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第三章:汚された純白に、恋は咲く――旧友と公爵家の囁き
番外編⑦:明星は朝を知る
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最初に、神は世界を創った。
けれど、そこには命がなかった。
無音の楽園は、あまりに退屈だった。
だから神は、自らの姿を模して、ひとりの少年を創った。
――それが、僕。最初の天使、ルキエル。
神は“初めて”命を創った。加減を知らぬその手は、僕を“全能の天使”として形づくった。
•聖槍ロンギヌス――すべてを貫く概念の槍。
•聖弓アポロン――決して外れぬ運命の矢。
•聖剣プロトタイプ――世界の理すら書き換える“始まりの剣”。
僕の力があまりに強すぎたせいで、
次に創られたミカエル、ラファエル、ガブリエルたち――
彼らは皆、力を制限されて生まれた。
彼らは僕を恐れ、誰ひとりとして近づこうとはしなかった。
________________________________________
神魔大戦が起こった。
神が創った第二世代の智天使ケルビム――パイモリアが“悪魔”の概念を発明し、堕天。
彼とともに堕ちた七十二の存在は、後に“七十二柱の悪魔”と呼ばれるようになる。
僕は熾天使セラフィムの頂点、“明けの明星”として、戦場に降り立った。
金色の髪、十二の翼をたずさえて。
――黎明の子、明星の天使。
僕は先陣に立ち、多くの悪魔を地獄に堕とした。
けれど、肝心のパイモリアだけは倒せなかった。
彼は“全知”の存在。
僕の動きをすべて見通し、決して正面から戦おうとしなかった。
何千年も膠着が続き、ついに神と悪魔の間に不戦条約が結ばれた。
だが、僕はそれを受け入れなかった。
最強の僕が、勝てぬ相手など――いるはずがない。
だから僕は旅に出た。パイモリアを、ただ一人で倒すために。
この手で、“完全な勝利”を得るために。
________________________________________
けれど、彼は僕の行き先をすべて読んでいた。
彼は僕を避けた。
彼は僕のことを“知っていた”。
僕は彼を見つけることができた。
だが、それにはあまりにも長い時間がかかった。
そして、ついに――僕は彼を見つけた。
……彼は、“毛玉”と一緒にいた。
どうでもいい。巻き添えで消えればいい。
僕は明星の光を放った。
時間停止――。
だが、時間を止めたのはパイモリアではなかった。
……あの毛玉だった。
そんな小細工、僕には通じない。
「黎明の子、明けの明星よ。あなたは天から落ちてしまった。
もろもろの国を倒した者よ。あなたは切られて、地に倒れてしまった」
――聖槍ロンギヌス、貫け。
時間停止の中でも動ける“貫通する概念”を宿した槍が、毛玉を狙って放たれる。
だが――避けられた。
正面から受ければただでは済まないと、本能で悟っているようだった。
ふん……いいだろう。
ロンギヌスは“一発のみの武器”ではない。概念だ。制限はない。
「聖槍ロンギヌス――殲滅せよ。」
――25,721本。
僕の最大同時発射数だ。
空を埋め尽くす光の槍が天から降り注ぎ、雷鳴のごとき音が空を裂く。
生き物が存在できる余地など、残らない。
だが毛玉は、すべてを避けていった。
自らに時間魔法をかけ、加速していた。
……ちょこざいな。
ならば、これならどうだ。
「あなたがたも、夜が明け、明星がのぼって、あなたがたの心を照らすまで……
この預言の言葉を“暗き中の灯”として見よ」
――聖弓アポロン、発射。
矢は毛玉を追い詰め、捕捉――
だが、防がれた。
毛玉は空間の盾を展開し、必中の矢を止めた。
「聖槍と聖弓は“同時使用不可”。事前の予測通りだ」
……こいつ、僕の装備を分析していた?
だが、どうでもいい。僕は“明星”だ。僕が負けることなど、ありえない。
________________________________________
戦いは、千年に及んだ。
毛玉は一切“冒険”をしなかった。
避けられる攻撃はすべて避け、避けられぬ攻撃はすべて防いだ。
こちらのミスを決して待たず、戦術も変えない。
まるで機械のように、同じ動作を、誤差なく繰り返し続けるだけだった。
その“誠実さ”が、僕の心を少しずつ、蝕んでいった。
「うざい……うざい、うざい……!」
「――聖剣プロトタイプ!」
気づけば、僕は“禁じられた剣”を抜いていた。
その瞬間、理解した。
……僕は、負けたのだ。
________________________________________
プロトタイプ――それは“神の意志を代行する剣”。
熾天使や七十二柱の悪魔に対する絶対兵器。
それを、毛玉相手に抜いた時点で。
僕の誇りは、自らの“敗北”を認めていた。
「勝てない僕は、なんなんだ。
強さしかない僕が敗北だら、もうなにもないじゃないか」
________________________________________
「ならば君、私と一緒に来ないか?」
毛玉が声をかけてきた。
「嫌だね。僕は孤高の熾天使、ルキエル。お前なんかとつるむ気はない」
「でも、君から“寂しさ”を感じる。
それを紛らわすために戦っていた。千年も付き合った私にはわかるさ」
「子ども扱いするな。消すぞ」
「じゃあ、もう一戦しよう。三戦二勝で、勝敗を決めよう」
「……もういい。お前とは、二度と戦いたくない」
「じゃあ、私の勝ちだ。ご褒美、ひとつだけもらってもいい?」
「……いいよ。このルキエルに勝ったのだから。なんでも叶えてやる」
「じゃあ――“家族”になってくれない?」
「……僕の全能の力が目当てか? 残念だけど、僕は命令されることが一番嫌いなんだ」
「命令なんてしない。ただ、一緒にいてほしいだけ」
「……馬鹿だな」
――長い時の果てに。
僕は、初めて“寂しさ”を認めた。
「ルーでいい。僕はこの名を、神以外に許したことはない。お前の名は?」
「名などない。私はただの毛玉だ」
「じゃあ、マスターと呼んであげる」
「その意味、分かってるのか?」
「うんうん、知らない。でも、そう呼んでいたいだけ」
「じゃあ、それでいい。よろしくな、ルー」
「はい、マスター」
その言葉とともに、僕の心は――
あたたかく、やわらかく、融けていった。
こうして、“明けの明星”は、初めて――朝を知った。
けれど、そこには命がなかった。
無音の楽園は、あまりに退屈だった。
だから神は、自らの姿を模して、ひとりの少年を創った。
――それが、僕。最初の天使、ルキエル。
神は“初めて”命を創った。加減を知らぬその手は、僕を“全能の天使”として形づくった。
•聖槍ロンギヌス――すべてを貫く概念の槍。
•聖弓アポロン――決して外れぬ運命の矢。
•聖剣プロトタイプ――世界の理すら書き換える“始まりの剣”。
僕の力があまりに強すぎたせいで、
次に創られたミカエル、ラファエル、ガブリエルたち――
彼らは皆、力を制限されて生まれた。
彼らは僕を恐れ、誰ひとりとして近づこうとはしなかった。
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神魔大戦が起こった。
神が創った第二世代の智天使ケルビム――パイモリアが“悪魔”の概念を発明し、堕天。
彼とともに堕ちた七十二の存在は、後に“七十二柱の悪魔”と呼ばれるようになる。
僕は熾天使セラフィムの頂点、“明けの明星”として、戦場に降り立った。
金色の髪、十二の翼をたずさえて。
――黎明の子、明星の天使。
僕は先陣に立ち、多くの悪魔を地獄に堕とした。
けれど、肝心のパイモリアだけは倒せなかった。
彼は“全知”の存在。
僕の動きをすべて見通し、決して正面から戦おうとしなかった。
何千年も膠着が続き、ついに神と悪魔の間に不戦条約が結ばれた。
だが、僕はそれを受け入れなかった。
最強の僕が、勝てぬ相手など――いるはずがない。
だから僕は旅に出た。パイモリアを、ただ一人で倒すために。
この手で、“完全な勝利”を得るために。
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けれど、彼は僕の行き先をすべて読んでいた。
彼は僕を避けた。
彼は僕のことを“知っていた”。
僕は彼を見つけることができた。
だが、それにはあまりにも長い時間がかかった。
そして、ついに――僕は彼を見つけた。
……彼は、“毛玉”と一緒にいた。
どうでもいい。巻き添えで消えればいい。
僕は明星の光を放った。
時間停止――。
だが、時間を止めたのはパイモリアではなかった。
……あの毛玉だった。
そんな小細工、僕には通じない。
「黎明の子、明けの明星よ。あなたは天から落ちてしまった。
もろもろの国を倒した者よ。あなたは切られて、地に倒れてしまった」
――聖槍ロンギヌス、貫け。
時間停止の中でも動ける“貫通する概念”を宿した槍が、毛玉を狙って放たれる。
だが――避けられた。
正面から受ければただでは済まないと、本能で悟っているようだった。
ふん……いいだろう。
ロンギヌスは“一発のみの武器”ではない。概念だ。制限はない。
「聖槍ロンギヌス――殲滅せよ。」
――25,721本。
僕の最大同時発射数だ。
空を埋め尽くす光の槍が天から降り注ぎ、雷鳴のごとき音が空を裂く。
生き物が存在できる余地など、残らない。
だが毛玉は、すべてを避けていった。
自らに時間魔法をかけ、加速していた。
……ちょこざいな。
ならば、これならどうだ。
「あなたがたも、夜が明け、明星がのぼって、あなたがたの心を照らすまで……
この預言の言葉を“暗き中の灯”として見よ」
――聖弓アポロン、発射。
矢は毛玉を追い詰め、捕捉――
だが、防がれた。
毛玉は空間の盾を展開し、必中の矢を止めた。
「聖槍と聖弓は“同時使用不可”。事前の予測通りだ」
……こいつ、僕の装備を分析していた?
だが、どうでもいい。僕は“明星”だ。僕が負けることなど、ありえない。
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戦いは、千年に及んだ。
毛玉は一切“冒険”をしなかった。
避けられる攻撃はすべて避け、避けられぬ攻撃はすべて防いだ。
こちらのミスを決して待たず、戦術も変えない。
まるで機械のように、同じ動作を、誤差なく繰り返し続けるだけだった。
その“誠実さ”が、僕の心を少しずつ、蝕んでいった。
「うざい……うざい、うざい……!」
「――聖剣プロトタイプ!」
気づけば、僕は“禁じられた剣”を抜いていた。
その瞬間、理解した。
……僕は、負けたのだ。
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プロトタイプ――それは“神の意志を代行する剣”。
熾天使や七十二柱の悪魔に対する絶対兵器。
それを、毛玉相手に抜いた時点で。
僕の誇りは、自らの“敗北”を認めていた。
「勝てない僕は、なんなんだ。
強さしかない僕が敗北だら、もうなにもないじゃないか」
________________________________________
「ならば君、私と一緒に来ないか?」
毛玉が声をかけてきた。
「嫌だね。僕は孤高の熾天使、ルキエル。お前なんかとつるむ気はない」
「でも、君から“寂しさ”を感じる。
それを紛らわすために戦っていた。千年も付き合った私にはわかるさ」
「子ども扱いするな。消すぞ」
「じゃあ、もう一戦しよう。三戦二勝で、勝敗を決めよう」
「……もういい。お前とは、二度と戦いたくない」
「じゃあ、私の勝ちだ。ご褒美、ひとつだけもらってもいい?」
「……いいよ。このルキエルに勝ったのだから。なんでも叶えてやる」
「じゃあ――“家族”になってくれない?」
「……僕の全能の力が目当てか? 残念だけど、僕は命令されることが一番嫌いなんだ」
「命令なんてしない。ただ、一緒にいてほしいだけ」
「……馬鹿だな」
――長い時の果てに。
僕は、初めて“寂しさ”を認めた。
「ルーでいい。僕はこの名を、神以外に許したことはない。お前の名は?」
「名などない。私はただの毛玉だ」
「じゃあ、マスターと呼んであげる」
「その意味、分かってるのか?」
「うんうん、知らない。でも、そう呼んでいたいだけ」
「じゃあ、それでいい。よろしくな、ルー」
「はい、マスター」
その言葉とともに、僕の心は――
あたたかく、やわらかく、融けていった。
こうして、“明けの明星”は、初めて――朝を知った。
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