まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

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第七章:椿は鋼に咲く、忠誠の銃声とともに――女帝と三将軍のプロトコル

第127話:ルキエル√、攻略開始。バッドエンドからはじめよう

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「オフライン版のテスト、最後は私の番らしい」
正直なところ、兵士たちにこんなジャンルのゲームを導入するのが適切かどうか疑問だ。しかし、テストを引き受けた以上、真面目に取り組むつもりでいた。だが──
「ごめんなさい。あなたのこと、恋愛対象に見えないの」
最も簡単そうな天然ヒロインにアプローチしたが、告白イベントで見事にフラれた。
「は?あんたが私と釣り合うと思う?冗談は顔だけにしなさいよ」
次に挑んだツンデレお嬢様には、2週間かけてアタックを続けたが、これも完全撃沈。どうやら「デレ隠し」ではなく、純粋に嫌われているようだ。
「マーくんのことは幼馴染として好きだけど、恋人としてはちょっと…」
初期好感度が高いはずの幼馴染ヒロインですら、あっさり玉砕。
「……これは明らかにバグだ」

「バグじゃないよ。あのデリカシーのなさときたら……ツンデレ娘が初めて作った料理に『不味い』ってコメントするだけじゃなく、失敗点を分析して料理講義まで始めるとか。きつすぎるだろ」
アリストは私のプレイシーンを眺めながら、ツッコミを入れずにはいられなかった。だが、ヘッドセットを被ってゲームに没頭しているドクターの耳には届かない。
「深夜、窓から侵入してきた幼馴染ヒロインに説教して、不法侵入の危険性と法律違反について延々と講義した挙句、朝までかかって『パパの説教』で終わらせるなんて…ふふ。思春期のドキドキお泊まり会が、そんなんで終わるなんて、お気の毒ですわ」
モリアは心の底から楽しそうに、カメラで録画したシーンを再生していた。本心では「お気の毒」なんてこれっぽっちも思っていないことは明らかだ。
「ねえ、まだ終わらないの? これ、つまらないんだけど」
男女の恋愛に一切興味のないルーは、すでに退屈しきってイライラし始めている。
「そういえば、このゲームにはオンライン版もありましたわね」
「ああ、カップル用に、主人公以外にもヒロイン側でロールプレイできる仕様にはなってるが…」
「では、オンライン版のテストも兼ねて、こうしましょうか」
モリアはアリストからもう一つのヘッドセットを受け取り、ルーに手渡した。
「ちょっとした『悪戯』をしませんこと?」
彼女の唇に、悪魔のような微笑みが浮かぶ。

「……ごめんなさい」
またしても告白を断られた。これで次週目が最後のヒロインか。まさか全ルート失敗するとは……セリナとレンに好意を寄せられたとき、自分を過信していたのかもしれない。つまらない男だ、私は。
最後のヒロインは、仕様書によれば「不思議系」のルナという少女らしい。自分を天使と信じ込み、背中に偽物の羽を貼り付けているという。
天使か……どうせ今回もバッドエンドだろう。 深く考えないようにしよう。
ゲームが再スタートする。
いつも通り、幼馴染のサラが起こしに来るシーンから始まる――はずだった。何度もループしているうちに、展開にマンネリを感じ始めていた。しかし、今回は違った。
「……ん?」
何かが近づいてくる音がする。サラが階段を上がる足音ではない。何かが空気を切り裂く、高速で迫る音だ。
「……上から何か落ちてくる……!?」
次の瞬間、バーン! と天井が突き破られ、何かが私のベッドに直撃した。とっさに避けたが、まさかの暗殺か……!?
塵が舞う中、そこには一人の少女がいた。長い金髪、人形のような整った顔立ち――そして、大きく広がった翼。
「……ルナ、か。」
空から落ちてくるとは……確かにインパクトのある初登場だ。
「私はマオウ、この家の主だ。招かれざる客よ、名を名乗れ。」
しかし、彼女は何も答えない。ただ、じっとこちらを見つめている。喋れないのか? それとも、喋るつもりがないのか。
机の上のペンとノートを彼女に差し出すと、彼女は静かにそれを受け取り、書き始めた。
『ルナ。ルーで呼んで』
「……ルー?」
その愛称に、うちのわんぱく天使少年を思い出してしまう。
いや、偶然だろう。女を嫌いあの子は女のマネをしないし、自分を偽り、演技することも嫌悪する。
「……君、モリアか?」
もしモリアなら、やりかねないが……。
『??? I am Luna』
「……おいおい、まさか本気か?」
完全に言葉が通じてないと思われた。モリアじゃないのか? まあ、考えても仕方ない。仮にモリアだとしても、からかわれるくらいなら別にいいか。
「すまん、勘違いだった。怪我してないなら、天井の修理を手伝ってくれ。君の作品だ。断りは受け付けん。」
『悪魔』
ノートにそう書かれ、彼女の抗議の意思が示される。
「君が壊したんだろ? 手伝え。」
もちろん、そんな抗議は無効だ。
――こうして、ルナルート1日目は、掃除と修繕作業の音だけを残して静かに終わった。
それからというもの、私は彼女と行動を共にする機会が増えていった。
彼女は天界の話題を好むようだ。天界の神殿の構造や、天使の階級制度、悪魔との永きに渡る戦い――周囲の人々は、彼女がノートに綴るそんな話を誰も信じようとしない。「変わった子」で片付けられてしまう。
だが、私にはそう思えなかった。
なぜなら、彼女の語る天界の知識は、私が知っているものと一致していたからだ。
彼女自身が本物の天使でないとしても、少なくとも天使と関わりのある存在なのは間違いない。
「ルー、翼の付け根を見せてくれないか?」
本物かどうか確かめるには、これが一番手っ取り早い。
『変態』
彼女は顔を真っ赤にし、少し怒ったようにその二文字をノートに書き殴った。
……そうだった。翼の付け根は天使にとって最もデリケートな部分で、人間で言うなら裸を見られるようなものだ。
またやらかしてしまったか……恋愛というものは難しい。
いや、そもそも私は本当に彼女のことが好きなのだろうか? ゲームのテストだからという理由で彼女を選んだだけではないのか? そんな薄っぺらい気持ちで彼女と向き合うのは、不誠実というものだ。
「すまない。君といると、なぜかうちの天使を思い出してしまって……つい距離感を忘れてしまう。」
私は深く頭を下げた後、ふと自分の秘密を打ち明けた。
「お詫びに、私の秘密を教えよう。実は私は……魔力の精霊なんだ。」
『精霊?』
彼女が天界の話を楽しむように、私も自分のことを語り始めた。
「ああ。神が世界を調整するために生み出した概念の化身だ。サラマンダーがいるから火は燃え、ウンディーネがいるから水は流れる……そして私がいるから、魔力は存在する。」
しかし、古の時代――力の行使が魔法ではなく能力で発動していた時代には、私は頼られたことも、必要とされたこともなかった。
「石油が科学の発展によって真の価値を得たように、魔力も魔法という体系が確立されるまでは……無価値に等しかった。だから、私は他の精霊たちの中に溶け込むことができなかった。」
孤独に囚われていた私にとって、孤独さえも楽しむモリアの姿は、美しく映った。
孤独に抗い続けるルーの存在は、愛おしく思えた。
あの子たちと――家族になりたい。
心から、そう願った。
「……あの子たちを本当に愛しているからこそ、君に軽々しく愛など語れるはずがない」
私はルナに向けて、静かにそう告げた。
「プッ……おかしい、これ無理……はははっ!」
突然、彼女はお腹を抱えて笑いを爆発させた。
「……あれ? まさか……」
「ルーだろ! 明けの明星の方の!」
「今さら気づいたの? マスター、案外鈍いかも」
どうやら、この周回が始まった時点で、オフラインからオンラインに切り替わっていたらしい。ルーはヒロイン・ルナに成りすまし、私をからかっていたのだ。
「お前、女の真似は嫌いなはずじゃないのか?」
「嫌いだけど、いつも僕を子供扱いするマスターにイタズラできるなら、やるよ」
全能の彼にとって、ルナを完璧に演じることなど、やりたいと思えば簡単にできてしまう。なんという才能の無駄遣いだ。
「これで満足だろう? まったく……あの時負けたことが、そんなに悔しいのか?」
「悔しいさ。僕は最強のルキエルだ。僕から勝ち逃げは許さない……けど、これだけじゃない」
突然、ルーは私の手を握り、翼を広げて空へと舞い上がった。
その目指す先は――このゲームのエンディングで告白シーンが行われる、『伝説の木の下』だった。
ルーはサッと姿を少年に戻し、私を真っ直ぐ見つめた。
「ねえ、どうして会ったばかりのルナには秘密を話したのに、僕にはずっと黙ってたの?」
その瞳には、少しだけ寂しげな色が浮かんでいた。
「君には興味ないと思ってたんだ。天上天下唯我独尊の君が、私みたいなちっぽけな存在の話に耳を貸すなんて思わなかった」
「そんなわけないだろう!」
ルーは突然声を弾ませる。
「僕は神以外で、マスターだけに真名を許したんだよ。なんでそれがわからないの?」
私にとってルーが特別なように――ルーにとっても、私は特別だった。ただ、私はその思いを傲慢だと決めつけ、一歩も踏み出せずにいた。
「……ごめん、悪かった」
「謝り方は聞きたくないよ。マスターが悪いなんて当たり前だ。でも……なんで僕がわざわざここを選んだか、まだわからないの?」
伝説の木の下。このゲームの世界では、ここで告白を交わした二人は永遠に結ばれると言われている。
……なるほど。
私はルーの手を優しく握り、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「愛しているよ、ルー。私は君が欲しい」

一瞬、辺りが静まり返る――
すると、淡いピンクの桜の花びらが、ルーの金色の光に染まり始めた。夜だった空が、彼の輝きで柔らかに照らされていく。
「マスターは僕のものだ。『欲しい』なんて、傲慢すぎるよ。でも……」
ルーの頬が赤く染まり、それでも強がるような顔が、はっきりと見えた。
「嫌いじゃない」
次の瞬間、ルーは私の懐に飛び込み――そして、軽く唇を奪った。

「ルキエル√・クリア。全滅エンドじゃなくてよかったですね……ふふ」
スクリーンに映るキスする二人を眺めながら、モリアは満足げに微笑んだ。
「あれ? これって大将を惚れさせて、最後に『実は男でした』ってイタズラする仕様じゃなかったのか?」
予想外の展開についていけないアリストは、口を開けたまま固まっている。
「あら、ルナの中身が男の子くらいで、あの人が動じると思います? 心を許した上真っ直ぐの性格のあのバカ天使だから、イタズラの効果があると言うもの。」
モリアは紅茶を一口啜り、涼やかに言い放つ。
「お嬢、旦那が他の人とキスしているのを見て、なんでそんなに楽しそうにしてんだ?」
「プレイボーイのあなたがそれを言うんですか? ふふ……彼は純粋すぎて、心を許した相手に影響されやすいの。私だけだと、いずれ私のそっくりさんになっちゃって面白くないわ。色んな人を増やして、彼をもっと魅力的にしないと」
モリアは悪魔のような笑みを浮かべた。
「どうせ、私の正妻ポジションは揺るぎませんもの」
「いい女だぜ、お嬢。人妻じゃなきゃ俺も口説いてたかもな」
「あなたは異性縁に恵まれてそうですが、戦場の運はなさそう、早死にするタイプですわ。未亡人になるのはごめんです。」
「これは手厳しい……まあ、この軍服を着ている時点で死は覚悟しているさ。だから俺は特定の女と深い関係にならない。これで死んでも、『クズ男が死んだ』って笑ってもらえれば、安心してあの世に行ける」
「軍をやめればいいのに」
「軍人じゃない俺は、もう俺じゃない。祖国のためなら、命なんて惜しくない」
モリアは、これがアリストの選んだ道だと知っていた。だから、それ以上は何も言わなかった。
――こうしてゲームのテストは終わり、正式版はすぐに完成した。
しかし、その完成度の高さが仇となり、兵士たちは訓練そっちのけでゲームに没頭する始末。
「禁止する」
女帝ツバキの一声で、軍隊内でのプレイは禁止令が出された。
だが、民間ではあっという間に流行り、女性向けバージョンの制作が議題に上がるほどに。さらにLGBT団体からの声を受け、男女の恋愛に留まらない多様なルートが追加されることになった。
そして後日、ゲーム開発チームは将軍アリストを記念し、会社名を「アリストソフト」と改名する――
だが、それはまた別の話である。
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