まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第三章:汚された純白に、恋は咲く――旧友と公爵家の囁き

番外編⑧:知の果てに、君がいた

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生まれながらにして、すべてを知る――

退屈に思われるかもしれませんわね。

けれど、決してそんなことはございません。

未来が見えるからこそ、物語を“最高の形”で導くことができるのですもの。

あなたもきっと、何百冊の駄作を手に取るより、最初から名作だけを選べたら幸せでしょう?

たとえ驚きがなかったとしても、本当に価値ある物語は、結末を知っていてもなお、胸を打つのですわ。

――これが、私、パイモリアの生き方です。

________________________________________

私は“神”によって創られました。

天使の第二世代――智天使ケルビム。

第一世代である熾天使セラフィムを創った神は、そこからひとつの教訓を得ました。

力だけでは、世界は動かない。

だからこそ、次に求めたのは――「知」。

その答えとして、最初に創られたのが、私です。

私は、生まれた瞬間から、すべてを知っていました。

過去も、現在も、そしてあり得るすべての未来までも。

もちろん、天界にとどまり、忠実なる天使として終える未来も存在していました。

でも――それは、あまりにつまらない“駄作”しかありません。

________________________________________

私の肉体は男性のもので与えられましたが、意識は明確に女性として構築されていましたわ。

もっとも――“女性”という概念そのものが、当時の世界にはまだ存在していませんでしたけれど。

それは、後に誕生するアスモデウスが定義する“新たな性”。

その方法も経緯も、私はすでに知っていました。

けれど、知っていることと、できることは違いますわ。

たとえば、鳥の飛び方を理解していても、自分の腕で空を飛べるわけではないように。

それが、“全知”の限界ですわ。

一方で、全能のルキエルは、なんでもできます。

けれど、彼は多くを知りません。

まさに宝の持ち腐れというものですわ。

ですが、私は違います。

飛べないのなら、飛行機を作ればいいではありませんか。

だから私は、「悪魔」という概念を創造し、堕天した。

________________________________________

神魔大戦は、すべて私の計画通りに始まりました。

ルキエルは手強い相手でしたが、私は知っています。

彼の切り札――聖剣プロトタイプは、神の定めた制限により、その権能を一日に一度しか使えない。

その制限を解除する方法も、もちろん私は知っています。

けれど、ルキエルは知らない。

つまり――彼は私に勝てず、私も彼に勝てない。

永久に交わらない光と闇の戦い。

こうして、交わらぬまま数千年。

神と悪魔は、不戦条約を結びました。

上位の存在が人間界に侵入せぬように。

天界からは、監視者としてルキエル。

地獄からは、この私が地上へと赴く。

――すべては、彼に“出会う”ための舞台。

ここからが、私の物語の“本番”でした。

________________________________________

私はルキエルの追跡を避け、彼が動く未来も、感情も、すべて見通していました。

そして、ついに――その日が訪れました。

未来の中で、私が最も長く共に生きることになる存在。

私の、最愛の者。

そう――

一匹の毛玉を、私は見つけたのです。



「私は君が欲しい!」

彼は、そう言いました。

……ええ、知っていましたとも。

私は、微笑んで応じました。

「ただの毛玉では、このパイモリアには釣り合いませんわ。

私は――悪魔の頂点に立つ者ですもの」

「ならば、悪魔の王になって、君を手に入れるまでだ」

言葉に一片の迷いもありませんでした。

私は、ちょっと意地悪く問いかけました。

「そこまでして、“全知”の力が欲しいのかしら?」

「違う。全知の力より――君が欲しい。

美しく、気高く、聡明な、君という存在が欲しいんだ」

……ええ、分かっていますとも。

彼の心の内も、感情の動きも、すべて――。

だからこそ、私は――生まれたときから彼に恋をしていましたの。

「そのためなら私は、魔王になる」



――なれますわ。

あなたなら、きっと。

私を含め、七十二柱すべての悪魔を打ち倒し、

魔王の座へと辿り着くでしょう。

ただ――私を手に入れるためだけに。

その未来を、私はずっと知っていました。

世界の終わりも、彼の未来も、私自身の心の動きすらも。

けれど、それでも。

私は選びました。

数多ある可能性の中から――彼の隣にいる未来を。

予定された恋でもかまいません。

決められた運命でも、構いません。

それでも私は――

この愛を、誰よりも誇りたいのですわ。
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