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第六章:奪われた王冠に、炎の誓いを――動乱の王都で少女は革命を選ぶ
第92話:父に捧ぐ剣、娘に贈る結婚式
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「王都に着いたっすよ」
ラム・ランデブーで黒真珠をもらい、マサキ抜きの真勇者パーティーは王都へ帰った。ガルドとリリアンヌが結婚式を挙げるために。
「…セリナたちには悪いことをした。これはただでもらうには重すぎる。結婚祝いとしてもな……」
ガルドはリリアンヌの黒真珠のブローチを見て、そう言った。
「そう思うなら、次にセリナたちが結婚した時、もっといいものを返せばいいっす。金より気持ち。男はそれがわかってないっすね」
「そうですよ。愛はなにより大切な宝物です。神はそうおっしゃっていました」
「……そうなのか」
この旅でマサキだけでなく、自分も成長できたと、ガルドは実感していた。
*
式を挙げる前に、ふたりはそれぞれの両親に報告をすることに決めた。
「では、私は大司祭様に式場の予約をしておきますので、お先に失礼します」
マーリンと別れ、ふたりはまずガルドの家へ向かった。
『剣聖道場』
大きな看板が掲げられている。弓の名手であるガルドの父は、この国で“剣聖”と呼ばれた男――クラウス・ファルケンだ。
「ガー君、大丈夫? 無理なら……」
「……いい。俺は逃げるべきじゃない」
ガルドは少し迷ったが、リリアンヌを見て覚悟を決め、門を開けた。
「若だ!」
「若様、お帰りなさい!」
訓練中の門弟たちはガルドを見た途端、手元のことを一旦置いて彼に挨拶した。何重もの門をくぐり抜け、一番奥の道場に初老の男がひとりいた。
「どんなヅラ下げて帰ってきた! この親不孝息子が!」
ガルドと何年ぶりに会った父の、最初の言葉はそれだった。
*
「俺はリリと結婚する」
「向こうの婿養子にでもなるつもりか。親不孝なお前がやりそうなことだ。で? ファルケン家は誰が継ぐ? わしの剣術は誰が受け継ぐ?」
「レンならば、十分すぎるかと」
「バカ者!! この道場を女に継がせるというのか! わしをファルケン家代々の祖先たちに笑わせる気か!? お前が剣に精進していれば、こんなことにはならなかった」
「……俺は、剣に興味がない」
「これでも“剣聖”の息子か! わしには、こんな情けない息子はいない! 結婚など好きにすればいい。わしは行かん。剣をやりたいと思うまでは、もうここへ来るな」
「ああ……そのつもりだ」
ガルドは淡々と席を立った。
「ガー君……おじさん、お邪魔しましたっす」
リリアンヌも慌ててガルドの後を追った。
*
「……すまん、嫌な思いをさせた」
道場を出て、ガルドはリリアンヌに謝った。
「おじさんの性格は、うちが小さい頃から知ってるっす。それに、もうすぐ夫婦になるじゃん、うちら。これしきのことで謝るなっす」
「……そうだな。すま……いや、ありがと、リリ。愛してるよ」
「うちも愛してる。でも、うちも色々あって……」
リリアンヌの家も、決して穏やかではなかった。
*
バンッ!!
王都の外れにリリアンヌの家があった。……先まではね。
「オヤジ……」
リリアンヌの父。この国の賢者――オズワルド・エルドウィン。爆発系の禁呪が大好きで、よく家を爆発させていた。
「あれほど家で爆発魔法使うなって言ったのに、なんでわからないっすか!? オカン、それで旧家に帰ったっすよ。外でやれ外で!!」
「リリじゃないか……すまん、すまん。わしの封印した力が暴走してしまってな……」
瓦礫の下から立ち上がる小爺さん。ヒゲが半分焦げていたが、怪我がないのが不思議なくらいだった。
「おじさん、どうも」
「あんだは!! あの剣バカ家の息子じゃないか! まだうちのリリに付き纏うとは……やらんぞ! リリはわしの大切な娘で……!」
「娘さんをください、お父さん」
「誰が“お父さん”だ! 認めんぞ! わしは絶対……!」
「オカンに言いつけるっすよ。オヤジ、今年だけでも家を8回爆発させたって」
「母さんとは関係ないだろ、やめてくれ! お願いだ、前会った時、『年末には帰る』って約束してくれた……もう一人で寝る夜は嫌じゃ……!」
(……俺もいつか、ああなるのか?)
ガルドの心に、不安がよぎった。
*
「……仕方ない。他所の子ならともかく、リリの幼馴染でガル坊なら任せられるか……」
リリアンヌとの長い口論の末、父はついに折れた。
「だが残念、その日、わしは行けない」
「……なに? 大事な一人娘の晴れ舞台に、来ないのか」
「いや、その日はカズキ王とクセリオス公爵の会議がある。議会制の導入の話だ。これはこの国の未来に関わる重要な話。だから――待ってほしいのだ」
「それって……娘の結婚式より大事なことっすか。オヤジはいつもそう。仕事、研究、会議……うちやオカンに時間を割いてくれなかった。ねぇ、うちらは何番目なの? 全部終わってからようやく、うちらの番なの?」
リリアンヌは分かっていた。父に事情があることも、国のために尽くしていることも。
でも――その日だけは、他のどんなことよりも、自分を優先してほしかった。
父の仕事に、“一度だけでも”勝ちたかったのだ。
「もう知らない! オヤジが来ないなら来ないでいい! うちはガー君と結婚する! オヤジは仕事でも何でもすればいいじゃん!」
そう言い残し、リリアンヌは走り去った。
「……すまん、おじさん、俺は……」
「……追いなさい。わしには、追う資格がない」
オズワルドは静かに言った。
「……リリ。いいお父さんじゃなくて、ごめんな」
ラム・ランデブーで黒真珠をもらい、マサキ抜きの真勇者パーティーは王都へ帰った。ガルドとリリアンヌが結婚式を挙げるために。
「…セリナたちには悪いことをした。これはただでもらうには重すぎる。結婚祝いとしてもな……」
ガルドはリリアンヌの黒真珠のブローチを見て、そう言った。
「そう思うなら、次にセリナたちが結婚した時、もっといいものを返せばいいっす。金より気持ち。男はそれがわかってないっすね」
「そうですよ。愛はなにより大切な宝物です。神はそうおっしゃっていました」
「……そうなのか」
この旅でマサキだけでなく、自分も成長できたと、ガルドは実感していた。
*
式を挙げる前に、ふたりはそれぞれの両親に報告をすることに決めた。
「では、私は大司祭様に式場の予約をしておきますので、お先に失礼します」
マーリンと別れ、ふたりはまずガルドの家へ向かった。
『剣聖道場』
大きな看板が掲げられている。弓の名手であるガルドの父は、この国で“剣聖”と呼ばれた男――クラウス・ファルケンだ。
「ガー君、大丈夫? 無理なら……」
「……いい。俺は逃げるべきじゃない」
ガルドは少し迷ったが、リリアンヌを見て覚悟を決め、門を開けた。
「若だ!」
「若様、お帰りなさい!」
訓練中の門弟たちはガルドを見た途端、手元のことを一旦置いて彼に挨拶した。何重もの門をくぐり抜け、一番奥の道場に初老の男がひとりいた。
「どんなヅラ下げて帰ってきた! この親不孝息子が!」
ガルドと何年ぶりに会った父の、最初の言葉はそれだった。
*
「俺はリリと結婚する」
「向こうの婿養子にでもなるつもりか。親不孝なお前がやりそうなことだ。で? ファルケン家は誰が継ぐ? わしの剣術は誰が受け継ぐ?」
「レンならば、十分すぎるかと」
「バカ者!! この道場を女に継がせるというのか! わしをファルケン家代々の祖先たちに笑わせる気か!? お前が剣に精進していれば、こんなことにはならなかった」
「……俺は、剣に興味がない」
「これでも“剣聖”の息子か! わしには、こんな情けない息子はいない! 結婚など好きにすればいい。わしは行かん。剣をやりたいと思うまでは、もうここへ来るな」
「ああ……そのつもりだ」
ガルドは淡々と席を立った。
「ガー君……おじさん、お邪魔しましたっす」
リリアンヌも慌ててガルドの後を追った。
*
「……すまん、嫌な思いをさせた」
道場を出て、ガルドはリリアンヌに謝った。
「おじさんの性格は、うちが小さい頃から知ってるっす。それに、もうすぐ夫婦になるじゃん、うちら。これしきのことで謝るなっす」
「……そうだな。すま……いや、ありがと、リリ。愛してるよ」
「うちも愛してる。でも、うちも色々あって……」
リリアンヌの家も、決して穏やかではなかった。
*
バンッ!!
王都の外れにリリアンヌの家があった。……先まではね。
「オヤジ……」
リリアンヌの父。この国の賢者――オズワルド・エルドウィン。爆発系の禁呪が大好きで、よく家を爆発させていた。
「あれほど家で爆発魔法使うなって言ったのに、なんでわからないっすか!? オカン、それで旧家に帰ったっすよ。外でやれ外で!!」
「リリじゃないか……すまん、すまん。わしの封印した力が暴走してしまってな……」
瓦礫の下から立ち上がる小爺さん。ヒゲが半分焦げていたが、怪我がないのが不思議なくらいだった。
「おじさん、どうも」
「あんだは!! あの剣バカ家の息子じゃないか! まだうちのリリに付き纏うとは……やらんぞ! リリはわしの大切な娘で……!」
「娘さんをください、お父さん」
「誰が“お父さん”だ! 認めんぞ! わしは絶対……!」
「オカンに言いつけるっすよ。オヤジ、今年だけでも家を8回爆発させたって」
「母さんとは関係ないだろ、やめてくれ! お願いだ、前会った時、『年末には帰る』って約束してくれた……もう一人で寝る夜は嫌じゃ……!」
(……俺もいつか、ああなるのか?)
ガルドの心に、不安がよぎった。
*
「……仕方ない。他所の子ならともかく、リリの幼馴染でガル坊なら任せられるか……」
リリアンヌとの長い口論の末、父はついに折れた。
「だが残念、その日、わしは行けない」
「……なに? 大事な一人娘の晴れ舞台に、来ないのか」
「いや、その日はカズキ王とクセリオス公爵の会議がある。議会制の導入の話だ。これはこの国の未来に関わる重要な話。だから――待ってほしいのだ」
「それって……娘の結婚式より大事なことっすか。オヤジはいつもそう。仕事、研究、会議……うちやオカンに時間を割いてくれなかった。ねぇ、うちらは何番目なの? 全部終わってからようやく、うちらの番なの?」
リリアンヌは分かっていた。父に事情があることも、国のために尽くしていることも。
でも――その日だけは、他のどんなことよりも、自分を優先してほしかった。
父の仕事に、“一度だけでも”勝ちたかったのだ。
「もう知らない! オヤジが来ないなら来ないでいい! うちはガー君と結婚する! オヤジは仕事でも何でもすればいいじゃん!」
そう言い残し、リリアンヌは走り去った。
「……すまん、おじさん、俺は……」
「……追いなさい。わしには、追う資格がない」
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