まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第二章:壊せ、偽りの楽園――不夜城に咲く嫉妬と誘惑の花

第38話:そして、もう一度『友だち』に

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セルペンティナの町に、今日も穏やかな朝が訪れる。



そこへ、ちいさな──ほんとうに小さな訪問者がいた。

ふわふわとした毛玉のような何かが、ころころと道を転がっていく。



今日の彼は珍しく、人間の姿ではなかった。

なぜなら──



「──あなたには、あの娘を殺せますか?」



その問いが、心の奥に突き刺さって、いまだ答えが出せずにいたからだ。



……思い返せば、長く人間の姿で過ごしすぎた。

そのせいで、知らず知らず“人間の感情”に絆されていたのだと。



だから彼は思った。

必要以上に人の姿を取ることをやめ、自分を見失わないよう、元の姿──毛玉に戻って過ごすことにしたのだ。



そんな毛玉の姿など、誰も気に留めない。

まさか魔王が、こんな格好で人間の町を歩いているとは思いもしないだろう。



本人も気づかぬうちに、毛玉は静かに町の図書館に辿り着いていた。

読書は、彼の数少ない趣味のひとつ。



小さな窓の隙間から、こっそり中へと侵入すると──

彼はお気に入りの勇者ものの本に手を伸ばした(正確には転がっていった)。



最初に聖剣を抜いた伝説の勇者──勇者アサー



民家漁りに定評のある──勇者ハラルド



技も登場もすべて過剰演出──勇者ジャスティス・ライター



異世界から召喚されてチートを炸裂させる──勇者カズキ



そうした英雄たちを見ながら、毛玉はつぶやいた。

──やっぱり、うちのセリナ君がいちばんだな。



誇らしげに、満足げに、ふわふわ揺れながらページをめくる。

けれど今日は──本を読んでいても、どうにも時間が長く感じられた。



セリナが自分にコーヒーを淹れてくれないからだ



彼自身でも、誰に向けた弁明かわからない。

だが、少しだけ寂しかった。



そんなときだった。



「……あれ? あなたも、本が好きなんですか?」



──それは、まるで魔法のようなタイミングだった。

もしかして、自分が願いが叶う魔法でも使ってしまったのだろうか。

そんな錯覚すら覚える。



「私はセリナです。私も本が大好きなんです。あなたは?」



そこにいたのは、彼がよく知っている少女だった。

少し間の抜けた、でもどこまでも優しい──あの笑顔のままで。



「……あなたには、あの娘を殺せますか?」



モリアの問いが脳裏によぎる。

……ごめん、モリア。

全知でない私には、まだわからないや。



たぶんきっと、今日はまだその答えを出す日じゃない。



だから──

今日、一匹の毛玉は。

一人の少女と──ふたたび「友だち」になった。
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