Condense Nation

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4章 ブラインド編

第8話  近江凝結

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オオサカCN

 一方、会長はアリシアと共にオオサカに滞在していた。
彼らはアール・ヴォイドの身分を隠し、一部顔も変えて各地の
交戦を止めるよう説得していたのだ。その先導者である
各司令官達を前にCN法の無意味さ、無効さを話していくが、
流れは以下の通りである。

「というわけで、海外による作戦でこれ以上国に脅威は及ばずに
 天主殻が我々に直接危害を加える危険性が限りなくありません。
 よって、CNを組む必要性を感じな――」
「じゃかあしい!」
「どこの馬の骨だか知らんが、部外者がベラベラと能書きタレんなや!
 実情もろくに分からん奴が」
「こんな機会をみすみす逃すかいな!
 今まで、ワシらがどんだけ時代の痛みに耐えてきたと思っとるんじゃ!?」
「真の和のため、悪しき東を打倒するべし!
 我ら近江こそ頂点に立つ存在じゃああ!」

まったく応じる気配もない。
どんな経緯で集まったのか、近畿の有権者達は天主殻の無意味さを
説いても聞く耳すらもたなかった。
そんな喧々諤々けんけんがくがくと押し問答もんどうが平行線を保つように続く中、
中心的な立場であろうオオサカ司令官が問いだした。

「観たところ、アンタ外人さんやな?
 伝道師として来てもろうところスマンが、言い分は叶わんわ。
 先の言葉、ここいらの実情を知っとるか?」
「実情ですか?」

オオサカ司令官、キンテツという名の男だけは異様に静かな声で
会長に事情を話し始めた。

「今、関西に流れモンが次々押し寄せとる。
 人事流動は異常なまでに膨れ上がっとるんや。
 それが今、近江への波がぎょうさんに揉まれ、次第に均衡が崩れよる」
「関東とおっしゃられても、いくつか地域が存在します。
 具体的にそれはどこの?」
「トウキョウや」

オオサカ司令官は関東による実害の中心がトウキョウだと言う。
話によると、そこは冷徹といえる超合理主義世界で頭脳労働を主とした
職場や環境で人の情けは一切入る余地もない所。
完全実力主義に変貌した影響下で仕事を失い、生活保護法の改革で
所得の極低下を受け、居場所を失う人間が多かった。
昔からそんな状態だったものの、AI技術が特に台頭し始めてから
肉体労働、サービス業が一斉に低下して必要とされる者がいなくなる。
賃金の対応に苦しみ、住む者が追われて関西へと移住する者達が相次ぎ、
立場を巡る現地人とのトラブル、抗争が発生。
今までは各地から少しずつしかなかったものの、
近年になって大きく変わっていった。

「この国は今までトウキョウを中心に回しとった。
 人、糧、法、あらゆる面で己の都合を優先。
 と思いきや、用済みなら“仕事の都合”という御都合言で
 あっさりと追い出す。この期に及んで引っ掻き回しよる」
「それは鎌倉時代からの密集で、文明開化の先駆けとして
 中心的にならざるを――」
「ちゃうわ、んな見たまんまの話やない。
 ワシらが最も嫌悪しとるのは仕事の都合やない」
「それでは何のために?」
「文化という価値や」

男は文化と言い放つ。
時代で移り変わる人が生み出す広域的なもので、
文明による伝統を他より重んじるには理由があったのだ。

「何の文化ですか?」
「例えば・・・そや、トウキョウは昔から情報の最先端をゆく場所で
 有名なのは知っとるな?」
「ええ」
「情報なんぞあくまで一瞬、一時的な伝達にすぎん。
 見返りに、少しでも必要なければ排除。
 ゆえに古いものをあっさりと切り捨てる。
 いつの間にか“蓄積ちくせきするという行為”を忘れりゃ、
 物を捨てる感覚で取り替える、人も同質で扱う様にな。
 法という看板で情報だけを蓄積、水増しするだけで
 しまいには場に合わん多層階まで造りよった。
 人がいなければ、文化なぞ絶対に発展はせん」

人間の記号化、いわゆる効率の成れの果てを東側で活発化した事で
新たな問題を課されてしまったというのだ。
基本、科学は情報が最重要視されていて政府も追従して世界を形作る。
古く、非効率的要素は徹底的に削り落とされて新規を採用。
実力、結果主義による世界の切り分けが如実にょじつに表すトウキョウ。
人として最低限の情もない有様に、関西は反抗心をもっていた。
頭脳のみにらず、精神的な産物も大事にするべきだと、
人事と文化は決して離れているものではないと豪語する。

「外国から来たあんたらにこう説法するのは無意味やが、
 どんな技術や仕掛けがあろうと世界の中心に居るのは必ず人や」
「ええ」
「言い換えて国も同じ、溜め込んだもんは凝縮して形を極上。
 人は理屈だけに非ず、仕組みを超えた可能性もあるんや。
 それが内側であるほど色濃くなる、金の様にな。
 ワシらは一度入れたモンは最後まで面倒をみる。
 だから、流動の激しい話は納得できん。よそモンのルールは認めんのや」
「使えぬ者にも何かを扱う事ですか?」
ふるきを温ねて新しきを知る。
 あんたらに馴染みない言葉やが、古くから伝わる習わしじゃ。
 すでに在る物事から知りえて、また新しい物事を知る。
 これも和による習慣から成せるものや」
「和・・・ですか」
「後は・・・この国には“勿体無もったいない”という言葉がある。
 あまり深く語らんが、これも惜しみを重んじて大事にする思慮。
 とにかく早急に無価値と判断せず、一欠けらに何かを見出す。
 こうしてわしらは和の文化を保っとった。
 奴らは馴染みを丸ごと捨てとる。大事にしとらんのはどっちや?」
「・・・・・・」

古の習慣をあくまでも第一としたスタンスをとろうと言う、
どんな価値でも終わりまで徹底して背負う気概をもっていた。
しかし、1つ気にかかる点もある。
それはここ、オオサカにある工業について不審な部分もあり、
現在の形態についてどうなのかうかがおうとした。

「ふむ、身内への大いなる配慮の心得は理解できました。
 少々話は代わりますが、オオサカエリアでは電気事業が発展しております。
 一科学専門会社の動向がどうCN内に扱われているのかと」
「・・・・・・」
(お父様?)

突然変わった話題の内容に誰しもが曇りがちな顔。
科学の観点ならば関西方面も当然様々な分野が存在していると、
おそらくそういった話に食い入ろうとした。
アリシアも父の発言の真意が理解できずにどうにか顔を平常に保つ。
ミエ司令官がいかつい顔で返事。

「それがどないした?」
「こちらで事前に調べた事ですが、天主殻によるCN制定からすぐに
 そこの会社はすぐ他地方提携を中止して活動を静めております。
 求人情報でも流出した形跡もなく、まだここに従業員が留まっていると
 報告を聞きました。そんな彼らの採用は今、どの様な状態で?」
「何や、普通にCN内で活動させておるが?」
「匿名で“文化にのっとった武器を製造させられている”話がありました。
 オオサカ司令官のあなたなら軍事行為として彼らの技術は必須のはずで、
 おっしゃる風習を重んじる気持ちはあるでしょう。
 ただ、軍事行為としては非効率的で死傷者も多くなる恐れも無視してまで
 何かしらの型を追求するのは何故か気になっていまして。
 そういった類の和はどういった計画をお考えになさっているのかと?」
「・・・・・・」

文化と現実的成果とのズレがCNの中で生じる疑惑があると言った。
情や和を重んじるのなら身内の機械、工業関連にも同様に扱っているはず。
通常なら不景気で倒産して組織は解散するものの、地上の人々の暮らしは
まだ普通に活動できてそこも破壊されていないのなら行える。
精神と業種を交える観念は難解だが、折り合いを着ける言葉にならえば
トウキョウとどう差を図っているのか聞こうとした。
実は従業員の密告についてはパスカルの勤めていた組織の1人が、
近畿の動向一部に着手させられたという報告で理由付けする。
各地方に閉ざされた現在において元から近畿の習慣からかんがみれば、
おいそれと関東などへ逃す事などしないから。
有権者というものは大抵外見がそれらしいものなら、逆に似つかわしくない
組織や業者への扱いをどうしているのか語る傾向がない。
一瞬の沈黙を見抜いて手応えを感じる、返答はどうなのか。
そこへミエ司令官が席を立って怒鳴り散らす。

「ワレェ、さっきから身内にイチャモンを――!!」
「ええ、座らんかい。まあ・・・あんたの指摘する通り、
 彼らは今、生産部門として軍事産業を進めておる。
 CNに文化を混ぜとるのは事実やが、詳細は少々複雑での」
「そこは・・・守秘義務としてでしょうか?」
「せや、いくらなんでも中身を公開させるわけにはいかんしのう。
 正直、設計も身内どうしで問題も多く、誤情報も飛び出とる。
 よって、文化と軍事の重ね合わせについては詳しく語れんのや」

詳細を明かしてもらえなかった、電機工業はCN内にも採用しているが
まだ試行錯誤の最中で規格も決定できていないとの事。
多くの知識をもつ私達ですら想像しえない、本当に特徴さが外見通りに
表れている彼らに何も形容しようもない。
戦略的優位性も感じられない文化に、次の話題も失う。
オオサカ司令官の表情は平然として理由を語ってゆく。

「そこは確かに機密に当たるとこでな、すまんのう。
 まあ、奸智術数かんちじゅっすうと思われても仕方ないわ。
 1つ言いきれるのは決してやましい事などしておらん、
 古くからの繋がりは行動に表れるものや、まだ何かあるんかいな?」
「いいえ、用件はこれで全てです」

やはり、彼は本当の事を全て話さなかったようだ。
いつの時代、国でもそうだが軍部は秘密主義の塊なのは同じ。
思考を常識の範囲へ戻せばおいそれと話すはずもないだろう。
肝心なところは守秘で塞がれて知りようになく、
世界の上位者であるアール・ヴォイドに下位の心情が
そうそう理解できるはずがない。
いつも利権の集いは組織のみのにくるまって我が物顔に動いている。
こんな時、言葉などいくら用いても口利き及ばずにとどかず。
会長はもうこれ以上追求しようとしなかった。
進展は見込めないと、何一つとして伝わらずに会合は終了する。


ロビー

「ここもダメなようだ」
「ええ」

 私達はゆっくりとした歩調で良くない結果に表情がこもる。
母国にとって有利となりやすいコトワザで論破されたようだ。
他地方よりも、より説得の通じない相手に思えた感じがした。
一度凝結したものを簡単に溶かすのは至難。
確かに文化という歴史は長い年月をかけて形成される要素、
以上に人の精神と関連する物はあたかも身体のパーツが増築した様な
進化として成しえるのではと思った。
2人で関西の結託を解放させる事はできなかったが、
結局は自らで天主殻を攻略しなければならない運命かと、
無念さながらに帰りの支度をしようとするそんな2人を
見ていた1人の老女がやって来た。




















オオモリ「先はどうも」
「あなたは、ワカヤマ司令」

オオモリと名乗る彼女1人だけの来訪。
会合ではほとんど口もきかなかったワカヤマ司令官が訪ねてくる。
何か個人的な意見でもあるのかと、ここに来た理由を聞こうとした
矢先であった。

「私は貴方がたを支持します、供述通りの軍部の無意味さ。
 分断という虚しさの現状に感心をもちました」
「お気遣いありがとうございます。
 少なくとも、ここは私の意見は通用できないようで」
「彼らも彼らなりの事情があるのです。
 無意味にあのような発言をしておりません。
 どうか、お気を悪くしないで下さい。少々お話したい事がありまして。
 別館までお付き合い願いますでしょうか?」
「ええ、構いませんが・・・」


オオサカCN 来賓館

 アリシアと会長はオオモリ司令官に連れて来られる。
話の続き、彼女だけは説得に応じてもらえたようだ。
しかし、集会をよそに1人だけ賛同されても大きく変われないもの。

「どうぞお座り下さい」

長テーブルを前に緑茶を差し出される。
しかし、こんな待遇をされても終わりがあれでは帰った方がマシだ。
何を今更とアリシアが反論する。

「ならば、あなたが弁護すれば良かったでしょう?
 それどころか、彼らは反抗感ありきでまったくもって
 話もまともに聞かないじゃないですか!?」
「私ですら、彼らを抑えるなど到底及びません。
 男性実権はこの地方で最も強く結束されているゆえ、
 おいそれと反論する事すらできないのです」

行動力と立場に執着する者達だけあって、そう簡単にくつがえせず。
近畿ではたった1人だけの重役である彼女だけで何を伝えようと、
文字の音などで動かせる可能性は無し。
そこへさらに役場の重役もこぞって代わり、選挙制度も崩壊した間より
CN組織成立したほんのわずかな数日から人事配置が敷かれていったという。

「役所の廃止から自衛隊管轄と大きな抗争が発生して、
 大阪市長が不在となった日から、ここ近畿は大きく変化しました」
「あの白髪交じりの司令官は市長でなかったの?」
「ええ、近江。滋賀より新たな有権者として大阪を管轄したそうです。
 ここは人口数が最大規模で元から利権や派閥を巡る争いばかり生じて
 天主殻支配後より如実に表面化してしまった模様。
 そこへ彼らが参入し始めて一斉に指示を得て台頭したとの事。
 時期は定かではありませんが、こうなる機会をうかがっていました。
 頑固一徹といえばその通りなもので」
「人、関係者ばかり多いこんな所でよく立てましたね?」
「主観ですが、やはり人柄による影響が大きいかと。
 文化という側面は地元の者達への魅力を保ち続けてきた影響もあるかと、
 天主殻襲撃以前からこちらに介入しておりました」
「有利な立場になれば閉じこもる傾向がある。
 この国は静けさを重んじるすり替えが得意なのは昔からそうですよね」
「確かに古き文化を守るという心得は我らワカヤマも同様です」
「ですが、それはあなたも――」
「マスター、これを代わりにしてくれ」
「おや、これは?」

オオモリの雇用者らしき男が横からやってきて、
金色の細長い何かを差し出してきた。
どこかでもらってきた金の塊を組織の糧にしろと言う。
彼女にわたした直後、彼はすぐに帰っていく。

「私の関係者です、申し訳ない」
「私達と同様に海外から労働しにきた方ですか、
 報酬も破格で良ければどこの国からでもやってきますな」
「そうですね、技術力や行動力はやはり海外の方が上手うわてです。
 科学の高度成長も向こうの助力のおかげなのは否定できません。
 同時に来る居住受け入れの波もここ、近畿まで巡っています。
 いつかはこういった時代がやってくると頭の片隅では理解しています」
「東列島もハーフの割合が高くなっているのは認知してました。
 西列島のこちらはどういう訳かその波が及んでおりませんな」

人種が一定を保つ特徴は私達ですら疑問に思っていた点の1つ。
先の彼らの主張する文化という壁で抑えきっている感も否めないが。
アリシアの嫌味を含めた問い。

「能力の差では?」
「・・・・・・まあ、ここも様々な人達ばかりです。
 個の主張が第一だという事だけは理解できました」
「?」

彼女は突然、分かりにくい言葉を使い始める。
個が何を指しているのかよく理解しにくい。

「どういう意味ですか?」
「個とは・・・私の事です、確かに先程で公に申せなかったので、
 ここへあなた方を招いたかもしれません。
 彼らの前で直接うかがえないゆえにこうして訪ねてきた訳も」
「つまり・・・個人的な用事での頼み事があるという意味ですかな?」
「そうですね、私も無意味にここへ来たのではないのです」
「ならば理由は如何に・・・?」
「ここに在ります」

スッ

「!?」

彼女のすそをまくった腕を見て、会長の仕草がピタリと止まる。
左腕が無かったのだ。
在るべきものが無い空白、会長はその部分に目を向けた。
主張とはまるで対となるほどの
抗争で失ったのだろうその腕を見てじわじわと理解する。
会長は意味深な言い方をしてそこを見続けてゆく。

成程なるほど・・・なるほど。
 どうやら、あなたは彼らとは違うようだ」
「「あまり・・・人前で見せたくはありませんが。
  確実に起きた1つの事実をこうしてでも伝えたかったので」」

女性が身体を表すのはとても恥ずかしいのはアリシアも分かる、
おそらく事件に巻き込まれたのはすぐ発覚した。
そして、何故こうしてまで訴えたいのか?
いや、何をしてほしいのか言葉だけではつかみとれなかった。

「「私は・・・腕よりも夫を失った苦痛の方がはるかにおおきく、
  事件当時に、言葉など通用できなかった。
  司令官という立場もあの人の代替で務めているようなもの」」
「「あなたも・・・そんな」」
「報復しようなどと考えてはおりません、ただ、自由だけは望んでいます。
 せめて、この失ったモノをどうにか取り戻せませんか?
 私も戦火で満たされていく世など本意では観たくはありません。
 私がここに来た理由は助けを求めるため、ゆえなのです」
「・・・・・・」

自由という言葉は私達にとってCN解放、他の連中とは異なる方向へ
向かわせる意味を含めたものだ。腕をどうにかしろと言われても
医療従事者ではないので治しようもない。

「「会長・・・」」

私はどうする事もできずにまともな返答ができない。
会長は彼女の平和主義を説いた言葉に感応していく。
何かを一考し、オオモリにある提案をもちかけようとした。

「そうだな・・・彼女に1つ賭けてみるとしよう」
「会長?」

会長はバッグから書類を彼女に差し出した。

「これは?」
「アンドロイドの資料です、我々は再生機構の役割をもつ者で
 人体サポートに相応しい技術が記載されています」

会長は極秘事項の一部をワカヤマ司令官に伝えようとする。


「会長、これは極秘事項の!?」
「良いんだ、これも私にとってのレプリカント計画。
 火から守る金属の一端だ、失ってしまった欠片は無機質な世界から
 多量に寄せて戻せば良い。どこの世界であろうと共通要素。
 オオモリさん、私達の組織に加入する気はありますかね?」

事もあろうことか、ブラインドの機密に当たる一部を近畿の者に示す。
賭けの真意はオオモリを招待するためであった。
彼女も真顔で疑問、続けて理由を説明する。

「これはどういう方針でしょうか?」
「再生機構の一事業として提供しましょう。
 実は失ってしまった形、存在を再び補正保管する技術を持っています。
 あなたの痛み、私達と分かち合う事をお願いしたい」
「技術提供と交換条件にあなた方と協力を?」
「貴女の身体も我々の技術で復元、保障を約束します。
 替わりにあの空への脅威を阻止する人手を貸して頂きたい」
「・・・・・・」
「ただ、これだけは覚えておいて下さい。
 これは戦争に勝つためではなく、CN解放のための提供。
 あくまでも和平交渉としてあなたに授けます」

素体を譲るのではなく、資料という情報を間接的に渡すという
異行を会長は行った。何かを試そうとしているのか、
アリシアも理解不能さながら、ワカヤマCNへ1つの変革を
もたらす程の大きな技術を分け与える。
彼女はわずかな一言と共に資料を受け取った。


「良しなに」

この行為が関西の未来を良くできる保証などない。
確証なくとも、何もせずに流れを黙認できるはずがないのだ。
全ての司令官ではなく、たった1人の司令官によって
いつかこの関西を変えてくれる。
会長は賭けに近い信念をこめて変えようとした。
これにより、オオモリもブラインドに加わる。
身を近畿に置いたままであるが、関東への侵攻鎮静と引き換えに
天主殻への人員配置の手助けをサポートしてもらう事となった。

そんな、一部始終をロビー奥の角にある観葉植物の隙間から
見つめる2つと1つの目がいた。








カシャッ

「「なんだ・・・これは・・・写っていない!?」」

会長とアリシアを盗撮するトウキョウのカメラマンがいた。
2人のクロマキー合成で見えない光に反射し、姿を撮影できずに
背景だけの画像を見て目を疑う。
老婆だけしか姿がない現象に、幽霊と見間違う気持ちになる。
関西の会合に潜入したつもりが、予想もつかない展開に
彼は興味の意が次第に移り変わっていく。
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