まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第六章:奪われた王冠に、炎の誓いを――動乱の王都で少女は革命を選ぶ

第92話:父に捧ぐ剣、娘に贈る結婚式

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「王都に着いたっすよ」

ラム・ランデブーで黒真珠をもらい、マサキ抜きの真勇者パーティーは王都へ帰った。ガルドとリリアンヌが結婚式を挙げるために。

「…セリナたちには悪いことをした。これはただでもらうには重すぎる。結婚祝いとしてもな……」

ガルドはリリアンヌの黒真珠のブローチを見て、そう言った。

「そう思うなら、次にセリナたちが結婚した時、もっといいものを返せばいいっす。金より気持ち。男はそれがわかってないっすね」

「そうですよ。愛はなにより大切な宝物です。神はそうおっしゃっていました」

「……そうなのか」

この旅でマサキだけでなく、自分も成長できたと、ガルドは実感していた。



式を挙げる前に、ふたりはそれぞれの両親に報告をすることに決めた。

「では、私は大司祭様に式場の予約をしておきますので、お先に失礼します」

マーリンと別れ、ふたりはまずガルドの家へ向かった。

『剣聖道場』

大きな看板が掲げられている。弓の名手であるガルドの父は、この国で“剣聖”と呼ばれた男――クラウス・ファルケンだ。

「ガー君、大丈夫? 無理なら……」

「……いい。俺は逃げるべきじゃない」

ガルドは少し迷ったが、リリアンヌを見て覚悟を決め、門を開けた。

「若だ!」

「若様、お帰りなさい!」

訓練中の門弟たちはガルドを見た途端、手元のことを一旦置いて彼に挨拶した。何重もの門をくぐり抜け、一番奥の道場に初老の男がひとりいた。

「どんなヅラ下げて帰ってきた! この親不孝息子が!」

ガルドと何年ぶりに会った父の、最初の言葉はそれだった。



「俺はリリと結婚する」

「向こうの婿養子にでもなるつもりか。親不孝なお前がやりそうなことだ。で? ファルケン家は誰が継ぐ? わしの剣術は誰が受け継ぐ?」

「レンならば、十分すぎるかと」

「バカ者!! この道場を女に継がせるというのか! わしをファルケン家代々の祖先たちに笑わせる気か!? お前が剣に精進していれば、こんなことにはならなかった」

「……俺は、剣に興味がない」

「これでも“剣聖”の息子か! わしには、こんな情けない息子はいない! 結婚など好きにすればいい。わしは行かん。剣をやりたいと思うまでは、もうここへ来るな」

「ああ……そのつもりだ」

ガルドは淡々と席を立った。

「ガー君……おじさん、お邪魔しましたっす」

リリアンヌも慌ててガルドの後を追った。



「……すまん、嫌な思いをさせた」

道場を出て、ガルドはリリアンヌに謝った。

「おじさんの性格は、うちが小さい頃から知ってるっす。それに、もうすぐ夫婦になるじゃん、うちら。これしきのことで謝るなっす」

「……そうだな。すま……いや、ありがと、リリ。愛してるよ」

「うちも愛してる。でも、うちも色々あって……」

リリアンヌの家も、決して穏やかではなかった。



バンッ!!

王都の外れにリリアンヌの家があった。……先まではね。

「オヤジ……」

リリアンヌの父。この国の賢者――オズワルド・エルドウィン。爆発系の禁呪が大好きで、よく家を爆発させていた。

「あれほど家で爆発魔法使うなって言ったのに、なんでわからないっすか!? オカン、それで旧家に帰ったっすよ。外でやれ外で!!」

「リリじゃないか……すまん、すまん。わしの封印した力が暴走してしまってな……」

瓦礫の下から立ち上がる小爺さん。ヒゲが半分焦げていたが、怪我がないのが不思議なくらいだった。

「おじさん、どうも」

「あんだは!! あの剣バカ家の息子じゃないか! まだうちのリリに付き纏うとは……やらんぞ! リリはわしの大切な娘で……!」

「娘さんをください、お父さん」

「誰が“お父さん”だ! 認めんぞ! わしは絶対……!」

「オカンに言いつけるっすよ。オヤジ、今年だけでも家を8回爆発させたって」

「母さんとは関係ないだろ、やめてくれ! お願いだ、前会った時、『年末には帰る』って約束してくれた……もう一人で寝る夜は嫌じゃ……!」

(……俺もいつか、ああなるのか?)

ガルドの心に、不安がよぎった。



「……仕方ない。他所の子ならともかく、リリの幼馴染でガル坊なら任せられるか……」

リリアンヌとの長い口論の末、父はついに折れた。

「だが残念、その日、わしは行けない」

「……なに? 大事な一人娘の晴れ舞台に、来ないのか」

「いや、その日はカズキ王とクセリオス公爵の会議がある。議会制の導入の話だ。これはこの国の未来に関わる重要な話。だから――待ってほしいのだ」

「それって……娘の結婚式より大事なことっすか。オヤジはいつもそう。仕事、研究、会議……うちやオカンに時間を割いてくれなかった。ねぇ、うちらは何番目なの? 全部終わってからようやく、うちらの番なの?」

リリアンヌは分かっていた。父に事情があることも、国のために尽くしていることも。

でも――その日だけは、他のどんなことよりも、自分を優先してほしかった。

父の仕事に、“一度だけでも”勝ちたかったのだ。

「もう知らない! オヤジが来ないなら来ないでいい! うちはガー君と結婚する! オヤジは仕事でも何でもすればいいじゃん!」

そう言い残し、リリアンヌは走り去った。

「……すまん、おじさん、俺は……」

「……追いなさい。わしには、追う資格がない」

オズワルドは静かに言った。

「……リリ。いいお父さんじゃなくて、ごめんな」
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