まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

文字の大きさ
110 / 190
第六章:奪われた王冠に、炎の誓いを――動乱の王都で少女は革命を選ぶ

第100話:明星、神罰を下す

しおりを挟む
王都の廃校をきっかけに、学生たちの抗議運動が勃発した。
それはもちろん、クセリオス公爵の耳にも届いている。
「いかがなさいますか、公爵さま」
執事のサバスはクセリオスに指示を仰いでいる。

「制圧なさい。兵器も持たないゴミどもに、いつまでも手こずっているな。リーダー格は必ず捕らえ、見せしめの極刑に処す……そうすれば、もう反逆を口にする者などいなくなるだろう。民は導かれる者であり、導く者ではない」
「かしこまりました。直ちに」
「それと、“公爵”ではなく、“王”であるぞ」



学校の正門前。かつてこの学校に通った生徒たちがここに集まっている。
彼らの手にあるのは武器ではなく、抗議の看板と横断幕。
「カズキ王の解放を要求する!」
「学校の廃校断固拒否!」
「民に自由を、国に平等を!」
こうした文字が書かれていた。皆、学生になる前は奴隷か農民しかなかった底辺の出身。

だが、カズキ王の“異世界の思想”の影響で、彼らはこうして集まり、昔は恐れていた権力者たちに、いま反抗している。
一つのテントには、その抗議活動のリーダーがいた。
それがダスだ。グラナール平民出身の彼は、ルキエルとの出会いで人生を変えた。将来、彼と一緒に冒険するために王都の学校に入学し、今に至る。

「ダス! うちの姉ちゃんが米を届けたぜ!」
抗議中でも食事は必要だ。そのため、マリ商会が密かに彼らを支援している。
その仲介役が、マリの弟トム。今、テントに入ってきた少年がそうだ。

「ありがと、助かった。マリさんのおかげで、俺たちは今日まで続けていられた。彼女に感謝しなきゃ。でも、できればもっと抗議する人を増やしたい……カズキ王の処刑はもう近い」
「本当に成功できるか? 剣を取って反抗した方が早くねぇか?」
「それは最後の手段だ。武装革命になれば、たくさんの血が流れる。それはカズキ王も望んでいないだろ」
「わかった。じゃ、俺は他の人たちに声をかけてくる」
「お願いだ。衛兵には気をつけろ。あいつが、どこまでやるつもりか、俺たちには分からない」

トムがテントを出ていき、ダスは“約束の羽”を見つめながら、ルキエルのことを思い出す。
(ルキエル、俺に勇気と勝利をくれ――)
彼は心の中でそう祈った。



だが運命は、残酷で、予兆すら見せてくれない。
異変を最初に感じたのは、トムだった。
今日もいつものように抗議者を増やすため、市場へ出たはずだったが――誰もいない。
静かすぎる……
夕飯の時間なのに、買い出しの主婦たちもいなければ、店の人間も、旅人すらいない。

その原因は、すぐにわかる。
トムは聞いた。何かが、高速で空気を掠める音――その音は次第に近づき、
「うわあああっ!」
仲間の悲鳴と共に、矢が降り注いだ。

「矢だ! 衛兵たちが矢を放った!」
その声が届く前に、無数の矢が空から雨のように舞い降りた。
武力制圧――しかも、前触れもなく。
クセリオス公爵は、彼らと交渉する気など最初からなかった。

独裁者は、“自由の芽”が大きくなる前に、根こそぎ焼き払おうとしたのだ。
たとえ、いくら血を流しても――構わずに。
「早く、ダスに知らせないと……! みんなが危ない!」
トムはダスがいる場所へと走った。だが――もうすべてが、遅かった。

悲鳴があちこちから上がる。
それは、仲間たちの絶叫だ。
王国の衛兵たちは、抗議のために集まった武器も持たぬ学生たちを、無慈悲に虐殺していた。
空気は、血と鉄の匂いに包まれた。
抗議の看板は地面に散らばり、書かれていた文字は血に染まり、もう読めなかった。

惨劇は止まらない。
それは、山崩れのように突然現れたのに、終わりは糸を引くようにゆっくりだった。
一秒ごとに、絶望が世界に滲み出ていた。
夕方の街が赤く染まって見えるのは――夕陽のせいか、それとも……



学校正門の状況も、当然のように酷かった。
戦争でもないのに、そこには屍の山ができていた。
衛兵たちは、残った学生を一人残らず掃討している。
――地獄ですら、こんな光景は見られないだろう。

ダスは襲撃に遭った際、近くにいた教師が彼を庇ったおかげで致命傷は免れたが、左肩と右目に矢が刺さっていた。
それでも、仲間の死を悼む時間も、痛みに嘆く暇もなかった。
逃げなければならない――
リーダーである自分が死んでしまえば、この抗議運動は失敗に終わる。

それは、死んだ同志たちの流した血が“無駄”になるということだ。
それだけは、絶対に避けなければならない。
今まで盗みの経験を利用し、ダスは王都の路地を縫うように走る。
その途中、仲間たちが次々と殺されていく様も、見てしまった。

だが、助けることはできなかった。
すべてを飲み込み、奥歯を噛みしめ、彼は“生き延びる道”を探した。
――だが、ここはクセリオス公爵が支配する王都。
逃げ場など、どこにもない。

教会の前で、ダスはついに衛兵たちに囲まれた。
そこへ駆けつけたトムも、すでに背中に矢を何本も受けており、虫の息だった。
「……あのガキが首謀者だな。クセリオス王の命により、打ち首にして、その頭を三日間、城門に晒すことにする」

(神よ……あなたは、なんと残酷な……
我々が、あなたの神殿の前で理不尽な死を迎えるなどと……)
ダスは最後の気力を振り絞り、ポケットから“あの時の羽”を取り出す。
「……お願い……助けて……ルキエル……!」

その願いを聞き届けたかのように、金色の羽がふわりと宙に舞い、眩い光を放った。
その光を浴びて、ダスとトムの傷は徐々に癒えていく。
さらに――羽は翼となった。
2枚、4枚、6枚……そして12枚の金色の翼がすべて展開され、そこに現れたのは――

《明けの明星》
「“ルキエル様”だ……」
その言葉は、彼の存在の威厳を示すものであり、
この瞬間、神よりも頼もしく感じられた。

衛兵たちも、突如として降臨した彼の存在に戸惑っていた。
やがて、隊長らしき者が声をかける。
「天使様、我々はただ、あの罪人たちを捕らえるだけでして……どうか……」
「僕に命令する気か? たかが人間風情が。身の程を知れ」

「い、いえ……これはお願いで……我々は、あなた様と敵対するつもりは……!」
「僕が、それを聞く義理などあると思うの? 敵対したらどうなるか――お前らに、何かできる?」
ルキエルは一歩も譲らぬ気配を見せた。

しかし、衛兵たちは功を焦るあまり、彼の恐ろしさから目を逸らしてしまった。
――そして、誰かが矢を放った。
だが。
その矢は、ルキエルに近づくことすらできず、空中で蒸発した。

彼の周囲は“神の領域”。
そこに至らぬ攻撃など、届くはずもない。
「……面白い。まだこの僕に喧嘩を売る愚か者が存在するとはね。……高く買おう」
その言葉と同時に、風が巻き起こる。

ルキエルの身を纏っていた白衣が、光に焼かれて一枚ずつ剥がれ落ちていく。
代わって彼の体を包んでいったのは、金属の重厚な輝き――
《全能神の要塞〈エルシャダイ・バスティオン〉》

熾天使が纏うべきとされる神鎧が、光の粒子となって彼の全身へと編み込まれていく。
肩には獅子のエンブレム。
胸には十二翼の刻印。
背には光の羽根を模した意匠。

そして最後に――
彼の右手に、“それ”は降りてきた。
《神罰の聖槍〈ロンギヌス〉》
神すら貫くと伝えられる裁きの神器が、天より雷と共に落ち、彼の手に収まった。

その刃先は、あらゆる悪を拒まず穿つ。
――ただの武器ではない。“意志”そのものだ。
ルキエルは静かに瞳を開いた。
そこに、先ほどまでの柔和な面影はなかった。

「……この姿は、“神魔大戦”以来か。光栄と思え。僕が――“本気”で戦ってあげる」
彼は天へと舞い上がり、《ロンギヌス》を高く掲げる。
そして、破滅の詠唱が始まった。

「暁の子、明けの明星よ――
天に登らんと欲し、神の座に己を並べし者よ。
されど汝、地に墜ち、墓所に堕ちぬ」

「我は天の剣、主の右に立ちし執行者――
汝が傲慢と罪に代価を。汝が流した血に裁きを。
汝が穢せし法に、永劫の焔を」

「汝が心に“われは神に等し”と誓うならば、
我はここに告ぐ――
『否、汝は塵なり。塵に還れ』と」

「神の名のもとに、いま、神罰を下す。
明星よ、堕ちよ…」

ロンギヌスは放たれた。
世界は“無音”に包まれた。
風が止まり、雲が裂け、空気が逆巻き、
ただ一筋、“神の意志”だけが光の矢となって地を貫く。

轟音は、ほんの一呼吸遅れてやってきた。
それはもはや“音”ではなかった。
神話の時代に交わされた天地創造の雷声――その残響にも似た衝撃だった。

着弾点は、一点。
だが次の瞬間、そこを“核”とした半径百メートルの地表が、塩のように崩れ去る。
爆発も閃光もない。ただ無慈悲な“消失”。
敵の身体は跡形もなく穿たれ、心臓の位置だけが虚空に浮かぶように焼き切られ、
その周囲にいた者たちは、裁かれた神の怒りをそのまま受け――骨すら残らず、光に還った。

残されたのは、巨大な“穴”。
罪が存在していたという痕跡すら残さぬ、“神の槍”の筆致だった。
ルキエルは手を静かに下ろし、ただひとこと、厳かに呟いた。
「――審判、完了。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

木を叩いただけでレベルアップ⁉︎生まれついての豪運さんの豪快無敵な冒険譚!

神崎あら
ファンタジー
運動も勉強も特に秀でていないがめっちゃ運が良い、ただそれだけのオルクスは15歳になり冒険者としてクエストに挑む。 そこで彼は予想だにしない出来事に遭遇する。 これは初期ステータスを運だけに全振りしたオルクスの豪運冒険譚である。  

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

いわゆる異世界転移

夏炉冬扇
ファンタジー
いわゆる異世界転移 森で目を覚まし、虫や動物、あるいは、魔物や野盗に襲われることなく 中規模な街につき、親切な守衛にギルドを紹介され さりげなくチート披露なパターンA。 街につくまえに知る人ぞ知る商人に 訳ありのどこぞの王族に会うパターンBもある。 悪役令嬢なるパターンCもある。 ステータスオープンなる厨二病的呪文もかなり初歩にでてくる。 ゲームの世界で培った知識が役に立つこともある、らしい。 現実問題、人はどうするか?

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...