Condense Nation

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1章 オキナワ編

第3話  通信戦略国

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オキナワCN 拠点

「ここが拠点内部か」

 タツキは白い直方体の通路を見ている。
先で寝起きからの話の通り、2人に中を案内されて歩き回っていた。
かつて画面で見せられた通りの外装で、あまり変化はないが
仕様は全て把握しているわけではない。
オキナワの設備は他をいっする仕様で造られているからだ。

「間近で見てもシンプルな外装なんだよな。
 中は竹で編んだ冊子さっしや観葉植物もよく置いてあって、
 軍事色に思えない外装もあったり」
はね、オキナワの垣根かきねは思うくらい
 シンプルじゃないってのはあんたも知ってるわよね?」
「画像、動画だけでね。ここに来るまでが俺の世界はあそこだけだった」
「実物は聞くより見た方がよっぽどためになるわな。
 んじゃ、まずはアレを見せてやる!」
「アレ?」
「お前にとっちゃ、なおさら覚えておくべきモノだ。
 内職在宅ワークよろしく、今後のためのアレをだ!」

セリオが変な言い方で設備の内容を進める。
覚えておくべきモノ、このCNならではの特徴で立ち回れと
メグが懐から何かの子機を取り出して、シャッター側にある壁の
光っているパネルに向けて操作した。すると。

ピッ ヴイイイイイイン

「扉が開いた?」
「出撃用ガレージね、動かせるのはそこだけじゃないわ。
 屋上までついてきて」

これはただの開放ゲートで、本腰は次の場所からだという。


 次は拠点屋上へ案内される。
約30mの高さはある少しだけ見渡しの良い場所での規格を披露ひろうされる。
大半は屋根がないから火傷をしないように階段側の日影を見つけ、
そこにとどまってから彼女の動作を見つめると。

ヴイイイン

床の下からフェンスが突き上がってきた。
建築物端から1mの高さで飛び出す様は突然現れたようだ。
状態はそれだけだが、いわゆる身を隠す場所として扱う。

「カバーポイントか、でも始めから立てればいいんじゃ?」
「まだまだあるぜ!」

さらに操作を続ける、床からさらに速射砲がせり出してきた。
細長い箱状と思いきや、幾何学きかがく的な変形をして砲台の形になる。
実にコンパクトな仕様だ。

「攻撃用発動機はあるわ、さらに」

ヴイイイイン  ブルルルル

狙撃型の発動機と黄土色の網目模様をしたライオットギアが現れた。
あたかも何も無さそうな壁から穴が開いてレーンに変形し、
発動機が数機上空に飛び出して周囲を回っている。
ロボットタイプも無線でコントロールしている理由は当然、
このエリアそのものが何よりの答えだからだ。

「陸に上がって改めて構造の意味が分かってくる。
 だから、オキナワは無線で起動させる設備が多く整っているんだな」
「さっきの答えは敵の不意を突かせるためだ!
 一見、何もない所から現れて驚かせる。
 障害物が少ないここだからこその新障害物だ」
「これがオキナワ唯一の特技、シーサーか」

正方形や長方形の箱の複雑で滑らかな動きを目に、名称を言う。
シーサー、建設物の外壁を幾何学きかがく的に動かして武装化。
古来から伝わる技術はここらしく補う物で、今まで場を保ってきた。
こことは地形情報ゆえで、彼女が詳しく説明する。

「それだけじゃなく、オキナワで無線が発達したのも理由があるわ。
 ここが孤島だからよ」

メグの言う理由はコスギ司令が言っていたのと同じだ。
ここは全て海に囲まれた1つの島だから、
有線の設備などはそうそう設置することなどできない。
ケーブルなど切断されたら終わりで、囲われるように攻められたら
状況が一斉に悪化して詰みとなる。
本当なら昔はもっと様々な兵装があったと言われているが、
何が起きたのか、A.Dとよばれる経年変化でそうなったという。

「昔は戦艦もたくさんあったって聞いたな。
 でも、天主殻に止められたり、他地方で大破されたり、
 今になるまで無くなっていったらしいんだと」
「300mも長い船とかあったってスゴイわよね。
 私のおばあちゃんも操縦した事あるんだって」
「「俺の先祖、みんな内地・・・」」

セリオはガッカリ。それはともかく、様々な出来事でしのぎを削って
コンパクト化しつつA.D100年の現在を送る。
幸い海中での活動は今でも行えて資源回収も難なく採れる。
よって潜水艇も多く、連携しつつも多方に展開するには
無線技術を発達させなければならなかった。
自分は腰に手を置いてオキナワの在り方に目を閉じる。

「やっぱり話通りだな、たくさんの機械を造っては作り直したり
 苦労しながら色んな出来事があったんだ、地上の世界っていうのは」
「こんな海ばっかなとこじゃ、敵さんに丸見えで
 縦横無尽に暴れて下さいと言ってるようなもんだ」
「仲間どうし、お互い離れた所で連携をとるためには
 無線技術を発達させるのが一番よね」
「それで問題を抱えてるのは電波障害なわけだ」
「周波数帯域が混ざっちゃって、すぐに切れちゃうし。
 潜水艇での誤作動は命取りだからね」
「潜水艇だけは無線の設定が違うんだよなー。
 お前なら、なんか教わってるんだろ?」
「ああ、モールス信号だ」

モールス信号、一定音を点と線の様なリズムで言葉を伝える方法だ。
無線で代表的なヘッドセットの周波数帯域と混ざらない、
かつ敵兵による電波傍受をされないよう、別の信号を設定している。
工作兵なら必ず習う分野ではあるけど、自分もすでに習得済みだ。

「あたしも習ってたわよ!
 セリオは衛生兵だから必須項目じゃないでしょ」
「あーそうだな。で、その潜水艇がなんだか最近騒がしいんだって?」
「海底基地が?」
「あんた知らなかったの? 海底基地に滞在してる複数の
 潜水艇が妙な電波を傍受したらしいって」

オキナワ海域周辺で奇怪な電波を傍受ぼうじゅする事件が相次いでいた。
話によると、それは突然出身元が分からない場所から着信が入り込み、
モールス信号形式であるが別の音波で伝わってきたものらしい。
内容は共通点のない文字や、動力発生源なのかどんな原理も分からない
まるで亡者のうめき声のような音が聴こえてきたという。
自分が海底基地を出た直後に起きた出来事だから知らなかった。

「俺が気絶して半日くらいから起きたんだって?」
「みたい、最初は1隻だけだったけど、
 次第に電波を傍受する艦の数が増してきたんだって」
「だからっつって、こっちに危害を加える様子もないようで、
 わけわかんねーよな」
「モールス信号を借りた別の音波信号なのか? 一体何者なんだ?」

敵性CNによる攪乱かくらんの可能性も考えたが、電波技術の規格外で
そんな奇妙な音波のする戦艦など今まで耳を傾けた事もない。
少なくとも九州CNでは潜水艇の造りは共通で、シーサー以外の設備は
向こうとほとんど同じ仕様。
コウシ先生とヒサシ隊長がカゴシマCNへ行った事と関係はあるのだろうか。
すぐにでも助っ人に向かいたいが、今はどうしようもない。
上から指示が来るのを待ち続けるのみだ。

 (あー、早く活躍したい・・・)

その後も、火傷を負わないように光を避けながら歩き回る。
海だけでなく、地上世界にも不思議なものはたくさんあるが
自分の身体もここまで常識外なのが意外だった。
オキナワの優れたコンパクトな設備と同様かどうかはともかく、
気持ちもなんだか内側に収縮されがちだ。
いつまでここでやっていけるだろうか。
まるで暑い空気にまとわれて先の仕打ちに身が警戒したくなるが、
狭き世界より、活動範囲への憧れもふつふつと増していく。
今日も太陽の陽射しは強い。
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