まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第九章:魔王とは何か、王が王になる前の話――千年前の地獄と九つの罪

第169話:就活も奉仕も修行も配信も――地獄は忙しい

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「では、弊社への希望動機を述べてください。」
「特になし💤」
「あの、帰ってもらいますか。」
黒縄地獄にてヴェネゴールの面接を行っている。
毛玉曰く、新しい生活は新しい環境から始まるでのことで、無限地獄では彼女は自堕落の生活から脱出できないので他の地獄へ就職活動を行えることになった。攻略されてない地獄へいけないので、攻略済みの地獄から着手することになった。それで最初の被害者、ではなくてお助け悪魔は黒縄地獄のマムブスだった。
「落ち着け、君ほどの男がこれしきのことで騒ぐことはない。」
「これしきのこと?このダメ悪魔が面接から一連の返答を聞いてよくもまあこれしきのことを言えるよね。」
「わかった、わかったからもう一度彼女にチャンスをくれ、借金1000万価値分チャラするから。」
アブソリュート・スケイルもその値段で大丈夫と判断した。ヴェネゴールの面接に付き合うのはそこまでの価値がある労働と判断しただろ。不憫なマムブスよ。
「では、最初からやり直して、自己紹介してください。」
「怠惰の悪魔、ヴェネゴール💤」
「え?終わり?いや、もっと話せることはあるでしょう。特技とか苦手なこととか。」
「特技は妄想すること💤、苦手なことは働くこと💤」
マムブスがメモするペンがへし折る音が聞こえた、ただでさえ破産のストレスで胃がもたれているのに、このやる気がない権現と相手するのが酷刑と等しい。
「これまでの職歴について教えてください。」
「ずっと無職💤」
「では、なぜ就職活動を始めたのですか?」
「モアちゃんに言われたから💤」
「空白期間に何をしていましたか?」
「寝っていた💤」
「5年後のあなたはどうなっていると思いますか?」
「ニートしている💤」
「帰って今すぐ、Get out of my sight.」
頭から青筋が破裂そうに膨らみ、強欲な悪魔は今だけ憤怒へ転身しそうだ。
「待て待て、ヴェネゴール君の妄想を現実にさせる力を見せてあげて。マムブスは価値ある金属や宝石が大好きだぞ。」
「わかった💤」
ヴェネゴールの半開きの目は完全に開き、空から金貨と宝石の雨が降り始めた。しかしその光景を見ているマムブスは喜んでいるではなく、崩壊始めた。
「やめろ、何をする、やめろ、金と宝石はレアだから価値がある、そんな山ほどあれば価値が下がる、普通の銅より価値低くなるからやめろ。」
アブソリュート・スケイルから金と宝石の相場はどんどん下がり、それを見たマムブスは魂が抜け出そうのように顔色が真っ青になった。
「お願いだから帰ってくれ、1000万の価値もいらないから、帰ってくれさえできれば、こちらから出してもいいから。帰ってくれ!」
金と宝石の山の上でマジ泣きのマムブス見て、さすがの毛玉もそれ以上頼めないと悟った。ヴェネゴール社会復帰の初挑戦は失敗で終わった。

紅蓮地獄・メイド論争とビーフシチューの奇跡
次は紅蓮地獄、ザガンの故郷。本人はまだ一人前になっていないとして、今回の同行を拒否した。まあ、家を出てまだ一ヶ月も経たないうちに帰るのは、カッコ悪いよね。
「お帰りなさい、毛玉ちゃん!会いに来てくれたの?嬉しいわ!このふわふわの手触りと、可愛い二頭身がたまらない!」
出迎えたのは、悪魔公爵にして龍メイドのアスタロト。ちょうど今のヴェネゴールも、セリナたちが作ったメイド服を着ているので、メイドとしての可能性を試すのもいいかもしれないと、毛玉は思った。
「メイドにとって一番大事なのは、自分のすべてを差し出すほどに敬愛する『主』と出会うことよ。」
(なんか、最初からずれていないか?)
毛玉は不安を感じ、無限地獄で待機させていた同じくメイドのセリナを転送した。
「違います。メイドにとって一番重要なのは、『奉仕の心』です。」
かみ合わない。
「人間のメイドがそれだから、程度が低いって言われるのよ。『使うべき主人』がいなくては、メイドはメイドとして成り立たない。それでも誰でも構わず主人にするの?節操がないね、人間らしいけど。」
「アスタロトさんは間違っています。奉仕の心がなければ、メイドはメイドに非ず。運命のご主人様に出会えたとしても、最高のご奉仕はできません。それは家臣であって、舎弟であって、メイドではありません!」
「いいでしょう!白黒はっきりさせましょうよ。どちらが、毛玉ちゃんにより満足のいくご奉仕ができるかで勝負する!」
「望むところです!」
(ヴェネゴールが間違った道に踏み込まないようにセリナを呼んだだけなのに…これはもしかして、より事態をややこしくさせただけか?)
ヴェネゴールのことはひとまず置き去りにされ、二人は「ご奉仕勝負」を開始した。被害者予定は、毛玉ただ一匹。
「はい、毛玉ちゃん、お着替えしましょうね。これは元々ザガン様のために作ったものだけど、彼女は恥ずかしがり屋さんで、なかなか着てくれないのよ。」
「あの…これは普通に女性が着る服なのでは?モリアからは『そんな女々しい服じゃなく、男らしい服を着ろ』って…」
白いワンピースに黒いリボン、そしてちょっと背伸びしたハイヒール。ザガンのために用意したものが、同じ二頭身のゆるキャラである毛玉にも、もちろん似合う。黒い猫耳はぷにぷにして、愛嬌が溢れ出ている。
「あああ!かわいい!そして尊い!生まれてよかったわ!あの嫉妬深くて心の狭い悪魔(モリア)はセンスも全然ダメだわ!こんなに可愛い毛玉ちゃんを、不細工な男物の服を着せるなんて…宝を腐らせただけだわ!次はこのお姫様ドレスを…」
「いい加減にしてください!それのどこがメイドなんですか!ただマオウさんを着せ替え人形にするだけですよね!」場外のセリナは、それ以上見ていられずに抗議した。
「メイドよ。主を脅かすものは全てなぎ倒し、主のお願いは何であれ絶対に叶える。とことん甘やかしかわいがる。これがメイドでしょ?」
(メイドじゃないな…)毛玉は思った。「じゃあ、お着替えはやめてくれないかな?」
「え?なにをおっしゃったのか、聞こえないわ。」ああ、これは都合のいいことしか聞こえない龍メイドの耳だな。そして、アスタロトの番が終わり、順番はセリナへと回った。
「ご主人様、本日のお昼はビーフシチューになります。セリナが丹精込めて煮込みました。」
「ご主人様で…君、今まで一度もそんな呼び方で俺を呼んだことないよな。それにビーフシチュー?昨日、なにか煮込んでいたのを見たけど、あれか?」
「はい。一晩寝かせることで、味がより染み込み、お肉も柔らかく仕上がりました。再加熱も注意を払い、じっくりと弱火で温め直しました。」
「おいしい💤」セリナからの対抗心かもしれないが、おかげでヴェネゴールの興味を引くことに成功した。スプーンでシチューをすくい上げ、口に入れる。それと同時に、元気のなかった目も少しずつ開いていく。
「ピザやポテトと違う…複雑な味。ヴェネ、これ好き。」
単なる味の濃いファーストフードと違い、セリナがじっくり煮込んだビーフシチューの味は深く、多彩だ。それはヴェネゴールにとって、新鮮なものだった。
「ヴェネゴールさんでも作れますよ。レシピを教えますね。」セリナはメモ帳を差し出した。しかし、そこに並んだ文字を見て、ヴェネゴールは一瞬でたじろいだ。
「めんどくさい…」
「その面倒さの中に、料理がおいしくなる秘密があるんです。自分で作ったものなら、もっとおいしくなりますよ。」
「ほんと?」
「はい。今回は文字じゃなくて、ヴェネゴールさんが読みやすいように、絵で描きますね。」
「ヴェネでいいよ。友達みんな、ヴェネって呼ぶから。」
「はい、ヴェネちゃん。」
「主をほったらかしにして、他のものと談笑するなんて、メイド失格だよ、あんたは。」
「いや、俺は満足しているさ。このビーフシチューのことも、彼女がヴェネゴールの心を少し溶かしたこともね。君もメイドとして、彼女から習うべきことがあるんじゃないか?」
毛玉はそう言って、ビーフシチューを入れたスプーンをアスタロトの口へと運んだ。
「まあまあよ。でも、人間としては上出来かもしれないね。後でレシピを聞いておくわ。」
こうして、ヴェネゴールはメイドとしての道こそ閉ざされたが、彼女の中に「自立したい」という考えが、ほんの少し芽生えた。それに、アスタロトとセリナの間では、自説を引っ込めずとも、お互いをメイドとしてのライバルと認め合う関係が、続いていくことになった。

次の行き先は等活地獄。毛玉たちが最初に攻略した地獄でもある。前回は若干ずるい方法で憤怒の王ザベルトに勝利したが、果たして恨まれているだろうか。
「魔王様、よくぞいらっしゃいました。憤怒の王ザベルト、参上いたします。」
意外にもスムーズに受け入れられたらしい。そういえば、彼は敗北の際に永遠の忠誠を誓っていた。その誓いを律儀に守るところは、さすが戦士の鑑だ。
「レン殿、久しいな。我ともう一度剣を交えんか?『男子、三日会わざれば刮目して見よ』。離れている間にどれだけ強くなったか、楽しみで夜も眠れぬ。これが所謂、恋する乙女の心境か?ははは。」
セリナの一件で、誰かを同伴させることが有効だと判断した。そこで、今回の等活地獄に最も縁のあるレンを同伴させたのだが…。
「ごめん、今しばらく剣は握りたくない…休ませて…」無限地獄で何十周も「伝説の剣」を装備し、作業のようにただ斬り続けた操作がもたらした後遺症は、まだ残っていたらしい。「男子」という言葉へのツッコミすら放棄するほどに。しかしザベルトはそれを理解しない。
「どうした?かつて我にかけたあの言葉を、今の汝自身に聞かせてやりたいものだ。いつからそんなに軟弱になった?まるで女のようで女々しい。」
「そうだね…そういえば、俺、女の子だったね。女の子らしいこと、今まで何もしてこなかったけど。これはむしろいいかも?男に間違えられなくて済むし。」
「情けなくて見ていられぬ。鍛え直してやる。さあ、立て!そこの貴様もだ!なにを他人事のような顔をしておる!」
「え?ヴェネは関係ないじゃ…」
「我は軟弱者が好かぬ。汝も王であるなら、王らしく振る舞ってみよ。」
「えええ…めんどくさい…」そう思ってヴェネゴールは目を閉じ、今までのことをリセットしようとするが、
「バカ者め!」
氷のように冷たい海水が上から彼女に浴びせられた。骨の髄までしみる冷たさは、彼女の眠気を一気に覚まさせた。
「嘆かわしい!嘆かわしいぞ!しかし、そうでなければ鍛え直す甲斐もないというものだ。今すぐ、川の周りを百周走れ!レン殿もだ!」
レンも同じように冷たい海水を浴びせられ、強制的に元気づけられた。こうして、地獄の特訓が始まった。
「遅い!遅すぎるぞ!亀の方がまだ速く走れる!貴様ら、亀以下か!」
二人はザベルトと同じ重い鎧を着せられ、走らされていた。
「重い…あんた、なんでこんなものを着て生活してるの?無理だよ…俺、そんな重装備で戦うスタイルじゃないんだ。」
「文句を漏らす力があるなら、もっと走れ、こののろま!」
後ろから重い蹴りがレンを襲う。
「痛っ!今、乙女の尻蹴ったよ!痣ができたらどうするんだ!」
「尻ごと切り落とせば、痣は残らぬぞ。」
「鬼!悪魔!人でなし!」
レンですら重いと感じる鍛錬。ヴェネゴールが耐えられるわけがない。
「もう死ぬ…立てない…」
「貴様は蛆虫か?蛆虫ですら体を動かして前へ進めるというのに、貴様は蛆虫以下だ。」
「なにを言われても…ヴェネは動けない…」
「ならば、変えてやろう。モリアの胸を吸い尽くせばいい。まあ、貴様ごときと仲良くする女だ。きっとどうしようもないあばずれだろう。」
「モアちゃんの悪口を言うな!ヴェネのことはなんと言われてもいいけど、モアちゃんは悪くない!」
「なら走れ!それを証明してみよ!」
「あああ!やってやる!!」
重い鎧を無理やり引きずりながら、ヴェネゴールは必死で走り始めた。だが、それでもやはり遅い。
「どうした、どうした!強がりは口先だけか!貴様の友達のモリアも、きっと心の底では貴様を軽蔑しているに違いない!」
「そんなことない!モアちゃんはヴェネの親友だ!そんなこと思うはずがない!」
しかし、精神論だけでどうにかなるものではない。彼女の妄想の力を使うにも、一旦眠りにつき妄想を構築しなければならない。そしてなにより、力を使って完走したところで、何も証明できない。
「ほら、手を掴め。」
一つの手が彼女の手を握った。前に走っていたレンだった。
「同じ走らされてる仲間だ。手を繋いだほうが、最後まで走り抜けられるさ。」
その少年のような無邪気な笑顔が、ヴェネゴールの心も繋いだ。
「ヴェネ…男の子と手を繋ぐの、初めてかも。ちょっとドキドキする。」
「女の子なんだっつの。」
ツンデレ風のツッコミも戻ってきて、レンは堂々と復活した。
(肉体を限界まで追い込むと、精神の方が生き返るか…。ザベルトには悪役を演じさせ、二人を立ち上がらせるのは正解だったな。まあ、演じている部分は少なく、ほぼ素のままだけど。)
毛玉は事前にザベルトに、二人を鍛え直すよう頼んでいた。しかし、レンの状態を見て、彼はそれを忘れ、本気で二人に鬼の修行を課した。だが、おかげで二人は元気を取り戻し、その上で友情も育まれたのは、意外な収穫だった。
百周の走りが終わり、二人は立っていることすらできなくなった。
地面に倒れ込み、大きく息をし、流した汗は下着まで濡らし、鎧の隙間から流れ出るほどだ。
「お疲れさま。水分補給しないと死ぬぞ。」
毛玉は二人に水筒を渡した。しかし、それを受け取る気力すら彼女たちにはなかった。
「仕方ないな。飲ませてやる。」
毛玉が近づく。もしかして、前回と同じ口移し?!と期待したレンは目を閉じ、唇を上げた。
しかし、待ちわびたのは毛玉の唇ではなく、水筒の口だった。
「なんだ、その『こいつわかってないな』という目は。気を利かせて水を用意し、口元まで運んでやったぞ。なにが不満だ?」
「…別に。」水を飲みながら、少しがっかりしたレンだった。
「意地を見せたな。力を使えば、もっと楽にできたのではないか。」
もう一方では、ザベルトがヴェネゴールを介抱していた。
「妄想の力を使ったら…モアちゃんとの友情まで、ヴェネが妄想で作ったものみたいに感じちゃうから。だから、ダメなんだ。」
「なるほど。ならば、今日の疲労も妄想に返させることはないだろう。」
「そうしたら、今までの努力が無意味になっちゃうじゃないか。この疲れも、たまには悪くないかも。」
ザベルトによる鬼軍曹式特訓は、ヴェネゴールにとって意味のある一日となった。これまでの無駄に眠るだけの怠惰な生活よりも、「生きている」という実感を与えてくれたのだ。

「ここはできる限り来たくなかったな。」
「はい、ダーリン♡ アスにゃんのこと忘れなくて会いに来たの♪ いやん、アスにゃんでば、罪作りのお・ん・な♡」
「死体が喋っているであります。」
「げ、ロボ娘。」
衆合地獄と、ここを支配する色欲の王アスモデウス。結果が見えているので、毛玉はここを最後の手段に決めた。同伴は粘膜を持っていないロボットのエンプラ。彼女がつまみ食いしないために。
「久しぶり、アスちゃん。」
「うそ!ヴェヴェきゃんが外にいる!これは幻覚だね。」
「幻覚じゃないよ。どんだけ驚いてるの。」
どうやら、モリアを中心にアスモデウス、ヴェネゴール、ベリアルでできた女子グループがあるらしい。だからアスモデウスの時も、今回ヴェネゴールの時も彼女が出てきた。アスモデウス曰く、無限地獄が形成されていたから、ヴェネゴールは一度も部屋から出ていないらしい。それで驚くわけだ…
「へえ、働きたいね♪ ならその胸にある立派なもので世の男ともから、げぷっ。」
一つの大きな鎌が振り下ろされ、アスモデウスの頭に直撃した。
「年中発情している腐れ外道デース。やはりベルがいないとだめデースね。」
ヴェネゴールの影が沸き立つ。
その表面に、赤が滲む。一点、火種のような赤い光が灯り、そこから炎のような逆立った赤髪が這い出る。髪の隙間から、ギザギザの鮫の歯が見え、甘ったるい空気を金属と血の匂いで塗り替える。
デスサイズの刃先が、影から突き出る。鎌の刃は光を吸い込むように暗い。
そして、彼女が現れる。
「アルちゃん?」
暴食の王ベリアルだ。焦熱地獄にいるはずの彼女はなぜここに。
「ヴェネは無防備すぎ。変な虫が寄らないように、ベルがしっかりしないとデース。」
無限地獄にて、部屋のドアに鍵も閉まらないヴェネゴールの部屋にも、もちろん彼女を襲おうと考えた罪人もいた。だけど、その後そいつらを見た者は誰もいなかった。それは、全部ヴェネゴールの影に潜んだベリアルに食われたからだ。ヴェネゴールも知らないうちに。今まで毛玉たちが無事でいられるのは、ヴェネゴールに危害を加えないからである。
(危なかった。最初不意打ちでヴェネゴールを暗殺しようと考えたが、あのままじゃ、影にいるベリアルにカウンターを喰らわせ、全滅したかもね。セリナたちの善意で助けられたかもね。)
「ふん、そんなに警戒しなくてもいいデースよ。ベルとの戦いは焦熱地獄までお預けデース。今回はこの脳に桃色の春しか沸かないクソビッチを監視にしただけデース。」
「酷い♪ いいじゃない、援助交際も立派な仕事じゃないか♡ 何なら、アルルも一緒にあっち系の姉妹になろう♡ で、痛ッ。」さらに鎌による打撃。
「あっち系の姉妹?」ヴェネゴールはその言葉の意味を理解できず頭をかしげた。
「ヴェネが知らなくてもいい言葉デース。キメェデース、発情の悪魔。」
「もう、冗談通じないな♪ ではここで真面目の意見で、Vチューバーになろう♡」
なにそれ? と今回はヴェネゴールだけじゃなくて全員が頭をかしげた。

「こんばんクマ。怠惰の悪魔、ヴェネゴールだクマ。Vチューバー始まったクマ。ここでヴェネの雑談やゲーム実況をするクマ。歌うもたまにするクマ。」
パソコンの前で、ヴェネゴールはいつものシロクマパジャマを着て生放送を始めた。その観客は異世界のネットユーザーたちだ。
「いいのかそれ?自分が悪魔と自称しているけど、それでは見る人が…」
「今同時接続数は3000人、アスちゃんと比べて衰えているがいいスタート♪ え?そんなの信じるわけないじゃない、『設定』と思われるよ、ヴェヴェきゃんかわいいし初心だから童貞のオタク君たちから受けがいいのよ♡」
「今回、シロクマの部屋へ来てくれたお客様は未来から来たロボクマ。あの、猫型じゃないので安心してください。」
コメント欄から『なんだ、ド〇えもんじゃないだ』『もしかして美少女ロボとかなら萌える』『大穴ガ〇ダムたりして』が一気に浴びせられた。
「ほら、先コメントで『ブス』って言ったやつ、今晩てめえの魂の刈取り来るから首を洗って待つデース。」
「まあ、さっそくアンチまでいるなんて、上々ね♪ この仕事は見る人がいないのが致命的なのね♡」
「こんばんは!皆の衆、吾輩はエンタープライズCVN-6、未来から来たインテリジェントのロボであります。」
『エンタープライズで「〇これ」?!』『吾輩で(笑)』『軍服だぞ、キャラ設定やりこんでいるね』
大丈夫かこれ。問題児が問題児を掛け合わせているぞ。それは『+』じゃなく『×』だぞ。
「それで、未来のロボエンプラさんに聞いたことがあるクマ。ファ〇ナルファン〇ジーで何作まで出たクマ?」
え?
ヴェネゴールが好きな話で盛り上げようと事前に話したけど、まさか最初からゲームとは誰も思わなかった。
「もうXXまで出たであります。来年発売のXXIもう予約したでありますよ。」
「XX!!ヴェネはまだXIVまでしか遊んだことないのに、貸してください。」
クマの語尾忘れてるぞ、とアスモデウスは白板に書いてヴェネゴールに見せたが、彼女はもう自分の世界から抜け出せない。
「でも、今ヴェネの部屋にDSIVしか持ってないであります。XX動かすのはVIがないと遊べないでありますよ。」
「VIまで!?嘘、マジで!?どこに売ってるの?未来か?タイムマシン持ってないか、プラえもんでしょ。」
いつもと違ってハイテンションのヴェネゴールを見て、毛玉はちょっと面食らった。
「あの娘、そんなに話すんだ?普段一文字話すのも面倒なやつじゃなかったか。」
「ヴェネはゲームや漫画の話をすると長舌になるから…ベルはちょっとそういうのをわからないから、話をうまく返せないけどデース。」
「ちなみに、シリーズの中で誰か一番好き?」
「セフィ〇スであります。」
「心の友よ!」
ヴェネゴールはエンプラを強く抱きしめた。
コメント欄はさらに荒れる。
『ゆり来た!!』『尊い』『貼貼、貼貼』
「観客を完全にほったらかししているぞ、いいのそれで?」
「それがいいだよ♪ 観客を意識しない自然な乙女たちのスキンシップが尊い。みんなはただ背景の壁になった、二人を邪魔せずただ見るのがマナーなのよ♡」
よくわからないな。毛玉は最後まで置いてけぼりだったけど、計画自体はうまく行ったようだ。
「エンプラちゃん、これ、ヴェネのアドレス、後でゲームID送るから、一緒に遊ぼう。」
「了解であります。承認メール送ったであります。モンハ〇で一緒に狩りをするであります。」
「絶対だからね。来ないなら、あなたのセーブデータ全部リセットするから。」
「それは勘弁するであります。」
こうして、二人のだらだらのゲーム雑談が続き、ヴェネゴールのチャンネル登録数は一夜にして一万を突破した。
これで収益化もできて、彼女は無職のニートから卒業した。なにより、新しい友達もたくさんできた。
「ありがとう。これを受け取ってください。」ヴェネゴールは毛玉に自分のコインを渡した。
無限地獄。毛玉たちが一番攻略に時間がかかった地獄だが、その時間に匹敵する「無駄のない」経験を体験したかもしれない。
依頼期限まで、残り12日。
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