まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第九章:魔王とは何か、王が王になる前の話――千年前の地獄と九つの罪

第168話:セーブ不可・周回必須・無限地獄RPGの正しい壊し方――はねるだけで世界が壊れる件について

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ニート、それは社会の闇。
ニートとは、ただ働かない者ではない。むしろ、「働くことを選べない者」なのかもしれない。
彼らは怠惰の象徴として語られるが、その部屋の闇の中では、逆説的に社会の光が眩しすぎるのだ。就職活動の書類に記入する「志望動機」の欄が、真っ白な拷問器具となる。SNSに溢れる同級生の成功譚が、無言の鞭となる。
なぜニートは生まれたのか。
社会の選択肢の増加が、逆説的に選択不能を生んだ。昔は「生きるため」という明確な動機があった。だが豊かさの中では、「なぜ働くのか」という問いが先に立ち、その重みに膝が折れる。
そして完璧主義の罠。受験戦争を勝ち抜いた世代が、失敗を許さない社会で初めての挫折を味わう。一度レールから外れると、再び完璧な軌道に乗ることが不可能に思える。
最後に、人間関係のデジタル化による現実逃避の容易さ。画面越しの疑似コミュニティが、煩わしい現実の人間関係を不要にした。
「これらの原因で、彼女のようなモンスターを作ってしまったな。」私は無気力でソファに転がるヴェネゴールを見て、感想を述べた。
「…そうなのか💤」
反論も言い訳もしない。それすら面倒くさいと思っているのだろう。拍子抜けだな。いくらなんでも王クラスの悪魔がこれでは話にならない。私としてはやりやすくて助かるが。
セリナたちが彼女をお風呂に入れたおかげで、最初部屋に入った時の腐敗したような嫌な臭いはなく、シャンプーとボディソープの花の香りがしている。
セリナがドライヤーで彼女の髪を乾かしていた。
「ヴェネゴールさん、綺麗な髪をしています。さらさらです。でもこの寝癖…後でくしで直しますね。」
そして、もう何百年も洗っていなかったパジャマを着替えさせ、予備も全部洗濯に出した。今、レンが外に干している最中だ。
「なにこのサイズ…俺の頭よりデカいぞ。」
ヴェネゴールの下着を手に取り、自分の胸と比べて、レンは乙女心(?)を深く傷つけられているようだった。
「憎い…この格差社会の不平等が憎い…」
裁縫が得意なザガンは、今、ヴェネゴールが着られる清潔な服を作り上げた。
「なぜメイド服…?」
「それが、セリナさんが…」
「いいですか。メイド服は実用性が高いです。エプロンは衣服の汚れ防止に効果的ですし、袖は動きを妨げないよう適度にゆとりがあるデザインです。スカートは膝下~足首程度の長さで、しゃがむ・歩くなどの動作に適しています。ポケットが多く小物を携帯しやすい。ボタンやファスナーが前面にあり、一人で着脱しやすい。生地は耐久性のある綿やポリエステルが多く、洗濯やメンテナンスが容易です。なにより、清潔感があります。」
よく喋るな。彼女は自分がメイドであることに誇りを感じているのだろう。勇者よりも…。
「ただいまーであります!あれが最後でありますよ!」
エンプラが、あのゴミの山を入れたゴミ袋を全部回収に出したらしい。回収したのはマムブスだ。それ、売れるのか!?どこに需要がある? まあ、それは彼が考えるべき問題だ。私が首を突っ込むことはない。
「話を戻すが、勝負を決めよう。そのために我々はここまで来た。」
「え?…そうでした。」
セリナ君、君、一瞬目的を忘れてたよね?
ヴェネゴールが油断しているところを頭部に一撃で決めたかったが、せっかく綺麗になった部屋と新しく作った服が台無しになるので、女子組に却下された。女は面倒くさいな。
「ええ~…めんどくさい。帰って💤」
ヴェネゴールの半開きだった目が完全に閉じ、彼女は眠りについた。だけど、それだけではない。
ヴェネゴールの寝息が、部屋の空気を変える。
それは単なるいびきではない。深く、規則的で、まるで何か巨大なものが深淵で脈打つような、低く柔らかな呼吸だ。
その呼吸に合わせて、周囲の現実が少しずつ、緩む。
ほんの十分前まで、女子組たちが必死でこの部屋を掃除していた。空き缶を袋に詰め、漫画を棚に並べ、床を拭き、窓を開けて新鮮な空気を入れた。彼女に着せたメイド服のエプロンも、きちんとアイロンがかかっていたはずだ。
それが今、私たちの目の前で、逆戻りしていく。
捨てたばかりのゴミ袋が戻り、紐が解けるように自らほどけ、中身の空き缶やピザの箱が、まるで逆再生のように元の位置に滑り出て行く。棚に整頓した漫画が、一冊、また一冊と飛び出し、パラパラとページを開きながら、床に山を築いていく。窓から入っていた光が、カーテンが自ら閉ざすことで遮られ、部屋は再び薄暗い淀んだ空気に満たされた。
そしてヴェネゴールの体から、きちんと着ていたメイド服が、色あせた写真のように薄れ、溶解していく。白いエプロンはまず消え、次に黒いドレスが影のように褪せる。その下から、よく見覚えのある、ふわふわとしたシロクマのパジャマが、まるで中から膨らみ出るように現れた。
ボタンはかけ違いのまま、フードは背中にたたまれ、よだれの染みさえも、以前と同じ位置に、少し濃い色で再び染み込んでいく。
彼女は動かない。
ただ、深く眠るだけでいい。
彼女の無意識が、世界の「設定」を侵食する。積極的に書き換えるのではない。彼女の存在そのものが、周囲のあらゆる「意味」を、面倒くさがるのだ。
ゲーム機のランプの明滅が、いつの間にか彼女の呼吸と同期している。
画面の中のキャラクターが、立ち止まり、コマ落ちし、やがてポリゴンが少しずつ崩れてゆく。現実もまた、それに呼応するように、かすかに解像度を落としていくような錯覚。
彼女の夢の中では、きっと何も起こっていない。
空白か、あるいは停滞そのものが充満しているだけだろう。その夢の「質」が、シロクマのパジャマの綿を通じ、ベッドのシーツを伝い、部屋の塵に混じり、ゆっくりと世界に滲み出している。
能力の発動も、結果も、彼女にとってはどうでもいい。
ただ、眠りが深まれば深まるほど、世界がだらけていく。努力も成長も意味を失い、すべてが「面倒だから」という一点に収斂され、無色に均されていく。
気づくと、私たちの前には彼女とその汚部屋はなく、ここは塔の第一階だ。
そして、私たちのLV、ステータス、アイテム、所持金など、全てが初期化され、リセットされたようにスタート時点からやり直し。ただ一つ、戻されていないものがある。
私たちの時間だ。まさに永遠に終わらない無限地獄そのものを体現していた。

「セーブデータをロードするであります!……吾輩、セーブしてないであります。」
「阿呆、そもそもこのシステムにセーブ機能なんてないだろ。」
いきなりの事態に、全員が動揺を隠せない。なにせ今までの努力がすべて無に帰された。私もだ。まさかヴェネゴールの力を読み誤ったとは。マムブスの力が価値システムだったから、ヴェネゴールもそうだと決めつけてしまった。
塔システムはただ彼女の能力の結果に過ぎない。彼女の本当の力は、恐らく「妄想」だ。
眠りから覚めることで、夢の中の妄想を現実に書き換える。逆に、眠りにつくことで、起きている間の現実を妄想の中に片付けてしまう。制限はおそらくある。でなければ、私たちの存在すら妄想に巻き込まれて、ここにはいられない。あくまで推測だが、彼女の能力は「できごと」にのみ作用し、「存在」そのものを生み出したり消し去ったりはできない。
だから、この塔の中のモンスターも実際に存在しているわけではなく、塔システムの一部としての「データ」的な存在だ。だから倒すと死体ではなく、データとして消える。そして、細かい調整を苦手とする。だからピザを妄想で作り出すのではなく、マムブスから買うことにした。これなら攻略法はある。しかし──
「この二日間はなんだったのか…」士気は最底辺まで落ちている。今まで時間をかけて地獄を攻略することはあっても、何も成し遂げられなかったことはなかった。だからこそ、「最初から何もしない方がよかったのでは」という思考の罠に陥りやすい。この地獄そのものの危険さはそれほどでもないが、一見無駄なことを何度もやらねばならない。それも、時間が迫っている中で、果たして前へ進めるのか。
「セリナは行きます。あの汚部屋をそのままにはできません。」
「無駄です。どうせ最上階にたどり着いても、また全部元に戻されるだけです。うちは『頑張るのは負け』だと思うんです。」
「吾輩も、最初からクリア特典や周回要素がなければ、二週目はきついであります。」
「俺は…」レンは言いかけたが、恐らく同じ考えだろう。しかし、ここでまとまらなければ、無限地獄だけではなく、これからの地獄攻略もさらに難しくなる。降りるなら今のうちだ。
「『最短の道は回り道、急げば回れ』。それは地獄攻略の最初に、マオウさんがおっしゃった言葉ですよね。だから、セリナはこの二日間は無駄だと思いません。確実に得たものがありました。そして、これからかける時間も、きっと意味があります。」
「ほう、面白い。言ってみろ。」
「戻されなかったのは、時間だけじゃありません。私たちの『記憶』と『情報』です。」
いいところに目をつけた。その通りだ。一周目は、この塔のシステムもヴェネゴールの力も分からなかった。しかし二週目は違う。選択肢は一周目より多い。優秀な教え子だ。未来の私も鼻が高いだろう。
「でも、今の私たちはレベルも装備も何もないのに、どうやってあんな高い塔を短時間で登るんですか?」
「それは、システムそのものを利用すればいい。君の『はねる』を使ってだ。」
「うちですか?」
この塔のシステムは、ヴェネゴールの妄想の産物であり、マムブスの価値システムのように細かく作り込まれていない。だから「バグ」が多い。
例えば、最初のクエスト「10階のミノタウロスを倒せ」。それはIDの間違いで、実際は「1階のスライムを倒せ」で、報酬もただの剣である。なぜか? 妄想の元となったヴェネゴールの部屋のテレビゲームが、同じ仕様だからだ。セリナたちが掃除に忙しい間に調べたが、予想通りだった。だから、恐らく討伐フラグも「スライム」のままなのだ。
まず、一階のスライムを一匹倒してフラグを成立させる。それから──
「ザガン、『はねる』を使って。」
「でも、何も起きませんよ?」
「それが起きるのだ。跳んでみろ。」
ザガンはしぶしぶ跳んだ。すると──
「ありがとう!10階のミノタウロスを倒してくれて!これは報酬の伝説の剣だ!」
伝説の剣を手に入れました。
「噓でしょ…」
「ザガンの『はねる』は何も起きないが、誰にでも使える。そして、ダメージ計算も行われる。システムはコード上のIDではなく、テキストを参照して元のIDを書き換える。だから、クエストが『完成された状態』で得た報酬は、文字通り『伝説の剣』になる。」
「初めての村で、ラストダンジョンの装備を手に入れた気分であります。」
「ちょっと、早く移動しないと、ドラゴンが来るぞ。」
「いや、それも待っていた。」
長い時間移動しないと、塔のシステムはペナルティとして、明らかに倒せない高レベルの敵を出現させる。しかし、これもおそらく簡単に倒せる手段がある。
ドラゴンが現れました!
「ザガン、『はねる』を使って。」
「えええ!?逃げないんですか?」
「逃げるなら、最後の人が逃げるコマンドを選べばいい。今は試すのが先だ。」
「はい…では、ウサギ跳びを喰らうがいい!」
ザガンは『はねる』を使った。何も起きなかった。
「やっぱり、ダメじゃないですか。」
「いや、これを使った後に、完成される。」
__は『ファイアボール』を使った! ドラゴンに1のダメージ!
ドラゴンを倒した!
勇者セリナに99999の経験値!
勇者セリナはレベル99 MAXになった!
剣士レンに99999の経験値!

マスコットザガンはレベル99 MAXになった!
「噓だろ…」
「ザガン。いかなる高いステータスでも『はねる』にダメージがないのは、特殊な計算式を使っているからだ。その後、名前が空欄の私が、普通のダメージ計算のスキルを使うと、システム上は『ザガンがその技を使った』ことになる。」
(ザガンは『はねる』を使った。何も起きなかった。は『ファイアボール』を使った。)
二つの計算が混じることで、システムのメモリがおかしくなり、ドラゴンのHPのIDが、最初のザガンの『はねる』のダメージ値(つまりゼロ)と同じになる。結果、何もせずに倒れる。
「チートじゃん…」
「失礼な。長い間修復されていないバグは、もはやバグではない。『仕様』だ。レン、その伝説の剣を装備して、その最強のステータスで敵を散らせ。」
「それもなんか嫌だな…」
この後の戦闘は、レンが範囲技を放って無双するだけの、非常にシンプルな作業ゲームと化した。
それでも、クエストをクリアしないと先に進めない階もあるが。
「ザガン。」
「はい、『はねる』ですね。」もはや条件反射のように、ザガンはただ跳ぶ。
「すり抜けバグ発見。当たり判定を曖昧に作ってくれて、ありがとう。」この脆弱に作られたシステムの中で、判定が特別なザガンは、まさにバグ誘発装置になっている。それが必ずしもこちらに有利なバグとは限らないが、一周目の経験で使えるものだけを選別した。彼女の幸運の力は、塔に入る直前までよく働いていたようだ。
こうして、本来二日間かかっても攻略できない塔を、
2時間で攻略した。
「帰って💤」
ヴェネゴールの力が再び発動し、またリセットされる。
しかし、二周目の経験で、さらに多くのバグを見つけることができた。
伝説の剣×99を手に入れた!
「伝説の剣のバーゲンか…」
戦闘能力のあるレベルMAXの四人が、全員伝説の剣を装備。豆腐を斬るかのように、さらにスムーズに進んだ。三周目は、なんと時間を半減して一時間で攻略した。
「おかしいですね。なんでこんなに高い塔を登っているのに、疲れないんでしょう。」
「罪人たちはともかく、私たちにはそんな仕様は実装されていない。疲労値が存在する限り、塔を登ること自体では体力を消耗しない。」
そうだ。もし罪人たちがNPCとしてこのシステムの中で責務を果たしているなら、プレイヤーである私たちは、ゲームキャラのように戦闘と移動自体で疲労を感じない。百層以上の塔を登ろうが、千回以上の戦いを繰り広げようが、「キャラ」は疲れない。
しかし、これでもまだ限界ではない。
「秘密のゲートを発見したであります!これは他の階へ一瞬で移動できる装置であります!」
「でもそれ、行ったことある階しか使えないんじゃ…」
「皆の衆、そこを退いてくださいまし。うちがどうにかしますから。」ザガンの自信も、周回するたびに上がっている。もう私が言わなくても、自分から名乗り出るようになった。
お約束の「はねる」の後、行ける階の数字ももちろんバグった。これはザガンの運の良さというより、いかに適当に作られたヴェネゴールのシステムかを物語っている。
私たちがここまでバグを利用しても、それらが修正されないあたり、細部の調整を面倒がっているのだろう。そして「全部のバグが直った」というパッとしない妄想は、実現されないに違いない。つまり、彼女が強くイメージしない限り、現実化する妄想にも限界があるわけか。それでもかなり強力な力だが、能力の持ち主があの状態では…いや、むしろ、怠惰に徹した彼女だからこそ、この力を持って破滅しなかったのかもしれない。
十周目あたり、さすがのヴェネゴールも、リセットすること自体に面倒さを感じ始めた。
「もう…ヴェネの負けでいいから…帰って💤」
「ようやく勝てたか…もう一生分の剣を振った気がする。しばらく剣は見たくないな、特に名前に『伝説』がつく剣は…」
あの剣好きのレンですら、一時的に剣に拒否反応を示すとは。こちらの被害も、決して軽くはないかもしれない。
「これで安心して掃除できます。セリナの目が黒いうちは、こんな汚部屋は許しません!」セリナの心を支えていたのは、きっとこの部屋を掃除する執念のようなものだったのだろう。
「うちは、はねるのです。」
「ザガン、もうクリアしたから、跳ばなくてもいいぞ。」そう言われると、ちょっと残念そうなザガンだった。
「ゲーム、ゲーム、ゲームであります!」あれほどリアルなRPGをやったのに、まだゲームがしたいとは。ロボットの頭の作りは、やはり生き物とは違うのか。
まあ、ともかく、これで無限地獄の攻略は終わり、コインをもらってこことはおさらばだ。そう思って、ヴェネゴールからコインを受け取ろうとしたその時──
「ダメよ。そんな面白くない終わり方じゃ、まだまだ物足りないわ。ふふふ。」
懐かしい声が聞こえた。それは、私が最も愛する者の声だ。
「モアちゃん💤」
ヴェネゴールの背後から現れたモリアは、ヴェネゴールが開けたコインを乗せた手を、自分の手でそっと閉じた。
「私に早く試練を終わらせたいのは、君ではないのか?ならば、なぜ邪魔をする?」
「ええ、一刻も早くあなたと一緒になりたいわ。でも、それで内容を疎かにしたら、試練そのものの意味がなくなっちゃうもの。それが不服かしら?」
「女の子の理不尽さには、この旅でもう慣れている。不服はない。だって、それは君からの『わがまま』だから。」どうせ言っても無駄だろう。彼女がこの地獄のキューブ世界を動かす限り、彼女が納得しなければ先へは進めない。
「愛しているわ。たとえあなたの内心が嫌々でも、私のためなら、それを顔に出さずにやってくれるところ。では、この可愛いニート悪魔を社会復帰させること──これが、あなたたちへの次の試練よ。」
「私も愛しているよ。『否めない無理難題』を、私ができると知っていて、容赦なく課せられるところ。『できる男』はつらいな、文字通りに。」
「💤」
依頼期限まで、残り14日。
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