まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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序章:すべての旅は、茶番から始まる――剣も魔法もまだいらない

番外編④:明星よ、堕ちよ

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酒場の隅。

ダスが"師匠"と呼ぶ男は、

だらしない格好で酒をあおっていた。



「よう、ダス。今日も来たか。勉強熱心だな」



汚れた服、手入れのされていない髭。

そして何より――酒臭い。



「紹介するよ、師匠。こいつは俺のダチ、ルキエル――いや、ルキエル様だ」

「へぇ、"様"付けとは……どこかの貴族の落ちこぼれか?」



酒の臭いを混ぜた息がこちらにかかる。

品も威厳もない。会話する気すら失せる。



「えっと……ルキエル様は、元貴族で、今は下町で修行中で……」

「なんだ、やっぱり落ちこぼれか。気張って損したな」



再び酒を流し込み、

男はアルコールの海に沈んでいった。



ダスは苦笑しながら、必死に取り繕う。

「でも、師匠はすごいんだぜ。国内でも数少ない"オリハルコン級"の冒険者なんだ!」



(オリハルコン級? なにそれ、僕は知らない。

それが僕がこの腐った肉を塵にする時間に影響しないなら、どうでもいい。)



「今日も、ご指導をお願いします! ルキエル様にも、ぜひ……」

「いいぜ。その代わり、今日の分の金は出せよ」



男の顔が、欲望に歪んだ。

もはや悪魔より醜悪だった。



「ごめん、今日はちょっと失敗して……でも、明日は必ず……!」

「はあ? 前もそう言ったよな。金がないなら破門だ」

「そんな……頼むよ、師匠。金なら俺が――なんとかするから……!」



ダスは必死だった。

声を震わせて懇願した。



だが男は――

「触るな、クソガキが」



その足が腹に突き刺さり、

ダスは酒場の外まで吹き飛ばされた。



口から血を吐き、地面に崩れ落ちる。

それでも――

「……お願い……します……!」



彼は立ち上がろうとした。

痛みに顔をゆがめながらも、

必死に"師匠"に縋ろうとしていた。



(なぜ、そこまで……?)



「おめえがしつこいから、せめて酒代くらい出せ。じゃなきゃ、誰が貧乏人の面倒見るかよ」



周囲の人間たちは見て見ぬふり。

止めようとする者は誰もいなかった。



(これが人間らしさか。哀れな生き物だ……)



それでも、ダスは諦めなかった。

ふらふらの足取りで、なおも縋りつこうとして――叫んだ。



「俺は……ルキエルと……冒険に出たいんだ!!



その瞬間、

僕の中で、何かが静かに崩れ落ちた。



***



「――神の第一の尖兵。

神魔大戦で最も多くの悪魔を葬り、

味方の天使すら畏れた全能なる天使――

その原点にして、頂点。"熾天使セラフィム"ルキエル」



地上に現れた十二枚の翼を見て、

モリアは静かにアフタヌーンティーを飲みながら呟いた。



「あなたが、あの"誇り"を何より大切に思うルキエルなら――

このゲームに勝つことは絶対ありません。

私はそれを知っています。」



***



僕は、ダスの前に立った。

あの悪魔との勝負など、もはやどうでもいい。



ただ――

僕を信じる者が嬲られる姿を、何もせず見ていること。

それこそが、最も屈辱だった。



「ルキエル……?」

「ルキエル様だ」



僕は、ダスの身体を怪我をする前の状態に戻してやった。

人間は脆すぎる。

それが、どうしても気に入らない。



「なんだお前……天使のマネでもしてるつもりか……?」

「――黎明の子、明けの明星よ。

天から落ち、国々を打ち倒した者よ。

お前は切られ、地に倒れた」



そう言って、僕は静かに呟いた。

「明星よ、堕ちよ」



神罰の光が降り注ぐ。

その男は――

魂のひとかけらすら残さず、この世界から消えた。



まるで、最初から存在しなかったかのように。



***



"天使が降臨した"という噂は、

すぐにグラナール全域に広まった。



だが、その神罰を目の当たりにしても、

近づこうとする者はいない。



――ただ一人を除いて。



「ルキエル、俺……王都の学校に行こうと思ってる。一緒に来ないか?」

「僕は"人間の学校"など行かない。人間ごっこは、もう終わりだ。それと、"ルキエル様"だ」

「……はは、ルキエル様~?」

「敬意が足りん。天罰、受けたいか?」

「ご勘弁を~、ルキエル様」



馴れ馴れしいその"人間"に、僕は――

「これは返礼だ」



そう言って、自分の羽を一本、彼に渡した。

「ドラゴンの鱗のお返しだ。これを持っていれば、世界のどこであっても、僕が駆けつけてやる」



そして、少年と天使はひとつの約束を交わした。

――いつか、一緒に冒険に出よう。



それは、ささやかで、けれど力強い約束だった。

いつか。また、会えるその日まで――。
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