて元々なかったかのようにすんなりと、俺胸の中へと吸い込まれていった。

 これが、俺と【スキル:箱庭(Lv1)】との出会いだった--
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