まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第八章:散るは忠誠、燃ゆるは誇り――約束の交差点、勇者計画の終焉

第150話:セリナの五日目──永遠に消えぬ薔薇の記憶、夜に咲いた最後のワルツ

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本陣では、ノックターンが「黙示の日蝕」を発動したことで、戦いがいよいよ最終局面を迎えようとしていた。
「では、力天使化した勇者に対して、こちらも出し惜しみはできぬな。全力で挑ませてもらおう。」
ノックターンは自らの右手の人差し指で、左手の掌を貫いた。そこから流れ出る黒赤い血が、細剣の形を成す。
血液はヴァンパイアの食糧であると同時に、彼らの力の源でもある。真祖クラスの血であれば、なおさらだ。
「『Bloody Waltz(ブラッディ・ワルツ)』」
ノックターンは血の細剣を握りしめ、セリナへと突撃を開始した。目にも留まらぬ速さで距離が縮まり、無数の赤い剣先がセリナを襲う。
セリナも素早く聖剣を振るい対応するが──
「!?」
赤い細剣は意思を持つかのように聖剣の攻撃を躱し、そのままセリナに直撃した。固体のように見せかけていた血の刃は、元より液体であった。
左肩、脇腹、右手首、右膝、左肘──様々な部位に命中し、セリナから鮮血が流れ出る。さらに、それを吸収するように、ノックターンの細剣はより鮮やかに輝いた。
「な、なにをしたの!?」
傷ついたセリナは、血液を失ったことに加え、明らかな違和感を覚えた。
体が熱い。まるで血液が沸騰するように血管の中で暴れる。眩暈、嘔吐、無力感──それらの感覚が一斉にセリナを襲う。
「『血の暴走』だ。我が使徒以外の者が我が血を受けると、その体の血液は命令を聞かず暴れ出す。普通の人間なら、各所から血を吹き出して死ぬ。さすがは天使化しているな、まだ生きていられるとは。だが、それもいつまで持つだろうか?」
ノックターンの攻勢は止まらない。セリナの血を吸った細剣はさらに活性化し、今度は心臓を狙ってくる。
セリナは防御が無意味と悟り、四枚の翼を全開にしてノックターンから距離を取る。長期戦に持ち込むつもりだ。日蝕は残り10分しかない。それが過ぎれば、ノックターンは太陽の下に晒される。
「時間稼ぎをしていると思っているのか?無駄だ。『黙示の日蝕』の継続時間は、我が吸った血の分だけ延長する。勇者がそれほど逃げるなら、地上の人間たちを代償にしてもらうしかあるまい。」
読まれていた。それに、本陣の兵士全員が人質に取られたのか。
(どうすればいいの……マオウさん!)
その一瞬の迷いを、ノックターンは逃さない。
「『Vampiric Lunge(ヴァンピリック・ランジ)』」
ノックターンの血がセリナを捕捉する。剣先が狙うは、ただ一点──セリナの心臓。間一髪のその時、
「『聖解光輪(ディスアーム・レイ)』!」
セリナが放った光の輪が、致命の一撃を無効化した。真祖の血さえもただの血に戻し、無害化する。しかし、この技には弱点があった。
「何度見ても凄まじい技だ。だが、なぜ最初に使った後、なかなか使わない? 理由は二つ。一つ、その技に使用回数の制限がある。二つ、長いクールダウンがあり、再使用には時間がかかる。どちらにせよ、好きなだけ使える技ではないことは理解した。」
ノックターンはさらに血を集め、細剣を作り直した。
正解は二つ目だ。
日蝕が終わる前に、セリナはもう一度光輪を使えない。
そしてノックターンの技に、そんな制限はない。
孤立無援。絶体絶命。今のセリナにふさわしい言葉だった。
ノックターンは強い。身体能力、剣技、戦闘経験──あらゆる面でセリナを上回っている。
たとえ勇者であっても、
ただの15歳の少女が、千年以上生きるヴァンパイアに勝つことなど、夢物語でしかない。
実力の差は歴然だった。
(やっぱり……セリナじゃダメなのかな。強い血筋もない、ただの女の子のセリナには、越えられない壁があるの?)
「よく頑張った。だが、頑張っても勝てないものは勝てぬ。それが現実だ。」
ノックターンが、絶望に沈むセリナに最後の一撃を決めようとしたその時──
世界の時間が止まった。

「あらあら、諦めるにはまだ早いですわ。彼が見たら、きっとこう言うでしょうね。『セリナ君、君は彼に負けたのではなく、君自身に負けたのだね』と。」
「モリア……さん?」
セリナの背中に、いつの間にかモリアが寄り添い、両手で彼女を優しく抱きしめ、耳元に呟いた。
「嫉妬の悪魔、パイモン。何の真似だ?悪魔が勇者の味方をするつもりか。世も末だな。」
ノックターンは最古の魔族として、この時間停止された世界を見て、すぐに状況を理解した。
「その称号は嫌いですわ。『嫉妬の悪魔』なんて、まるで私が心の狭い女のように。私はとても心が広いのですわ。ふふふ。」
モリアはゆっくりとセリナの背から降り、両手でスカートの裾を整え、上品な微笑みを浮かべた。
「地獄七十二柱の一つ、王クラス、全知の悪魔パイモリアですわ。モリアと呼んでください。そちらの方がお気に入りですから。」
「ヴァンパイアの第一真祖、ノックターン・クロムウェル。ミスターモリア、我々は悪魔と戦うつもりは毛頭ない。これは魔族と人間の戦争。上位なる存在である貴方が関わるべきことではないと思わぬか?」ノックターンは礼儀正しく応じた。それは彼の教養からであり、モリアのような高位の存在への敬意でもあった。
「あなたと戦うつもりはありませんわ。それはあまりに大人げないですから。しかし、せっかくここまで育てた勇者を、くだらない理由で死なせたくないのですわ。だって、彼女は私が助けなくても、あなたに勝てるんですもの。私が戦ったら無粋ですわ。ふふふ。」
「ほう……全知の貴方がそこまで言うのか。それは楽しみだ。」ノックターンはモリアが戦わないことを確認すると、再び細剣を構えた。
「でも、モリアさん、私は……」
「勇者セリナ、勇者の強さは個人の武勇ではないのですわ。あなたがここまで来られたのは、自分一人の力ですかしら?」
「それは……」
「セリナ──!!」
いつの間にか時間停止が解け、下から声が響く。レンだ。
「俺、言っただろ!これはタイマン(一対一)じゃないって!俺が、あんたの足手まといになるほど落ちぶれちゃいない!」
これまで剣士として戦ってきたレンが、今、手にしているのは──
「人間をなめるなよ……これが、俺たちの意地だ!」
ガトリング砲だった。
「レン!?」
砲身が激しく回転する。一分間に6000発を超える射速は、たとえヴァンパイアのノックターンといえど、無傷ではいられない。
「おのれ、小生意気な!たかが一挺の砲で何ができる!今すぐ──」
そう言いながらも、これほどの速射弾の前に、ノックターンは狼狽を隠せない。だが、ガトリング砲は弾切れも早い。それをノックターンは待っていた。
しかし──
「死ね、女の敵!」
「ロリコンは消毒よ!」
「変態、即刻、撃て!」
戦場のあちこちでガトリング砲が構えられ、ノックターンを狙う砲撃が止まない。指揮が取られているように、弾込めの隙を埋めるように、次々と砲撃が放たれる。
これぞ、帝国軍の「三段撃ち」だ。
「ほら、勇者は一人で戦うものではないのですわ。あなたの元に人々が集まる。その人々が、あなたの力になる。さあ、聖剣を振るいなさい。皆があなたのために作った時間を無駄にしてはダメですよ。ふふふ。」
「はい!」セリナの目には、もう涙が溢れていた。だが、その中に燃え上がる闘志が込められていた。
聖剣を天にかざし、宣言する。
「ノックターンを、人類の敵として認定します!」
すると──
「天軍の軍団長、ミカエル、これを承認する。ちょっとルキエル!さっき俺の駒を動かさなかったか?」
「見えざる導き手、ラファエル、これを承認する。まあまあ、ゲームですから。わしの番をミカエルに譲るから、ここは穏便に……」
「神のメッセンジャー、ガブリエル、これを承認する。ルキエル……様、双六はルールに沿ってですね。」
「うるさい。僕はルールだ。僕の駒の前に、他の駒の存在を許さない。え?明けの明星、ルキエル、それを承認する。で、次は僕がサイコロを振る番だ。」
神はサイコロを振らない。しかし今、天界では熾天使の四人が、ガブリエルが「お土産」としてルキエルに献上した双六「大富豪」に夢中だった。
とにかく、これで準備は整った。
「──審判の時は来た。神々の楽章(カンタータ)を、この剣に刻む」
広がる金光が天を貫き、漆黒の雲を聖別する。
「歪んだ世界に、終焉の調べ(アリア)を捧げよ」
聖剣の刃が青白く輝き、無数の光の音符が虚空を舞い始める。
まるで大聖堂の聖歌隊が、目に見えない声で歌い上げているようだ。
「熾天使(セラフィム)の炎で焼き浄め、ハープの調べで切り裂け──」
四枚の光翼が大きく広がり、音の波動が天地を揺るがす。
ガラス窓が一斉に共鳴し、砕け散ることなく美しい音色を響かせた。
「天壊聖唱(レクイエム・グロリア)──ッ!!」
無数の光の楽節が、戦場の仲間たちの思いを乗せ、王都でのゾンビドラゴン戦の時とは変わり、激しい行進曲となってノックターンへと流れ込んでいく。
「これが、全知から見えた我が運命か。なるほど……では、このノックターンに最後の舞をさせてくれ。」
ノックターンは細剣を構え、周囲の血がバラのように空から舞い降りる。まるで彼の最期を飾るように。
「『Rhapsody of Black Rose(ラプソディ・オブ・ブラックローズ)』」
まるでこのレクイエムに合わせるかのような、死のワルツ。しかし、セリナはなぜかその技に殺気を感じなかった。
光の楽節に包まれ、ノックターンの体は徐々に光の粒子へと消えていく。彼の禁術による日蝕も次第に効力を失い、世界に再び光がもたらされた。消えゆくノックターンの顔には、恨みや憎しみはなく、ただ幸せで満ち足りた笑みがあった。

(ここは……?)
日蝕が消えゆく瞬間、光がセリナを包み込んだ。最初は警戒したが、すぐにそれはノックターンの攻撃ではないと理解した。
古びたが優雅な夜の荘園。そこに一人の若い女性が立っていた。特別に美しいわけでもなく、服も質素で、この豪華な屋敷には似つかわしくない。
そして、屋敷の主と思しき人物が現れる。その姿に、セリナは覚えがあった。
もしノックターンが若ければ、きっとこの姿だろう。
ここは──ノックターンの、記憶の狭間なのだ。
ノックターンの血が体内に入ったことで、
セリナは彼の深層記憶に触れた。

「村から差し出された生贄か。平凡な娘だな。これなら牛一頭の方がありがたかったかもしれぬ。」若き日のノックターンは、隠そうともせず失望を口にした。
「生贄じゃありません。ヴィンディーです。レディの名前も呼べないなんて、紳士なのはお服だけですか?」見た目に似合わず、ヴィンディーと名乗る少女は恐れることなく意見を述べた。
「つまらん。私の気分次第で、お前は瞬く間に血を抜かれた屍になる。言ってみれば、人間が家畜に礼儀など尽くすか?」
「家畜は家族の役に立ちます。あたしは力仕事もできない女ですから、いるだけで飯の無駄。だから選ばれたんです。」
「同情を誘うつもりか?残念だが、人間を哀れむほど、私は優しくできておらぬ。お前は今夜のわがディナーの一品に過ぎん。」
「勘違いしないで。あたしは自分を可哀想だなんて思っていません。あなたに食われることで家族が無事でいられるなら、あたしはその運命を誇りに思います。」
「笑わせる。お前を捨てた家族にそこまで思いを寄せるとは、救いようのない愚か者だ。その愚かさを抱いたまま死ぬがいい。」
ノックターンの細剣がヴィンディーの首筋に触れる。一筋の血が流れた。あと少しで頸動脈を断ち、その血を貪れるというのに、ノックターンの剣はそれ以上進まなかった。ヴィンディーは目も閉じず、静かに死を受け入れる構えを取っている。その態度が、かえってノックターンを動揺させた。
「どうしたんですか?あたしの血を飲むんじゃなかったんですか?」
「気が変わった。人間が家畜を飼うように、私が人間を飼うのも悪くあるまい。手元に食料があるのは何かと便利だ。」
「あたしは家畜じゃありません。ヴィンディーです。」
「ほざけ。私の気まぐれで生かしてやるのだ。家畜として生きられるだけで光栄と思え。」
ノックターンはそう言い放つが、彼女のその死を目前にしても微塵も恐れぬ、光に満ちた瞳が心に深く刻まれた。彼女をもっと知りたい──そんな思いが湧き上がった。
こうして、二人だけの同居生活が始まった。
「ノックターンさん、朝ですよ。いつまで寝てるんですか。」
「馬鹿者!吸血鬼は朝には活動せぬ!なぜカーテンを開ける!太陽の光が入るだろうが!」
「ノックターンさん、そんな暗い生活ばかりしてたら不健康ですよ。早寝早起き、それが長生きの秘訣です。」
「私はこの生活で何千年も生きてきた!百年も生きられぬ小娘が何を──」
「また言い訳。朝ごはんが冷めますから、早く起きてください。」
そして朝ごはんは──
「今日は中華風で、餃子とチャーハンにしました。朝はしっかり食べないと。」
「馬鹿者が!なぜ餃子だ!それも豚肉にニンニク!私がニンニクが苦手なことを知っておるだろう!」
「はい、好き嫌いは良くないと思いまして。ノックターンさん、いつも液体ばかり摂ってらっしゃるじゃないですか。胃腸に良くありませんよ。消化機能が退化したらどうしますか。さあ、『あーん』して。食べさせてあげますから。」
「『あーん』で食えるか!」
そんな、ノックターンを常にあきれさせる日々が、彼の千年変わらぬ時間を少しずつ動かしていった。彼は生まれて初めて、「生きる楽しみ」を知ったような気がした。そして次第に、その明るいヴィンディーに心を奪われていった。
「ヴィンディー……私はお前のことが好きだ。これまでのわしには考えられぬことだが、この気持ちは本物だと誓う。私の伴侶になってくれ。」
「もう、ノックターンさんったら、本当に不器用ですね。どうしてもっと早く言ってくれなかったんですか。ずっと待ってたんですよ。本当に、ダメな方ですね。」
想いが通じ合い、二人は結ばれた。しかし、ヴィンディーは三つの条件を出した。
① 彼女の村と家族には手を出さないこと。
② 彼女は最後まで人間として生きること。
③ ノックターンは絶対に自殺しないこと。
その中でも、二番目の条件がノックターンには最も受け入れがたかった。
ヴィンディーが人間であり続けることは、彼女の寿命が人間のものであることを意味する。彼女はいつか、ノックターンを残して先に死んでいく。
だが、ヴィンディーは譲らなかった。
「あたしは人間であることに誇りを持っています。それを変えるつもりはありません。」
その瞳には、初めて会った日と同じ強い光が宿っていた。ノックターンは折れるしかなかった。
夫婦となって、二人の幸せは続いた。しかし、長くは続かなかった。
時は残酷だ。かつての少女ヴィンディーも年を重ね、老いと共に皺は増え、体型も変わっていく。そんな自分と、ハンサムで若々しいノックターンが並ぶことに、彼女は申し訳なさを感じ、他の女性を探すよう、遠回しに伝えようとした。
しかし、ある日──
「あなた……その姿はどうしたの?」
「おお、ハニー。今日の私はいつもよりいけているだろ?はは。」ノックターンは老紳士の姿で彼女の前に現れた。
「いいのよ。あなたはそのままで素敵なんだから……もっとふさわしい人が……」
ノックターンは一本の指で彼女の口を静かに押さえた。
「ハニーよ。女はワインと同じだ。年を重ねるごとに味わいが深くなる。お前はこの世で最も素敵なレディだ。あの若い小娘たちにはない色気が、私を狂わせる。どうだ、今夜は久しぶりにデートをしないか?ヴァンパイア紳士のエスコート付きでお得だぞ。」
「もう……あなたったら。いいわね。じゃあ、あたしも昔のドレスを引っ張り出して、おめかししなくちゃ。」
ノックターンの「熟女好き」の覚醒(?)により、ヴィンディーの老年期も幸せに過ぎていった。
だが、それにも終わりが来る。
それからさらに幾年月かが過ぎ、ヴィンディーの寿命が尽きようとしていた。ベッドに臥せり、もう見ることも、立つこともできない。
日々弱っていく彼女の手を、ノックターンは決して離さなかった。
この時、ノックターンは激しく揺れ動いた。
自分の血を飲ませれば、彼女は生き永らえ、若返ることさえできる。だが、それは彼女を吸血鬼にし、約束を破ることになる。
しかし、何もしなければ、最愛の妻を永遠に失う。そのジレンマに、彼は苦しんだ。
いっそ恨まれても構わない。彼女を吸血鬼にしよう。それで少なくとも彼女は生きられる。それだけでノックターンは幸せなのだ。
そう決意し、ノックターンは自らの指を切り、黒赤い血をヴィンディーの唇へと近づけた。
震える手が、彼女へと伸びる。あと少し、あと少しで、ヴィンディーはあの頃のヴィンディーに──。だが、最後の瞬間、ノックターンは手を引っ込めた。
ノックターンはヴィンディーを、それ以上に愛していたからだ。
「あ……りが……とう……あなた」
ヴィンディー・クロムウェル──ノックターン・クロムウェルの妻は、静かに息を引き取った。享年百九歳。

「それから、私の時間は再び止まった。不死は呪いのようにわしをこの世に縛りつける。自殺も許されぬ以上、戦って死ぬ道しか残されていなかった。だから魔王軍に入った。だが、私もなかなか強かったようで、長く生き永らえてしまった。だから感謝しているよ、勇者セリナ。」
光の中、ノックターンはセリナの傍らに立ち、優しく微笑んだ。どこにでもいそうな、穏やかな老紳士のように。
「セリナは何もしていません。みんなの思いが、セリナに力をくれただけです。」
「それでも素晴らしい。なにせ私はこれまで数多の勇者と戦い、誰一人としてわしに勝てなかった。誇るがいい。お前は今までで最高の勇者だ。だが……勇者ちゃんにも、想い人はいるだろう?」
「なぜそれを!?」顔を赤らめ、少しうろたえるセリナを見て、ノックターンは自身の薬指の指輪を優しく撫でた。
「お前は少し、ヴィンディーと似たところがある。最初に見た時、生まれ変わったかと思ったほどだ。まあ、彼女はこれほど剣を振り回すおてんば娘ではなかったがな。だから、一つだけ言わせてくれ。その相手は私と同じ、永遠に生きる者だ。お前が彼と共に生きることを選ぶなら、いつか同じ局面に立つ時が来る。その時、お前はどう選ぶ?」
「私は……」セリナは目を閉じ、短く考え、そして目を見開いて答えた。「私は、マオウさんと一緒に生きることを選びます。たとえ……人間でいられなくなってもです。」
「そうか……良かった。それなら、彼も私のように苦しまずに済むだろう。ありがとう、勇者セリナ。お前と出会えて、本当に良かったと思っているよ。では、私はこれで失礼する。これ以上話していると、家内が嫉妬してしまうからな。」
光の彼方に、若き日のヴィンディーが立っていた。ノックターンとセリナが楽しげに話しているのを見て、少し不機嫌そうな顔をしている。ノックターンは立ち上がり、老紳士の姿は若き騎士の姿へと戻り、帽子をかぶり、小走りに彼女のもとへと向かう。
長い時を経て再会した二人は深く抱き合い、静かに唇を重ねた。そして手を繋ぎ、光の奥へと消えていった。
セリナは現実の世界へと戻り、空の日蝕は完全に消えていた。
「……ノックターンさん。あなたの想い、無駄にしません。」
セリナサイド、五日目、終了。
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