102 / 169
第六章:奪われた王冠に、炎の誓いを――動乱の王都で少女は革命を選ぶ
第92話:父に捧ぐ剣、娘に贈る結婚式
しおりを挟む
「王都に着いたっすよ」
ラム・ランデブーで黒真珠をもらい、マサキ抜きの真勇者パーティーは王都へ帰った。ガルドとリリアンヌが結婚式を挙げるために。
「…セリナたちには悪いことをした。これはただでもらうには重すぎる。結婚祝いとしてもな……」
ガルドはリリアンヌの黒真珠のブローチを見て、そう言った。
「そう思うなら、次にセリナたちが結婚した時、もっといいものを返せばいいっす。金より気持ち。男はそれがわかってないっすね」
「そうですよ。愛はなにより大切な宝物です。神はそうおっしゃっていました」
「……そうなのか」
この旅でマサキだけでなく、自分も成長できたと、ガルドは実感していた。
*
式を挙げる前に、ふたりはそれぞれの両親に報告をすることに決めた。
「では、私は大司祭様に式場の予約をしておきますので、お先に失礼します」
マーリンと別れ、ふたりはまずガルドの家へ向かった。
『剣聖道場』
大きな看板が掲げられている。弓の名手であるガルドの父は、この国で“剣聖”と呼ばれた男――クラウス・ファルケンだ。
「ガー君、大丈夫? 無理なら……」
「……いい。俺は逃げるべきじゃない」
ガルドは少し迷ったが、リリアンヌを見て覚悟を決め、門を開けた。
「若だ!」
「若様、お帰りなさい!」
訓練中の門弟たちはガルドを見た途端、手元のことを一旦置いて彼に挨拶した。何重もの門をくぐり抜け、一番奥の道場に初老の男がひとりいた。
「どんなヅラ下げて帰ってきた! この親不孝息子が!」
ガルドと何年ぶりに会った父の、最初の言葉はそれだった。
*
「俺はリリと結婚する」
「向こうの婿養子にでもなるつもりか。親不孝なお前がやりそうなことだ。で? ファルケン家は誰が継ぐ? わしの剣術は誰が受け継ぐ?」
「レンならば、十分すぎるかと」
「バカ者!! この道場を女に継がせるというのか! わしをファルケン家代々の祖先たちに笑わせる気か!? お前が剣に精進していれば、こんなことにはならなかった」
「……俺は、剣に興味がない」
「これでも“剣聖”の息子か! わしには、こんな情けない息子はいない! 結婚など好きにすればいい。わしは行かん。剣をやりたいと思うまでは、もうここへ来るな」
「ああ……そのつもりだ」
ガルドは淡々と席を立った。
「ガー君……おじさん、お邪魔しましたっす」
リリアンヌも慌ててガルドの後を追った。
*
「……すまん、嫌な思いをさせた」
道場を出て、ガルドはリリアンヌに謝った。
「おじさんの性格は、うちが小さい頃から知ってるっす。それに、もうすぐ夫婦になるじゃん、うちら。これしきのことで謝るなっす」
「……そうだな。すま……いや、ありがと、リリ。愛してるよ」
「うちも愛してる。でも、うちも色々あって……」
リリアンヌの家も、決して穏やかではなかった。
*
バンッ!!
王都の外れにリリアンヌの家があった。……先まではね。
「オヤジ……」
リリアンヌの父。この国の賢者――オズワルド・エルドウィン。爆発系の禁呪が大好きで、よく家を爆発させていた。
「あれほど家で爆発魔法使うなって言ったのに、なんでわからないっすか!? オカン、それで旧家に帰ったっすよ。外でやれ外で!!」
「リリじゃないか……すまん、すまん。わしの封印した力が暴走してしまってな……」
瓦礫の下から立ち上がる小爺さん。ヒゲが半分焦げていたが、怪我がないのが不思議なくらいだった。
「おじさん、どうも」
「あんだは!! あの剣バカ家の息子じゃないか! まだうちのリリに付き纏うとは……やらんぞ! リリはわしの大切な娘で……!」
「娘さんをください、お父さん」
「誰が“お父さん”だ! 認めんぞ! わしは絶対……!」
「オカンに言いつけるっすよ。オヤジ、今年だけでも家を8回爆発させたって」
「母さんとは関係ないだろ、やめてくれ! お願いだ、前会った時、『年末には帰る』って約束してくれた……もう一人で寝る夜は嫌じゃ……!」
(……俺もいつか、ああなるのか?)
ガルドの心に、不安がよぎった。
*
「……仕方ない。他所の子ならともかく、リリの幼馴染でガル坊なら任せられるか……」
リリアンヌとの長い口論の末、父はついに折れた。
「だが残念、その日、わしは行けない」
「……なに? 大事な一人娘の晴れ舞台に、来ないのか」
「いや、その日はカズキ王とクセリオス公爵の会議がある。議会制の導入の話だ。これはこの国の未来に関わる重要な話。だから――待ってほしいのだ」
「それって……娘の結婚式より大事なことっすか。オヤジはいつもそう。仕事、研究、会議……うちやオカンに時間を割いてくれなかった。ねぇ、うちらは何番目なの? 全部終わってからようやく、うちらの番なの?」
リリアンヌは分かっていた。父に事情があることも、国のために尽くしていることも。
でも――その日だけは、他のどんなことよりも、自分を優先してほしかった。
父の仕事に、“一度だけでも”勝ちたかったのだ。
「もう知らない! オヤジが来ないなら来ないでいい! うちはガー君と結婚する! オヤジは仕事でも何でもすればいいじゃん!」
そう言い残し、リリアンヌは走り去った。
「……すまん、おじさん、俺は……」
「……追いなさい。わしには、追う資格がない」
オズワルドは静かに言った。
「……リリ。いいお父さんじゃなくて、ごめんな」
ラム・ランデブーで黒真珠をもらい、マサキ抜きの真勇者パーティーは王都へ帰った。ガルドとリリアンヌが結婚式を挙げるために。
「…セリナたちには悪いことをした。これはただでもらうには重すぎる。結婚祝いとしてもな……」
ガルドはリリアンヌの黒真珠のブローチを見て、そう言った。
「そう思うなら、次にセリナたちが結婚した時、もっといいものを返せばいいっす。金より気持ち。男はそれがわかってないっすね」
「そうですよ。愛はなにより大切な宝物です。神はそうおっしゃっていました」
「……そうなのか」
この旅でマサキだけでなく、自分も成長できたと、ガルドは実感していた。
*
式を挙げる前に、ふたりはそれぞれの両親に報告をすることに決めた。
「では、私は大司祭様に式場の予約をしておきますので、お先に失礼します」
マーリンと別れ、ふたりはまずガルドの家へ向かった。
『剣聖道場』
大きな看板が掲げられている。弓の名手であるガルドの父は、この国で“剣聖”と呼ばれた男――クラウス・ファルケンだ。
「ガー君、大丈夫? 無理なら……」
「……いい。俺は逃げるべきじゃない」
ガルドは少し迷ったが、リリアンヌを見て覚悟を決め、門を開けた。
「若だ!」
「若様、お帰りなさい!」
訓練中の門弟たちはガルドを見た途端、手元のことを一旦置いて彼に挨拶した。何重もの門をくぐり抜け、一番奥の道場に初老の男がひとりいた。
「どんなヅラ下げて帰ってきた! この親不孝息子が!」
ガルドと何年ぶりに会った父の、最初の言葉はそれだった。
*
「俺はリリと結婚する」
「向こうの婿養子にでもなるつもりか。親不孝なお前がやりそうなことだ。で? ファルケン家は誰が継ぐ? わしの剣術は誰が受け継ぐ?」
「レンならば、十分すぎるかと」
「バカ者!! この道場を女に継がせるというのか! わしをファルケン家代々の祖先たちに笑わせる気か!? お前が剣に精進していれば、こんなことにはならなかった」
「……俺は、剣に興味がない」
「これでも“剣聖”の息子か! わしには、こんな情けない息子はいない! 結婚など好きにすればいい。わしは行かん。剣をやりたいと思うまでは、もうここへ来るな」
「ああ……そのつもりだ」
ガルドは淡々と席を立った。
「ガー君……おじさん、お邪魔しましたっす」
リリアンヌも慌ててガルドの後を追った。
*
「……すまん、嫌な思いをさせた」
道場を出て、ガルドはリリアンヌに謝った。
「おじさんの性格は、うちが小さい頃から知ってるっす。それに、もうすぐ夫婦になるじゃん、うちら。これしきのことで謝るなっす」
「……そうだな。すま……いや、ありがと、リリ。愛してるよ」
「うちも愛してる。でも、うちも色々あって……」
リリアンヌの家も、決して穏やかではなかった。
*
バンッ!!
王都の外れにリリアンヌの家があった。……先まではね。
「オヤジ……」
リリアンヌの父。この国の賢者――オズワルド・エルドウィン。爆発系の禁呪が大好きで、よく家を爆発させていた。
「あれほど家で爆発魔法使うなって言ったのに、なんでわからないっすか!? オカン、それで旧家に帰ったっすよ。外でやれ外で!!」
「リリじゃないか……すまん、すまん。わしの封印した力が暴走してしまってな……」
瓦礫の下から立ち上がる小爺さん。ヒゲが半分焦げていたが、怪我がないのが不思議なくらいだった。
「おじさん、どうも」
「あんだは!! あの剣バカ家の息子じゃないか! まだうちのリリに付き纏うとは……やらんぞ! リリはわしの大切な娘で……!」
「娘さんをください、お父さん」
「誰が“お父さん”だ! 認めんぞ! わしは絶対……!」
「オカンに言いつけるっすよ。オヤジ、今年だけでも家を8回爆発させたって」
「母さんとは関係ないだろ、やめてくれ! お願いだ、前会った時、『年末には帰る』って約束してくれた……もう一人で寝る夜は嫌じゃ……!」
(……俺もいつか、ああなるのか?)
ガルドの心に、不安がよぎった。
*
「……仕方ない。他所の子ならともかく、リリの幼馴染でガル坊なら任せられるか……」
リリアンヌとの長い口論の末、父はついに折れた。
「だが残念、その日、わしは行けない」
「……なに? 大事な一人娘の晴れ舞台に、来ないのか」
「いや、その日はカズキ王とクセリオス公爵の会議がある。議会制の導入の話だ。これはこの国の未来に関わる重要な話。だから――待ってほしいのだ」
「それって……娘の結婚式より大事なことっすか。オヤジはいつもそう。仕事、研究、会議……うちやオカンに時間を割いてくれなかった。ねぇ、うちらは何番目なの? 全部終わってからようやく、うちらの番なの?」
リリアンヌは分かっていた。父に事情があることも、国のために尽くしていることも。
でも――その日だけは、他のどんなことよりも、自分を優先してほしかった。
父の仕事に、“一度だけでも”勝ちたかったのだ。
「もう知らない! オヤジが来ないなら来ないでいい! うちはガー君と結婚する! オヤジは仕事でも何でもすればいいじゃん!」
そう言い残し、リリアンヌは走り去った。
「……すまん、おじさん、俺は……」
「……追いなさい。わしには、追う資格がない」
オズワルドは静かに言った。
「……リリ。いいお父さんじゃなくて、ごめんな」
0
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
氷弾の魔術師
カタナヅキ
ファンタジー
――上級魔法なんか必要ない、下級魔法一つだけで魔導士を目指す少年の物語――
平民でありながら魔法が扱う才能がある事が判明した少年「コオリ」は魔法学園に入学する事が決まった。彼の国では魔法の適性がある人間は魔法学園に入学する決まりがあり、急遽コオリは魔法学園が存在する王都へ向かう事になった。しかし、王都に辿り着く前に彼は自分と同世代の魔術師と比べて圧倒的に魔力量が少ない事が発覚した。
しかし、魔力が少ないからこそ利点がある事を知ったコオリは決意した。他の者は一日でも早く上級魔法の習得に励む中、コオリは自分が扱える下級魔法だけを極め、一流の魔術師の証である「魔導士」の称号を得る事を誓う。そして他の魔術師は少年が強くなる事で気づかされていく。魔力が少ないというのは欠点とは限らず、むしろ優れた才能になり得る事を――
※旧作「下級魔導士と呼ばれた少年」のリメイクとなりますが、設定と物語の内容が大きく変わります。
転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。
山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。
異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。
その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。
攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。
そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。
前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。
そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。
偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。
チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる