まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第五章:沈みゆく天使と黒真珠の誓い――海賊王の財宝に眠る、最後の願い

100話記念番外編:勇者と魔王と、デート未満の休日

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「……これは大丈夫でしょうか」

今日の私は、いつもと違ってメイド服を着ていません。マリさんから洋服を借りて、めいっぱいおめかししました。

「ちょっと……大人すぎたでしょうか」

鏡の前に映る、見慣れない自分。

私はこれまで、メイド服以外の服なんて、ほとんど着たことがありません。でも、今日は特別です。

だって――

今日は、マオウさんとふたりきりでお出かけする日なのですから。

マリさんから「勝負下着も貸すから、決めちゃいな!」と訳の分からないことを言われましたけど……。

別に戦いに行くわけじゃありませんし、何より――あの黒い紐はどう見ても下着ではありません。全然、隠れてないじゃないですか。

マリさんは、未だにセリナを子ども扱いしてからかうんですから。まったくもう。



約束の時間。約束の場所。

そこには――優雅に読書をしているマオウさんの姿がありました。

「セリナ君、珍しいな。メイド服以外の姿を見るのは……でも、よく似合っているよ。君が着ているなら、なおさらだ」

「ありがとうございます……! 本日はお時間を割いていただき、光栄です」

「マリ商会の時で約束しただろう? 君は何も悪くない。……ただ、本当にいいのか? こんなおっさんと一日過ごしても、楽しくないと思うぞ」

「いえっ、私は楽しいです!」

今のレン君やルーたちと賑やかに過ごす日々も好きですけど……

私は、最初の“ふたりだけ”だった日々も、だいすきなのです。

「……わかった。じゃあ、まずは食事にしよう。それから、君のおすすめの本屋に行こうか」

「はいっ!」

どんなおしゃれなお店に連れて行ってもらえるのか……少し緊張しながら、私はマオウさんの後を追いました。



「いらっしゃいませ、ご主人さま♡ ――って、え!? セリナ!? 今日デートじゃなかったの!?」

そこは――マリさんの商会が経営する、メイドカフェでした。

マリさん曰く、「メイド服を着たほうがウケがいいから」だそうです。今、流行ってるらしいです。

……もしかして私、やっぱりメイド服のほうがよかったのでしょうか。

「ちょっと! セリナとデートなのに、なんでこんな店に連れてくるのよ! ここ、デートスポットじゃないわよ!?」

「“こんな店”とは失礼な。自分の店だろう。私は興味があって来ただけだ。では――この“萌え萌えオムライス”を、二人前で頼む」



「お待たせしました、ご主人様♡ ――って、おっさん! “メイドプレイ”がしたいなら、家でセリナとたっぷりすればいいじゃない!」

「プレイではありません。セリナは“本物”のメイドです」

マリさんは笑顔を保とうとしていましたが、その努力は……あまり報われていませんでした。

どう見ても、“早く帰ってくれ”と顔に書いてあります。……気のせいでしょうか。

「オムライスはいい。問題は……“魔法”だ。“美味しくなる魔法”を、かけてくれ」

「はぁ? おっさん、なに言ってんの?」

「町で噂になっている。“この店のメイドが魔法をかけると、料理が格段に美味しくなる”と。

私は魔法使いとして長く生きているが、そんな魔法は聞いたことがない。無知な自分が恥ずかしい。

――だからこそ、今日ここに来たのだ」

「す、すごい……! マオウさんって、ほんとに勉強熱心なんですね!」

私も聞いたことのない魔法でした。

もしそれが本物なら、今後、もっと美味しいごはんを作れるかもしれません。

「私からもお願いします。ぜひ、習いたいです……!」

「ちょっ……セリナまで!? ……うう、わかったわよ。こっちだって商売よ。やってやろうじゃないの!」

マリさんは両手で♡をつくり、腰を落として、オムライスに向かって――

「お・い・し・く・な・れ♡ 萌え♡萌え♡きゅん♡」

「……っ!? な、なんという……。魔力の流れすら感じさせずに魔法を発動するとは、なんと高度な魔法だ。さっそく味わってみよう。」

マオウは銀のスプーンを翳し、オムライスを一口、優雅に口へ運んだ。

「どうですか、マオウさん!」

「……すまない、魔法前の味と比較しないと、判断がつかない。一旦、解除してくれ。後でかけ直してくれたまえ」

「もうッ!! 殺してぇぇぇぇぇ!!」



「結局、魔法の正体はわからなかったな。……アスモデウスなら知っているかもしれん。次に会ったとき、聞いてみるか」

食欲は満たされても、知識欲は満たされなかったようでした。

私も、今度マリさんにこっそり聞いてみようと思います。

お料理がもっと上手になれば、きっと皆さんにもっと喜んでもらえるはずですから。

「では、次は君が言っていた本屋だな」

「はいっ!」

私はマオウさんの手を引いて、本屋へ向かいました。



店の正面に、たくさんの本が並べられていました。

マオウさんは一冊の本を手に取り、首を傾げます。

「……これはなんだ?」

『神に「はい」と答えたら異世界で最強スキル《無限のうんこ製造》を授かりましたが、実はそれが世界を滅ぼす最終兵器だった件』

「……印刷ミスか? いや、違うな。そもそも長すぎるし、品位がなさすぎる。これは本なのか?」

もう一冊を手に取ります。

『転生したらドラゴンだったので、洞窟で昼寝していたら魔王討伐しててレベルが9999になっていた件』

「だからなんなんだこのタイトルは!? こういうのは“あらすじ”で説明するものじゃないのか!? なぜタイトルにする!?」

「セリナはこの『追放された元魔王が勇者を育ててたら、世界をぶっ壊すことになった件』が好きです。

なんだか、勇者が私に似てて……魔王も、マオウさんに似てて」

「……読まないほうがいい。第一、“追放された元”じゃない。現役だ。

……これはカズキ王か!? こいつも! こいつも! あの元勇者め、なにを書いてるんだ!公爵ほどじゃないが、あいつをぶっ殺してやりたくなってきたぞ!」

「……お気に召しませんか?」

この店を見つけたとき、マオウさんもきっと喜んでくれると思ったのに――

「いや、知識に貴賎はない。こんなバカけたタイトルの本でも、中には使える情報があるかもしれん。――一冊だけ、買おう。

教えてくれてありがとうな。次は、私がおすすめの本を紹介しよう」

「はいっ! 楽しみにしています」

「……それと、セリナ君、君が今手にしている本は君にはまだ早いよ。戻しなさい。」

「えっ?」

『メイド・イン・ヘブン~無垢なあの娘にラブラブ調教~』

「エロ本じゃないか!! それもメイドもの!? 作者……“マリ商会”!? おい、マジか!? この国は魔王に侵略される前に、メイドに侵略されるぞ!!」

「お客様、店内では静かにお願いします。ここは本屋です」

さすがにこの騒ぎだと、店の人に怒られちゃうますね。はは……。



こうして――私とマオウさんの、ふたりきりのお出かけは終わりました。

帰り道、隣を歩きながら、私はこの小さな幸せを噛みしめていました。

「セリナ君。もし、いつか私が君の“敵”になったら――君は、どうする?」

「……なんでそんなこと、聞くんですか?」

「例えばの話だ。君が好きな、あの本にもそう書いてあっただろう? 君なら、どうする?」

「……セリナは、マオウさんと“敵”になんて、なりません」

「どうして、そう言い切れる? 私は本物の“魔王”かもしれないぞ?」

「だって――私とマオウさんは“家族”ですから。

喧嘩をしても、“敵”になることなんて、ありません。

……マオウさんだって、ルーさんやモリアさん、レン君と敵にはなれませんよね?」

「……ああ。君は正しい。

私は、ルーたちと敵になることはない。――だから、きっと、君とも……」

――優しい風が吹いていました。

この日、私はほんの少しだけ、“大人”になった気がしました。
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