Condense Nation

文字の大きさ
上 下
143 / 280
2章 関西統一編

第6話  パッシェンバック

しおりを挟む
キョウトCN東丹後エリア 港

 近畿西部の沿岸に30隻の艇が並んでいく。
周辺に近江の精鋭が結集、出陣の準備を進めてていた。
そんな中にいる巧兵こうへい、アイザックは見慣れた兵士達に声をかける。

「よお、あの時以来だな」
「こんにちは、キョウト兵さん」
「また会ったな」
「今回はこの兄さんとか」

シズル、ミツルギ、シンヤ、大会で競い合った強豪相手が面々。
今回の作戦では共に行動する分隊同士だ。
口調は穏やかながらも鋭い視線は自分に向けられていた。
当人もこれ程の顔触れで通常のラボリでないおもむきに察知する。

「なるほどな、こんな面子で向かうというのは
 相当な価値がトットリにあるって訳だろ?」
「でしょうね、今回の作戦の詳細はわたくし達も聞かされてないの」
「なんだって?
 精鋭でも詳細を知らないとは、まるで蚊帳かやの外だな」

オオサカのメンバー達もこの作戦の理由は知らないようだ。
ヤエから聞いた金の資源を回収しに向かう理由は何なのか。

「ただ、資源を奪い取りにいくってだけの話だろ。
 下は上の命令にただ従っていれば良い、組織ってなそんなもんだわ」
「己の心を殺して資源ランクの高い金盗り物語に励むかー。
 ずいぶんと殊勝しゅしょうなことで」
「個人間の情で組織、国なんて動かせないぞ。
 ただ、今日を終えるために俺達はただ上の方針に黙って従うだけだ。
 そして今回は――」
「そろそろ出陣や」

ザッ

後ろから声が聴こえた男の声で隊列が直されてゆく。
オオサカ第1部隊長ギンジ。
彼も今回の作戦の1人、いやオオサカのかなめとなる人物だ。
自分も当然、この男をよく知っていた。
実力は近畿で右に出る者はなく、武具大会ですら出場せずに
観戦を決め込んでいた程だ。しかも、あのキンイチ司令の弟で
今回の詳細について何か知っているだろうと聞くべく
堂々と突っかかっていく。

「この作戦の指揮はあんたか、指令部からなんの――」


スッ

「!?」

刀を突きつけられた。
静かに、ぶれないその刃は自分の顔面をしっかりと捉えている。

「その刃・・・向ける相手が違うんじゃないですかい?」
「精査は無用じゃ・・・キョウトモン。ワシらの邪魔だけはすんなや」

一言のみで、現場へと歩いて行った。
以前とは全く態度や風貌ふうぼうも異なるそれで、
すぐにでも戦闘するように先陣切って目的地へ向かう。
後ろにいた者達も無言でそそくさと追っていく。
分隊メンバー3人を引き連れて持ち場へ帰らせる。
共同とは言い難い態度に、キョウト兵達は静かに眺めていた。

「「すごい威圧感だ・・・」」
「「あいつらの邪魔をしないように動こうぜ」」
「・・・・・・」


トットリCN トットリエリア鉱山

「こちら第1部隊、鉱山に到着。指示を待つ」
「「了解、その場で待機。見つけ次第敵兵を迎撃」」

 対するトットリは、オオサカ兵に備えてすでに迎撃準備。
今回、シーナ率いる第1部隊は砂浜ではなく少し離れた山岳地帯で
迎える作戦に変えていた。というのは、偵察兵(オカヤマ協力)報告で
中規模の近江兵の姿が確認されて今にいたる。
で、元オカヤマ縁で横にはさらに中つ国のお巡り部隊もいるのだが。

「うーん」

という唸り声を側にいたケイが発声。
どういうシナリオか、中つ国山地部隊が援護役としてここにいる。
場数を踏んでこいと言わんばかりに、
アイ司令に行ってこいと出張措置をとられた。
一方で防衛側の準備は終わり、いつでも来いとばかりの待ち伏せ。
ただ、1人は退屈そうでシーナに頼み事をしてきた。

「「迫撃砲撃ちたい」」
「ダメ」
「さらっとスゴイこと言うな」

どうこうやり取りする内に敵影反応の知らせが来た。
相手はやはりオオサカ兵で鋭い刀を装備した兵士が横一直線で向かってくる。

「この広い砂丘だ、すぐ狙撃の的に――」
「いや、近江の連中はそう簡単にはいかない。
 得物がそこいらとは違うんだ」
「あ、そうか!」

オオサカ兵の並列陣形を見て、思い返された。
弾掃き部隊、奴らは銃弾が当たらぬ刀を持つ事で有名だ。
トウモロコシを加熱させて飛ばしてもノーダメージ。
金属のり所を困らせる相手であった。


トットリCN トットリ砂丘外周

 一方でアイザック分隊はトットリCN端に潜入。
言われた通り、オオサカ兵の邪魔をしないよう国境付近まで足を着けた。
場所が場所だけあって人兵はほとんどいない。
接近での戦いを御所望、と一歩踏み出す最中に砂浜部を意識して言い放つ。

「・・・・・・下だ!」

ズボッ

砂丘の下から円盤発動機が飛び出してきた。
刃を回転させながら、近江兵に向かって突っ込んでくる。
これは近江にとってすでに熟知。
偵察部隊が狙撃して進路をつくろうと破壊しにいく。

ズドン パァン

「キョウト兵、側面に回って展開せい!」
 (んだよ、自分らが行きてえからか)

あくまでもポジションを譲ろうとしないオオサカ兵達の作戦に
自分は苛立ちを見せたが、わずかな冷静さで理由があると判定。
その瞬間を転換期に変えるタイミングを図ろうとする。
わば囮。
前のめりにこだわる者達に盾役として任せようと案じた。

「下がれ、近畿の御命令通り横から行くぞ!」

正面はオオサカ兵の陣中に任せ、キョウト兵は迂回して
隙を見つけて侵攻するルートにでた。


トットリエリア 鉱山頂上

 場所は変わり、ケイの視点。

 (40口径までの弾は全部逸らされるんだろ、これなら・・・)

対するトットリ側はオオサカ兵を封じる策に打って出る。
ケイもなんとかしてこちらに来させないように範囲武器である
多目的火器を準備させ、ドラゴンフライの引き金をひき
大将らしいオオサカ兵に向かって撃ち出す。

「これでもくらえ!」

弾先は銀髪の中年兵に向かっていく。
だが、発射音で気付いた男は飛翔体で狙われていると気付き、
見定めて刀を上にあげ、真下へと振り下ろした。

「シュッ!」

キンッ        スパッ

「いいっ!?」

弾が真っ二つに分かれた。
男の一振りでドラゴンフライから放った楕円の塊は
端から端まできれいに切り落とされた。

「弾を・・・切った?」

ヒロシマモブ兵も常識外れに真顔とした表情をつらねる。
爆発前に終わり、オオサカの剣技を見せられ続けていた。


トットリエリア鉱山 外周地帯

 さり気なくそれを観ていたアイザックだが、好機と言わんばかり
自軍の攻撃タイミングをうかがっていた。

「じゃ、例の作戦いくぜ。構え!」

指示と同時にキョウト兵がチェリービーを構える。
同じくそれを手に取った彼も時を待った。そして。

「発射!」

バシュッ バシュッ ペタッ    ボンッ

「爆発!?」

粘着性のある球が飛んできた。それが物に付いた途端に爆発する。
まさに桜餅を飛ばしている様な光景だ。

「かっ、コイツくっついてくる!?」
「古き良きキョウトの花をこしらえたモンだ。遠慮なく受け取りな!」

時間差で炸裂するその攻撃法にたじろぐ中つ国兵達。
一見優勢に整ったかに思った次の瞬間だ。

ブウウゥン

「!?」

目の前に機体が飛びかかってきた。
200mから一瞬にして間合いを詰めて前方から現れたのは
数mの羽を震わせた聞き覚えのある物体だ。

「グラスホッパーか!」

シマネCNからの刺客も訪れていた。
その滑空機から繰り出すブレードを受けそうになる。
だが、その横には。

「はっ!」

ゴスン

「ぐぬうっ!?」

シズル率いるシガ兵達にサポートされた。
アイアンブルとよばれる大槌おおづちを叩きつけてライオットギアを
破壊する彼女にチェリービーを再装填する時間を与えてもらう。

「今の内に整えて!」
「はいよ!」

自分はマガジン部分を見る。
餅とよばれるその弾薬が思いのほか減っているのに気づく。
やむ追えず、作戦を一部変更する方に打って出た。

「餅の充填に時間食うぜ、近接に切り替えー!」
「それで良くて!?
 あのトットリでしてよ!?」
「なんとかなるわ!
 俺も近接にゃ、ちっとはできるんで! お前らやるぞ!」
「えぇ~!?」

雰囲気にまるめ込まれた自分は方向転換に出る。
賑やかさを優先するべく近付き戦法を取り始めた。


 それを観ていたトットリ兵は見逃していなかった。
弾薬が無くなったと判断して懐から出した近接武器を観て笑う。
シーナが攻め入るチャンスとばかり、味方に指示を変更する。

「なら、接近に持ち込むよ!
 オカヤマのあんたらは鉱山を守ってな!」
「大丈夫なのか?」
「近接戦闘なら本業だけに負けやしないぜ!
 俺らは行くからこっちは頼んだぞ!!」

トットリ兵が一斉に飛び出していく。
功を取ろうとばかり猛スピードでオオサカ兵の陣形を崩しに向かったが、
それも見越していたギンジは陣形選択を変え直す。

「シズルはキョウトの横に付けや!
 ミツ、シンヤの援護ぬかるなや!!」
「「はい!」」
「了承!」

シンヤは槍先を視界の中心に合わせて静止。
目前にはトットリ兵が3人迫ってくる。
グルカバーンの刃先をフラフラさせてフェイントを狙うものの。

「よっ!」
「なにっ!?」

槍先を回して、グルカバーンの刃の向きを上にする。
反動でトットリ兵の態勢が傾いた。
残りの2人は別のオオサカ兵を相手取ろうとしたところ、
隊長格の男を発見。近江最高峰の者だとすぐに分かり奮起する。

「オオサカの銀だ!」
「功績はもらったあああああ!」
「すうっ」

ギンジはわずかな呼吸後に刃を一度さやに収め、
腰を深く降ろして間合いを見つめ続けた、そして。


ビリッ―ズバババッ

「え・・・・あばばばっ!?」

剣を振った軌道にスパークエフェクト、
電気が破裂したかのような摩擦が発生し、ギンジは刀を横に振った。
ミツルギ、シンヤは口に出さず、技の骨頂を関心する。

 (帯電をショートさせた2m範囲にわたる感電斬り。
 あの人だけが会得している・・・司令もか)
 (目にも留まらぬ速さで摩擦を擦り活かしている。
 やっぱ、この人だけは別格だわな・・・あ、司令もか)

オオサカ兵のTOPの兵達ですらも人目おかれるくらいだ。
隊長の側にいる者ほど深く理解できる光景なのだろう。


 (あの変なひっつく爆弾が厄介だ、キョウトからやるか)

 一方でシーナは妙な新兵器部隊を制圧する作戦に出る。
緑のジャケットを着た兵が指揮者か、そいつを狙って走っていった。

「はああああっ!」
「ふんっ!」

ガキンッ

小剣と槍、伸びた槍の横をすり抜けていく。
と見せかけて、槍を腕で挟み込む彼女。
45kgプラスされた重さを持ち上げた男は相手に語る。

「良い腕してるじゃねーか、お嬢ちゃん!」
「あんたの視線のフェイントもなかなかじゃない!」

トットリとオオサカによる対等なる混戦が入り混じる。
状況は以前と比べて依然と平衡へいこうを長引かせていた。


30分後

「鉱山に数人入ってきた!?」

 背後からサポートするケイ達は、ただ優勢に向かうのを願うのみだった。
が、どういうわけか別方向からも侵入されたようだ。
言われた通りに待機していたケイ分隊に、トットリのプラムから連絡が来る。
オオサカ兵がここに来るらしい。

「「別ルートから侵入した新たな小規模の敵影がある。対処して」」
「隙を付かれたのか・・・」

周りには自分の分隊を含めて5チーム。
約40人の少数で抑えなければならない。
やはり、おいそれと全てトットリに任せるわけにもいかない。
初めての敵性との戦いをここで始まろうとしていた。


 一方、セン率いるオオサカ兵も鉱山の方に向かっていた。
ヤエの情報により、金の採掘場所を特定されていたのだ。

「こんなにも早く、ターゲットの場所が分かるとはな。
 さっすがヤエ姉じゃん!」
「戦闘に紛れて奥深くの偵察をしてきたんだろうな。
 どさくさ紛れに得意だしな、あの人は」

山が見えてきた、通信より金の鉱山で間違いないようだ。
急な斜面もなくそのまま上に駆け上がり、入口へ入っていく。

「来たぞ!」
「あいつらに銃は効きにくい、スニークアタックで迎え撃つ」

内部の壁後ろで待ち伏せする。
自分は隠れて奇襲をかける作戦にでた。

「誰もいねーな、一気にちょうだいしようぜー!」
「おい、待て!」
「あんだよ?」

確認できたのはオオサカ兵2人。
相手が少数なら十分対処できると見込んだ。
偵察兵だからといってすくんでばかりではめられる。
星団仕込みマナミだけのCQCをお見舞いしてやろうと飛び出した瞬間。

「はあっ!」
「うおっ!?」










ガツッ チーン

「はうっ!」

勢い余って漸萬の柄頭つかがしらがケイの股関にヒット、
急に後ろを向いたライリーに接近した拍子でぶつかった。
こっちは玉を打ってしまう。
ここは誰の視点なのか定かではないものの、
不意にし現れたライリーの横からさらにヒロシマ兵が援護する。

「ライリー、下がれ!」

ビリッ

「ごあっ!?」

オオサカ兵の電磁刀から放たれた光で眩しくなる。
薄暗い洞穴で視界が悪く、混戦になりがちだ。
メンバーのヒロシマモブ兵の視線から、また出だしにしくじったと推測。
腰が後ろに引けたケイがなけなしに来るなと叫ぶ。

「ここから出ていけ!」
「わりーけど、こっちも任務だしな。悪く思うなよ!」
「き、金を狙いにきたんだろ、そうはさせないぞ!」
「・・・・・」

ケイの防衛に対してセンは沈黙。
金を奪いにきた事を気付かれているようだが、
どういう訳か何も言わずに舞䢮を構え続けている。
しかし、次の発言で状況が一転した。

「金はここの生命線、お前達の物になんか――!」
「馬鹿野郎!」
「!?」

いきなりセンは怒鳴りだした。
狭い戦闘は急全と静かな空気になる。
次に外から轟音ごうおんが鳴り響いた。

「迫撃砲投下」

ドゴン

プラムの指示で鉱山に向かって砲撃支援とはいえない爆撃が行われていた。
もう1人のオペレーターが不安そうに状況を伝える。

「「あのー、ヒロシマ兵がまだ鉱山に・・・」」
「「もう敵が侵入している、資源盗難のリスクは極力下げるのが優先」」

鉱山丸ごと潰そうとでもいうのか。
人間計算機な思考をする彼女の策にはまってしまう
オカヤマ兵とオオサカ兵。
無慈悲な砲撃で両陣営は戦闘場を中断させた。

ドサッ ガラガラ

「ちょ、俺達はまだここにいるんだけど!?」
「おい、ターゲットはどうすんだ!?」
「ここで下敷したじきにされたら、金どころじゃねーよ!
 俺はお前らをこれ以上どうこうする気はねえ。ライリー行くぞ!」
「あ、ああ」

周囲の異変に、誰も相手を意識する時間なんてない。
少しずつ天井は崩れだし、侵入する猶予も失っていき
鉱山内にいる兵士達は敵味方関係なく洞窟から逃げ出していった。
しおりを挟む

処理中です...