Condense Nation

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2章 関西統一編

第5話  浮遊板

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カゴシマCN拠点 演習場

 マサキ達はカゴシマにいた。
今日はある物の完成報告と配布のために呼び出されて、
ミキやケンジ、エイミーや現地人のシゲと集まって期待を膨らませていた。
理由はあのエリアルボード、小型ビークルがようやく実用化の段階まで
達して兵達に乗らせる機会がようやく訪れたからである。

「陸上行動を中心に使っていくんだ?」
「らしいわ、あれって平地用のために造ったみたいで、
 ちょっと思ってたのと違うけど、高山の所は事故を考えて
 一応こっちで乗るんだって」

ミキが事前に聞いた内容を言う。
CNが配布するあのビークルは今こそ実用化するとはいえ、
どこでも有効的に乗れる物ではないようだ。
敵性から拝借してきた物をすぐに扱うなんて上手くいかないと思うところ、
続きを聞く前に九州の主がアナウンスを始める。

「皆の者、よくぞ集まってくれた!
 これより九州は新たなる支えをここに宣言するッ!!」

イイダ司令が実に大きく宣言。
もちろんこの人が造ったわけじゃないのは知っている。
自分は一度見ていたから仕様はだいたい分かっていた。
新たな支えは確かに当たっている。
これから本格的に増産する予定だという。
といっても、さすがに全九州兵を集められない。
今日は若者兵の自分達に試し乗りさせようと練習させるつもりだ。
CN別に呼ばないのは御都合としておく。
興味深々きょうみしんしんさはもちろん、この場にいる人達全員も一緒。
新しい物へのあこがれは若ければ大きくなるのが当然だから。


「では、エリアルボードの使用方法を説明します。
 えー、まずはここにスイッチがあり・・・押します!」

技術班の人がボード横のスイッチに手を触れる。
この人もなんだか慣れていないのか、サラッと手本を示す。
すると、音もなくそれは少しずつ上昇。

フウウゥゥッ

「「マジで浮いてるぞ・・・」」
「「ホントに乗れるのか?」」

地面から30cmくらい浮き出して留まる。
見た感じ、前とほとんど同じでやっぱり高く飛びそうになく、
ミキの言う通り、あくまでも地上円滑行動のために扱う型のようだ。

「ただし、長い坂道や高所には登れないので注意して下さい」

技術班が答えをさらりと言う。
反重力という割には高く上がれないようだ。
安全性や動力源の馬力か、これより空は飛べないらしい。
そこを抜いても画期的備品なのは間違いないけど、
ボードは数百個あって、今日は全員乗れるようだ。
急ごしらえにたくさん造ってもらえた。
メンバー達が乗り始め、それぞれのパフォーマンス(?)を見せる。

「わわっ、フラフラしちゃいますぅ!」
「姿勢は真っ直ぐにした方が良いぞ、風抵抗で少し腰を低くして」
「シゲさん、上手!」
「オキナワであいつらからサーフィン教わってたくらいだしな。
 波に比べればこっちはまだ安定してる」

こんな楽しい訓練なら、毎日やっても良いくらいだろうけど、
同じ事を繰り返すのも楽ではない。
そんな光景を観る状況通り、自分はまだ乗っていない、
出番がくるまで眺めていた時。


「おれ、これのる」
「おわ、Z!?」

カゴシマ兵Zとよばれる大男がやってきて乗りかかった。
ここで最も巨漢のモブ兵もうれしそうにボードを使う。
が、やっぱり普通に体を支えて移動している。
体重100kgまでなら移動は可能らしい。
犬達と一緒に乗れる件はどうなったのか。
検査でオルンの体重は20kg、
自分は62kgだから他の皆も大丈夫だろう。
どんな仕組みで浮いているのかちょっとは気になった。
そこで一休憩していたエイミーが思った事を口にする。

「う~ん、確かにすごいといえばすごいです。
 フクオカでも、こんな技術なんて歴史でもなかったですし」
「元から九州にあった物じゃないって聞いてたね。
 中つ国の技術を採用したってコウシ先生が言ってた」
「そうでしたか・・・ちょっと思ってたんですけど、
 なぜ、あそこだけ反重力なんて物を造れたんでしょうか?」
「元からそういう技術者がいたからでしょ?」
「でも、他の地方はプロペラだったり噴射で飛んだりするビークルが
 あったりします。なんというか・・・規格がこんなにバラけて
 やたら独立すぎる気がしたので」
「地方別ならたいてい技術もバラけるもんじゃ?」
「う~ん、バラけ方がなんだか変に思いました。
 A.Dが生まれたのは100年前で、その前まではこんな島国で
 一緒に生きていてすぐに性能差が分かれたりするのかなって。
 詳しくはそれ以上・・・あ~ん、こ、言葉がぁ」
「あ~・・・そんな感じもあるかも」

彼女は独自規格の発達が急すぎると言う。
エンジンなんて代物は普通、急に造れるものじゃない。
つまり、一種類の動力源こそ経済にふさわしく統一できる要素で、
たった100年くらいで複数種類に分けられるのかと言いたいようだ。
証拠はないものの、毎度の考察が常識を揺らしにくる。
この人のオトボケは見たままで、中身は絶対に別物と思う。
今の時代を生きる人にとってはただの発展としか思えないけど。

(オルンだって同じかもしれないな)

超技術ならこの子も大概たいがい
世間にひっそりと含まれていた機械型もいるくらいだから、
もう何がどこにいても有りアリなんだろう。
まだどこかで知らない文明が見え隠れしているのだろうか。
エリアルボードも他地方の一角でたまたま九州へ流れただけ。
しかし、今日はまだ話があるらしい。
内容は自分達、犬兵団の側についての仕様だ。

「次に、こちらは別規格を用意しています。
 犬兵団用ですが、ワンちゃんを隣に乗せる補助ボードも作成しました。
 が、一般兵生産を優先していて技術者不足もあり、
 今は1つしか完成していません」
「え、そうなんですか?」

やっぱり補助用も造ってくれてたようで、自分達専用と思いきや
1つだけしか用意できなかったという。
犬兵団、筆頭のミキが試すのが当然のはずだが、
話はUターンするようにこっちへ回ってきた。


「マサキ、あんたが試してみなさい!」
「僕が!?」

彼女は代わりに乗るよう指示。
自分がまだ乗っていなかったからそうさせたのかもしれない。

「それに、オルンが一番重いんだからきちんと乗れるのか
 確かめる機会じゃない」
「ま、まあ、そうだけどさ・・・」

機械を乗せる機会なんて、ここでしか使えない言葉。
とにかく、これで平地での行動が素早く起こせるようになった。
たかが移動、そう思うかもしれない。
でも、活動において大きな一歩で小回りの自分達がさらにおまわりする
九州で防人さきもりの形が変わったはず。

(オキナワのサーフボードみたいな形だ。
 転ばないように乗れるかどうか、まずはそこから)

ボードに足を置いて安定さを確かめる。
オルンも機械ゆえにすんなりと理解して横に乗る。
どちらも無事に乗れてた。
まるで見えない塊、空気が下で持ち上げている感じがして
噴射してるわけでもないのに音もなく重力に逆らっている。
オルンも四つ足できちんと座り込む。
メカでも今まで通りのコンビ、共に行動するだけ。

「本当に浮いている・・・僕は支えられているんだ」

こうしてまた1つ未知を超えたものが加わった。
消えてゆく出来事に対して、また新たな出来事にも守られてゆくだろう。
ただの技術だけじゃなく、この子と共に。
これより九州で新しく支えがやってくる。
自分達のラボリはこれからだ。

「よし、行くぞ、オルン!」
「ワンッ!」

フィイイイィィィン










この後、600m先で一度転倒した。
サーフィンは不得意なのはほとんど話した事がない。
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