まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

文字の大きさ
104 / 169
第六章:奪われた王冠に、炎の誓いを――動乱の王都で少女は革命を選ぶ

第94話:悪魔が引く糸、貴族が踊る

しおりを挟む
クセリオスのクーデターは迅速だった。

わずか半日で王都は制圧された。

それはヴェスカリア家が、何百年の歴史の中で築き上げてきた“力”の結晶だった。

「な、なにをする! 俺たちはこの学校の生徒だぞ!」

――だが、公爵の命令により、その学校は廃校に。

いずれは貴族の別荘に改装される予定となった。

さらには、奴隷の売買までが復活を告げた。

「カズキ王は、そんなことを許すはずがない!」

学生たちは怒りと抗議の声を上げた。

「もう“カズキ王の時代”は終わった。……これからは、“クセリオス王の時代”だ」

衛兵たちは、冷たく言い放った。

王国の至る場所に、マサキ王子とレン姫の【懸賞令】が貼り出された。

カズキ王と王妃も、処刑の予定は一週間後と告げられている。

彼が何十年もかけて築き上げてきた改革は――

ここですべて、無に帰してしまうのだろうか?



「すべて、あなたの言った通りに上手く運んだ……パイモン」

王宮の地下室。

このクーデターの勝利者――クセリオス公爵は、ひとり呟いた。

そして彼の“影”から、もうひとつの影がゆっくりと形を成し、やがて姿を現す。

「ええ。私は全知の悪魔――こうなることを、最初から知っていました」

モリアである。

だが今日の彼女は、いつものゴスロリドレスではなく、執事風のテールコートを纏い、長い髪もショートカットに変えていた。

口調も女性的なものは消え、落ち着いた中性的な調子に変わっている。

――だが、その可愛らしい顔だけは、変わっていない。

なぜ彼女が、こんな場所にいるのか?

「異世界人の王が“議会制”を持ち出す。……それを事前に知っていれば、工作などいくらでもできる。

衛兵たちも所詮、目先の利益に釣られる“使いやすい駒”。

“改革による不確定な未来の利益”より、“明日の昇給”の方が重要なのさ。

それすら理解できなかった異世界人は、王の器ではなかった……

それにしても、剣聖と賢者の子女が、ちょうど王都に戻っていたとは――ふふ、運命は私の味方をしてくれる」

クセリオスは勝利の余韻を噛み締めるように、グラスにワインを注ぐ。

「よろしいのですか?

今まで“王座”には興味がないと語っていたあなたが、今さら“クーデター”などと」

「……今、叩かねば間に合わなくなる。

議会制が導入されてしまえば、民は“政治の味”を覚えてしまう。

一度知ったものは、もう元には戻らん。

貴族の権力は徐々に削られ、やがて歴史から消えていく。

異世界人が“半数の議席を貴族に譲る”などと語ったのは、ただの便宜に過ぎん。

ゆでガエルのように、ぬるま湯で我々を殺すつもりだ。……全知でなくとも、私には分かる」

クセリオスはワインを飲み干し、満足げに口元を拭った。

「それが、あなたの破滅を招くとしても……ですか?」

「……私の結末も知っているのか、悪魔め。

だが、知っているのなら、こうも分かるはずだ。

――私は、何もしなければ“ヴェスカリア家”が衰退する運命にある。

ならば賭けるしかあるまい。“悪魔の力”も利用する。それだけだ」

「ならば、私から言うことはありません。

あなたがどんな結末を迎えるか――見届けさせていただきます」

モリアはその言葉を最後に、ふっと姿をかき消した。



クセリオスが悪魔の召喚を行ったのは、何十年も前――

カズキ王が改革に乗り出した、その頃からである。

当時のクセリオスには、せいぜい低級な悪魔しか応じてくれなかった。

だが、そのとき――モリアは現れた。

彼女と契約を交わしたことで、クセリオスは“あのときの若さ”を保ち続けている。

さらに、モリアの全知の力を借りることで、カズキ王の行動を常に一手先、二手先まで読み切ることができた。

では、なぜ彼女はそんなことをしたのか?

それは、彼女が“見抜いた”からだ――この男は“利用できる”と。

クセリオスが“悪魔を使っている”つもりでいるように、彼女もまた――クセリオスを“使っている”。

魔王すら、いまだに彼女が裏で糸を引いていることを知らない。

「この姿……やっぱり好きになれませんわ。だって、可愛くないんですもの。

“仕事”のときは“パイモン”として、こういう格好をしなきゃいけないだなんて――乙女の心を持つ私にとっては、あまりに酷ですわ。

これだから、ビジネスってやつは苦手ですの……」

王宮のどこかの一室で、彼女はいつものゴスロリ風ドレスに着替え、髪型も戻していた。

「……これから忙しくなりますわね。魔王様にも、しばらく会えなくなるのが寂しいですわ。

でも――“正妻”って、ただ愛を求めるだけじゃダメ。

彼にも“幸せ”になってほしいんですの。

クセリオスという男は、魔王様の計画に大いに役立つでしょう……生贄としてね」

悪魔は、契約者の願いを叶える代償として“魂”を求める――

だが――“全知の悪魔”にとって、それだけでは足りないのらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

氷弾の魔術師

カタナヅキ
ファンタジー
――上級魔法なんか必要ない、下級魔法一つだけで魔導士を目指す少年の物語―― 平民でありながら魔法が扱う才能がある事が判明した少年「コオリ」は魔法学園に入学する事が決まった。彼の国では魔法の適性がある人間は魔法学園に入学する決まりがあり、急遽コオリは魔法学園が存在する王都へ向かう事になった。しかし、王都に辿り着く前に彼は自分と同世代の魔術師と比べて圧倒的に魔力量が少ない事が発覚した。 しかし、魔力が少ないからこそ利点がある事を知ったコオリは決意した。他の者は一日でも早く上級魔法の習得に励む中、コオリは自分が扱える下級魔法だけを極め、一流の魔術師の証である「魔導士」の称号を得る事を誓う。そして他の魔術師は少年が強くなる事で気づかされていく。魔力が少ないというのは欠点とは限らず、むしろ優れた才能になり得る事を―― ※旧作「下級魔導士と呼ばれた少年」のリメイクとなりますが、設定と物語の内容が大きく変わります。

転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。

山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。 異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。 その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。 攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。 そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。 前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。 そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。 偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。 チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

処理中です...