まおうさまの勇者育成計画

okamiyu

文字の大きさ
136 / 190
第七章:椿は鋼に咲く、忠誠の銃声とともに――女帝と三将軍のプロトコル

第126話:恋愛シミュレーションの終焉(エンド)

しおりを挟む
大規模合戦に向け、各部隊は準備と訓練に勤しんでいた。
そんな中、私のもとにアリストからの誘いが届いた。
どうやら兵士たちの訓練の合間のリラックス用に、ゲームのテストプレイを頼みたいらしい。
「まさかまた射撃シミュレーションだろうな……まったく、人使いが荒い奴だ」
アリストは優秀な将官だ。高ランクの軍事学校を卒業したエリートで、入隊時からすでに少尉の階級を持っていた。
端正な顔立ちに軽妙な性格……だが、女性関係は 「戦場」並みに荒れていた。
本人曰く「未成年のロリや既婚者には手を出さない」らしいが、
「アリストの愛人になりたい」という理由で入隊する女性兵士が後を絶たず、
部隊が修羅場と化すこともしばしば。
しかし、そんな不真面目なアリストも、戦場に立てば 「死神をも蹴散らす」と噂されるほどの猛将だ。
幾度も死線をくぐり抜け、
「生還不可能」とされた戦場から ただ一人で帰還した。
その度に体の一部が機械と置き換えられ、
今やその肉体の半分以上がサイボーグ化しているという。
部下には厳しくも親しみやすく、
自腹を切っての慰労会はお馴染みの光景。
さらに、 「アリスト主催の合コン」では
数多くのカップルが誕生した実績があり、
男女問わず圧倒的人気を誇る 「軍の王子様」とも呼ばれている。
「軍隊随一のカリスマ」——
それは、誰もが認める事実だった。

「ゲーム? 僕もやりたい!」
遊び盛りのルーは目を輝かせた。娯楽が極めて少ない帝国では、彼にとって日常は退屈すぎたのだろう。
しかし、何より驚いたのはモリアまでついてきたことだ。
彼女は、男の子が好みそうなこういう類いのものには興味を示さないタイプだとばかり思っていた。
「あのプレイボーイがあなたに変な女を紹介したら困りますわ。これは監視……いえ、牽制ですわ。ふふ」
前の一件以来、彼女は以前よりもずっとベタベタと甘えてくるようになった。……まあ、悪い気はしない。
そうして二人を連れ、シミュレーションルームへ向かう。
「よっ、大将。……ん? エンプラちゃんだけじゃなく、まだ違う子供を連れてるのか。小学校でも始める気か?」
……なるほど、アリストはルーとモリアと初対面か。相変わらずの失礼な男だ。 この二人は見た目に反して、私より年上だぞ。
「ゲーム! ゲーム!」
ルーは瞳をキラキラさせて飛び跳ねる。今日のゲームをどれだけ楽しみにしていたのか、その仕草から伝わってくる。
「おお、坊主、なかなかやるじゃねえか。俺の小さい頃にそっくりだ。ほら、これを着けてみろ。」
アリストはヘッドセットをルーに手渡した。
「まずはオフライン版をテストしたい。一人ずつやってみてくれ。終わったら、全員でオンライン版に移る。」
アリストの説明によれば、このゲームにはAIが搭載されており、プレイヤーの反応に応じてリアルタイムで変化するらしい。AIをゲームに組み込むなんて発想、私にはなかった。 いったいどんなものなのか……?
ゲームを起動すると、プレイヤーの動きはすべて大きなスクリーンに投影される。そして、タイトル画面が現れた——
『メモリーズ・オブ・ハート ~恋のリプレイ~』
…………。
頭に「?」が浮かんだ。
「……アリスト、これは兵士たちの訓練の合間に遊ぶゲームだと思っていたが、シューティングシミュレーションじゃないのか?」
「疲れた戦士の心を癒すのは、可愛い女の子の愛だと思わないか?」
「そんなもの、家でやれ。戦場で敵を口説くつもりか?」
「わかってないなあ……だから大将はいつまでも独り身なんだよ。」
「あら、違いますわ。」
モリアがすっと私の腕を抱きしめる。「妻のモリアですわ。ふふ……」
「いやいや、お嬢ちゃん、さすがにそれは……え? マジで?」
私は無言で頷いた。
「やっぱりペドになったか……! エンプラちゃんを見ていると、いつかこうなるとは思っていたが。……って、よく見たらその子、エンプラちゃんに似てね?」
「黙れ。今日はゲームのテストだろう。スクリーンに集中しろ。」
スクリーンに映し出されたのは、ルーがベッドで目を覚ますシーンだった。
「おはよう!また寝坊しそうな顔してるわね…」
カーテンが勢いよく開けられ、眩しい朝日が部屋に差し込む。そこには、赤髪の少女が布団を引っ張っている。
「ほら、起きて!今日は学校の始業式でしょ?忘れたの?」
「……誰?」
ルーは完全に困惑した表情を浮かべた。ゲームの仕様書によれば、この少女は主人公の幼馴染・サラ。容姿端麗、頭脳明晰、運動万能という完璧超人なのに、なぜか平凡な主人公に恋しているという設定らしい。
「あなたの幼馴染のサラよ!まだ寝ぼけてるの?」
「僕はお前のこと知らない。僕に幼馴染なんていない」
サラの目に涙が浮かぶ。だがルーは無表情のまま、彼女の存在そのものを否定した。
「そんな…ルキエル君、酷い…」
「泣いても無駄だ。同情を引こうとするその態度、悪魔みたいで気持ち悪い。僕はそういうの、嫌いだ」
どうやらルーは基本的に女性が嫌いだ。本来なら甘酸っぱい青春の一幕になるはずのシーンが、あっけなく破綻していく。
モニターの外では、アリストがあまりの展開に言葉を失い、代わりにモリアが笑いを堪えきれずに肩を震わせている。「あれではときめきも何もありませんわね」と小声で皮肉るような一言漏らした。
「思い出して!私たち、小さい頃からずっと一緒だったじゃない!」
サラは必死に訴える。
「私の実家でクッキーを焼いた時、形が崩れてたのに、あなたが『美味しい』って食べてくれた…」
「二人で秘密基地を作ったけど、次の日には崩れちゃった…」
「四つ葉のクローバーを見つけて、『将来結婚しよう』って約束したの覚えてる?この指輪、今も持ってるよ…」
しかし、これらの思い出は全てゲーム内の設定でしかない。ルーの心に響くはずもなかった。
「ふん。それなら、僕の誕生日を言ってみろ」
「え?もちろんよ!それは…」
サラの表情が固まる。通常、プレイヤーは設定画面で0月0日など不正な誕生日を入力できない。だが、全能なルーはそんなシステムを無視して強引に入力してしまったのだ。
「�ޥ�饤�騩�、7jK$*gY3!zN6�サ゚ퟃ�㌀�ﬧ�」
画面が突然グリッチだらけになり、カラフルなノイズに覆われてフリーズした。
「……つまらない」
最後までゲームの趣旨を理解しようとしないルーは、呆れたように呟くとヘッドセットを外した。
「次は私が参りますわ」
モリアが優雅にヘッドセットを手に取った。
「おいおい、お嬢ちゃん。これは男向けのゲームだぜ?女の子のあんたがやっても面白くないだろう」
アリストは苦笑いしながら止めようとするが、彼女の指はすでに装着を終えていた。
「男性様にとっては甘い幻想に浸るものかもしれませんが、女性にとっては彼らの欲望を覗き見る絶好の機会ですわ。ふふ」
...嘘つき。最初から全てを知っていたんだろう?ルーが苦手なこのゲームは、人間をおもちゃにするのが彼女にとって最高の娯楽になるに違いない。
ゲームデータがリセットされ、再起動する。
画面に映ったのは、普段と違う、短いショートヘアに黒いスーツのパイモン時姿だった。もともと体男性だった彼女には男装がよく似合う。...だが、そのことを指摘すれば彼女の機嫌を損ねるので、黙っておくのが賢明だ。
スクリーン上で手を振るモリアは、一層楽しんでいるように見える。先程のヒロイン・サラがあまりにも可哀想だったため、今回は彼女を見逃したらしい。代わりのターゲットは──
「あれ?サラ君じゃないの。今日はサラちゃんと一緒じゃないの?」
親友キャラの彼女のアニーだ。しかもモリアは自分の名前をメインヒロインの「サラ」と同じに設定している。早速悪戯心が表れている。
「あれ?アニーって非攻略キャラじゃなかったか?」
アリストの指摘は正しい。仕様書によれば、このゲームは純愛ものがコンセプトで、NTR要素など存在しない。だからこそ、彼女はあえてこのキャラを選んだのだ。
本来、親友キャラは主人公と仲が良い設定だが、モリアが自分の名前をヒロインと同じ「サラ」にしたため、会話が奇妙なすれ違いを生み出していた。
「あなた、先週サラの家に泊まったんでしょう?」
「ああ、でも男の方のサラだよ。考えすぎだって」
「本当かしら?実はそれを口実に、女の子の方のサラと仲を深めてるんじゃない?」
モリアはヒロイン・サラのイベントもこっそりクリアし、本来なら主人公が嫉妬するはずのシチュエーションを逆手に取った。
「でもサラ君の誕生日はとっくに過ぎてますわよ?」
モリアはイベントを終えた後、主人公の誕生日をその日付より前に変更していた。嘘をついていないはずの親友キャラは、まるで浮気をしたかのような状況に追い込まれる。
「もう知らない!」
アニーは泣きながら走り去った。
親友キャラが彼女を探している間、モリアは先回りして待ち伏せしていた。
「可哀想なアニーさん...辛いでしょう?あんなに彼を愛していたのに、裏切られるなんて。ふふ...悔しいと思いませんか?」
「悔しいです...私、どうすれば...」
「復讐すればいいんですわ」
「え?」
「彼が悪いんですもの。だからあなたも彼に振り回される必要はありません。いえ、むしろ...彼に危機感を与えないと」
悪魔の囁きのように、モリアはアニーを堕落へと誘う。
「でも、そんなこと...」
「大丈夫ですわ。彼はきっと今まで以上にあなたを見つめるはず。もし本当に愛しているなら、取り戻しに来るでしょうから」
「...はい。よろしくお願いします、サラ...さん」
アニーの瞳から光が消え、完全に堕ちた瞬間、親友キャラが到着する。
「あら、親友君。アニーさんが私への好感度を教えてくれたんですって。告白しようか迷っているんですが...」
「...100%です。きっと...いい返事がもらえるでしょう」
システムの強制力により、親友キャラは涙を浮かべながら機械的に答えざるを得ない。その姿は、まるで壊れた人形のようだった──
「──ゲーム、ダウンしました」
「あらあら。なかなか楽しめましたわ。もう少々頑丈に作って欲しかったですが...ふふ」
満足げにヘッドセットを外すモリア。その横で、アリストは凍りついたように固まっている。
「...大将、あの娘...マジでヤバいんだけど...」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

木を叩いただけでレベルアップ⁉︎生まれついての豪運さんの豪快無敵な冒険譚!

神崎あら
ファンタジー
運動も勉強も特に秀でていないがめっちゃ運が良い、ただそれだけのオルクスは15歳になり冒険者としてクエストに挑む。 そこで彼は予想だにしない出来事に遭遇する。 これは初期ステータスを運だけに全振りしたオルクスの豪運冒険譚である。  

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

処理中です...