まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第七章:椿は鋼に咲く、忠誠の銃声とともに――女帝と三将軍のプロトコル

第124話:地獄の再来、貪狼将軍

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飛行艇が着陸装置を展開し、地面に鈍い音を立てて降り立つ。エンジンの轟音が徐々に静まっていく中、ドクターは再び帝国の土を踏んだ。
かつてこの地を去った時と同じく、彼は真っ白な白衣を纏っている。
だが、魔法使いマオウとしてではなく――今は「ドクター」として、帝国軍の遠征に協力する立場だ。
「さて、早速作戦会議を開きたいところだけど……」
ツバキが軍靴の音を響かせながら近づいてくる。
「来たばかりでそれは酷でしょう。私も鬼じゃないわ」
彼女は手にしたデータパッドを軽く叩き、
「今日は宿舎の手配と荷物の整理を済ませなさい。明日の朝7時から魔王対策会議を開く。いいわね?」
来た早々、ツバキは既にドクターたちのスケジュールを決め始めていた。
「ああ、そうそう」
思い出したように彼女が付け加える。
「今、三将軍の席は全て埋まっているので、あなたはエンプラの『副官』として起用するわ。副官とはいえ、権限は昔と変わらないから、そのつもりで」
全てが計算済みの抜かりない手回し。
勤勉で効率重視の彼女らしい采配だった。

ツバキの第二回産業革命で帝都は大きく様変わりしたが、軍の兵舎だけは昔のままで、どこか懐かしさを感じさせた。おかげで迷うことなく目的地に着いたはずだったが――
「あんたたち、新兵か? 入隊説明で軍服着用って聞いてなかったのか、あん!」
思わぬところでつまずいた。
どうやらドクター一行は新兵と間違われ、"先輩"兵士たちに絡まれてしまったようだ。
「研究職とその家族は軍服着用義務が免除されているはずだが……ルールが変わったのかね?」
ドクターは冷静に返答しながら、一方で明星を使おうとするルキエルの手を握り、制した。
「新兵のくせに口答えするんじゃねえ! ここは軍隊だ! 上の命令は絶対だ! 研究者だろうが何だろうが、生意気だぞ!」
"先輩"兵士たちはますます興奮し、ドクターを取り囲む。
「軍隊では上に服従するのがルールだ。それを教えてやるためにも、ちょっと『しごき』が必要みてえだな!」
少し離れた場所で、一人の曹長がその光景を目にした。
白衣に身を包んだ男の後ろ姿を見た瞬間、彼は新兵時代の恐怖の記憶が蘇り、顔が青ざめた。
「早、早く止めないと……!」
「曹長殿、新兵のしごきはいつものことですよ。大丈夫、あいつら加減わかっていますから、大事にはなりません」
傍らの軍曹がなだめるが、曹長の顔色はますます蒼白になる。
バン!!
銃声が一度鳴り響いた――と思ったら、先ほどまで威張っていた"先輩"兵士たちが全員足を抱えて崩れ落ちた。
五発の銃弾が撃たれたはずなのに、銃声は一度きり。しかも、時間差すらない不気味な撃ち方だった。
銃声に引き寄せられるように、周囲の兵舎から兵士たちが銃を手に集まり、ドクターたちを包囲した。
「まさか、私がかつて率いた部隊で新兵いびりが横行しているとは……CV-6も将軍として未熟だな」
ドクターは懐からあの仮面を取り出す。
「ならば、お前たちの流儀に従おう。軍隊では上級者の命令が絶対だと言うのだからな」
その仮面が現れた瞬間、周囲の兵士たちの顔から血の気が引いた。誰かが喉を鳴らし、誰かが膝を震わせた
神も悪魔も信じない帝国で、親が子供を叱る時に使うのは――
仮面を付け、白衣を纏った『貪狼将軍』の話だった。
『悪い子は彼に研究室に連れていかれ、終わらない人体実験をさせられる』
『最後には彼の命令に忠実なサイボーグに改造される』
――それは、帝国で育った全ての若者が知る共通のトラウマだった。
「さて、これからは楽しい軍事訓練の時間だ。バルガス二等兵!」
彼は曹長を一瞥し、不敵に笑った。
「いや、今は『曹長』だったな。残念だが今回は一日限りの訓練だが。まさか、この程度の訓練で死人が出るような軟弱な部隊ではあるまい?」
「サー! そんな弱兵は我が軍に存在しません! サー!」
バルガスの声には、微かな震えが混じっていた。
(貪狼将軍の部隊……出世は速いが、棺桶もまた速い)
彼自身、通常10年かかる曹長への昇進を5年で果たした――それは、この男の「地獄訓練」を生き延びた証だった。
「よろしい」
ドクターの目が細くなる。
「15分後、訓練場に集合だ。遅れた者、来ない者は……」
一瞬の沈黙。
「次の空降作戦でパラシュートなしで参加してもらう」
「す、すみません! 私たち足に怪我をしていまして……」
先ほどドクターに襲いかかった“先輩”兵士が、崩れた声で訴える。
「衛生兵!」
ドクターの声に、即座に医療班が駆けつけた。
「手当てしてやれ。不参加は許可しない。まさか……」
彼の声が急に冷たく鋭くなる。
「戦場で『怪我しました、攻撃やめてください』とでも期待するのか? 動脈を外してやったんだ。この程度のかすり傷、唾をつければ治る」
「返事は?」
「サー! イエス! サー!」
兵士たちの声が、恐怖に引き締まった。

ドクターの白衣が砂塵に翻る。眼前には、ぎりぎりで整列を終えた兵士たちの姿があった。
「ふむふむ、どうやら欠席者はいないようだ」
ドクターは満足そうに頷く。
「これからエンタープライズCVN-6将軍が我々の訓練に協力してくれる。嬉しいのか!」
「サー!イエス!サー!」
「返事だけは一人前だな」
ドクターの唇が歪む。
「訓練内容は簡単だ。エンタープライズ将軍の襲撃から生き残ること。相手は一人だけだ。これで死ぬような輩は、これ以上税金を食いつぶす必要はない」
「サー!イエス!サー!」
「はい!質問があります!」
一人の新兵が震える手を挙げた。
「許可する」
「エンタープライズ将軍の姿が見当たりません!」
ドクターは意味深に笑った。
「見えてからではもう遅い。訓練は既に始まっている」
遠方からかすかなエンジン音が聞こえてくる――そして、徐々に近づいてくる。
「防空壕に入れ!全員直ちにスコップを取り出し、塹壕を深く掘れ!空爆が来る!」
バルガス曹長が最初に状況を察知し、叫んだ。
兵士たちは慌てて防空壕に飛び込み、必死にスコップで壕を深く掘り始める。
エンジン音が轟く――
満天のドローン群が雨雲のように太陽を遮った。
「エンプラのドローン最大搭載数は3000機。フル装備時の爆薬は25万トン。今回は手加減して、その半分の12万トンしか使わない。初日の訓練としては優しい方だろ?」
しかし、もはや兵士たちに返事をする余裕などない。
ドローン群が到着し、訓練場に爆弾の雨を降らせた。
黒い雹のような爆弾が次々と地面を蹂躙し、あちこちで爆発が起こる。事前に用意された防空壕が唯一の命綱だった。それでも3000機の爆撃による衝撃波で、壕は激しく揺れ、土砂が崩れ落ちる。
兵士たちは生き延びるため、必死にスコップを振るい、さらに壕を深く掘り進めた。
やがて爆撃が止み、兵士たちはかろうじて生き延びた。3メートルも掘り進んだ防空壕から這い出ると、外はすっかり焦土と化していた。地面はひっくり返されたようにめちゃくちゃになっている。
「よくぞ生き残ったな、諸君」
ドクターが満足そうに言う。
「脱落者が出なかったのは素直に褒めてやろう。次の戦いでも、この悪運の強さで勝利を掴め。今日は解散だ。しっかり休むがいい」
「サー!イエス!サー!」
九死に一生を得た兵士たちは、自分たちの生還を喜び合った。
そして、あの地獄の爆撃の中、防空壕にも入らず無傷でいた貪狼将軍への恐怖は、さらに深まるばかりだった。
なお、使用されたのは着弾衝撃のみを想定した訓練弾だが、破片が刺さったら普通に死ぬので注意が必要。さすがに前線並みに危険な訓練は非難もあるが、ドクターは気にしていない。
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