まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第五章:沈みゆく天使と黒真珠の誓い――海賊王の財宝に眠る、最後の願い

第88話:明星、深海に堕ちて

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「もしもし、こちらKG1132。例の海賊船らしきものを確認。……至急、増援を頼む」

帝国海軍基地――その最高責任者、少将カート・シュナイダーは無線の声に眉をひそめた。

「おのれ海賊め……よくも我が兵を殺しておきながら、堂々と賞金をせびりに来るとは。恥を知れ」

帝都では建国祭が開催中で、他の将官は不在。

この巨大基地は、今やカートの独壇場だった。

だが――彼こそが、“海賊船に偽装した帝国艦隊”による制海戦術《狼群ウルフパック》の発案者。

帝国の名を掲げず王国商船を襲い、同時に人魚の密猟まで行っていた張本人だ。

当初こそ順調だったその戦術も、最近突如現れた“謎の海賊船”によって壊滅寸前。

カートは激しい焦りに駆られていた。

「……無能の烙印だけは、絶対に避けねばならん。あれさえ潰せば、まだ間に合う……!」

だが、彼はまだ知らない。

それこそが“魔王の罠”であることを。



「うわぁ……僕、水の中でも平気だけど、濡れるのは好きじゃないんだよね」

ルーは不満げに言いながら、水中を進んでいた。

傍らには、シーサイレン一家の末弟――ナマズ。

彼らは今、帝国海軍基地の排水路を通り、極秘の潜入を遂行していた。

水圧に耐えられ、長時間の無呼吸にも耐えられる――人間には到底無理なルート。

だが、ルーは全能の天使。ナマズは人魚の血を引く者。

この程度、障害ではなかった。

「エンジェルマン、俺……家族以外で、ここまで一緒に潜れたの、初めてだ」

「ふふん、僕は全能のルキエル様だ。できて当然だ。」



「うおおおおおーっ!!」

突如ナマズが声を張り上げた。

だが、それは人間の耳には届かない――超高周波の“人魚ソナー”だ。

その声は、海軍基地の奥――人魚たちの元へと届く。

〈こっち……聞こえた!〉

返ってきたのは、同じく高周波の応答。

まるで海の中で交わされる“秘められた電話”のように。

「なんだ!? お前たちは……」

通路の先で兵士に見つかりかけたが、ルーが指先をひと振りするだけで――

灰となって、消えた。

「予想より少ない。マスターの陽動がうまくいったみたい」

彼らは、奥へと急ぐ。

そして、たどり着いた。

それは、大型の水槽。

その中には、信じがたい数の――人魚たちが閉じ込められていた。

「……ひどい」

スペースはあまりにも狭く、身動きすら困難。

ただひたすら涙を流すことで“真珠”を生産する装置のように扱われていた。

「人魚の涙には感情が宿る。だから黒真珠は、負の結晶だよ……」

ナマズがぽつりと呟く。

その水槽の底に、幾つもの黒真珠が沈んでいた。

それはこの国の罪の証。

帝国が“特産”として誇る宝石の正体だった。

「でも、どうやって彼女たちをここから逃がせば……ここから海まで遠いよ」

ナマズが悩む。

すると

「海なら近いじゃない」ルーは、地面を指差した。「この下すぐだ」

ルーはロンギヌスを出した。

「――黎明の子、明けの明星よ。天から落ち、国々を打ち倒した者よ。お前は切られ、地に倒れた……」

「明星よ、堕ちよ」

聖槍は地を貫いた。

ズズズ……と地鳴りと共に、海水が吹き上がる。

「よかった、溶岩じゃなくて。まあ、仮に出たとしても、僕ならなんとかなる。」

ルーは悪びれず笑い、水槽の壁に指を添えた。

パリン……

それだけで、分厚い強化ガラスが粉々に砕ける。

解放された水と共に――人魚たちは、動き出した。

はじめは一人。

次いで、二人、三人――

やがて全員が、海へと向かう水流に乗り、解き放たれるように泳ぎ始めた。

「もう大丈夫だよ。君たちは自由なんだ。好きなだけ、広い海を泳いでいい」

その声に、人魚たちは“歌”で応えた。

人間の耳には届かない、透明な音。

けれどルーとナマズには確かに聞こえた。

――ありがとう。

輝く海流の中で、真珠のように白い涙が、きらきらと舞っていた。



「急ごう、地震が来る」

ルーの槍が地脈を突いたことで、基地全体が揺れ始めていた。

「うわっ、ちょ、ちょっと待って! パンツが引っかかった!」

「バカ弟、置いてくぞ!」

「ごめんなさい!!」

月明かりの下。

水と光に飲まれてゆく帝国の“監獄”。

それは、囚われた人魚たちの“涙”によって、ゆっくりと沈んでいった。

だが、戦いはまだ終わらない。

――海軍の追撃部隊が、魔王の元へと迫っていた。

ルーはその気配を感じ取り、翼を広げる。

「待ってて、マスター。今、助けに行くから!」

そして――翼を広げ、彼は月光を弾きながら、夜空を切り裂いた。

明星――その名にふさわしい輝きとともに。
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